鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

魅惑の探鳥地・冬の九州(2)

2007-01-24 19:47:24 | 鳥・冬
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All Photos by Chishima,J.
ツリスガラ 2007年1月 鹿児島県薩摩川内市)


(続き)
②大陸系の渡り鳥
 東シナ海を挟んで中国や朝鮮半島と対しているだけに、東日本ではあまり、あるいはほとんど見ることのできない大陸系の渡り鳥を、種によっては容易に観察できる。干潟のツクシガモやズグロカモメ、ヨシ原のツリスガラあたりが代表格だろうか。ズグロカモメは近年関東でも少数が越冬しているが、干潟上を「キュウッ」とその姿と同じくかわいらしい声で鳴きながら飛び回り、カニを見つけると急降下して捕えるという本来の生態は、有明海などの広大な干潟で、泥に足跡のスタンプを残しながら縦横無尽に歩き回るツクシガモの群れと一緒に見たいものだ。ツリスガラは1990年代前半には越冬分布の東進が顕著で、東日本でも普通種になるのではと囁かれたりもしたが、結局定着はしていないようである。
ツクシガモ2態

2007年1月 福岡県柳川市
どんより曇った干潮時の有明海の干潟を、幼鳥が歩いていた。周囲には無数の足跡。
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2007年1月 鹿児島県出水市
日没間近の太陽が、干拓地内の湿田で採餌する小群を照らし出した。背後にはマナヅルの姿も。
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 数は少ないが、ムネアカタヒバリやツメナガセキレイ、シベリアジュリン、ホシムクドリなどもこの仲間に入るだろう。


ムネアカタヒバリ(冬羽)
2007年1月 鹿児島県薩摩川内市
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 以前はミヤマガラスとコクマルガラスがこの仲間の筆頭格で、冬の九州を訪れる目的の一つでもあったが、この10数年で越冬分布を大きく東へ拡大し、日本の多くの地域で割と普通になってしまった。この10年以内に鳥を見始めた人には、「九州にミヤマガラスやコクマルガラスを見に行った。」と言っても実感が沸かないであろう。もっとも、私の住んでいる十勝地方では、依然として両者とも稀なので、九州に行くと未だ有り難味を覚える。


ミヤマガラス
2007年1月 鹿児島県出水市
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コクマルガラス(暗色型)
2007年1月 鹿児島県出水市
白黒のツートンカラーの明色型は、あまり多くない。
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③夏鳥の越冬
 東日本では夏鳥で、冬には渡去してしまう種が九州では普通に越冬していることがある。北海道では夏の繁殖生活に接しているニュウナイスズメやホオアカ、オオジュリンなどの、冬の生活を垣間見るのは、それら身近な鳥たちの別の一面を知ることができたようで嬉しい。また、アマサギやヒクイナ、アオアシシギなどは関東でも夏鳥もしくは旅鳥であり、それらの越冬生活も興味深い観察対象である。


ニュウナイスズメ(オス・冬羽)
2007年1月 熊本県玉名市
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オオジュリン (冬羽)
2007年1月 鹿児島県薩摩川内市
「プチ、プチ」とヨシの茎を割る音が、冬枯れの静寂を打ち破る。
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ヒクイナ
2007年1月 鹿児島県出水市
俳句でも御馴染みの湿地の鳥だが、近年減少傾向が著しい。
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④迷鳥
 大陸に近いという地理的な条件から、迷鳥の出現が多い。有名なカラフトワシやオオズグロカモメは毎年出ているが、あれらの場所で出なくなったら、ともに国内で見ることは非常に難しい種類である。それ以外にも何がしかの迷鳥が、どこかで毎年出ている。これまで私が出会えたものだけでも、アカツクシガモやメジロガモ、ソリハシセイタカシギ、タカサゴモズなどがあるし、コウライアイサやオオカラモズなどの記録も多い。

 以上の4大魅力(?)のほかにも、九州の見所はある。たとえば、佐賀平野と筑後平野に多く分布するカササギ。豊臣秀吉の朝鮮出兵時に、佐賀藩主などによって持ち帰られたものが野生化したとの説が有力であるが、電柱への営巣や屋敷林へのねぐら入りなどの生態を、これほどの高密度で観察できるのは日本ではこの一帯だけである。さらに玄界灘の北方系海鳥や霧島山系の見事な照葉樹林とそこで暮らす森林性鳥類など、冬の九州は鳥見人を惹き付けずにはおかない土地である。そして、冬にこれだけ素晴らしいのだから、それ以外でも季節に応じた魅力的な鳥との出会いがあることは容易に想起され、本などで調べると実際そのようなのだが、残念なことに冬以外の季節は、まだ訪れる機会に恵まれていない。


カササギ
2007年1月 福岡県柳川市
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                  *
 さて、旅といえばその楽しさと比例して、トラブルは付き物である。過去の九州への旅でも食中毒やレンタカーのインロック、真夜中の大学病院行き等等話題に事欠かないが、今回現地では特に大きな問題も無く、平穏に帰ってきた。しかし、トラブルはその後に発覚した。
 私は旅先でデジタルカメラのメモリが一杯になると、全国にチェーン店のある大手カメラ屋でCDに焼いてもらうことにしている。画質の低下や劣化が少ないからだ。ところが、今回前半に訪れた出水平野では、どうしてもこの系列の店を見つけることができなかった。そこで、ローカルなカメラ屋で「画像をCDに焼いてもらうことは可能ですか?」と尋ねたところ、できると言うのでお願いした。そこも現像自体は大手カメラ屋と同じフィルムメーカーのものだったので、まあ大丈夫だろうと思い、CDに焼いた画像を消去して後半の撮影を続けた。そして、帰宅した翌朝、CDの写真をパソコンに取り込むと何か変だ。色調やシャープさが、カメラの液晶で確認していたものとあまりにかけ離れている。よくよく確認すると、大手カメラ屋みたいに画像をそのままCDに入れるのとは異なり、勝手に圧縮や色調の修正が施され、画質は相当劣化していた。「そうならそうと、事前に説明してくれよ…。」と思っても後の祭り。オリジナル画像はとっくに消去してしまっている。
 しばらくは塞ぎこんでいたが、これで来シーズンも大腕を振って出水に行く口実ができたわいと、今は思うことにしている。


アトリの大群
2007年1月 佐賀県佐賀市
大陸から渡来するのか、こうした雲のような大群を見ることが多い。
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東シナ海を望んで(セグロカモメウミネコ
2007年1月 鹿児島県阿久根市
水平線上には漁船が数隻。本文では触れなかったが、この海からもたらされる魚介類と、地元で作られる多様な焼酎は、旅の夜に最高の楽しみを提供してくれた。
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(完)
(2007年1月23日   千嶋 淳)


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