鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

夏と秋の間

2007-09-23 21:25:48 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
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All Photos by Chishima,J.
採草地に降り立ったヒシクイ 以下すべて 2007年9月 北海道十勝川下流域)


 今秋も十勝平野にヒシクイがやって来た。6日の初認時には9羽だったそうだが、僅か数日の間に300羽余りまで増え、それから10日強が経過した現在は2000羽を越える大群となっている。これから11月の中・下旬、平野部で初雪が舞い、湖沼が結氷し始めるまでの間、その姿を楽しませてくれるはずだ。渡来当初は警戒心が強く、農繁期で刈り取り済みの畑も少ないので行動圏も限られる彼らだが、私にはこの時期ならではの、心待ちにしている鳥景がある。

青空を行く一隊(ヒシクイ
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 それは緑の中で見るヒシクイだ。春秋に当地を通過するヒシクイを見るのは、大抵その体色と同じく褐色の世界の中である。初春や晩秋には銀世界でのことも珍しくない。ところが9月初めから半ばにかけては、河原ではドロノキの葉が秋風に吹かれてはらはらと舞ってはいるものの、晴れれば汗ばむ陽気の原野はまだ色濃く夏の緑を残しており、そこで見るヒシクイは、普段とはまた違った趣を感じさせてくれる。遠くロシアの地で繁殖し、日本には越冬にやって来る彼らを、緑濃い景観の中で楽しむことができるのは、国内では北海道の一部くらいだろう。


合流(ヒシクイ
今にも降り出しそうな曇天の下、採草地にいた200羽ほどの群れに、飛んで来た1羽が加わった。
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 通人は、夏から秋に移行する時期に、旬も終わりの落ち鱧(ハモ)と走りの松茸を用いた土瓶蒸しを味わうと聞いたことがある。自分にとって緑の中のヒシクイは、盛夏が去って、本格的な秋には少しだけ早いこの季節を楽しむための、土瓶蒸しみたいなものかもしれない。


農繁期(ヒシクイ
牧草の刈り取りが進む農地の背後では、数十羽の群れが羽を休めていた。
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 10月に入るとヒシクイはいよいよ数を増し、マガンやハクガンも姿を現す。同時に風景の中から緑色は急速に色褪せ、すっかり短くなった日の長さとあわせて秋の深まりを、更に、長い冬の遠くない到来を意識せずにはいられなくなる。


初雁(ヒシクイ
私自身が今シーズン最初に目撃した群れ。
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看板
地元有志の方々によって、農耕地や沼の周囲に最近設置された。マナーを守って、いつまでも鳥たちとの出会いを楽しめる場所であるよう心がけたい。
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(2007年9月22日   千嶋 淳)