All Photos by Chishima,J.
(アカエリヒレアシシギの幼鳥 2007年8月 北海道十勝郡浦幌町)
8月末のある昼時、オオセグロカモメやウミネコ、それにアキアジ釣りの人々で賑わい始めた海岸で、1羽のアカエリヒレアシシギの幼鳥を見かけた。時折足元を波が洗うと、億劫そうに立ち上がって数歩陸側に歩く以外は、疲れた感じでずっと砂浜に座っていた。細くて華奢な嘴と、遊泳に適すべく体の後半部に付いたこれまた細い脚が印象的だった。
或る日の海岸
濃霧(オオセグロカモメ・ヒト)
2007年8月 北海道十勝郡浦幌町
2羽のゴメが佇む背後に、アキアジ釣りの人とその車が亡霊のようにぼんやりと見える(亡霊を見たことは無いが、念のため)。
残暑の中で(オオセグロカモメ・ウミネコ)
2007年9月 北海道十勝郡浦幌町
秋風を払拭するが如く気温は上がり、海岸は靄に霞む、その向こうにカモメ類の群れ。
ヒレアシシギ類は、極北での繁殖期を除くと基本的に海上生活者である。春秋に沖に出ると、波間を縫って飛ぶ群れや、海が穏かな時には海上に浮かんで、流れ藻やゴミの周囲を木の葉のようにくるくる回りながら餌のプランクトンを探している姿に出会うのは、そう難しいことではない。
それでも何かの弾みで、海岸やその近くの湖沼に降りることがよくある。それどころか海から遠く離れた内陸部にも姿を現す。私の生まれ育った群馬県伊勢崎市は、海から100kmも離れた関東平野の北端であるが、ある春の嵐の日中、近所を流れる川に数kmに渡って数百羽の本種が降り立って驚いたことがあった。私は見たことがないが、記録を漁ってみると河川の上流部や山中の池沼やちょっとした水溜りでの記録が、意外と多い。
以前はナイター試合中の野球場に群れが飛び込んで、試合を中断させることがしばしばあったらしい。昭和42年に著された「原色・自然の手帖 野鳥」(高野伸二著)によると、東京の後楽園球場に飛び込んで正体のわかっている4例のうち3例までが本種だったという。最近ではドーム球場が主流になったせいか、本種の絶対的な個体数が減少したからかナイターを中断させた話はあまり聞かないが、人家や路上に不時着してローカルニュースになったりはしている。海鳥とはいえ、渡りのある部分では陸上を飛び越えて移動しているのであろう。
文頭の出会いから数日後、再び訪れた海岸ではカモメ類や釣り人は変わらず盛況だったが、アカエリヒレアシシギの姿は無かった。無事沖に戻って仲間と合流できたのか、それとも厳しい自然の前に幼い命を散らしたのかは、誰も知らない。
アカエリヒレアシシギ(幼鳥)
2007年8月 北海道十勝郡浦幌町
海岸のシギ・チドリ類2点
メダイチドリ(幼鳥)
2006年9月 北海道中川郡豊頃町
曇天の浜辺を、疾風のごとく駆け抜けて行った。
ミユビシギ(幼鳥)
2007年8月 北海道十勝郡浦幌町
砂浜に多いシギで、内陸の湿地ではまず見られない。波の進退に合わせて、颯爽と走る様は見もの。
(2007年9月5日 千嶋 淳)