
All Photos by Chishima,J.
(カリガネの飛び立ち 2010年4月 北海道十勝川下流域)
今月頭、遅い雪融けが加速度的に進み始めた牧草地に群れるマガンを主体としたガン類の群れの中に、2羽の小さな姿を認めた。望遠鏡で確認すると、短い嘴は鮮やかなピンク色で額の白色部が大きく、目の周囲ははっきりと黄色い。案の定カリガネだ。距離は遠く、陽炎も揺らいでいるが珍しいので、記録写真だけでも残しておくべくファインダーを覗くが、周囲に同じ大きさの鳥が何羽もいて、どれが目当ての鳥なのかわからない。はてマガンの勘違いだったかと再度望遠鏡の視野に入れる。驚いたことに周囲の鳥もすべて同じ形態をしている。12羽ものカリガネの群れだった。
カリガネ(前列の7羽・後ろはマガン)
2010年4月 北海道十勝川下流域

カリガネは近年の十勝川下流域ではほぼ毎シーズン観察できるが、数はたいてい1~数羽でマガンに紛れて見つけづらいこともあって、出会うと得した気分になる。昨秋には7羽の群れも観察したが、10羽を超える群れとの遭遇は初めてで、飛び去るまでの30分足らず、観察を楽しんだ。行動の大部分は採餌だったが、印象的だったのは、カリガネがマガンより一回り以上小さな体の持ち主であるにも関わらず、たいへん気が強く、同種の他個体や時に自分より大きなマガンへの攻撃行動が何度も観察されたことだった。首を前下方に伸ばし、嘴を地面に付けるようにしながら相手を威嚇するポーズは、マガンやヒシクイでもおなじみだが、カリガネの場合は執拗に相手を追い回し、相手が軽く飛んで逃げるくらいまで追跡することもあった。
他個体を攻撃するカリガネ2点
2010年4月 北海道十勝川下流域
左で首を伸ばしている個体が、右中央を走って逃げる個体を攻撃中。

軽く飛んで逃げる個体(画面右)を、翼を広げてなおも追う。

カリガネが他の個体や種を頻繁に攻撃するのは、以前にも観察したことがある。これがカリガネの一般習性と結論できるほど、私は豊富にカリガネを観察していないが、先日、十勝川下流域で長年鳥を見ているKさんとお話しした時、これを話題にしたところ、彼もカリガネが体の小さい割に攻撃的との印象を持っておられるとのことだった。
カリガネの群れ
2010年4月 北海道十勝川下流域
右手前の大型で嘴が橙色みを帯びるのはマガン。

カリガネ10羽の飛翔
2010年4月 北海道十勝川下流域

体の大きさと気性の激しさは、必ずしも比例しないのかもしれない。国内では最小の猛禽類であるツミは、繁殖期に巣に近付くカラスの仲間や猛禽類を激しく攻撃するのはもちろんのこと、テリトリーとは無縁な渡りの最中でさえ、オオタカやサシバなど自分よりはるかに体格の大きい他の猛禽類にしつこく突っかかってゆくことがある。
ツミ(幼鳥)
2009年9月 北海道室蘭市

先週の出来事。ある港でコクガンが1羽、岸壁の先端部、それも岸から近い海面にいるのを発見した。慎重に車を走らせ、目的のエリアに到達したが、肝心の鳥がいない。飛ぶのは見ていないので訝りながら岸壁の縁に車を寄せると、すぐ下から飛び立った。彼(?)は数m先の海面に降り、首を上げて「ギャッギャッギャッ」と鳴いた。どうやら岸壁に生えている海藻を食べていたようで、恰も「折角の食事を邪魔するな!」と主張しているようだった(ガチョウが人間が近付き過ぎた時に示す抗議に、雰囲気は似ていた)。主張(?)を受け入れ、少し後退すると再び戻って来て海藻を食べていたようだった(何しろ、こちらからは見えない)。コクガンもカリガネやシジュウカラガンと並んでガン類では小型の部類だが、案外気の強い一面を持っているのかもしれない。
コクガン
2010年4月 北海道十勝管内

漁港のスロープで海藻を食むコクガン
2010年4月 北海道十勝管内

(2010年4月21日 千嶋 淳)