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鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイドを行っていた千嶋淳(2018年没)の記録

小さいながらも

2010-04-21 22:50:34 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
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All Photos by Chishima,J.
カリガネの飛び立ち 2010年4月 北海道十勝川下流域)


 今月頭、遅い雪融けが加速度的に進み始めた牧草地に群れるマガンを主体としたガン類の群れの中に、2羽の小さな姿を認めた。望遠鏡で確認すると、短い嘴は鮮やかなピンク色で額の白色部が大きく、目の周囲ははっきりと黄色い。案の定カリガネだ。距離は遠く、陽炎も揺らいでいるが珍しいので、記録写真だけでも残しておくべくファインダーを覗くが、周囲に同じ大きさの鳥が何羽もいて、どれが目当ての鳥なのかわからない。はてマガンの勘違いだったかと再度望遠鏡の視野に入れる。驚いたことに周囲の鳥もすべて同じ形態をしている。12羽ものカリガネの群れだった。

カリガネ(前列の7羽・後ろはマガン
2010年4月 北海道十勝川下流域
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 カリガネは近年の十勝川下流域ではほぼ毎シーズン観察できるが、数はたいてい1~数羽でマガンに紛れて見つけづらいこともあって、出会うと得した気分になる。昨秋には7羽の群れも観察したが、10羽を超える群れとの遭遇は初めてで、飛び去るまでの30分足らず、観察を楽しんだ。行動の大部分は採餌だったが、印象的だったのは、カリガネがマガンより一回り以上小さな体の持ち主であるにも関わらず、たいへん気が強く、同種の他個体や時に自分より大きなマガンへの攻撃行動が何度も観察されたことだった。首を前下方に伸ばし、嘴を地面に付けるようにしながら相手を威嚇するポーズは、マガンやヒシクイでもおなじみだが、カリガネの場合は執拗に相手を追い回し、相手が軽く飛んで逃げるくらいまで追跡することもあった。


他個体を攻撃するカリガネ2点

2010年4月 北海道十勝川下流域

左で首を伸ばしている個体が、右中央を走って逃げる個体を攻撃中。
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軽く飛んで逃げる個体(画面右)を、翼を広げてなおも追う。
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 カリガネが他の個体や種を頻繁に攻撃するのは、以前にも観察したことがある。これがカリガネの一般習性と結論できるほど、私は豊富にカリガネを観察していないが、先日、十勝川下流域で長年鳥を見ているKさんとお話しした時、これを話題にしたところ、彼もカリガネが体の小さい割に攻撃的との印象を持っておられるとのことだった。

カリガネの群れ
2010年4月 北海道十勝川下流域
右手前の大型で嘴が橙色みを帯びるのはマガン
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カリガネ10羽の飛翔
2010年4月 北海道十勝川下流域
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 体の大きさと気性の激しさは、必ずしも比例しないのかもしれない。国内では最小の猛禽類であるツミは、繁殖期に巣に近付くカラスの仲間や猛禽類を激しく攻撃するのはもちろんのこと、テリトリーとは無縁な渡りの最中でさえ、オオタカやサシバなど自分よりはるかに体格の大きい他の猛禽類にしつこく突っかかってゆくことがある。


ツミ(幼鳥)
2009年9月 北海道室蘭市
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 先週の出来事。ある港でコクガンが1羽、岸壁の先端部、それも岸から近い海面にいるのを発見した。慎重に車を走らせ、目的のエリアに到達したが、肝心の鳥がいない。飛ぶのは見ていないので訝りながら岸壁の縁に車を寄せると、すぐ下から飛び立った。彼(?)は数m先の海面に降り、首を上げて「ギャッギャッギャッ」と鳴いた。どうやら岸壁に生えている海藻を食べていたようで、恰も「折角の食事を邪魔するな!」と主張しているようだった(ガチョウが人間が近付き過ぎた時に示す抗議に、雰囲気は似ていた)。主張(?)を受け入れ、少し後退すると再び戻って来て海藻を食べていたようだった(何しろ、こちらからは見えない)。コクガンもカリガネやシジュウカラガンと並んでガン類では小型の部類だが、案外気の強い一面を持っているのかもしれない。


コクガン
2010年4月 北海道十勝管内
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漁港のスロープで海藻を食むコクガン
2010年4月 北海道十勝管内
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(2010年4月21日   千嶋 淳)


4月3日(土)春のオオハクチョウ調査

2010-04-07 20:16:47 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
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All Photos by Chishima,J.
コムギ畑のオオハクチョウヒシクイ 以下すべて 2010年4月 北海道十勝川下流域)


日本野鳥の会十勝支部ブログ2010年4月6日より転載)

 十勝川流域にはこの時期、ロシア極東の繁殖地へ向かう途中のオオハクチョウが大挙して飛来し、秋播きコムギの畑にも入るため食害が懸念されますが、実際の飛来数や分布、コムギ畑に依存する割合などはほとんどわかっていません。そこで、当支部では数年前から、帯広近郊を中心にオオハクチョウの分布や数を調査しています。春秋の渡りの時期には十勝川下流域や、近年では足寄や上士幌など内陸部でも情報があることから、より広域での調査が必要だろうということで、昨年(3月21日に実施)に引き続き、十勝全域での調査を行いました。準備不足のため3チームでの実施になり、全域をカバーできたとはいえませんが、それでも十勝川の中・下流域と陸別までの利別川流域、浦幌~大樹までの海岸線の状況はおおむね把握できたかなと思います。

 総数は2339羽でした。未調査の場所があることや、今回の調査が必ずしもオオハクチョウの渡りピークと一致していないという問題点はありますが、少なくとも2000羽以上のオオハクチョウがこの時期の十勝平野に飛来していることを明らかにできました。数が多かったのは、池田から豊頃にかけての十勝川下流域でしたが、本別、足寄、清水などの内陸部でもヒシクイなどとともに群れが観察されたのは、興味深い知見です。確認された環境を割合別にみると、デントコーン畑(26.9%)、コムギ畑(23.8%)が河川、湖沼などの水域(20.5%)を抜いて卓越し、農耕地がオオハクチョウの採食地として重要であることが示唆され、食害の発生しうるコムギ畑にも多くの個体が飛来している状況がうかがえました。
 今後もこのような基礎的なデータを蓄積してゆくと同時に、オオハクチョウと人間との間の軋轢を解決できるような調査や活動を展開してゆけたらと思います。なお、十勝で観察されるハクチョウの大部分はオオハクチョウですが、調査では17羽のコハクチョウも観察されました。3月下旬には50羽以上が観察された日もあり、今春はコハクチョウが少し多い印象を抱いています。


オオハクチョウ(手前)とコハクチョウ
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(2010年4月6日   千嶋 淳)



鷲視眈眈

2009-09-15 19:48:36 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
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All Photos by Chishima,J.
オジロワシの幼鳥 以下すべて 2009年9月 北海道十勝川中流域)


 カワウの採食行動を観察した際、遠くの川面に広く分散した多個体の中から捕食に成功した鳥を探し出す目安の一つになったのが、仲間による奪い合いだった。前述のように、大きくて栄養に富んだヤツメウナギ類は魅力的な餌資源とみえて、1羽がそれを捕えると1~数羽の仲間がそれを奪おうと捕食者の周りに集まって来る(「内陸進出!?」の記事を参照)。捕食個体側はそれを交わすべく逃げ、集まった仲間はそれを追いかけ、水飛沫を上げる。そうした喧噪が、捕食成功の格好の目印となってくれたわけだ。この喧噪を目印にしていたのは実は私だけでなかったことが、観察を続ける内にわかってきた。
 その正体はオジロワシ。ちょうどサケの遡上期に当たり、周辺には少し前から複数のオジロワシが集まっていたのだが、その一部が、普段は手出しできない川底の砂泥の中からカワウが水面にもたらしてくれる餌に目を付けたのだろう。河畔の木等に止まってじっと周囲を窺い、カワウ同士の奪い合いが始まるとそこに割り込み、魚を持った個体を襲う行動が、2日間で少なくとも4回、観察された。襲われたカワウは驚いて餌を嘴から放してしまうので、そこを失敬しようという寸法だ。


ヤツメウナギ類をくわえたカワウを追いかけるオジロワシ
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 もっとも、企みが成功してヤツメウナギを奪えたのは4回の内2回だけだったので、効率の良い捕食方法とはいえないようである。それでも、複数の個体がこの行動を示したということは、サケの屍ばかりの日々に飽き飽きしていた贅沢なワシ達にとっては、ちょっとしたイベントのようなものだったのだろうか。


襲撃(オジロワシカワウ

水面のカワウにオジロワシが襲いかかる
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直後、水面から飛び立ったオジロワシの脚には、カワウが捕ったヤツメウナギ類。
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撹乱(オジロワシカワウ
オジロワシが飛来し(右上)、水面のカワウが散り散りに逃げて行く。
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(2009年9月15日   千嶋 淳)


内陸進出!?

2009-09-13 17:23:35 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
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All Photos by Chishima,J.
河原で休息するカワウの群れ 以下すべて 2009年9月 北海道十勝川中流域)


 9月5日15時、朝から断続的に降りしきる雨の中、十勝川中流域に架かる橋を通ったところ、約150羽のカワウが川沿いに飛翔するのを目撃した。従来北海道には生息していなかったものの、2000年代中・後半の数年で十勝川下流域ではすっかり普通になったカワウ(「分布を変える鳥‐十勝のメジロとカワウ」「十勝のカワウその後」「雨上がり」などの記事も参照)。中流域へは時折少数が飛来する程度だったが、今年は30~40羽程の群れを幾度も観察していた。ただ、その日は降雨による増水で下流域から一時的に飛来した可能性もあると思い、頭の片隅に留める程度に終わった。しかし、二日後の8日午前、付近の河原に降り立ったカワウの大群に再び遭遇した。

 その数233羽以上。これまで中流域では見たことのない規模の群れに驚いた。十勝川は依然として増水が続いており、カワウは中州や浅瀬での休息や羽づくろいに必死だった。数日に渡って大群が飛来もしくは滞在していることはわかったが、これだけではやはり、一時的避難なのか積極的な飛来なのか判断できずにいた。


河原のカワウ
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 10日と11日には同じ場所で、最大同時確認数は90~110羽前後と減少したものの、今度は活発な採食行動を観察できた。採餌は十勝川本流の、やや水深のあると思われる、流速の緩やかな1㎞位の範囲を流れながら潜水して行われており、浅く、流れの速い瀬に近付くと水面を助走して飛び立ち、上流側に戻って同じことを繰り返した。水面まで持って来て捕食し、なおかつ写真撮影に成功した27例の餌生物は、ウグイ類?の1例を除き、すべてヤツメウナギ類であった。いずれも結構な大きさで、カワウの頸部より長いものが大半であったことを考えると、30cmを優に超えていたのではないだろうか。実際、浮上してから飲み込むまでには一定の時間を要していた。小型の魚類は水面下でそのまま丸飲みにしている可能性もあり、浮上後明らかに餌を飲み込んだ後の水の飲み方をしたこともあったので、観察が食性を完全に反映しているとは言えないが、ヤツメウナギ類がカワウにとって重要な餌資源となっていたのは確かである。


ヤツメウナギ類を飲み込むカワウ
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 ヤツメウナギ類は、厳密には円口類という最も下等な脊椎動物の一群に属するが、魚類と一緒に扱われることが多い。北海道の河川漁業では重要な魚種で、石狩川や尻別川では多くが漁獲されている。ビタミンA含有量が高く、夜盲症の特効薬ともされてきた。十勝川にはカワヤツメとスナヤツメが分布する。今回カワウが捕食していたのがどちらの種類かは、写真が不鮮明なのと私の知識が乏しいので断定できないが、魚体の大きさなどからカワヤツメではないかと考えている。カワヤツメは川で生まれて海へ下る降海型の種で、初夏が産卵期であるが、その時期に合わせて川を遡上する系群と、9、10月に遡上して川で越冬する系群があるという。もしかしたらカワウは、秋に遡上するカワヤツメの群れを追って内陸まで飛来したのかもしれない。


ヤツメウナギ類をくわえて飛ぶカワウ
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 そんな豊富な餌資源も貪欲かつ集群性のカワウの前では足りないとみえて、1羽がヤツメウナギ類を加えて浮上する度にそれを奪おうとする仲間の姿が、26例のうち25例という高い割合で観察された。盗賊行為の試みの大半は、1羽(11例)か2羽(9例)によるものだったが、中には7羽が寄って集って1羽を追い回すケースも、1例だけだがあった。そうした試みの大部分は、追われた側が慌ててヤツメを飲み込むことにより失敗に終わったが、前述の通り大型で飲み込みにくい餌な上に細長いので、ヤツメの尻尾の部分を他個体にくわえられ、引っ張り合いの挙句その一部を持っていかれる場合もあった。

強奪の試み
ヤツメウナギ類を捕えて浮上したカワウに、複数の仲間が襲いかかる。

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引っ張り合う(カワウヤツメウナギ類
もう1羽の嘴が長いヤツメの尻尾を捕えた。
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 川底のヤツメを食い尽さんばかりの饗宴がいつまで続くのかわからないが、今回のような大群での内陸への飛来が、単なる一時的な気紛れに終わるのか、内陸部への分布拡大の兆しとなるのか、人や他の生物との軋轢を引き起こすこともあるカワウだけに、今後の動向を注目してゆきたい。


粗相(カワウ
後から追って来る連中が気になったか、焦ってヤツメウナギ類を落としてしまった。
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十勝川へ降下するカワウの小群
これから見慣れた光景になってゆくのだろうか、それとも…。
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(2009年9月13日   千嶋 淳)


雨上がり

2009-08-23 22:11:40 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
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All Photos by Chishima,J.
湖岸のカワウ 手前はオオセグロカモメ(左)とウミネコ 以下すべて 2009年8月 北海道中川郡豊頃町)


 前夜からの大雨は午前の早い時間に上がったが、風は引き続いて強かった。風向きを考えると、ウミツバメ類やトウゾクカモメ類など外洋性の海鳥が接岸しているかもしれない。淡い期待を胸に海岸を目指した。海に近付くに連れ風は強さを増し、期待は一層膨らんだが、漁港にも河口にもそうした海鳥の姿は無かった。時化具合が足りなかったか。それでもウミネコをはじめとするカモメ類は普段より明らかに多く、数千羽が沿岸で羽を休めていた。
 海跡湖の一つで、数百羽のウミネコとオオセグロカモメが群れており、その一部は風波で撹拌された湖面での採餌など面白い行動を示していることから、しばらくぼおっと眺めていた。気が付くとすぐ目の前を1羽のカワウが泳いでいた。10年前には迷鳥だったこの種も、十勝川下流域では春から秋にすっかり普通の鳥になった(十勝のカワウについては「分布を変える鳥‐十勝のメジロとカワウ」「十勝のカワウその後」などの記事も参照)。まだ若い鳥のようだが、体がずいぶん水中に没している。一見すると水面から細長い頸だけが、潜望鏡の如く突き出しているようだ。カワウは水面を駆け、宙に浮き上がったが飛び去りはせず、近くの湖岸に降り立った。


体の大部分が水中に没したカワウ
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 降りてすぐ頭掻きを何度かした後、両の翼を大きく開いた。そしてそのまま10分近く、ほとんど体勢を変えることも無く、開き続けた。太陽こそ出ていないが雨上がりの陸上で風に晒すことで、翼を乾かしているのだ。ようやく乾いたと思われる翼を畳むと、今度は風切から尾羽まで一枚一枚の羽を入念に羽づくろいし始めた。しばらく後、私がそこを離れる時にもカワウは羽づくろいを続けていた。


羽づくろいに熱心なカワウ
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 水鳥の多くは尾羽の付け根にある尾脂腺から出る油を体に塗ることによって撥水性を高め、水中に没しないようになっている。カモやハクチョウが頻繁に羽の手入れをしているのもそのためだ。ところがウ類は尾脂腺が未発達であり、羽毛はよく水を吸う。その結果親水性が高くなり、水の抵抗を少なくしたい潜水には向いているのだが、長時間その状態が続くと体は沈んでしまい、また体温も奪われてしまう。ゆえに定期的に羽毛を乾かす必要が出てくるという訳だ。
 このカワウも昨晩は叩きつける強い雨に悩まされたに違いない。そして体力も消耗して雨も上がった今朝、増水した十勝川を避けて湖に採餌に来てはみたものの、撥水性の失われた羽毛では満足に泳ぐこともできず、まずは翼を干すことから始めるのを余儀なくされたといったところだろう。彼(?)の前を別のカワウが泳いで行く。そちらは何処かで既に羽毛を乾かしてきたのか左程沈んでもおらず、上陸することなく、潜水を繰り返しながら視界の外に消えて行った。海からの強風が吹き飛ばした雲の切れ間から陽の光が差し込み、一気に気温が上昇するのが感じられる。


翼を干すカワウ
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(2009年8月23日   千嶋 淳;観察は同21日)