鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

内陸進出!?

2009-09-13 17:23:35 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
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All Photos by Chishima,J.
河原で休息するカワウの群れ 以下すべて 2009年9月 北海道十勝川中流域)


 9月5日15時、朝から断続的に降りしきる雨の中、十勝川中流域に架かる橋を通ったところ、約150羽のカワウが川沿いに飛翔するのを目撃した。従来北海道には生息していなかったものの、2000年代中・後半の数年で十勝川下流域ではすっかり普通になったカワウ(「分布を変える鳥‐十勝のメジロとカワウ」「十勝のカワウその後」「雨上がり」などの記事も参照)。中流域へは時折少数が飛来する程度だったが、今年は30~40羽程の群れを幾度も観察していた。ただ、その日は降雨による増水で下流域から一時的に飛来した可能性もあると思い、頭の片隅に留める程度に終わった。しかし、二日後の8日午前、付近の河原に降り立ったカワウの大群に再び遭遇した。

 その数233羽以上。これまで中流域では見たことのない規模の群れに驚いた。十勝川は依然として増水が続いており、カワウは中州や浅瀬での休息や羽づくろいに必死だった。数日に渡って大群が飛来もしくは滞在していることはわかったが、これだけではやはり、一時的避難なのか積極的な飛来なのか判断できずにいた。


河原のカワウ
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 10日と11日には同じ場所で、最大同時確認数は90~110羽前後と減少したものの、今度は活発な採食行動を観察できた。採餌は十勝川本流の、やや水深のあると思われる、流速の緩やかな1㎞位の範囲を流れながら潜水して行われており、浅く、流れの速い瀬に近付くと水面を助走して飛び立ち、上流側に戻って同じことを繰り返した。水面まで持って来て捕食し、なおかつ写真撮影に成功した27例の餌生物は、ウグイ類?の1例を除き、すべてヤツメウナギ類であった。いずれも結構な大きさで、カワウの頸部より長いものが大半であったことを考えると、30cmを優に超えていたのではないだろうか。実際、浮上してから飲み込むまでには一定の時間を要していた。小型の魚類は水面下でそのまま丸飲みにしている可能性もあり、浮上後明らかに餌を飲み込んだ後の水の飲み方をしたこともあったので、観察が食性を完全に反映しているとは言えないが、ヤツメウナギ類がカワウにとって重要な餌資源となっていたのは確かである。


ヤツメウナギ類を飲み込むカワウ
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 ヤツメウナギ類は、厳密には円口類という最も下等な脊椎動物の一群に属するが、魚類と一緒に扱われることが多い。北海道の河川漁業では重要な魚種で、石狩川や尻別川では多くが漁獲されている。ビタミンA含有量が高く、夜盲症の特効薬ともされてきた。十勝川にはカワヤツメとスナヤツメが分布する。今回カワウが捕食していたのがどちらの種類かは、写真が不鮮明なのと私の知識が乏しいので断定できないが、魚体の大きさなどからカワヤツメではないかと考えている。カワヤツメは川で生まれて海へ下る降海型の種で、初夏が産卵期であるが、その時期に合わせて川を遡上する系群と、9、10月に遡上して川で越冬する系群があるという。もしかしたらカワウは、秋に遡上するカワヤツメの群れを追って内陸まで飛来したのかもしれない。


ヤツメウナギ類をくわえて飛ぶカワウ
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 そんな豊富な餌資源も貪欲かつ集群性のカワウの前では足りないとみえて、1羽がヤツメウナギ類を加えて浮上する度にそれを奪おうとする仲間の姿が、26例のうち25例という高い割合で観察された。盗賊行為の試みの大半は、1羽(11例)か2羽(9例)によるものだったが、中には7羽が寄って集って1羽を追い回すケースも、1例だけだがあった。そうした試みの大部分は、追われた側が慌ててヤツメを飲み込むことにより失敗に終わったが、前述の通り大型で飲み込みにくい餌な上に細長いので、ヤツメの尻尾の部分を他個体にくわえられ、引っ張り合いの挙句その一部を持っていかれる場合もあった。

強奪の試み
ヤツメウナギ類を捕えて浮上したカワウに、複数の仲間が襲いかかる。

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引っ張り合う(カワウヤツメウナギ類
もう1羽の嘴が長いヤツメの尻尾を捕えた。
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 川底のヤツメを食い尽さんばかりの饗宴がいつまで続くのかわからないが、今回のような大群での内陸への飛来が、単なる一時的な気紛れに終わるのか、内陸部への分布拡大の兆しとなるのか、人や他の生物との軋轢を引き起こすこともあるカワウだけに、今後の動向を注目してゆきたい。


粗相(カワウ
後から追って来る連中が気になったか、焦ってヤツメウナギ類を落としてしまった。
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十勝川へ降下するカワウの小群
これから見慣れた光景になってゆくのだろうか、それとも…。
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(2009年9月13日   千嶋 淳)