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All photos by Chishima,J.
(メジロ 2006年9月 群馬県伊勢崎市)
秋の川原は、たとえ快晴であってもどこか寂しさを帯びている。時々ふっと吹く風に、はらはらと舞うヤナギの落葉が、その寂しさに拍車をかける。「チィーチィー」、細い声が対岸のドロノキの樹冠から聞こえたかと思うと、あたりはメジロの声に包まれた。実際には10羽くらいなのだろうが、賑やかに鳴き交わしているため20羽くらいいるように聞こえる。小群はヤナギの、やはり樹冠を慌しく移動しながら採餌している。3分と経たないうちに、メジロたちは姿を消して束の間の喧騒は終わり、再び時折の風と落葉のみの、静寂の世界に戻った。それにしても、十勝でもメジロがすっかり普通になったものだ…。
虫を捕えたメジロ
2006年9月 群馬県伊勢崎市
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鳥はどの種も固有の分布域をもっている。たとえば、ハシボソガラスとハシボソガラスは南西諸島をのぞく日本全国で普通に見られるカラスであるが、世界的な分布に目を向けると、ハシボソガラスはヨーロッパから日本に至るユーラシア大陸北部の広い範囲に分布している。これに対してハシブトガラスは東アジアからインドにかけて分布しており、前者にくらべてその範囲は狭く、また南に偏っているといった具合だ。そして、これらの分布は地史的な時間レベルではもちろん変化するのだが、通常短い時間スケールで大きく変化することは少ない。50年前のヨーロッパにハシブトガラスはいなかったし、100年後の東南アジアにハシボソガラスがいることは、人為的に導入される以外ないだろう。
ハシブトガラス
2006年9月 東京都台東区
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もっとも、この数百年の文明の発達と人口の増加、それらを受けた環境の変化は、ある種にとっては大変な脅威となり、急速なスピードで絶滅や分布域の縮小を余儀なくされたものもある。環境問題が叫ばれる現代になっても残念ながら鳥の減少は続いており、日本でもヤンバルクイナのような島嶼性の鳥だけでなく、シマアオジやアカモズ、ヒクイナなど少し前までは普通に見られた渡り鳥も急激に姿を消しつつある。
アカモズ
2005年6月 北海道中川郡幕別町
![4_48 4_48](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/02/00/988c36bd8935e79d0e72ae9a68ff18f9.jpg)
その一方で短い期間に、スケールは小さいが分布を拡大させている鳥もいる。十勝地方では、今回紹介するメジロとカワウがその好例である。
メジロは、私が移住した1994年頃には、帯広周辺では秋に少数がみられる程度の鳥であった。1987年に出版された「十勝と釧路の野鳥」には、「夏には非常に少なく、渡り時期に見られることが多い」とあるので、それと状況は一緒だったろう。しかし、1990年代後半から見かける頻度、数とも増え始め、遅くとも2000年頃までには繁殖期を通してかなり普通の鳥になり、秋には各地で群れが観察されるようになった。冒頭で描写したような光景は、現在秋の十勝の疎林や川原では一般的なものである。
ほぼ同時期に、オホーツク海側の網走地方でもメジロが増加したことが知られている。1960年頃には札幌近郊でも稀だったというから、メジロはこの50年くらいの間に北海道の北へ、東へ分布を広げてきたと考えられる。ただし、その理由についてはわかっていない。
メジロ
2006年2月 群馬県伊勢崎市
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カワウは、十勝地方の内陸部で1990年代に1、2羽の観察記録があるものの、十勝川の下流や海岸部で見られるようになったのは、2001年以降である。当初は偶発的な飛来と思われたが、2003年以降春の渡り期を中心に定期的に見られるようになり、2004年には約60羽の群れも観察された。そこで、2004年までの観察記録をまとめ、2000年代に入って明らかに増加していることを示し、若干の考察を付した(「十勝川下流域・十勝海岸におけるカワウの観察記録」 帯広百年記念館紀要第23号)。その後、カワウの出現はますます多くなり、2005年以降は夏に数は少なくなるものの、春から秋を通して十勝川下流域には定常的にカワウが飛来している状況にある。また、2005年秋頃からは内陸部への飛来も目立ち始め、2006年5月には帯広市郊外の十勝川でも小群が観察された。繁殖は未確認だが、数年以内に十勝川の河畔林などで行われる可能性は高いだろう。
このようにカワウは十勝川流域へ分布を拡大してきており、道内のほかの場所で大群の飛来や繁殖が報告されるようになったのとほぼ同時期に観察され始めたことから、北海道全体での現象の一環と考えられる。この要因について標識などによる裏づけはないが、おそらく本州での個体数増加とそれに伴う駆除がもたらす分散効果ではないかと考えている。
カワウ
2006年9月 群馬県伊勢崎市
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十勝川河口に現れたカワウの若鳥
2006年9月 北海道中川郡豊頃町
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十勝川中流域に飛来したカワウの小群
2006年5月 北海道帯広市
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鳥の分布とは長い歴史の中で作られた、一見静的なもののようだが、このように時々刻々と変化している動的な側面も持っており、それを目の当たりにできるのも鳥見の醍醐味といえる。ただ、それを記録に残すことはなかなか難しいもので、カワウは飛来当初より注目していたため、わりと詳細な記録を取っていたが、大抵はメジロのように「気付いたら増えていた」といったパターンである。十勝地方において分布を広げていると思われる鳥には、このほかにクロツグミやミヤマガラスなどがあるが、それらについてはいずれまた。
繁殖中のカワウ2点
2006年9月 東京都台東区
繁殖のタイミングは個体差が大きいため、繁殖期は長期に及ぶ、
育雛中。手前の巣にいる右側2羽がヒナ。
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こちらは抱卵中。
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(2006年10月8日 千嶋 淳)