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鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイドを行っていた千嶋淳(2018年没)の記録

海鳥を読む④「エトピリカ」

2014-07-16 22:12:13 | 海鳥
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NPO法人日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより184号」(2014年3月発行)掲載記事「海鳥を読む」を分割して掲載)


「エトピリカ」(片岡義廣著、A5版、94ページ、北海道新聞社、1998年)
 著者の片岡氏はエトピリカをはじめとする海鳥に惚れ込んで、霧多布に宿を構えて30年近くになる。その氏による霧多布のエトピリカの観察記録が、多くのカラー写真とともに紹介される。ディスプレイやヒナへの給餌についての詳細な記述もあり、エトピリカの繁殖生態を日本語で読める唯一の本だ。複数つがいが繁殖していたピリカ岩での絶滅といった、絶滅危惧種ならではの場面もある。ピリカ岩の絶滅後も繁殖していた小島も数年前から繁殖が途絶え、霧多布のエトピリカは厳しい状況が続いている。外国からのヒナ再導入も含めた、保護増殖のための議論が重ねられている。海鳥の個々の種を扱った書籍は多くないが、ウミスズメ類では「オロロン鳥 北のペンギン物語」(184ページ、寺沢孝毅著、丸善、1993年)があり、本州以南のオオミズナギドリやアホウドリにもいくつかの本がある。南半球のペンギン類については翻訳も含めて多く出版されており、国内で繁殖するウミスズメ類やアホウドリ類よりも多いのは皮肉な話である。


(2014年3月   千嶋 淳)




海鳥を読む③「海鳥についてもっと知ろう」

2014-07-15 15:07:52 | 海鳥
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NPO法人日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより184号」(2014年3月発行)掲載記事「海鳥を読む」を分割して掲載)


「海鳥についてもっと知ろう」(小城春雄著、B5版、38ページ、社団法人海と渚環境美化推進機構、2008年)
 普及・教育用に作成された冊子で非売品。筆者も何かのシンポジウムの際に著者から頂いた。図書館等にもあまりないので、手にできる機会は少ない。しかし内容は素晴らしい。海鳥が海鳥たる特徴の後に渡りや食性、プラスチック汚染や漁網による混獲といったテーマが、優しい語り口と豊富な写真、イラストで解説され、最終章では保全についての持論が展開される。1時間もかからずに読み切れるボリュームながら、著者曰く「海洋国の日本人としてどうしてもこれだけは知っていて欲しい、海鳥についての知識」が身に付く内容となっている。北洋を舞台に、「ラストパイオニアフィールド」と呼ばれた外洋性海鳥の生態解明に人生を捧げた著者の経験や思想を加筆した上で、広く流通する書籍として出版すれば海鳥の教科書的存在となることは間違いないし、それが無理ならせめてインターネット上で公開して欲しい。34ページの「コバシウミスズメ」の写真はウミスズメ幼鳥で、同ページの記述も誤りと思われる。この本や上の綿貫氏の著作が出る前は、海鳥の生物学全般について日本語で読めるのは、「オーシャンバード 海鳥の世界」(240ページ、ラース・レフグレン著、旺文社、1985年)くらいであった。スウェーデンで出版されたものの翻訳で、30年近くを経て内容の古さは否めないが、世界中の海鳥がカラー写真で紹介された大判のページは繰っているだけで楽しい。


(2014年3月   千嶋 淳)



海鳥を読む②「海鳥の行動と生態-その海洋生活への適応」

2014-07-13 22:52:02 | 海鳥
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NPO法人日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより184号」(2014年3月発行)掲載記事「海鳥を読む」を分割して掲載)

「海鳥の行動と生態-その海洋生活への適応」(綿貫豊著、A5版、317ページ、生物研究社、2010年)
 海鳥を観察・識別するだけでは物足りなくなり、広い海でどんな暮らしをしているのか知りたくなったら読みたい本。日本初の海鳥の専門書で、起源から飛行、潜水、海上での分布や餌の探し方、生活史や人間とのかかわりまで幅広い分野が網羅されている。600近い文献を渉猟しただけでなく、著者自身の研究成果も随所に盛り込まれており、またバイオロギング(生物に記録計を装着して行動を調べる学問)にもとづく潜水や採餌行動に多くの紙面が割かれているのは、黎明期からその分野の第一線で活躍してきた著者ならではといえる。専門書ではあるが文章は比較的平易で研究の裏話的なコラムも散りばめられ、すらすら読める。クロアシアホウドリやハシブトウミガラスなど、十勝沖で馴染みの深い海鳥も多く登場する。同じ著者による「ペンギンはなぜ飛ばないのか―海を選んだ鳥たちの姿」(127ページ、恒星社厚生閣、2013年)は、翼の形と潜水行動を軸に海鳥の行動を解説しており、文章もより平易で手軽に読むことができる。


(2014年3月   千嶋 淳)




海鳥を読む①「海鳥識別ハンドブック」

2014-07-11 16:14:07 | 海鳥
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NPO法人日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより184号」(2014年3月発行)掲載記事「海鳥を読む」を分割して掲載)


 十勝沖調査もこの春で満4年を迎える。参加いただいた会員も30名近くとなり、会員の6人に1人弱が乗船したことになる(中には二度とゴメンという方もいるかもしれないが)。沖に出るとアホウドリ類やウミスズメ類など、普段見慣れない色々な海鳥に巡り合える反面、現場では次から次に出現する海鳥を発見・識別・記録するのに忙しく、それらについてじっくりお話できないのが残念で、またもどかしくもある。そこで海鳥に関する本を紹介するので、興味を持った方は実際に手に取っていただけたら幸いである。

「海鳥識別ハンドブック」(箕輪義隆著、新書版、80ページ、文一総合出版、2007年)
 海鳥観察に何か一冊欲しいと言われたら、まずお奨めするのが本書だ。ポケットにも入るハンディサイズながら、日本で記録があるか、その可能性のある約90種の海鳥を、複数の角度や羽衣から描いた箕輪氏のイラストは正確で、短くもツボを押さえた解説ともよく対応している。オオハムとシロエリオオハムの頭部、ウミガラスとハシブトウミガラスの嘴などが対比して描かれ、翼長や嘴峰長も記された計測値とともに漂着・傷病鳥の識別にも役立つ。本書によって日本のバードウオッチャーの海鳥識別力は確実に向上した。紙幅の関係か、アジサシ類のイラストが小さいのが残念。カモメ類は扱われていないので、同社の「カモメ識別ハンドブック 改訂版」(80ページ、氏原巨雄・氏原道昭著、2010年)も揃えて観察に行きたい。こちらも多くの有用なイラスト、写真、解説が小さな本の中に凝縮されており、状況による印象の変化や雌雄差など識別力を高める内容も含まれている。海鳥全般の写真図鑑は日本にはまだないが、最近出版された「決定版 日本の野鳥650」(790ページ、真木広造・大西敏一・五百澤日丸著、平凡社、2014年)にはハジロシロハラミズナギドリ、メキシコセグロミズナギドリ、ヒメアシナガウミツバメなど、「海鳥識別ハンドブック」にも未掲載の珍しい海鳥の写真が掲載されており、それらを眺めていると秋の伊豆諸島・小笠原諸島海域に赴きたくなってしまう。


(2014年3月   千嶋 淳)


140621 十勝沖海鳥・海獣調査

2014-07-04 15:55:06 | 海鳥
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All Photos by Chishima, J.
アホウドリ若鳥 以下すべて 2014年6月 北海道十勝沖)

 この半月ほど、蝦夷地には無いはずの梅雨のような雨天・曇天続きでしたが、当日は雲間から青空の覗く絶好のコンディションの下、午前6時半に出港しました。例年この時期に多いウトウやハイイロミズナギドリは散見されるものの、やや少なめでした。海水温が高い7月以降に多くなるクロアシアホウドリやマンボウも所々で見られ、春には30年ぶりの低温と言われた道東太平洋の海水温も上がって来たのでしょうか。

 そんなことを考えながら水深300m付近で停船すると、1羽また1羽とコアホウドリやクロアシアホウドリ、フルマカモメなどが群がり始めました。これらの海鳥は沖合で操業中の漁船から投棄される雑魚やアラを日常的に食べているため、停船・減速している船があると集まって来るようです。グライダーのような翼を広げ、脚を大きく突き出して着水して来るアホウドリ類の嘴は鮮やかなピンク色。アホウドリです!!顔が少し白くなり始めた若鳥で、クロアシと並ぶと色あいは似ているものの、体や嘴の大きさの違いは歴然。甲板の興奮も最高潮に達しているともう1羽、全身黒色で嘴のみ鮮やかなピンク色の、今年生まれの幼鳥も現れ、本調査では初の複数羽のアホウドリの出現に興奮は熱狂へと変わりました。何しろ、北半球で繁殖するアホウドリ類3種が手の届きそうな距離で一堂に会しているのですから、熱狂するなというのが無理な話です。本調査での出現は2011年11月以来、およそ3年ぶりでしたが霧多布や羅臼など、道東海域での記録は近年増えており、個体数の回復を反映したものでしょう。

アホウドリ類3種
左がコアホウドリ、右がアホウドリ幼鳥でその奥がクロアシアホウドリ
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クロアシアホウドリアホウドリ
普段大きいはずのクロアシが小さく見える!!
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 数羽のアホウドリ類が泡のようなものに群がって突いていると思ったら、「泡」の正体は大きなマンボウでした。体表面に付着した寄生虫やゴミを食べていたのでしょうか。このような、なかなか垣間見れない海鳥の生態を目の当たりにできるのも海上調査の魅力の一つです。
 複路では、調査に何回も参加している若者たちが舳先での調査を担当してくれました。最初に乗船した時には識別や発見にも苦労していた彼らが、淡々と調査をこなす姿は非常に頼もしいものでした。珍しい鳥や海獣との出会いもさることながら、こうした瞬間に地道な調査を続けて来た嬉しさ・やりがいを感じます。
 下船後は例によってホッケフライや煮ツブ、タコ刺などの魚介類を頂きながら歓談し、正午をだいぶ回った頃、解散しました。参加・協力いただいた皆様、どうもありがとうございました。来月にはカンムリウミスズメも十勝沖まで到達していることでしょう。また、前日の20日夕には帯広市の十勝川インフォーメーションセンターにて、これまでの上映会を行い、海鳥や調査風景など100枚ほどの写真を映写させていただきました。こちらにも参加いただいた方々に感謝いたします。

確認種:シノリガモ クロガモ キジバト シロエリオオハム コアホウドリ クロアシアホウドリ アホウドリ フルマカモメ ハイイロミズナギドリ ハシボソミズナギドリ アカアシミズナギドリ ヒメウ カワウ ウミウ アカエリヒレアシシギ ウミネコ オオセグロカモメ ウミガラスsp. ウトウ ヒバリ イワツバメ ハシブトガラス 海獣類その他:イシイルカ マンボウ


(2014年6月22日   千嶋 淳)


*十勝沖調査は、NPO法人日本野鳥の会十勝支部漂着アザラシの会、浦幌野鳥倶楽部が連携して行っているものです。参加を希望される方はメール等でご連絡下さい。