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鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイドを行っていた千嶋淳(2018年没)の記録

霧多布沖の海鳥・海獣?鳥山

2014-06-13 15:20:54 | 海鳥
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All Photos by Chishima, J.
オオミズナギドリなどの鳥山 以下すべて 2013年10月 北海道厚岸郡浜中町)


NPO法人エトピリカ基金会報「うみどり通信」第8号(2014年3月発行)掲載の「2013年度霧多布沖合調査(その2)」を分割して掲載、写真を追加 一部を加筆・削除)


 午前5時半、霧多布岬と帆掛岩の間からのご来光を拝みながらの出航となりました。ただし、その後は雲が広がってしまい、最後まで天候に恵まれない今年度でした。季節の変わり目にしては穏やかな海で、帆掛岩周辺では15隻ほどの昆布船が操業し、沖合の所々でも漁船やそれに群がるカモメ類やアホウドリ類が観察されました。圧巻は何と言っても、小島からケンボッキ島の沖合に見られた鳥山でしょう。約1500羽のオオミズナギドリを中心に少数のハイイロミズナギドリやアカアシミズナギドリが次々と海面に飛び込み、それらを襲撃するトウゾクカモメの姿もありました。カマイルカの小群も周囲を泳ぎ回っていたことからイワシかサバか、何らかの浮き魚の群れがいたのは間違いありません。ヒトも鳥も、長い冬を前に海からの恵みを享受していた秋の一日でした。

オオミズナギドリ
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(2014年3月   千嶋 淳)


*本調査は地球環境基金の助成を得て、NPO法人エトピリカ基金が実施しているもの


霧多布沖の海鳥・海獣?オオトウゾクカモメ(9月10日)

2014-06-07 13:35:44 | 海鳥
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All Photos by Chishima, J.
オオトウゾクカモメ 以下すべて 2013年9月 北海道厚岸郡浜中町)


NPO法人エトピリカ基金会報「うみどり通信」第8号(2014年3月発行)掲載の「2013年度霧多布沖合調査(その2)」を分割して掲載、写真を追加 一部を加筆・訂正)


 相変わらず不機嫌な空の下、港を出航しましたが後に好転し、秋晴れを映した海の青さが目に眩しい、今年度では稀な調査でした。鳥ではありませんがサメがやたらと目につき、試しに数えてみたら117頭にもなりました。ネズミザメ科のアオザメやネズミザメと思われ、クロアシアホウドリやカンムリウミスズメの増える、海水温の高い時期によく見られるものの、これほどの数は初めてで驚きました。

 鳥はオオミズナギドリが増えて来たほか、オオトウゾクカモメが度々現れ、6羽を数えました。7月以降度々出現し、前回(8月26日)も5羽を記録しましたが、過去3年の調査では2012年に2回、1羽ずつ現れただけの珍鳥ですので、今年は当たり年だったといえます。このオオトウゾクカモメの故郷は遠く南極大陸。ペンギンのヒナを襲っている映像をテレビ等でご覧になった方もいるかもしれません。南半球の夏(こちらの冬)に繁殖を終え、太平洋を北上して来るのです。この鳥を日本で初めて記録したのが松平頼孝です。子爵で鳥類学者であった彼は今から100年近く前、神奈川県の相模湾で漁師が「蛇の目」と呼ぶ大型で風切に白斑のあるトウゾクカモメ類を、カツオ漁船を改良した自前の採集船から苦労して採集し、後に別の学者によって「カタラクタ・マツダイラエ」の学名が献名されました。実はそれより先に外国で記載されており、残念ながらその名は使われなくなりましたが、硫黄列島で繁殖するクロウミツバメの学名「オケアノドロマ・マツダイラエ」に現在でも彼の名前が活きています。


コアホウドリ
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ハイイロヒレアシシギ
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(2014年3月   千嶋 淳)


*本調査は地球環境基金の助成を得て、NPO法人エトピリカ基金が実施しているもの



霧多布沖の海鳥・海獣?シロハラトウゾクカモメ(8月26日)

2014-06-06 11:51:22 | 海鳥
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All Photos by Chishima, J.(シロハラトウゾクカモメの幼鳥 以下すべて 2013年8月 北海道厚岸郡浜中町)


NPO法人エトピリカ基金会報「うみどり通信」第8号(2014年3月発行)掲載の「2013年度霧多布沖合調査(その2)」を分割して掲載、写真を追加 一部を加筆・訂正)


 ここ数年の調査で、夏の霧多布沖に多くのカンムリウミスズメのいることがわかってきたため、同種の保全に取り組む日本野鳥の会の職員2名が同乗され、共に沖を目指しました。相変わらずの曇天は後半、青空が覗くまでに回復したものの、秋風の吹き始めた海上は舳先が時折波を被るほどでした。肝心のカンムリウミスズメは6羽と例年より少なめでした。波浪で小型の海鳥が見えづらかったせいもありますが、この夏は海鳥の分布がいつもと異なり、アホウドリ類が例年になく多い一方、ウミスズメ類は少なめでした。


 大黒島を望む西側の海域は漁場を目指すサンマ船団と、それに付き従うアホウドリ類で賑わっていました。トウゾクカモメ類が多かったのも季節の移ろった証でしょう。その大半はトウゾクカモメでしたが、船の脇を飛び去って行った写真の鳥。現場では観察時間も短く「トウゾクカモメの一種」としましたが、写真を検討した結果、体や嘴が細くて華奢、嘴の前半が黒い、初列風切の白い羽軸が2~3本などの特徴からシロハラトウゾクカモメ幼鳥と同定できました。本調査では初の出現種です。トウゾクカモメ類は尾羽に特徴のある成鳥夏羽での識別は容易ですが、幼鳥や若鳥の識別は難しく、謎な部分も多くあります。調査でも何割かは「トウゾクカモメの一種」と記録せざるを得ません。手軽に多数の画像の撮影が可能になったデジタル時代だからこそ多くの写真を残し、比較や議論を重ねれば新たな発見に繋がるはずです。デジカメの普及によって海鳥業界(んなモノあるのか?)は新たな局面を迎えました。
 この日撮影された2羽のカラーリング付きクロアシアホウドリを山階鳥類研究所に照会してもらったところ、小笠原諸島の聟島、母島の各列島でヒナの時に放鳥されたことが判明しました。


カラーリングの付いた小笠原諸島生まれのクロアシアホウドリ
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水平線に浮かぶ大黒島
厚岸沖にある、ゼニガタアザラシコシジロウミツバメの重要な繁殖地。10年ほど前までは漁師の夫婦が住んでいた。
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(2014年3月   千嶋 淳)


*本調査は地球環境基金の助成を得て、NPO法人エトピリカ基金が実施しているもの



140525 十勝沖海鳥・海獣調査

2014-05-27 12:33:28 | 海鳥
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All Photos by Chishima, J.
飛び立ち間際のウミスズメ夏羽 以下すべて 2014年5月 北海道十勝沖)


 春の海は不安定で、周期的に通過する低気圧や前線の影響を受けて風や波も強くなりがちです。4月の調査は、予報では良好だった海況が、いざ港に集まってみると風が強く、そのまま中止となってしまいました。続く5月も悪天候による延期を経て予備日に港へ赴くとやはり強風…。5月だけで三度目の挑戦となる漁港への道中では「二度あることは三度ある」、「三度目の正直」といった言葉が脳裏を過ります。かくして到着した漁港は、所々に雲はあれど素晴らしい青空で風も穏やか。午前7時、岸壁のキョウジョシギ小群に見送られながら出港した直後は、うねりが少々残っていましたが時間とともに治まり、場所によっては空の青さや白い雲を水面に映す、鏡のような凪となりました。陸地方向はやや靄がかって日高や阿寒の山並みは望めなかったものの、本格的な霧の季節の前に5月の海の美しさを満喫できたのは幸いでした。

 鳥は、昨年5月中旬に3万5千羽近くを記録したハシボソミズナギドリは、単独から最大でも50羽程度の群れが散見された程度でした。春の十勝沖ではオホーツク海や根室海峡のような濃密な索餌群は見られず、ひたすら移動モードなので、大群と出会えるかはタイミングや群れの通過位置といった偶然に左右される部分が大きいのでしょう。ミズナギドリの仲間では、フルマカモメが例年の同時期より多い印象でした。アホウドリ類はごく少数のコアホウドリのみで、まだまだこれからといったところ。沖合の所々を川のように流れる潮目ではヒレアシシギ類の疎らな群れが採餌に勤しんでいました。アカエリはもちろんハイイロも多く、繁殖を目前に控えた麗しい夏羽を堪能しました。
 沿岸部にウトウが多く、ウミスズメやハシブトウミガラスも見られました。参加者の方が「ウミスズメがいる」と教えてくれた鳥を双眼鏡に入れると後頭部の白が目立ちます。「この時期のウミスズメは頭白いんだよね」などと言いながら記念に数枚撮影し、液晶画面を見て我が目を疑い、驚きのあまり声を出しそうになりました。少し上向きで長めな青灰色の嘴、白の食い込みの無い顔の黒色部、後頭部を広く覆う白色部。これらの特徴は紛れもなく、カンムリウミスズメ生殖羽を示唆しています。世界中で日本近海の黒潮・対馬暖流域でのみ繁殖する、この小型の海鳥が7月上旬から北海道近海に現れるのは、これまでの調査でわかっていましたが、5月に見るとは夢にも思っていなかったので本当に驚きました。多くの繁殖地で5月頃にヒナがふ化し、この時期はまだ家族群で生活しているでしょうから、非繁殖鳥か早々と繁殖に失敗した鳥なのでしょうか。こうした意外な出会いがあるのも、調査を続けてゆく醍醐味の一つです。


カンムリウミスズメ・生殖羽

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 興奮冷めやらぬまま、テトラポッドで休むキアシシギやミツユビカモメを観察しながら帰港。いつものように番屋で鮭のチャンチャン焼きや蛸刺し、煮ツブなどの魚介類をいただきながら歓談し、適宜解散しました。度重なる日程変更にも関わらず参加いただいた皆様は、どうもお疲れ様でした。日程変更で乗船できなかった方は、またの機会をお待ちしております。

確認種:スズガモ シノリガモ クロガモ アビ シロエリオオハム コアホウドリ フルマカモメ ハイイロミズナギドリ ハシボソミズナギドリ ヒメウ ウミウ キアシシギ キョウジョシギ アカエリヒレアシシギ ハイイロヒレアシシギ シギ科の一種 ミツユビカモメ ウミネコ オオセグロカモメ ハシブトウミガラス ウミスズメ カンムリウミスズメ ウトウ トビ ハシブトガラス ムクドリ ノビタキ 海獣類:鰭脚類の一種


ハイイロヒレアシシギのメス夏羽
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(2014年5月27日   千嶋 淳)

*十勝沖調査は、NPO法人日本野鳥の会十勝支部漂着アザラシの会、浦幌野鳥倶楽部が連携して行っているものです。参加を希望される方はメール等でご連絡下さい。


140317 十勝沖海鳥・海獣調査

2014-03-18 22:47:40 | 海鳥
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エトロフウミスズメの群れ 以下すべて 2014年3月 北海道十勝沖)


 十勝川沿いに霧が出ており、海も同様かと心配しましたが、川から離れるにつれ青空が広がりました。どうやら川霧だったようです。午前6時半、すっかり明るくなった港から沖を目指します。多少風浪があったものの、この時期としては穏やかでツブやタコなどの漁船が所々で操業しており、それらにはたいてい数~数十羽のオオセグロカモメが群がっていました。しかし、それ以外の鳥はサッパリです。否、完全にいないわけではなく、エトロフウミスズメやコウミスズメの群れがぱらぱら飛び、ウミオウムやハシジロアビも観察できたのですがいずれも距離が遠く、「見た」という満足感とは程遠いものでした。例年、流氷が最南下するこの時期はエトロフウミスズメ属やウミガラス類が多数、時に船のすぐ近くでも見られるため、それを期待していただけに残念でした。間近に見られた外洋性の海鳥はハシブトウミガラスくらいで、この時期数~数十羽が毎回観察されるウミガラスやケイマフリの姿もありませんでした。先月までいなかった夏鳥のウトウが1羽だけ出現したのは、春の兆しといえるでしょう。
 そして戻って来た沿岸。秋~春には沖で鳥が少ない時もクロガモをはじめとした海ガモ類やアビ、カイツブリ類などで賑わうのですが、こちらも海鳥が非常に少なく、半信半疑のまま帰り着いた港周辺も特に海ガモ類の少ない状態でした。沖のウミスズメ類が海流や水温、湧昇などといった複雑な海洋構造と関連して当たり外れが大きいのはわかりますが、沿岸で主に貝類や無脊椎動物を食べている海ガモ類がこうも少ないのは一体どうしたことでしょう。広い海のどこかにいると信じたいものです。海ガモ類は狩猟や海洋汚染、混獲、繁殖地の環境改変などにより激減しているようで、コオリガモやクロガモは国際自然保護連合の鳥類レッドリストに近年入りました。これまでの経験からは信じられないくらいの沿岸の海鳥の少なさが、海洋版「沈黙の春」でないことを切に願っています。
 下船後はいつものように番屋でカニやタコなど、海の幸をたらふくいただきながら歓談し、適宜解散しました。帰りに十勝川下流域に立ち寄ってみたところ、数百羽のマガンやヒシクイ、オオハクチョウなどが雪の融け始めた畑に群れており、春の到来を告げていました。今回は釧路や静内からも遠路参加いただきました。参加・協力いただいた皆様、どうもお疲れ様でした。冒頭の写真はエトロフウミスズメの群れ。個体同士が非常に密接して飛ぶのが本種の特徴で、この中にも約30羽が写っています。数百~数千の大群になると、まるで黒い雲の塊のようで非常に見応えがあります。もっとも、最近ではそんな大群もなかなか見られなくなりました。全身黒いのも特徴ですが、写真からもわかるように晴天・順光下では個体によって下腹~下尾筒が淡色に見えます。

確認種:マガモ コガモ スズガモ シノリガモ ビロードキンクロ クロガモ カワアイサ ウミアイサ アカエリカイツブリ ミミカイツブリ アビ ハシジロアビ ヒメウ カモメ ワシカモメ シロカモメ セグロカモメ オオセグロカモメ ハシブトウミガラス ウミオウム コウミスズメ エトロフウミスズメ ウトウ トビ ハシボソガラス


ハシブトウミガラス
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早春の十勝沿岸
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*十勝沖調査は、NPO法人日本野鳥の会十勝支部が日本財団より助成を受けて、漂着アザラシの会、浦幌野鳥倶楽部との連携のもと行われているものです。


(2014年3月17日   千嶋 淳)