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鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイドを行っていた千嶋淳(2018年没)の記録

十勝の自然84 カラマツ

2016-11-01 17:31:28 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.
カラマツ林の黄葉 2009年10月 北海道河東郡士幌町)

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年10月27 日放送)


 ここ数日の強風が平野部の紅・黄葉をすっかり吹き飛ばし、冬枯れの近付いた山野が寂寥感を漂わせています。その中で、まだ残る緑の葉を鮮やかな黄色へ変貌させ、晩秋を彩るのがカラマツです。最盛期の目に眩しいイエローもさることながら、ピークを過ぎた木々が残照を浴びてレッドブラウンに輝く時の渋さもまた、独特の魅力を持ちます。

 このカラマツ、防風林にも広く使われ、いまや十勝の景観には欠かせない樹木ですが、実は日本固有種であると同時に、北海道では外来種なことをご存知でしたか?本来は日本アルプスや富士山など本州中部の山地に自生します。北海道では明治初期に長野県から種子を取り寄せての苗木育てが始まり、同中期以降は全道各地で造林が盛んになって、第二次大戦後の復興造林にも多く用いられました。北海道で広まったのは寒さや火山灰地などの劣悪な土壌にも強く、成長が早くて短期間で生産できる唯一の樹種であることにくわえ、当時多かった炭鉱で、枕木としての需要が高かったためです。十勝では民有林中の人工林の79%をカラマツが占めます。

 木材として秀逸で、芽吹きや黄葉の季節には私たちの目を楽しませてくれるカラマツ。生物多様性の観点からは負の側面もあります。天然林や他の人工林と比べて林床や低木といった植生の階層構造が発達せず、生物相は単純で貧弱です。天然林のような樹洞や枯れ木もありません。木材需要や林業の担い手が今後急増するとも思えませんので、山林として放置されている一部のカラマツ林は、天然林としての再生を図っても良いのではないでしょうか。

 黄色が褪せ、枯れ野に溶け込まんばかりになったカラマツは葉を散らし、十勝平野は本格的な初冬を迎えます。日本に自生するマツの仲間で冬に葉を落とす唯一の種で、冬に葉を落とすことで呼吸によるエネルギー損失を抑え、夏に効率良く光合成を行って成長すると考えられます。


(2015年10月26日   千嶋 淳)

十勝の自然83 ユリカモメのご馳走

2016-10-31 22:07:36 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.
サケの卵を摘み取ったユリカモメ 2015年10月 北海道十勝川中流域)

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年10月26日放送)

 毎秋、遡上するサケを追って、河口から50km近く離れた幕別町の十勝川千代田新水路にも多くのカモメ類が飛来します。多くは一年を通じて漁港や海岸で見られるオオセグロカモメですが、この時期には小型のユリカモメも少なくありません。カムチャツカ半島などで繁殖して本州以南で冬を越す、ハトとカラスの中間くらいの大きさのカモメで、北海道を春と秋、渡りの途中に通過します。赤やオレンジ色の細い嘴と足がよく目立ちます。

 新水路で観察しているとユリカモメは、中洲付近の浅瀬で死んだサケの肉や内蔵を食べるオオセグロカモメとは異なる餌の取り方をしているのに気付きます。何羽もが川の上をひらひらと舞いながら水中を伺い、ある一点から水面に向かって勢い良く飛び込みます。飛沫が上がり、力強く伸ばした翼や尾羽以外の体は水面下へ消えます。それも束の間。わずか数秒で再び豪快な飛沫を伴って飛び立った姿は、餌を捕まえたようには見えません。しかし、写真に撮って検証すると、嘴には小さなオレンジ色の球がくわえられています。サケの卵、イクラです。

 サケの死体は、ユリカモメの細い嘴には不向きなのでしょうか。あるいは食べたくても大型のオオセグロカモメに力で劣り、追い払われてしまうのかもしれません。身軽な体を活かした機敏な動きで川底に飛び込み、イクラをついばむのが、いつの間にか新水路では一般的となっていました。

 タンパク質や脂質に富むイクラは、繁殖地からの長旅を経て、更に南まで渡るユリカモメにとって、この上ないご馳走でしょう。イクラを心待ちにし、その恩恵に預かっているのは人間だけではなかったのです。

(2015年10月25日   千嶋 淳)


十勝の自然82 進化をめぐる二三の誤解

2016-10-29 14:15:05 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.
アミメキリンの親子 2015年8月 北海道帯広市おびひろ動物園) 

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年10月21日放送)

 昨日ご紹介したカケスとドングリのように、一つの生物の変化が引き金となって別の生物も変わってゆくことを共進化(きょうしんか)といいます。共進化は生物間の複雑な相互作用をわかりやすく説明し、ユニークで面白いので、観察会や講演でも時々ネタとしていますが、進化について一般の方々の中に誤解の多いことをしばしば実感させられます。

 最も多いのが進化に目的があるという誤解。カケスとドングリの例ですと、ドングリがカケスに自身を運ばせて分布を広げる「ために」進化したと勘違いされがちですが、現在の関係はあくまで「結果」であって、それを目的に進化が起こったわけではありません。昔は軟らかいドングリや赤いドングリだって存在した可能性があります。しかし、それらは地面へ貯えるのに適していなかった、動物が好む味でなかったなどの理由で子孫を残すことができず、絶滅してしまったかもしれません。いま繁栄している生物の裏には、その何千、何万倍もの、化石すら残さず消えて行った系統があるのです。

 それと関連して、キリンが高い所の葉を食べるために何世代もかけて首を長くしたというような、親が獲得した有利な形質が遺伝しながらの進化もよくある誤解です。後天的に獲得した形質が遺伝しないことは科学的にも確かめられており、ダーウィンに始まる現代の進化論では、遺伝子の突然変異と自然選択(自然淘汰とも呼びます)が進化の原動力で、それらは偶然に左右される、目的や方向性のないものと考えられます。

 また、繁殖や闘争、その過程で時に見られる自己犠牲的な行動は「種の保存のため」というのも誤解です。多くの進化学者が自然選択の単位は種などのグループではなく、個体、ひいては遺伝子であり、一見利他的な行動も実はそれらを通じて自己の遺伝子を少しでも残そうとしているにすぎないとの説に同意しています。

 もっとも、進化には未解明の部分が多く、新しい発見や理論も相次いでいますから、今日のお話自体が数十年後には誤解となっているかもしれません。

(2015年10月20日   千嶋 淳)

十勝の自然81 カケスとドングリ

2016-10-28 08:53:49 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.
ドングリをくわえて飛ぶカケス(亜種ミヤマカケス 2015年10月 北海道中川郡池田町)

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年10月20日放送)

 山から降りて来たカケスを、最近は平地でもよく見かけます。ハト大のカラス科の鳥で、赤茶色の頭や翼の青い部分の美しさは、とてもカラスとは思えないものの、「ジェージェー」というしわがれた声を聞くと確かにカラスの仲間と納得することでしょう。ちなみに英語でカケスは「Jay(ジェイ)」と言い、しわがれた鳴き声に由来する名前です。

 秋のカケスはカシワやミズナラのドングリが大好物。丈夫な足で実を抑え、嘴で堅い外側の皮を破って軟らかい中身を器用に食べます。種子を含む中身は鳥の体内できれいに消化されてしまい、植物には何のメリットも無いように思えます。

 ところがこの時期、カケスをよく見ていると、実際に食べるのと同じか、それ以上の努力を貯食(ちょしょく)に費やしています。口いっぱいに頬張ったドングリを、地中浅く埋めて枯れ葉をかけ、厳しい冬を乗り切る食糧とするのです。貯える数は多い時で1日300個、シーズン通しては4000個に達するといわれます。

 埋められた中には、鳥が死んでしまったり放置されたりして食べられず、そのまま春を迎え発芽するものもあります。これがドングリ側の狙い。従来、地上に実を落とすことでしか種子を広げられないと考えられていたドングリは、カケスに運ばれることで「翼のある種子」となって、50m~5kmと自身では不可能な距離まで分布を広げます。また、乾燥に弱いドングリは地上に落ちただけではうまく発芽できず、軽く埋められることで乾燥から免れるとの説もあります。

 こうして、ミズナラやブナと共生関係にあるリス、ネズミなど種子食の動物たちの中でも、空を飛んで種子を遠くまで運ぶカケスは、知らず知らずに森づくりに貢献しています。

(2015年10月19日   千嶋 淳)

十勝の自然79 シシャモ

2016-10-27 16:38:29 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.
干されるシシャモ 2011年11月 北海道十勝郡浦幌町)

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年10月14日放送)

 私もそうですが、ある世代以上の人間にとってシシャモといえば、学校給食によく出た子持ちシシャモのイメージが強いかもしれません。あれは実はカペリン、和名をカラフトシシャモという、北太平洋や北大西洋で大量に漁獲されるまったく別の魚であることは、最近ではすっかり有名になりましたね。

 「本当の」シシャモは、世界でも北海道の太平洋沿岸の水深120mより浅い所にしかいない日本固有種です。10月中旬から11月下旬に特定の川に群れを成して遡上し、産卵しますが、日高地方の鵡川、沙流川、釧路地方の庶路川、新釧路川などと並んで十勝川もその一つ。そのシシャモを対象とした桁網漁が13日、広尾、大樹の両町で始まりました。豊頃、浦幌の沿岸でももう間もなく漁が始まることでしょう。11月中・下旬までの漁期、午後の漁港の岸壁は網外しと選別作業、おこぼれに預かろうとするカモメ類で賑わいます。

 ところで、シシャモの語源をご存知でしょうか?アイヌ語で「柳の葉の魚」を意味するスス・ハムもしくはシュシュ・ハモに由来し、ヤナギの葉がシシャモになったというアイヌ伝説がいくつかあります。中には雷神が関係した話もあり、それはシシャモが川に入る頃になると、「シシャモ・ルアンペ(シシャモ時化)」といって海が荒れ、沖合では「シシャモ・カムイフム(シシャモの雷鳴)」といって必ず雷が鳴るからだそうです。他にも初雪を「シシャモ・ウパシ(シシャモ雪)」、ユキムシを「シシャモ・キキリ(シシャモ虫)」と呼ぶなど、冬を間近に控えた慌ただしい季節の魚としての存在感が伺われます。

 鵡川のイメージが強いシシャモですが、漁獲量は十勝・釧路がダントツで、そのため内地では高級魚のこの魚も、魚屋やスーパーで割と手軽な値段で手に入れることができます。新鮮な生の魚をフライや天ぷら、甘露煮、刺身などで頂くのも、もちろん美味ですが、やはり軽く天日干ししたのを炙って食べるのが最高の贅沢です。秋の夜長も更けた頃、炙ったシシャモを肴に熱燗などキュッと飲み干すと、何とも言われぬ満ち足りた気分に包まれます。


(2015年10月13日   千嶋 淳)