tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

変動相場制と日本経済/実体経済:前回の補遺(続)

2023年07月06日 20時25分03秒 | 経済
物価の安定が大事というのであれば、為替レートの安定も大事でしょう。変動相場制の下では、特に、マネー経済が巨大化している今日、為替レートを安定的に維持することは極めて困難になっています。
この問題にどう対応したらいいかという問題提起を前回してきました。

今回は最後に最も重要な問題として経済学的には物価の1つである賃金=労働力の価格について考えてみます。

賃金についても勿論「安定」が必要ですし、更には生産性上昇に基づいた上昇が必要という特別の性格を持ったものということが出来ましょう。

各国が生産性の向上と賃金の上昇のバランスのとれた経済運営をしていれば、理論的には為替レートは安定しているでしょう。
然し現実には、生産性の上昇より賃金の上昇の方が大きくなり賃金インフレが多くなります。

インフレ化した経済の国の為替レートは理論的にはインフレの昂進分だけ切り下がり、それによって競争力を維持するという事になります。

ところで問題は、経済合理性のある為替レートの変動ではなく、個別の国の金融政策や思惑に左右される国際金融取引等により、インフレの実態と関係なく為替レートが大幅に動き、実体経済の方を為替レートに合わせる必要が生じる場合もあるという事です。

日本の経験でいえば、プラザ合意で、2年間で為替レートが2倍、100%の円高になった経験、また黒田バズーカで1年半の内に為替レートが50%の円安になった経験おなどです。

実体経済が変わらずに、為替レートが大きく円高と円安に変化したのですが、日本の経済金融政策は残念ながら、この変化に対して、ともに失敗だったと言わざるを得ません。
具体的には1990年代前後の「失われた20年」そしてアベノミクス以来の10年などです。

さらに言えば、この1年ほどで110円レベルから140円レベルの円安になった円レートに対して、円レートが正常化するまで静観という今の状態もそうではないでしょうか。

為替レートは時間がたてば正常化するという考え方が現実的でない事は経験済みです。

理論的には円高の時には円高分だけ賃金を切り下げる、円安の時には円安の分だけ賃金を切り上げるというのが結論になるのかもしれませんが、それが現実的に可能でない事は、経験の教えるところです。

ならば選択肢は限られてきます。矢張り為替レートを各国の金融政策やマネーマーケットの動きに任せるという「今の変動相場制」には、いずれかの方法で、通貨価値の安定に努力するというディシプリンを組み込むことを考えるべきでしょう。

経済価値のベースが安定して初めて健全で安定した各国経済、世界経済のスムーズな発展が可能になるのではないでしょうか。