tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

日雇い派遣問題の本質

2008年07月12日 21時56分34秒 | 社会
日雇い派遣問題の本質
 日雇い派遣の禁止問題が政策の場で取り上げられてから、新聞や雑誌の特集で、いわゆる底辺労働者に関する記事が多くなったようです。深刻な社会問題につながる多くの事例なども取り上げられています。

 確かに対策が求められる種々問題が存在することは事実でしょう。しかし、統計調査では、日雇い派遣でも過半数の人たちはそれを便利なものとし、適切に利用しているのも事実のようです。

 短期派遣(ほとんどは1日単位)でも、現状でいいという人は、男性で半数近く、女性では過半数です(厚労省「格差社会と企業日雇い派遣労働者の実態に関する調査」)。日雇い派遣を一律に禁止したら、不便を感じる人のほうが多いということにもなります。企業も大変不便を感じるでしょうから禁止反対を表明しているのでしょう。当然代替措置をどうするかという問題も出てきます。

 だからと言って今のままで良いということでは、もちろん、ないでしょう。本来、均質とバランスを大事にしてきた日本社会が、格差社会に堕落することは防がなければなりません。

 どう考えても、この問題は、氷山の一角でしょう。水面下には、学校教育から長期不況の現実、企業収益の低迷、賃金制度( 正社員の賃金問題を含む)、雇用制度、さらには日本的経営の根幹である人間重視の経営哲学に至るまで、広範な原因を持つ、根の深い問題で、そのひとつの表れが日雇い派遣問題ということでしょうから、単に日雇い派遣を禁止するとか、最低賃金を大幅に引き上げましょうとかいった小手先の対応で解決できる問題ではないようです。もっともっと本質的なところに戻って、広く深く論議をする問題でしょう。

 戦後の混乱期から、高度成長の中で植木等がスーダラ節をうたっていた時代、そしてジャパンアズナンバーワンの時代にかけて、日本は、労使協力して、格差の少ない社会の実現を目指してきました。欧米の常識では全く考えられない制度、ホワイトカラーとブルーカラーを「社員」に一本化したのも経営側の提唱によるものでしたし、労組も格差の縮小に熱心でした。そして現実に、一億総中流という意識を生み、所得分配の均質さを示すジニ係数は世界で2番目と言われました。

 それが「失われた10年」の中で、大きく変質し、格差や憎しみ、争い、個別紛争の増大、そして他方では他人への無関心、さらに無差別殺人まで多発する日本になってしまったのです。

 問題は容易ではありません。日本の政府、労使は、どこまで問題を本質的に考えようとしているのでしょうか。当面を糊塗する弥縫策でない本質的な政策への真剣な取り組みをいつ始めるのでしょか。手遅れは許されないように思います。