tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

実質賃金上昇の必要性の検討

2024年07月11日 15時49分03秒 | 経済

昨日は改めてこれまで25か月続いてきた実質賃金水準の対前年マイナスという状態からの脱出が、日本経済の回復・正常化に必要と指摘し、そのためには、今春闘での賃上げは、33年ぶりの高水準だったとはいえ、必ずしも十分なものではなかったのではないかと指摘しました。

賃金決定というのは労使の専決事項ですから、望ましいのは労使の組織がいかなる賃金決定が今の日本に望ましいのかを検討し議論を重ね、傘下の、企業に周知し、個々の企業はそうしたマクロの情報をベースに自社の経営状況の中で最適な決定をしていくという努力でしょう。

戦後日本の労使は、それぞれに労働側は力ずくの賃上げ闘争、大幅賃上げ要求、経営側は、適正な生活水準、国際競争力維持可能な賃金コスト管理など激突、衝突を繰り返しながら、経営側の生産性基準原理、労働側の経済整合性理論と合理的な賃金決定理論に到達してきました。

しかし、1985年の「プラザ合意」で欧米から「円切り上げ」要求を受けて、そうした賃金決定基準の労使の理論は成立しなくなり、「春闘の終焉」と言われ、その後の賃金決定は,今に至る、漂流状態です。

理由は、経営側の生産性基準原理も労働側の経済整合性理論も、基本的に、固定相場制ないし為替レートの安定を前提にしたものだったからです。

結局、日本は1985年の「プラザ合意」、2008年のリーマンショックという海外発の政策的円高にさらされ、その後、日本初の円安政策である黒田バズーカによる円安、そして今回のアメリカの金利引き上げによる円安という2回の政策的円安を経験しています。

プラザ合意による円高については日本の労使は徹底した賃金水準の引き下げで対応しましたが、それにはバブル期を含め2020年まで15年を要し、その手段が賃金の低い非正規労働者の多用という形だったため、雇用構造や社会情勢に大きな歪みを残しました。

リーマンショックの円高に対しては労使打つ手も失い、結局黒田日銀の異次元金融緩和での解決を待つだけでした。

日銀の金融政策の転換で日本経済は円安(円レートの正常化)を迎えましたが、為替レートが正常状態になったにも拘わらず、日本経済は消費が伸びない消費不況に悩まされ、今に至るデフレ状態(需要不足)で殆んどゼロ成長近傍にとどまっています。

円レートが正常化して($1=120円)、「春闘の復活」は言われましたが、それは政府が賃上げを主唱する「官製春闘」で、労使は殆んど賃上げの正常化についての意見は持ちませんでした。(連合は「定昇+経済成長率」、経団連は企業の賃金支払い能力など)

今回の欧米の金利引き上げによる円安についても、「実質賃金の長期にわたる低下」という異常状態への対応のために賃上げが必要という意見はあっても、永続的な円安の中では、欧米インフレの範囲内、乃至円安による賃金コストの低下の範囲程度の賃上げが必要というような意見は労使からも、残念ながら、アカデミアや担当官庁からも聞かれませんでした。

つまり、円高については人件費抑制→コスト削減という政策目標は明確でしたが、円安になったとき、賃金引上げ→消費需要喚起という逆のサイクルが必要という現実には、労使とも、学会も関係官庁も気づかなかったという事なのでしょう。

前置きが長くなってしまいましたが、こうした立論のもとに、今年の賃上げはもう少し高くてもよかったのではないか。賃上げが足りなければ、労使は秋闘で賃上げ交渉をし、早期に日本経済の活性化に取り組んだろうかという前回の主張につながるのです。

次回は現実の統計を見ながらそのあたりを論じてみたいと思います。


消費主導の日本経済に必要なこと

2024年07月10日 15時25分54秒 | 経済

今春闘の賃上げについては連合も目指した大幅賃上げが実現したと満足のようです。経団連も主要企業の多くが満額回答を出し、中には要求を超える回答をしたところもあって、賃上げの社会的責任を果たしたと胸を張っているのではないでしょうか。

確かに賃上げ率そのものは、33年ぶりの水準などと言われ、バブル崩壊後円高不況で賃下げが必要と叫ばれた時期の水準に戻ったかもしれません。

然しそれが今年度の日本経済にとって適切な賃上げ水準だったのかという検証はやられていないようです。

直接比べることにあまり合理性はありませんが、日経平均のほうは、バブル崩壊直前の38900円を疾うに超えて42000円に近づいています。

多くの人は何か日本経済のアンバランスを感じているようですが,そこに発表になったのが、実質賃金の対前年上昇率がこの5月もマイナスで、そのマイナスは26か月連続という現実です。

毎月勤労統計の賃金指数(5人以上事業所の現金給与総額)と消費者物価指数の総合の数字を並べて見ればわかりますが、2022年1~3月は確かに現金給与総額の対前年同月上昇率が消費者物価指数の上昇率(同)を上回っています、そこに、値上げの遅れた食料品日用品の一斉値上げが起き4月以降は今年5月まで消費者物価指数上昇率が賃金上昇率を上回っています(2022年の12月は資料の取り方で、0.1ポイントのプラスという数字も出ます)。

実質賃金のマイナス幅は23年秋にピークに達し、その後縮小傾向にありますがこの5月も未だ-0.9ポイントと1%近いマイナス幅です。

今春闘で賃金も上がりましたが、円安で物価の上昇の心配も消えません。6月以降の数字がどうなるかですが実質賃金の黒字転換はそう簡単ではないでしょう。

今になって考えてみれば、労使が共に手応えあったと感じた賃金上昇も、現実の経済・物価の動きから見れば決して日本経済に適切なものではなかったようです。

折しもまた別の困った数字が出ました、内閣府からの、日本経済のGDPギャップです。今年の1-3月期の日本経済の需給ギャップが-1.0%から-1.4%に修正されたというのです。

これは潜在供給能力はあるのに、それを利用していない分が1.4%という事で、もし潜在能力を100%利用すればGDPは1.4%分増える、それだけ経済成長率も上がるという事です。

どの部分で潜在能力を使い切っていないかについてはいろいろな見方があるでしょう。しかし、経済活動や需要構造といったものは、相応の弾力性があるものですし、アベノミクス以来日本で不足しているのは消費需要だという事は明らかですから、このギャップを消費需要対応にもっていけば、消費は増え、経済成長率は高まるということになります。

そうした需要供給体制のシフトをスムーズに行っているためにも、詰まりは、日本経済がバランスの取れた経済成長の体質を取り戻すためにも必要なことは消費需要の喚起でしょう。

そしてそのために必要なことは格差の少ない賃金上昇の均霑なのです。

このブログでは合わせて平均消費性向の上昇にも注目していますが、まずは賃金上昇が家計に広く均霑することが基本でしょう。

現状では、日本の労使にその観点は欠落しているようです、円安の進展の中で、日本の賃金コストは異常に低くなり、今や生産性を考えれば途上国に匹敵するのではないでしょうか。

こうした日本経済の非常時に際し、日本の労使は、必要があれば賃金交渉はいつでも出来るぐらいの柔軟性と先見性を持って、まずは実質賃金が前年を下回るようなことは、間違いなく避けるべきという意識で、日本経済の成長路線のへの回帰を牽引する賃金水準の上昇を検討すべきではないでしょうか。

特に円高になった時の賃金抑制と同じ比重で、異常な円安に対応する賃金水準の上昇を考えるのは今や経営者団体、経営者の義務と考えるときではないかと感じるところです。

経営者にその発想がなければ、政府は補助金や定額減税で消費購買力を増やそうとするでしょう。これは日本経済を一層弱体化する愚策で、効果は限られ、日本経済、日本財政のゆがみを大きくするだけでしょう。

今こそ本格的な「政労使」対話を進める時ではないでしょうか。政府がお取込み中であるならば、労使だけでも出来るのではないでしょうか。

第一次石油危機の時の労使の頑張りを思い起こしていただくのもいいのはないかと思います。


5月、平均消費性向急落、要因・今後は?

2024年07月05日 16時02分46秒 | 経済

今朝。総務省統計局から家計調査の2004年5月の「家計収支編」が発表になりました。

5月、6月は新年度の賃上げが家計に反映される月なので、特に 今年は賃上げ幅が大きかったことが労使の調査でも確認されているので、特に勤労者世帯について注目したいと思っていたところです。

統計表で最初に出てくるのは2人以上の全世帯の消費動向ですが、これはマスコミの見出しのように対前年比実質マイナス1.8%で消費支出減速という状況です。

今年の1月は異常な落ち込みでしたが、2月から対前年比マイナス幅を縮小し4月には前年比実質0.5%のプラスでした。

しかし5月は名目で1.4%の伸びでしたから消費者物価指数が生鮮食品を中心2.8%も上がったので残念ながら、実質消費は前年比マイナスに転落です。

実質消費支出のマイナス1.8%に最も大きく寄与しているのは、10大費目の中の食料で0.94のマイナスです、5月には生鮮食品が大きく値上がったことも影響しているのでしょうか。

光熱・水道がマイナス0.77の寄与になっていますが、これは政府の補助金の廃止の影響が出ているものと考えられます。

増加で寄与しているのは交通・通信(+0.54)の中の自動車購入でこれは型式問題で買い急ぎがあったせいでしょうか。

いずれにしても、行政の関係で、自然の経済活動の動きが混乱させられるのは、経済分析にとっては困ったことです。

ところで、勤労者世帯はどんなことになっているのだろう、賃金は順調に上がったのかなと2人以上勤労者世帯について見てみましたら、こちらは少し状況が違いました。

5月は名目可処分所得が対前年8.8%と大幅上昇で、実質可処分取得も同5.3%の増加と賃上げのせいでしょうか予想外の大幅増加です。(配偶者の収入も増えている)

この実質可処分所得の増加が平均消費性向にどんな影響をもたらしたかと「平均消費性向」の数字を見ますと下図です。

   平均消費性向の推移(2人以上勤労世帯)

              料:総務省「家計調査」

平均消費性向は、昨年5月の90.2%から、84.7%へと大幅に下がっています。昨年の5月が些か異常で収入が減り、節約がそれに追いつかなかったという感じの90.2%だったのですが、今年は、賃金上昇率も高めで、その逆の現象のようです。

平均消費性向が上がることで消費需要が増え、消費不振の日本経済が復活するきっかけにしようというのがこのブログの主張ですが、平均消費性向が下がってしまっては消費支出は増えません。

そこでこんな計算をしてみました。去年の5月は100円の収入で90.2円使って生活した。今年の5月は108.8円の収入があった。そしてその84.7%を生活に使った。今年の5月生活に使ったのは何円でしょう? 答えは92円15銭です。

つまり、平均消費性向は下がったけれど消費支出は名目値では増えたという事です。

現実の家計を考えれば収入や可処分所得が増えたからと言ってすぐにその分を消費に回すのではなく、先を見ながら次第に増やしていくといったことでしょう。

さて、6月以降の可処分所得はどう動くのか、そして平均消費性向はどう動くか、日経平均は上がっているようですが、日本経済はどうなうのでしょう、もう少し見ていく必要がありそうです。


公的年金の2024年財政検証の「諸前提」について

2024年07月04日 17時34分48秒 | 経済

公的年金の所得代替率が50%を切らないというのが政府の方針という事で公的年金の財政収支試算が5年ごとに行われています。

今年がその年に当たるという事で、先日厚労省から社会保障審議会の年金部会の検証結果が発表になりました。

結果は4つのケースのシミュレーションの最悪の条件設定のケース(一人当たらいゼロ成)経済)以外は、50%以上の確保が可能という事で、まあ良かったという事になったようです。 

多様な条件を組み合わせてのシミュレーションですから、結果はそれなりのものになるとおもっていますが、最初から気になっていたのは「ケースの設定」のしかたでした。

   2024年年金試算の主な前提(伸び、利回り:%)

                 資料:厚労省 

岸田さんが、今後6年の経済計画を発表した際GDPの実質成長率を1%以上としていたので、このブログでも,それではちょっと低すぎるのではないですか。

もう少し国民に夢を与えるような数字を政府として出してくれないと、と書きましたが、今回の年金収支試算でも表題に書きました「諸前提」があまりにも、これからの日本経済、国民の努力を過小評価するような数字になっているので、試算結果はともかく、前提条件について、国民が「さて頑張るぞ!」という気になるようなケースも出してほしいと思ってしまいます。

という事で、政府が財政検証のために設定した諸条件の主要部分を表にしてみました。ここでは、総体的な判断基準のベースとして実質経済成長率を持ってきていますが、政府の試算では「全要素生産性」を持ってきています。

労働生産性のベースは人数ですが、全要素生産性というのは定義もいろいろあって、人間のやる気だとか、働きやすい環境とか、経営がうまいまずいとか、政府の政策の良し悪しもいれなければなりません。票の成長率の下2段はマイナスですが、全要素生産性ではプラスになっています。

勘ぐれば政府がいろいろ面倒見たが、労働力の働きがそれに応えなかったと見ているのでしょうか。前提の中で、情けないと思うのは、高成長実現ケースのGDP成長率がわずか1.6%だという事です。

成長型でも1.1%、日本人の勤勉さを持ってしても高成長が1%だというのはいかにも情けないですね。

せめて最低を1%としても成長率で2%ケース、3%ケースぐらいに置かないと、これからの日本経済は円高の時代、アベノミクスの失敗の10年から立ち直って、せめて主要国平均プラスなにがしかの水準の経済成長を達成するという意気込みでものを考える必要があるのではないでしょうか。

物価も経済成長が低ければ低いとなっていますが、これからの世界経済の中では物価は国内事情より国際経済との関係で動くでしょう。

円レートについては何も触れていないようですが、プラザ合意のよう経済外交の失敗はもう起こさないという自信があるのでしょうか。実質賃金については実質経済成長率より高めになっていますが、長期に亘ってそういう事が可能とは考えられません。

日本人は実質経済成長率の示す範囲の中で生活をしているのですから、そしてその中で社会保障費などはシェアが増えていく可性が大きいでしょう。年金についてはマクロ経済スライドがつけられても、医療費などではコロナの場合に見るように、今後もいろいろなことが起きるでしょう。

実質運用利益率については、GPIFの腕が問われているのでしょうが、日本経済の中でGPIFの実質利回りが賃金よりも高いという事は、この利回りは海外で稼ぐという事でしょうか。

国際投機資本と張り合うことは容易ではないような気がします。1%程度の実質経済成長率の中で、出来る事は限られています。

政府担当者はこれで所得代替率50%をクリアなどと国民を安心させようというのかもしれませんが、国民、つまりはGDP,国民所得の中で分け合わなければならないということは解っています。

せめて、国民の頑張りに頼らなければならない日本です。国民に安心を押し売りするより、国民に「頑張ってください。よろしくお願いします」と頼んだほうが真面目な態度ではないかと思うところです。

 

 

 

 


アメリカ経済に変調の兆し?

2024年07月03日 15時17分06秒 | 経済

コロナ不況からの回復以来、賃金インフレも経験しながらも一本調子で堅調を維持してきたアメリカ経済ですが、このところ変調の兆しが見えて来たのではないかという意見も出て来たようです。

今、アメリカ経済の先行指標としての主要な判断材料が雇用です。経済学の本来の見方では雇用というのは経済が良くなると、企業がそろそろ人を増やそうかと考えるという事で、景気の遅行指標ということになっているのです。

しかし今のアメリかでは、非農業の雇用者数をしらべて、これが増えるという事は、好況の先行指標という事になっています。

雇用を増やすのは、企業が売り上げを増やそうと考えているという事ですし、多くの企業が採用を増やしますと求人競争で賃金も上げなければなりません。

賃金を上げれば物価も上がりますし、企業にとっては物価が上がれば売り上げも増えるし、利益も増えるという見方になるのでしょう。

こうした見方になるのは、アメリカ経済が内需中心で、生産性が上がりにくい公務や医療、小売業やサービス業が経済を引っ張るという構図だからでしょいう。

日本のように、製造業が重要で、国際競争力が至上命題のような国では、まずコスト(人件費)削減、競争力強化、競争力がついたら、増産で雇用も増やすという国とは違います。

というわけで、アメリカではコロナ明けには求人競争になり、賃金も大幅に上がって、インフレ昂進、FRBが慌てて政策金利引き上げということになりました。

日本では、お蔭で円安になって、いろいろと困ったことが起きるというとばっちりを受けちます。

このアメリカの雇用に、何か翳りが出てきたのではないかという見方がこのところ出始めているようです。

というのは6月の失業率が4.0%と、5月の3.9から上昇に転じたことが一つの契機になっているようです。

アメリカのニュースの中には、雇用の現場で職探しの照会が多くなったとか、現材の仕事をやめて、新しいもっといい仕事に転職をしようという人が少なくなったといった状況が語られることが増えたといった情報聞かれるようです。

公式統計では、雇用の伸びは順調、賃金の伸びも堅調といったことのようで、FRBの政策金利引き引き下げは遅れるといった意見が一般的ですが、パウエルFRB議長が、労働市場は冷え込みつつあるという発言を(国際向けに)したこともあってか、好調な雇用情勢の継続に疑念を持つ向きも出つつあるようです。

公式に発表される統計資料で判断すべきか、現場から聞こえる声がさらにその先行指標なのか、ニュース、情報の判断は難しい所ですが、日本としては、まさに攻防両様の構えで備えをしなければならないのではないでしょうか。


いろいろと「ハラスメント」が気になる日本ですが

2024年06月26日 21時29分25秒 | 経済

最近いろいろなハラスメントが増えてきて、きちんと説明を受けないと中身がわからなようなこともあります。

記憶を辿れば、大分前の話になってしまっていますが最初にデビューしたのは「セクシャル・ハラスメント」だったでしょうか。

それまではジェンダーに関わることでも気軽に口にしていたり、挨拶代わりにポンと異性の肩を叩いたりでしたが、それが相手に不快感を与えれば、それは「セクシャル・ハラスメント」といってこれからは許されなくなるんだそうだなどといわれて、「こりゃ大変な世の中になったかな」と思うと同時に「まあね、親しき中にも礼儀ありだから、気を付けるべきですね」と思ったりしたものでした。

ハラスメントというのはもともと「相手を困らせる」という意味ですから、人間関係の常識として、相手を困られるようなことはしない方がいいのだと考えれば、それでいいのかもしれません。

しかし、その後もいろいろなハラスメントが生まれました。そしてそれらは、意図的に相手を困らせる言動という意味が強くなっているように思われます。

パワハラ=パワー・ハラスメント(権力で威圧)

モラハラ=モラル・ハラスメント(反道徳的な威圧)

マタハラ=マタニティー・ハラスメント(相手の妊娠に関わる不快な言動)

カスハラ=カスタマー・ハラスメント(顧客が店員などを困らせる言動)

などなどです。

こうしてみますと、急造のせいかあまり確り出来ていないものもありますが、いずれにしても相手を困らせる言動だという事は明らかです。

昔から日本人は、人間関係の機微には敏感で、どちらかというと礼儀正しいと言われていたのですが、改めて、カタカナ語で、いかにも日本人は欧米人に比して、他人に(思わざる)迷惑をかけることが多いから気をつけろといったメッセージが必要になったのかと思っています。

おそらく背景には、この所日本社会では、生活に不満感を持ったり、何かと不愉快だったり、いらいらしている人が増えているという事があるのでしょうか。

確かに格差社会化が進んで貧困家庭が増えたり、企業の現場で働き方に余裕がなくなったり、政府不信で、政権党への支持が戦後最低と言われるほど落ちたりという現実があります。

そして、その背後には、世界でもベストテン常連だった日本の一人当たりGDPが40位近くまで落ちたり、この所は月々の実質賃金が2年以上連続で前年を下回ったりという日本国自体の零落が進んでいるという紛れもない経済不振そして政治不信の現実があるわけです。

それと同時に、人権尊重の時代が進むと共に、人々の権利意識が次第に強くなり、しっかり自己主張をするようになると同時に、一部に行き過ぎた権利意識、自己中心意識が強まり、「女に振られりゃ泣きまする」という歌の文句が常識の中で、「女に振られりゃ殺しに行く」という現実が時に報道される時代になっています。(学校教育のせい、家庭教育のせい、それとも・・・)

いずれにしても日本社会の中に、トラブルメーカーが増えてきたという意識が、多様なハラスメント問題の形をとりつつ、「トラブルメーカーになるのはやめましょう」という社会的なメッセージを広めるための動きを見せているように思われてなりません。

このブログでは「トラブルメーカーとトラブルシューター」「加害者と被害者」といった問題も取り上げてきましたが、人間の住む社会が誰にとっても快適なものでなければならないという事を考えれば、トラブルメーカーを出来るだけなくし、トラブルシューターを育てること、加害者をなくし、その結果として被害者をなくするといった気持ちをみんなで持つことが大事というのが人々の希望でしょう。

残念ながら、最近の日本社会が、かつてに比べて、快適な社会、安定した人間関係の面で劣化していることが、上記のような種々のハラスメントについての適切な留意を普遍化させようという機運を生んでいるとすれば、われわれは反省とともに、より良い社会を作っていくために真面目に取り組まなければならないでしょう。 

もともと礼儀正しいと評価されていた日本人です。カタカナ語がお嫌いならば、伝統的日本語で「他人様にご迷惑になることはやめましょう」で、すべてのハラスメントは解決するはずです。

日本社会をより快適にするために、日本人はもうひと頑張りしてもいいのではないでしょうか。


マネー市場の活動に追いつかない経済政策

2024年06月25日 15時11分04秒 | 経済

このブログではこのところ、アメリカの金利政策のおかげで苦労する日本経済の姿に触れてきています。今回は少しはっきりとさせてみようと思います。

アメリカが賃金インフレを起こし、インフレの進行を懸念したFRBが政策金利の引き上げを行いました。政策金利を引き上げますと、マネーは金利の高い所に動きますからドルが買われ、ゼロ金利の日本ではドル債などの投資が増えて、円は売られ円安になります。

アメリカは、これは金融政策の結果で、「為替介入ではない」という立場で、円安は日本の事情と意に介しません。

日本では、輸出産業は円安差益で利益が増えますからいいですし、今まで海外に売れなかったものも競争力がついて、海外に売れるようになるというメリットもありますが、日本は無資源国ですから海外から買う資源や穀物などの値段が上がって、それが消費者物価指数を押し上げます。  

折しも日本では賃金上昇率が低いので、消費者物価指数が上がると国民生活が苦しくなるという事で、政府も国民も心配します。

政府は、ゼロ金利で国債残高には無神経ですから、国債を原資にして、輸入産業には補助金、国民には生活援助金と相変わらずのバラマキ政策で人気取りに走ります。今の日本はこんな状態で、これではでは将来が案じられるという所でしょう。

ここで問題になることが大きく2つあるように思います。①円高差益と円高差損が同時に起きますが、この問題の合理的解決策がない、②基軸通貨国が政策金利を動かしたとき、それによる為替レートの変動を受けた場合どう対処するか政策がない、の2つです。

  • の円レートが変動した場合に、輸出産業と輸入産業で、逆の立場で差益と差損が出るという問題は、企業努力は全く関係がなく、基軸通貨国の都合で起きるのですが、アメリカに文句を言うことはできないでしょうから、国内で解決しなければなりません。

プラザ合意で円高になったときは、政府はバブルを起こして景気を保とうとし、一時的に成功しましたが、バブル崩壊で馬脚が現れ、利益の出ない輸出産業は海外に移転するなど、その調整に30年かかった(30年不況)のが実態でしょう。

  • の実例はリーマンショックでのアメリカのゼロ金利政策で日本の円高($1=80円)と今回のインフレ対応の金利引き上げによる円安($1=160円)でしょう。

リーマンショックの円高では数年遅れて、日本もゼロ金利政策をとって脱出しました。遅れた数年間、日本経済は瀕死の状態でした。

今回のアメリカの政策金利引き上げによる急激な円安に対しては、二回ほど為替介入してイエレン財務長官にやんわりと注意されています。日銀はゼロ金利をやめれば即効性があるという事は解っているのでしょうが、借金まみれの政府は金利引き上げにはマッタでしょう。労使にも動きはありません。

第一次石油危機の時は、政府はさておき、労使が立ち上がってインフレからスタグフレーションへの道を遮断し、欧米主要国に先駆けて安定成長路線を確保し、ジャパンアズナンバーワンの名をほしいままにした実績がありますが、誰かが立ち上がらなければならないのではないでしょうか。

客観的に見れば日銀でしょうか。思い切って金利を引き上げれば、円安は止まり、輸入物価の上昇も止まり、物価は安定し実質賃金は上昇に転じ、国民の貯蓄には金利がつくという効果まで期待できます。

輸出部門の円安差益は消えても、輸出産業は頑張っていくでしょう。借金まみれの政府は困るかもしれませんが、バラマキも必要なくなるでしょう。(影の声:バブル崩壊の後に比べれば何てことないですね)

多分日本の労使は、新しい環境に早期に適応し、家計は環境変化を喜ぶでしょう。

本当の「骨太の政策」が必要な時が来ているような気がするところです。


<月曜随想>オーバーツーリズム考

2024年06月24日 14時04分14秒 | 経済

日本では、近年、インバウンド(外国人観光客)の急激な増加の結果、いろいろな議論が起きています。

もともと日本は外国人観光客の誘致には積極的でした。今はインバウンドという言葉が一般的になったので、このブログでも「インバウンドの盛況」といった言い方をしていますが、観光客も含めて外国人が日本に来ることについては、基本的に賛成です。

日本は極東のさらに最東端にあって、かつては行きにくい国だったかもしれません。しかし、日本の伝統的な文化や社会の在り方を知って「日本というのはいい国だね」 と言ってもらうには、実際に来て日本の人や文化、自然に触れてもらうという草の根の交流が最も大事でしょう。ですから今日のようなインバウンドの大盛況は大いに歓迎すべきだと思っています。

もちろんインバウンドの増加は日本経済にも貢献します。我々自身、海外旅行に行くときはそれなりの資金を用意しますが、今や、日本でもインバウンド消費は巨大な外貨収入になっています(昨年は5兆円超:GDPの1%弱)。

アベノミクスのようにこれにカジノがあればもっと増えるという意見もあるでしょうが、これは日本文化とは関係ない金だけの話です。

ところで、ここまでインバウンドが盛況になりますと、オーバーツーリズムという問題が起きてくるようです。これは、観光客が多すぎて、問題がいろいろ起きるという事でしょう。

もちろん観光地に観光客が来過ぎるという問題であれば、それは外国人か日本人かを問わずありうるわけで、インバウンドだけがオーバーツーリズムの原因ではありません(インバウンドは観光客全体の2割)。

これは世界中で既に起きている問題で日本はやっと今始まったという事でしょう。

例えばミラノでダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を最初に見た頃は、ぶらりと行って「こんな教会に?」と一人でのんびり見ましたが、後年家内とツアーで行ったときは、囲いができて長蛇の行列でした(バチカンも同様)。

オーバーツーリズムは、いわば贅沢な難題という事でしょう。それだけ日本の文化や観光資源に興味を持っている人が世界に多いという事なのですから、単純に「制限をすれば」などという発想ではなく、これには知恵を絞って、出来るだけ観光客の思いに添いながら、解決する方法を、それぞれの置かれた状況に即応しながら対すべき問題でしょう。

この問題に関連してですが、姫路城の外国人向け入場料の高額設定についての議論があるようです。

といっても外国人が来ると余計なコストがかかると決めつけるのは問題があるでしょう。やはり日本人も同じと考えるべきでしょうし、外国人は金持ち、外国の観光施設の入場料は高いというのは理由にはならないでしょう。

かつてのべトナムで日本人町のあったホイアンにベトナム人と一緒に行ったとき「済みません、日本人の入場料は高いです」といわれ、まだバイクも走っていないべトナムでしたから「気にしないでください」 と言いましたが、途上国の外貨事情を考えれば了解というところでした。途上国ではと理解できても、日本では、合理的な説明は難しいでしょう。

日本はラーメンもカレーも寿司も安いですが。日本に来たら、日本人と同じ気持ちで、というのが草の根交流の原点ではないでしょうか。

それにしても日本は安いですねと言われそうですが、それは実はアメリカが利上げし、日銀がいつまでもゼロ金利だからです。日銀が金利を上げれば(上げると言うだけでも)円高は進むでしょう。日銀も、早く金融の正常化を進めなければと考えているはずです。

円高になればインバウンドは多少減るでしょう。オーバーツーリズムに関わる問題も、日米の金利差の影響を受けた、現時点での現場の苦労の一側面と考えておく必要もあるように思います。


消費者物価指数は内外要因逆転

2024年06月22日 15時30分24秒 | 経済

昨日、総務省統計局から2024年5月度の消費者物価指数が発表になりました。

マスコミの見出しは「消費者物価指数上昇5月は2.5%」といったものでしたが。これは「生鮮食品を除く総合」の数字で、消費者物価指数全体を示す「総合」の上昇は2.8%、「生鮮食品とエネルギーを除く総合」の上昇は2.1%です。

ご承知のように、「生鮮食品」は天候による出来不出来などで価格が変動しますし、「エネルギー」は、石油やLNGなどですから海外価格次第という事です。

「総合」はこうしたものをすべて含みますが、干ばつで野菜の価格が上がっても一時的ですし、OPECのせいで原油価格が上がっても、そのうち下がるかもしれないという特定の変動要因を除いて、日本経済自体の状態で動く部分を見ておこうというのが「生鮮食品とエネルギーを除く総合」、いわゆるコアコアです。

ところで、このところ25か月連続で消費者物価指数上昇率が賃金上昇率を上回り、実質賃金が前年より下がるという事態が続いていますが、その主要な原因はこの「生鮮とエネを除く総合」の異常な上昇が続いていたからでした。

今、日銀が、消費者物価指数上昇が2%程度になったら金融政策の正常化を進めるといっているのは、天候や海外価格の影響を除く日本経済自体のインフレを見ていると思われます。

という事で、この消費者物価指数の主要3指数の動きを見てみましょう。

     消費者物価指数主要3指数の動き(総務省統計局)

上の図は指数そのものの動きを見たものです。昨年10月から今年2月ごろまでほぼ横ばいで消費者物価指数は落ち着いてきたと見られましたが、その後上昇基調です。日銀の狙う2%上昇迄落ち着くかは微妙です。

という事で、これを対前年同月の上昇率で見てみますと、下の図です。

         消費者物価指数3指数対前年変化率(%、資料:上と同じ)

 

ご覧いただきますように、「総合」(青)と「生鮮を除く総合」(赤)2月に上がり、3,4月は下がりましたが5月また上がっています。

一方、「生鮮とエネを除く総合」(緑)は、昨秋以来一貫して下がっています。ご覧いただきますように、この緑の線は昨年には、青・赤に比べて上にずれています。それまでは低かったのですが昨年高くなったのはエネルギー料金には政府補助があったのですが、食料品・特に加工食品、調味料、飲料、日用雑貨などは一斉値上げがあって消費者物価指数を押し上げた結果です。

そして今、そうした値上げが一巡し、国内経済要因による消費者物価の上昇が沈静化の時期に来ているようです。

代わって円安の進行による石油関連や穀物など輸入資源の円建ての価格の上昇が消費者物価指数を押し上げる動きが指摘されています。 

マスコミは5月の消費者物価指数の上昇は2.5%といっていますが、多分、日銀の注目は緑の線の2.1%ではないかと思います。

前回も述べましたように、円安による物価上昇を止めるには「政策金利の引き上げ」が最も効果的なのです。

ならば、日銀が金融正常化に一歩を踏み出す時期がいよいよ迫ってきたという事ではないでしょうか。

政府は、またエネルギー関係の補助金延長をなどと選挙目当てのバラマキを言っていますが、日銀とよく相談して「金利引き上げ」という「一石」で、「円安是正」「消費者物価の安定」「金融正常化の一歩」という「三鳥」を狙ったらどうでしょうか。(PCが変わってグラフ一部不鮮明で済みません)


「金利水準と為替レート」が経済政策の手法に?

2024年06月21日 14時22分43秒 | 経済

1929年に始まった世界恐慌の際、イギリスのポンド切り下げから始まった為替切り下げ競争は、為替ダンピングとか近隣窮乏化政策とか言われ、恐慌をひどくしたといわれました。 

今は、為替レートは変動相場制ですから、その国の経済力が弱くなると、マーケットの力でその国の通貨は安くなり自動的に国際競争力を回復します。

固定相場制のとき1008円だった英ポンドは200円前後になり、360円だったドルは100円台になりました。

為替レートはマーケットによって決まるという事で、これが経済合理性だという事になっているようです。もちろん、マーケットが常に正しいとは言えませんから、いろいろ問題もありますが、この所もアメリカの財務長官、前FRB議長のイエレンさんが言っているように、為替介入はあまりやらないようにが原則です

ところでこのところ別の視点から為替レートに影響を与える要因が明らかになってきました。それは政策金利の影響です。

これはリーマンショックの時にFRBのバーナンキさんがとった政策で、世界金融恐慌を避けるためにFRBがゼロ金利政策をとった時からの問題のようです。この政策は成功だったといわれ、世界の大銀行などのB/Sに大穴は空きましたが、何とか収めることができたようです。

この時、金利の付かないドルは大きく売られ、日本円は120円から80円へと大幅な円高になり、日本経済は破綻状態に近づいています。

 この円高を救ったのはアメリカに倣った黒田日銀のゼロ金利を含み異次元金融緩和策でした。金利の付かない円は売られ円安($1=120円)が実現したのです。

その次に問題が起きたのは、2年ほど前の原油価格の高騰などで、アメリカが8%、ヨーロッパが10%といった急激なインフレになり、FRBが政策金利を大幅に引き上げ、ヨーロッパもそれに倣ったドル高円安の問題です。(ここではドル・円の数字だけ述べていますが、多くの国は同様な影響を受けることになります。)

その後、アメリカのインフレは3%台に収まりましたが、FRBのパウエル議長は2%インフレ目標達成までは高金利維持と頑張り、一方日銀は、消費者物価上昇が2%という目標に近づいたら金利引き上げを考えると慎重な姿勢です。

結果は、アメリカの高金利は当分続き、日本の利上げは当分なさそうとの見方のもとに円安はしつこく続き円レートは160円に近づいています。

日本としては、大幅な円安で輸出企業の円高差益は大きく、インバウンドは大盛況ですが、輸入物価の上昇で消費者物価部が上昇という心配が強まり、賃金上昇率の低さから実質賃金の低下傾向が続き、金利引き上げの金融引き締め政策などはとても取れないという状態です。

かつては円高で30年不況を経験した日本ですが、今は円安の進行で金融正常化が遅れるという困った状態にあるのです。

FRBのパウエル議長は、アメリカはインフレ抑制の経済政策をやっているので、ドル高は単にその結果で、為替の意識はないという意見のようですが、それでいいのでしょうか。このブログでのも示唆して来ましたが、今はドル高のほうが都合いいからという見方もあるようです。

基軸通貨国も金融政策をとるのは当然ですが、それが、基軸通貨国以外の国の為替レートに大きな影響を与えるという問題への対応の理論はないようです。

当面日本は、独自の事情から、その対策を、何とか考えて実行しなければならない立場です。しかし日銀は伝統的な金融理論で為替変動に対応しようとしていますが、おそらくアメリカの都合次第で、長い時間がかかるでしょう。

昔なら、日本の経営者、あるいは日本の労使が協力して、その対策に立ち上がったでしょう。今の経団連にも連合にもその気配はありません。

日銀はアメリカの政策変更を待ち、政府は次の選挙の金の工面ばかり。労使は沈黙、これでは、かつてのように,世界経済が荒れる中で「ジャパンアズナンバーワン」にはとてもなれそうにないですね。


「人本主義経営」のほうが健全なのでは

2024年06月18日 16時43分14秒 | 経済

このブログでは経済活動の主人公は人間で、人間が資本を使って付加価値を作るのが経済活動だと言ってきています。

人間がいなければ経済もないわけです。人間がもっといい暮らしをしようと考えていろいろと活動するのが経済活動です。

経済活動をしている中で、資本という概念も 生れて来たのです。資本は、昔は自然環境だけだったのでしょう。土地がなければ作物は育ちませんから、最も基本的な資本は土地でしょう。水がなければいけませんということで川のあるところが良いわけで、さらに日の当たるところが作物はよく育つので日照時間の長い所がいいといったことだったのでしょう。そういうところに人は住みついています。

貨幣経済になると、そうした自然資本もすべて金額に換算され、地価などの形で決まってきます。そして資本の概念はどんどん進んで、お金そのものを持っていれば、良い資本が手に入るので、お金は現物資本に代わって、資本といえばお金という事になったのでしょう。

ということでお金さえあればですからお金が大事となり、だんだん人間がお金に振り回されるようになりました。

こういうプロセスの中で資本主義という言葉も生まれてきたのですから、人間にとって資本が大事だからという意味だった資本主義が、何か経済の中心は人間でなくて資本だという具合に認識され、資本主義の主人公であった人間が見えなくなってきているように思われます。

「人本主義」という言葉を作ったのは、日本経済が順調だったころ、一橋大学教授(現名誉教授)だった伊丹敬之氏で、日本ではもともと企業活動で最も大事と考えられていたのは人間なのだから「人本主義」が正しいと指摘したわけです。

その伊丹さんが、最近『漂流する日本企業』という本を書かれ、日本経済が再生するには、人本主義に立ち帰るべきではないかと言っておられます。

論点の中では、付加価値分配の中で資本への分配が急増しているのは問題だとし、さらには将来に向けての投資が少なくなっている、最も大事なのは人間に対する投資と指摘し、かつて日本的経営が成功を収めた時期の経営を本格的に続けている企業として「キーエンス」の例を取り上げています。

経済活動の本来にかえれば、経済は人間社会を豊かにする活動で 、資本はその手段として必要なものという位置づけでしょう。

金そのものは紙であったり通帳の印字であったり、デジタルに記録された数字であったりで、生産に役立つ物江はありません。その数字をいくら増やしてみても生産は増えません。

そうした数字をいくら増やしてみても社会は豊かにはにりません。それが現物の資本、資本財となり、現物の設備投資になって、それを使う人間の頭脳の中の知識、経験、理論によって実体化されて、人間が実際に生産活動を行って初めて社会は豊かになるのです。

それを経験、知識、知恵を使って動かすのはすべて人間です。すべては人間が「あるじ」であっての資本主義、本当は人本主義なのでしょう。

それにたいして、資本の概念が主人公のように思われた時、単なる記号である数字数字が資本の名のもとに華やかな世界を作るマネー資本主義が盛んになったとき、社会は本来位の意味で豊かになることを休止するということになるのでしょう。


日本銀行、慎重に金融正常化に動く

2024年06月15日 15時43分14秒 | 経済

今回の政策決定会合で日銀はいよいよ金融正常化に向けて動くサインを明確に出したという事でしょうか。具体的行動は7月です。

国債買い入れの減額、日銀のB/S圧縮を言いつつも具体的な措置が遅れる様子という事で、国際投機筋は、動き出すまで円安を仕掛けてビジネスチャンスを作るという狙いでしょうか円安は158円まで進んだりしています。

借金まみれの政府が金融正常化の進行を恐れるのは当然でしょう。しかし金融正常化は日本経済にとって必須なのです。

黒田日銀が政府の意向を受けてか一貫して異次元緩和策を取り続けた後を受けて、金融正常化を目指す植田日銀ですが、政府の意向を受けてでしょうか動きは慎重です。

しかし日銀には日銀の役割があります。経済学者の植田総裁は、何とか金融正常化を果さなければならないとの使命を負っていうのでしょう。

今の状態というのは、当面の円安が消費者物価の上昇を齎し、実質賃金の赤字が継続する事を恐れながら、本格的な金融正常化(引締め)で円高になる事の恐ろしさとの間で、日銀に「何とか巧い政策を」と頼むのが政府の立場、何とか応えようと、国債買い入れ減額にも気を使って柔軟性を持たせ、不用意に円高を招かない微妙な政策を強いられる日銀、その間で短期のキャピタルゲインを狙う投機筋、消費者物価の上昇に敏感な消費者などがそれぞれに入り乱れた意識で行動しているという事でしょうか。

そして現実にやっている事は、政府は経済政策についての定見も定かでなく、支持率の低下を心配、更には次の選挙を如何に裏金で戦うかという政治資金(実は選挙資金)問題に躍起、国民は賃上げ促進と消費者物価の安定を望み、国際投機筋は常にキャピタルゲインのチャンスに虎視眈々なのでしょう。

日本経済、国民生活にとって、誤りなく、本気で真面目に取り組んでほしいという国民の願いに取っては、まさに日銀だけが頼りといった事になっているようです。ここは本当に、日銀に頑張ってもらわなければなりません。

林官房長官は、日銀の決定について「決定内容の詳細などについてコメントは控えるが、日銀には、引き続き政府との密接な連携のもと、経済、物価、金融情勢を踏まえつつ、適切に金融政策運営が行われることを期待している。」と言っているそうですが、「適切」とは「政府と密接な連携の下」という事なのでしょうか。

植田日銀の、慎重すぎるほどのきめ細かい、国債買い入れ、長期金利、短期金利の調整、本格的利上げの時期などについての戦略の在り方と。政府が国会でやっている政治資金規制法改正案の中身の粗雑、杜撰さと比べると、政府の政策と、日銀の政策ではこんなに開きがあってもいい物なのだろうかとの念が強まります。

今の政府は、日本経済・社会の問題よりも、何としてでも政権の座にしがみついていたいという自分や自分たちの都合の方が、何よりも優先すべきものという意識がギラギラして見えるというのが、世論調査に見る、内閣支持率の数字なのではないでしょうか。

それだけに、日銀に対して、金融政策の正常な機能を国民経済の正常化・健全化のために着実に活用するという中央銀行の役割を、国民のために思い切って貫いて頂きたいと願うところです。


為替の変動は誰のせいですか?

2024年06月13日 11時30分51秒 | 経済

かつて日本は円高で大変苦労しました。プラザ合意で240円の円レートが120円になり、リーマンショックで80円になり、日本経済は潰れそうになりました。

円高の時は、日本経済はずっとデフレでした。デフレの恐ろしさは、日本人は身に染みて知っています。

今、日本は円安で困っています。円安になると輸出が増え、インバウンドも増えて日本経済には良い事が沢山あります。

しかし一方で輸入物価が上がって、日本は資源輸入国ですから輸入物価が上がると食料品や日用品を中心に物価が上がります。インフレです。輸出企業は儲かっても、一般国民は消費者物価が上がると生活が苦しくなります。

下の図は、輸入物価と輸出物価について契約通貨建てと円建ての過去1年間の動きをグラフにしたものです。

      輸入物価指数の推移(2023年4月=1.000)

 輸出物価の推移(2023年4月=1.000)

           (原資料:日本銀行)

契約通貨建て(赤い線)はドルが中心でしょう。物価水準はあまり変わっていません。円建て(青い線)は円建てですから円安で大幅に上がっています。輸出物価の上昇は円高差益を生みますから大歓迎ですが、輸入物価の上昇は少し時間差を置いて消費者物価を押し上げ家計を直撃します。

賃金が多少上がっても、物価が追い越していてきます。政府は、「物価上昇以上の賃上げ」と言っていますから消費者物価が上がると大変です。

その結果、「日銀に円安を止めるような金融政策取るべきだ」と注文し、財務省は円安になるようにドルを売って円を買う為替介入をしました。

アメリカのイエレン財務長官は、「為替介入は余りすべきでない」と言いました。

頼まれた日銀は大変困っているのではないでしょうか。確かに、日銀が政策金利を引き上げれば忽ち円高になるでしょう。

円高になれば、消費者物価は安定するかもしれませんが、輸出部門の円安差益は円高差損になり、インバウンドも減るかもしれません。日本経済には全体としてはマイナスの影響が大きいでしょう。

金利が引き上げられたら、政府は国債にまともな利息を付けなければなりません。本気で利息を付けますか?

ところで、何故、こんなことになるのでしょうか。

理由は殆どがアメリカの経済・金融政策のせいなのです。プラザ合意で円高になったのはアメリカが自国の経済防衛のために日本に円高容認を要請したからです。リーマンショックの円高はアメリカが金融恐慌防止のためにゼロ金利政策を取ったからです。

2013・14年には日本がアメリカを真似てゼロ金利、異次元金融緩和政策を取って円安を実現しました。アメリカは沈黙でした。

今回の円安は、アメリカが自国のインフレを防止するために政策金利を大幅に引き上げ、なかなか下げないからです。

すべてアメリカの都合ですから、日本が巧く対応できないのは当然ですが、日本の経済政策の主体は政府です。日銀はあくまでも金融面で政府の経済政策が円滑にいくように手助けをするのが役割で、もともと金融というのは実体経済の潤滑油なのです。

政府が、プラザ合意以来の経済政策の失敗(第一は巨大な赤字)を繰り返しながら、その尻を日銀に持っていくのは少しみっともないようです。


<月曜随想>「市場原理」と「バネ」はよく似ている(続)

2024年06月10日 15時37分11秒 | 経済

先週の月曜日にバネには「弾性の限界」があって、バネの伸縮力が正常に保たれる範囲で伸び縮みしているうちは伸ばしても復元するのですが、限界以上の力が掛ってしまうと構成する元素の相互関係が歪んでしまうのでしょうか元に戻らなくなってしまします。

竹ひごや板バネの場合でも曲がってしまったり、極端な力が掛れば折れてしまいます。ここまでが限度、「破断界」などという言葉もありますが、大変危険なことです。

戦争などはあらゆるものが破断界を越えて社会が崩壊してしまうのですが、平時でも、経済に外部から異常な力が加わると、経済システムが巧く機能しなくなってしまう事があるわけで、日本も最近そんな経験をしたように思います。

それはリーマンショックです。ご記憶の様にプラザ合意で円レートは240円から120円の円高になりました。これで日本経済は折れてしまうかと思われましたが、バブル崩壊という困難も乗り越えて、2000年前後には、日本経済は復元に向かっています。

徹底したコストダウンをやり2002年からは「好況感なき上昇」という時期に入り日本経済というばねの強さを見せています。

しかし、ようやく新規学卒市場が「売手市場」に転換した2007の直後3008年にりーマンショックが起き、アメリカのゼロ金利政策で、円レートは80円~75円にまで円高になりました。

これは日本経済の「弾性の限界」を超えたのでしょう。経済を支える企業活動が復元の意欲を失ったようでした。当時、このままでは日本経済は潰れるという意見さえ出ました。

幸いにして2013・14年の黒田日銀の、アメリカに倣ったゼロ金利、異次元金融緩和政策で円レートは120円に戻り(伸びてしまったバネを新しいバネに取り換えた)、回復の緒に就きました。

但し、バネなら新品に変えれば伸びる前と同じですが、人間の場合はトラウマがあって(賃金を上げると危険というトラウマ)今年になって漸く少し直ってきたようです。

もう一つ、最近の例で、正確に重量を図れるバネ秤を持っていながら、それを正確に使わないという政策の例です。

消費者物価統計というのは大変重要な統計です。今、日銀も消費者物価の行方は最重要な指標として見守っています。この統計を政府は小さな親切心からでしょうか、正確に読み取ろうとせず、載せるものを手加減したりして、正確な読み取りをせず、その方が皆さんのためだといっているような気がっしています。

消費者物価は経済の体温のようなもので熱が出ると安静にした方がいいといわれます。欧米では今消費者物価が上がって、経済が過熱気味だから熱を冷ますために金利を引き上げて抑制型の経済政策を取っています。

幸い日本は、労使関係が欧米より慎重ですから、同じ条件でもあまり消費者物価は上がりません。欧米8~10%、日本3~4%ですから大分違いますが、政府はなるべくこの数字を低くしたようです。

低くするために、関係の企業に補助金を出してその分値段を安くさせるのです。

バネ秤の皿の下にそっと指を挟んで針の動きを止めるようなものです。本当の数値を見せないという操作が、電気・ガス料金、ガソリンの価格などで見られる政策です。

安ければ気兼ねなく使いますが、日本経済としては高いから節約しましょうというサインとして物価が上がるというのが市場原理ですから、今のエネルギー政策などは市場原理を阻害するような政策で、自由主義経済の本来の在り方に反するもので、正確に動くはずのバネ(価格機構)には申し訳ない政策で市場原理に盾突いているという事ではないでしょうか。


続いてほしい平均消費性向の上昇

2024年06月07日 13時54分20秒 | 経済

賃上げが30年ぶりの大幅になったとマスコミが書いた今春闘の中で、年度が替わり大企業中心に4月から新賃金になった年度初めの月、2024年4月の家計調査の「家計収支編」が今朝発表になりました。

ネットでは2人以上世帯の消費支出が前年4月比で実質0.5%増という見出しが多いようですが、今年に入って1~3月は前年同月で、実質-6.3%、-0.5%、-1.2%と物価上昇もあってマイナス続きでしたから、やっと少し様子が変わるかなという所です。傾向的には昨年3月から続いた物価高で落ち込んだ実質消費支出のマイナスが、今年1月の大幅低下の後、少し回復気味になり、4月から水面上に顔を出したといった感じです。

春闘の結果についても、最近は中小の賃上げは難しいという見方もあり先行きが心配されていますが、いずれにしても消費不況は、物価を下げ消費を増やさないと解決しないのですから、賃上げと物価安定と同時に平均消費性向の向上が必要です。

という事で2人以上勤労者世帯について見ますと、勤労者所帯の実質実収入は昨年12月を底に対前年同月比マイナスながら回復基調で、まだ水面下ですが、水面(0%)に近づきつつあるようです。

但し、勤労者世帯の収入の内訳を見ますと、実質実収入はマイナス0.6%(名目は2.3%増)で、世帯主収入はマイナス0.3%で16カ月連続、増えているのは配偶者収入で実質6.0%の対前年増(3か月連続増)で家計を助けているようです。

その結果かどうかは解りませんが、下の図のように4月の平均消費性向は前年同月の73.9%から76.2%に2.3ポイントの上昇です。

      平均消費性向の推移(%、総務省「家計調査」)

これは吉報で、図のように このところ3か月続いての対前年同月上昇ですから、家計の空気が少し変わって来ているのかなという感じもします。

これが傾向的なものか一時的な現象かはまだ読み切れませんが、傾向的なものとなるのには、中小の賃上げや物価の沈静傾向の継続が必要でしょう。

電力・ガス料金のための補助金の打ち切りなど、問題はいろいろありますが、ヨーロッパの金利低下といった動きも報道されています。

アメリカFRB、そして日銀の動きはまだ解りませんが、そうした動きがプラスとですかマイナスと出るかも含めて、為替レートが動けばその影響も出るでしょう。

そうした外的要因とは別に、日本の家計が、今後も貯蓄志向を維持するのか、それとも、貯蓄志向だけでは楽しくないという意識の変化も生まれるのか、長かった日本経済低迷の時代からの脱出がどんな形で実現されていくのか(いかないのか)もう少し見ていていきたいと思っています。