tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

日本経済はこれでいいのか

2024年08月13日 17時31分29秒 | 経済

日銀の政策金利の0.25%への引き上げが、マネーゲーマーたちの憶測から憶測を呼び、日本のマネー・サプライが日本発のマネー・サプライズを引き起こすことになったようですが、やっと何とか落ち着いてきました。

コストの安い日本のマネーを調達してリターンのいい外国で運用するという通称キャリー・トレードが、あまりにも広く行われていたのですが、その規模は把握されていなかったようです。

0.25%というのは、相変わらず世界最低の資金調達コストでないかと思いますが、それが更に高くなり、しかも金利の引き上げは円高につながりますから、調達金利コストが上がって、しかも返済の時には円高だという事になっては、レバレッジを効かせた信用取引は大変なことになるでしょう。

日銀が、日本経済の事情もありますから、そんなに急に金利引き上げなどしませんよといっただけで、状態は元に戻りつつあります。

この間、テレビには「専門家」ということで「ストラテジスト」とか「アナリスト」とか「トレーダー」などという難しい名前の方々が登場し、いろいろと解説をされましたが、ほとんどが金利やお金の流れの話で、実態経済とは関係のないことばかりでした。

やっぱり、経済と金融というのは、関係はあっても全く違う分野になってしまっていて、金融の分野の人たちは、お金の流れを読む達人で、お金がうまく自分のところに流れて来るように考えることが仕事なのだなという思いを強くしました。

これは本来の経済活動ではないですね。経済というのは「経世済民」の略で、世の中の動きをマネジメントして、人々の暮らしが豊かになるようにする」という事ですから「付加価値」つまり人々の生活に役立つ財やサービスの生産を増やすことが基本です。

マネーゲーマーのやっていることは、「経済活動」で増えた付加価値を買うことが出来るお金をいかに自分の所に沢山来るように、お金の流れをうまく利用する方法を考えるということになるのでしょう。

ところが今は政府から始まって、経済問題といえば、どうすればお金がたくさん入って来るかということが「経済問題」の主要な課題で、付加価値(GDP)は年1%でも増えればそれで良いというような事になっているようです。

日銀のおかげ様か、時間が解決したあのか、その両方なのか、それはよく解りませんが、マネーの世界の混乱も一応落ち着いてきたようです。

然し、「ああこれで良かった」ではないはずです。6月にはボーナスが増えたお蔭で、実質賃金がプラスになりました、しかし7月以降はまたマイナスになるという見方も多いようです。これはマネーゲームでは解決しません。

GDPは、実体経済が順調に動かなければ増えないのです。そのために、いま日本は何をしなければならないのか、政府が国民から借金をして定額減税や補助金といったバラマキをやっても効果のないことは経験済みです。

混乱が静まったところで、裏金のマネーゲームではない、本当の経済政策を政府も考え、労使も33年ぶりの高い賃上げ率だと満足せずに、もっともっと頭を使い、汗をかく事が必要なのではないでしょうか。


春闘賃上げ率・賃金水準上昇率と日本経済

2024年08月09日 14時38分27秒 | 経済

日銀の政策金利引き上げでマネーゲーマーたちはそれぞれの反応を見せ、円レートも、日経平均も予想以上の乱高下です。やっと、昨日、今日になって何とか落ち着いてきたようですが、迷惑なものです。

日銀の植田総裁も、マネーゲーマーに掻き回されないように慎重に発言されていましたが、次の利上げにも触れたことで「日銀タカ派に」などと書かれ、副総裁が出て打ち消すことでバランスを取ったようです。経緯は解りませんが、絶妙のコンビネーションプレーかもしれません。

9月にアメリカのFRBが金利引き下げをするかは解りませんが、アメリカにはアメリカの事情があるでしょうから、マネーゲームはアメリカに任せて、日本のやるべきことは、民間の消費需要を健全に拡大させて、日本経済自体の成長経済への回復に注力することでしょう。

という事で、もう一度、消費需要の源泉である賃金の動きについて、ここ数年の数字を見てみました。

      資料:厚労省資料、春闘、毎勤統計

春闘賃上げ率は、企業のそれぞれの従業員の所定内賃金が4月にどれだけ上がるかという数字の平均ですから定期昇給も入っています。平均賃金は、賃金の高い人が定年で辞めて、賃金の安い新入社員が入ってきた結果の平均賃金水準ですから定期昇給分は通常相殺されてしまいます。

という事で春闘賃上げ率に比べると、平均賃金(毎月勤労統計の名目賃金指数)の上昇率は低くなります。もちろん消費需要の水準に影響するのは平均賃金の方ですから、民間消費水準との関係では此方が重要です。

上図で見ますと、所定内賃金の上昇は、春闘賃上げ率の半分程度です、ただし、所定内賃金のほかに、残業代も在りますし、ボーナスもあります。

今年の6月に25か月続いた実質賃金の低下がストップしたのは、ボーナスが大幅に伸びたからでした。

もう一つ、重要な資料があります。家計調査です。このところ家計調査の2人以上勤労者世帯の家計収入はずっと毎月勤労統計の賃金指数の上昇率を下回っていましたが、この5月、6月と大幅上昇に転換しているのです。

6月で見ますと、対前年比で、世帯全体の実収入6.5%世帯主定期収入6.2%、配偶者収入9.8%といった増加です。(家計調査は小・零細企業従業員も含みます)

毎月勤労統計と家計調査の平均賃金上昇率の逆転の理由は不明ですが、賃金の分布構造などに何か変化があるような気もしないでもありません。

上のグラフに見るように春闘賃上げ率とともに平均賃金が高まり、それが家計消費に反映されれば(これはまだ確認されませんが)日本経済の姿も多少は変わって来るのではないかと考えられます。

こうした動きは円レートや日経平均といったマネーの世界とは違う実体経済(本当の経済)の動きです。実体経済が確りすれば、マネー経済はいずれそれにサヤ寄せするのです。

日本の実体経済の変化は上のグラフの上昇率が順調に伸びていくことから始まるのではないかと思っています。


実質賃金連続低下25か月でストップ

2024年08月07日 14時49分51秒 | 経済

昨日、厚生労働省から2024年6月の毎月勤労統計が発表になりました。

マスコミを賑わせた25か月連続の、実質賃金の対前年度月比低下のあと、26か月はあるかという事でしたが、26か月には成らなかったという事になりました。

今年の春闘賃上げ率は5%を超え33年ぶりの大幅賃上げといわれました。その成果は如何にと注目を集めたところですが、現実は今後に問題を残しながら、一応、2024年5月をもって連続低下の記録は終わり、26か月にはならなかったという事に

なりました。

数字を見ますと

毎月勤労統計の2024年6月の賃金指数の対前年同月上昇率は

・賃金給与総額      4.5%

・決まって支給する給与  2.3%

・特別に支払われた給与  7.6%

という事になっています。

消費者物価指数は、「総合」が2.8%の上昇、「持ち家の帰属家賃と除く総合」(注)が3.3%の上昇です。 

このブログでは、7月12日の「実質賃金の上昇に必要な条件は?」で見てきましたように実質賃金は「現金給与総額」を取り、消費者物価指数は「総合」を使っていますので、それに従えば

・4.5%-2.8=1.7%(正確には1.045/1.033≒1.0165)という事で実質賃金は1.7%上昇したことになります。

一方、決まって支給する給与(所定内賃金+残業代等)で見ますと

・2.3%-2.8%=-0.5%(同1.023/1.028≒0.995)という事で0.5%のマイナスという事になります。

結局、6月はボーナス月で、ボーナスが7.6%も伸びたのでボーナスの入っている現金給与総額で見ればマイナス脱出という事です。

ボーナスは年2回です。これまでも6月と12月はボーナス月でしたがボーナスの伸びがそれほど大きくなかったので総額人件費で見てもマイナスでしたが今回はプラスになったという事です。これで実質賃金低下の連続記録は25か月で終わりました。

それでは「良かったですね」と言えるかといいますと、そうはいかないだろうという可能性が大きいのです。6月もボーナスを別にすれば0.5%のマイナスでした。7月からはボーナスがない月になります。それでもプラス維持のためには、賃金が上がるか消費者物価の上昇率が下がるかですが、その可能性はそれほど大きくありません。

結論を言えば、やはりもう少し(2~3%)高い賃上げが必要だったということのようです。(連合と経団連で相談してほしいですねぇ・・・)

 

(注)「持ち家の帰属家賃と除く総合」:消費者物価指数は、自宅に住んでいる人もその家を借りていて家賃を払っていると仮定した場合の家賃も含んで計算しています。「持ち家の帰属家賃と除く総合」では、実生活では払っていないその仮定の分は除いた方が現実の支出と動きを反映するという考え方で計算したものです。

こちらを使って実質賃金の計算をしているケースもありますが、結果はもう少し厳しくなります。


2024年6月平均消費性向の低下をどう見る

2024年08月06日 13時38分29秒 | 経済

今日は広島の原爆忌です。平和公園の石に刻まれた「過ちは繰り返しませんから」という約束はまだ果たされていません。

2024年6月分の家計調査が今日発表になりました。2人以上の勤労者世帯の平均消費性向を見ました。昨年6月の41.1%から、36.9%へと4.2ポイントの大幅低下です。

このブログでは、日本経済の不振の最大の原因は、個人消費の不振にあるのだから、まずは消費性向を上げて消費を増やし景気を良くすれば、賃上げも活気づいて個人消費の活発化による景気の回復に役立つという視点から、消費性性向を上げようと言ってきました。

家計調査の平均消費性向を見ますと2022年は割合高い月が続き、2022年の経済成長率は実質1.5%でまずますでしたが23年、24年と1%を切るか切らないかといった事になりそうです。

一方、昨年からは賃金を上げなければ消費は増えないという意見が強くなって今年の賃上げは33年ぶりの高さになりました。

これで消費が増えるだろうと見ていましたが、賃金が上がった今年の5月、6月と今度は平均消費性向が下がっているのです。

平均消費性向の推移(二人以上勤労者世帯、%)

                 資料:総務省「家計調査」  

折角賃金が増えても、消費性向が低くなったのでは消費は増えません。一体どうなっているのだろうかというのが当面する問題です。

二人以上全世帯の消費支出の動向を実質対前年同月増加率で見ますと2022は前年より3%前後高い月が多く23年は前年より2%ほど低い月が多く、今年に入ってゼロ近傍に浮上です。これではあまり景気押上げ要因にはなりません。

しかしその中の勤労者世帯だけを見ますと5月、6月と名目では6%前後、消費者物価上昇を除いた実収入で5月3.0%、6月3.1%の上昇です。

6月の家計収入の中身を見ますと名目では世帯主収入はボーナスの増加もあり7%増、配偶者の収入が9.8%増で、平均消費性向の計算の分母になる可処分所得は名目で12.1%、実質で8.5%も増えています。 

所が消費支出の伸びは名目でわずか0.6%(実質では2.6%のマイナス)です。その結果の平均消費性向の低下なのです。

今年の春闘の賃上げ率が5%を超えたといっても平均賃金の上昇は2~3%でしょう。個人の賃金と、家計の収入は違いますが、勤労者世帯で見る限り、5月以降の収入の増加は顕著です、その割に、消費支出を増やしていないというのは、この世帯収入の増加が今後も安定して続くか見通しが難しいという事でしょうか。

ならば、企業に要請されるのは、従業員に雇用の安定、賃金上昇の継続といった安心感を持たせることでしょう。労働組合のナショナルセンターである連合の役割も大きいでしょう。

折しも株の暴落が起きましたが、日本の実体経済は、労使が頑張ればこれからはよくなるという環境の中にあるといえるでしょう。

家計収入の安定した増加が続き、家計が安心して消費に向かうという状態で、平均消費性向が上昇してきたとき、日本経済は長く続いた消費不況から本当に脱出という事になるのでしょう。


決断の日銀、逡巡のFRB、日本の選択は?

2024年08月01日 13時46分51秒 | 経済

このところ日米の金利問題ばかり書いていますが、日米として、いずれやらなければならに問題についての今後を考えれば、整理しておかなければならない事だと考えているからです。   

いずれ踏み切らなければならない異次元緩和からの明確な脱出に日銀は舵を切りました。

FRBは、ヨーロッパの動きを横目に政策金利の引き下げには動きませんでした。しかしパウエル議長の発言では、9月の利下げを示唆することは忘れず、アメリカのマネーマーケットでは、まずは株価上昇、そして日米金利差の縮小を予測する円高方向への動きにつながったようです。

世界のマネー・ゲーマーたちはこれをビジネスチャンスに生かそうと手ぐすね引いて待っていたのでしょう。

その中で日銀は、今回、思い切って「まだ」を「もう」にしたようです。もちろんすでに0.1%を許容していた短期金利を0.25%に引き上げたという、いわば瀬踏み的なもので,実体経済に格別に大きな対応を強いるようなものではありません。

植田総裁の記者会見でも、そのあたりの配慮は十分に読み取れるところでしょう。それでも結果は円レート149円台、日経平均は今朝から1000円を越える大巾下げです。

マネーマーケットは、その習性から値幅の動きを大きくしビジネスチャンスの拡大を狙うのですが、それに引き換え、実体経済の動きは、これからの方向感覚が見え、新たな動きの芽が出始めるかどうかにかかっています。

日本では、これまで円安が進んで消費者物価が上がり、実質賃金の低下が続くと心配されていました。149円台という円高がどこで落ち着くかにもよりますが、その円高で消費者物価の上昇が縮小、実質賃金の下落が止まるかどうか、それが消費需要の拡大、経済成長の加速するという連鎖が望まれるところです。

植田総裁は、日銀の持つ多様な資料の分析では、その方向に進むことが見えてきているといった説明をされましたが、多分まだ時間がかかるでしょう。

その前に政府のエネルギー関連の補助金で人為的に引き下げられる公共料金の消費者物価指数引下げへの反映(一時的なもの)が先に現れてきそうです。

量的緩和の是正、日銀のB/S調整、国債買い入れの減額も、2年先に半減でしょうか、実体経済に過度な影響を与えないように配慮する姿勢は十分理解できるところです。

その意味で、方向は明確に、改革は穏やかにという金融政策に望まれるところへの慎重な配慮にはさすがと思われるものがあります。

今日の株価暴落をもたらした円高にしても、「日銀短観」の調査企業の平均では年度下半期の円レートは141円と予測され、現実に今回の円安が始まる前の円レートは109円だったと記憶します。マネーゲームに翻弄されない経営が必要です。

最後の一つ言いたいのは、金融の役割は重要ですが、金融に出来ない事もあるという事です。生産活動そのものもそうですが、賃金決定もそうなのです。

金融政策で賃上げし易い環境を作ることはできますが、賃上げをすることは出来ません。

日銀が金融の正常化に踏み出した今、賃金決定の正常化に向かって、「日本の労使」が動きだすことが、日本経済の残された課題になってきたようです。


交錯する日米金利水準の動き:結果は?

2024年07月31日 13時45分46秒 | 経済

EUの中央銀行ECBが政策金利を0.25%引き下げました。EUの消費者物価指数の上昇率はまだ2.7%ほどでアメリカのPCE(個人消費物価指数)の2.5%より高いですが踏み切りました。

アメリカは昨日と今日FOMC(金融決定会合)ですが、パウエル議長は利下げには言及するのですが、なかなか踏み切らない状態が続いています。

日本はと言いますと、これまで政策金利という基本政策には踏み切る様子はなく国債の買い入れ額を減らし長期金利の0.1%近傍の微調整で、極めてきめの細かい政策です。

ご承知のように、EUやアメリカの金利政策はインフレ退治のために高く引き上げた金利を、いつ引き下げるかという問題であるのに対し、日本の場合はアベノミクス以来のゼロ金利をいかに引き上げるかという問題で、方向は正反対です。

EUは経済情勢に素直に金利引き下げに入っていますが、アメリカは、早い時期から下げる下げると言いながらなかなか下げません。

理由は、インフレがまだ収まらないという事ですが、それはアメリカには2%インフレ目標というのがあって、厳密に2%を切らないと下げられないという事のようです。しかし最近、金利が高すぎて、住宅投資が進まないとか、金融引き締めで一部に不況の気配が出てきて、求人が減ったり、失業率が4.1%と高止まりといったこともあって、金利を下げないことを心配する意見もあるようです。

傍目に見れば早く下げて多少物価が上がっても、景気が良い方がいいのにといった感じですが、なかなか下げません。

勘ぐれば、アメリカ政府はドルが高い方がいいと考えているのかなという事です。今、アメリカは出費が多いようです。ウクライナ援助やフィリピン援助、それに日本に巨額の防衛装備品を売るなどといった場合、金利を下げてドル安になると、アメリカにとっては都合がよくないでしょう。強いドル。高いドルが必要な時に金利を下げてドル安にするのは不都合のように思います。

所で日本の場合を考えますと、日本は円安で困っています。円安だと輸入物価が上がって消費者物価も上がり、実質賃金が下がって政府は評判が悪くなるという事もあるでしょう。

しかし、金利を上げれば円高になって、国際競争力が低くなり稼ぎ頭の輸出産業や、盛り上がっているインバウンドにマイナスのの影響が出れば、日経平均は大幅に下落するでしょうし、そうなればこの春以来の株価上昇は逆転し、NISAたiDeCoの評価は下がり、円安による好況感は消滅し、政府にとっては具合が悪いことになるでしょう。

アメリカはドル高、強いドルは維持したい、しかし、金利を下げればドル安になってしまうという問題に直面しますし、金利を下げれば、景気はよくなるかもしれませんが、またインフレが再燃し、国際競争力が落ちて、万年赤字がまた膨らむといった困った問題を抱えているようです。

日本は、政策金利の引き上げは経済正常化のために必要ですが、そうすれば物価は下がるかもしれませんが、輸出産業の利益はかなり減るでしょう、株価は円高ショックで大暴落の可能性も出てきます。インバウンドの盛況も影響を受けそうです。

本来、金利の引き上げは、景気を抑制するための政策ですから、この経済不振の中でやるべきなのかという意見もあるでしょう。

一方円高になれば、国際的な日本の地位は上がるでしょう。世界2位返り咲くかもしれません。またアメリカの防衛装備品も安く買えるかもしれません。

という事で、これから、日本とアメリカはどんな金利政策をとるのでしょうか。日本経済も、我々の生活もそれに振り回されるのでしょうか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

PS 日銀が政策金利を0.25%程度に引き上げるというニュースが入ってきました。3時半から記者会見だそうです。楽しみです。


要注目!経済政策に統計の果たす役割

2024年07月30日 14時26分14秒 | 経済

このブログではよく統計を使います。理由は、統計を使うと、現状の把握が数字で出来ますから具体的で、解り易くなるからです。

例えば、2023年のアメリカの実質経済成長率が2.5%で、日本の2023年度は1.6%だったといえば、日本に比べてアメリカの経済成長率がどのくらい高いかという事、その違いがはっきりと理解できます。

もちろん、統計というのは、そうした明確な説得力がありますから、使い方には十分注意しなければなりません。

統計で比較するのはクロスセクション(横断比較)とタイムシリーズ(時系列)の場合が多いことはご承知の通りです。

どちらの場合でも、条件を同じにして比較しないと正確な比較はできません。日米の経済成長率の計算の仕方はSNAという国際方式で 揃っているので比較が出来るのです。 

企業で、対前期比売上と利益が何%伸びたという数字でも、計算方法が同じでないと正確な比較はできません。

余計なことを書きましたが、最近注目されているのは、日本では25か月連続で、対前年同月の実質賃金がマイナスだということで、そんなひどい経済状態を続けている政府に対しては強烈な批判があり、内閣支持率の低下の大きな要因でしょう。

実質賃金がマイナスになる計算には消費者物価指数という統計を使います。これは政府(総務省)が責任をもって、国内の消費者物価を総合してその動きを正確に数字にしているものですから、消費者はこれが上がると心配します。

一方、政府の方はこの指数が年2%ぐらい上がるのが一番良い経済状態だと考えていて、この所でもまだ2%まで下がっていないから経済政策をどう舵取りするか、値上がりしている輸入エネルギーが各家庭の台所まで響かないように石油元売り会社や電力・ガス会社に補助金を出そうとか、いろいろ政策を考えます。

金融政策を担当する日本銀行は、消費者物価指数の上昇がが基本的に2%を割り込んできたら金融政策を変更しようと考えて、日本銀行自身が調べている輸入物価や企業物価も併せて検討しながら、金融緩和修正のタイミングを計っているのです。

統計というのは、まさに、国民生活に密着したものになっていて、日本の経済政策の基礎をなしているのです。

そしてさらに大事なことは、統計数字というのは、消費者物価指数でも賃金指数でも、経済成長率でも、一目見れば、その変化がいい方に行っているのか、悪い方に行っているのか、国民の一人一人にはっきり解るという事です。

ですから、こうした統計の効用、威力を利用して、日本の経済社会が悪くなっているのか良くなっているのかを国民に解り易くすることで、政府の政策をより良いものにすることも出来るはずです。

そうした意味で大変重要な統計があります。それは「ジニ係数」という統計です

これはなにを表す統計課といいますと、所得格差が大きいか小さいかを示す統計です。残念ながら一般的ではありません(一般的にすると政府が困る?)。

トマ・ピケティが、所得格差の拡大という問題を取り上げ(『21世紀の資本論』)世界的な反響を呼びましたが、格差社会化は現代社会の大きな問題でしょう。

ならば日本は、消費者物価指数と同じように、常に政府が「ジニ係数」を発表するようにし、日本の格差社会化に常に注意して、格差社会化を防止するように考えたらいかがでしょうか。

幸い、日本には「家計調査」という優れた統計があります。これをベースにして、日本が格差社会化しているかどうかを一目で明らかにする数字が常に国民の目に触れるようにする事は可能でしょう。

多分それは、結果的に、政府の経済政策についての厳しい国民の目を育てることに役立つのではないでしょうか。


日銀の政策に大いに期待します

2024年07月29日 10時35分20秒 | 経済

前回は、冷徹な川柳子の投句を引き合いに、円安の異常な進行に抗った財務省の為替介入を覚めた目で見ている人がいますよという事を書きました。

財務省は国際投機資本のやることが良くないと言いたいのでしょうか、それに抗って、国際的に評判の悪い為替介入をやるようでは、日本政府の経済政策というのははその程度かと思われたのかもしれません。

考えてみれば、日本の一人当たり国民所得が世界のベストテンの常連から40位近くにまで落ちてしまったことへの責任感など微塵もなく、未だに裏金を確保して何とか政権を維持しようとしている自民党政権です。

その政府に何かを期待しようと考えるのは、日本の中の特定の一部の人達という事になってしまっているという現実に、やはり早めに気づかなければ、日本は救われないでしょう。

野党も、言われていますように「俺が、俺が」で、中々頼りになりそうな組織を協力して作るといった努力を好まない人たちのようで、社会には、やり場のない不満が鬱積し、何か日本人の伝統文化になじまない、自分勝手な行動が増えているように感じられます。

何かやろうにも、選挙でも、生活行動でも、どうせダメだろうという閉塞感が強い状態から早く脱出したいというのが、大多数の国民の願いではないでしょうか。

そんな中で当面、国民が望んでいるのは、経済状態がもう少し良くなれば、それなりに安心感が得られるといった経済的な改善への希望でしょう。経済的な安心感は、人のころを多少安らかに出来るものだとはよく言われます。

こうした安心感は、今の政府の補助金を出します、一時金を支給しますでは効果がないのです。一時的な安心感で満足するほど日本人は愚かではありません。必要なことは日本経済を良くすることです。

例えば物価を下げること。これは為替介入で2円ほど円高にしてもダメです。円レートを150円、140円にすることです。日銀短観では企業は140円ほどまでの覚悟はあるようです。

そしてこれが出来るのは日銀だけです。やり方は難しいでしょうが、試行錯誤で試みることが重要です。

もう一つは、積極的な賃金の引き上げをやることです。昔なら経営者に頼むことも選択肢だったでしょう。しかし、今は多くの経営者は、株主の方を向いていますから、これは連合に頼むしかないでしょう。連合に向けた草の根活動、世論喚起が必要でしょう。10%程度の賃上げなら日本経済は十分耐えられるでしょう。

賃金の価格転嫁でインフレが多少進むでしょう。しかしアメリカやヨーロッパほどのインフレにはならないでしょう。その程度なら日本の国際競争力維持は可能でしょう。インフレ対策が必要なら、それは日銀に任せればいいのです。

「漫画・日本経済回復」みたいですが、欧米も、かつての日本も、こうしたことをやって、経済を成長させてきたのです。

これで政治も良くなってくれるといいのですが、それは解りません。


変動相場制の中でより合理的な為替政策を考える

2024年07月28日 21時12分45秒 | 経済

昨日の朝日川柳に

「ふと思う 何だったのか あの介入」というのがありました。

円安が160円台まで進み、さらに進めば日本では輸入インフレが加速して消費者物価上昇の可能性が高くなるなどなど、財務省は種々懸念したのでしょう。

もともと円レートが160円などというのは実体経済とはレベルの違う水準で、国際投機資本がマネーゲーム上の思惑の結果でしょうから、財務省としては「そんな勝手は許さん」という正義感(?)もあったのかもしれません。

結果は2円ほどの円高になり、マスコミでもタイミングの良い介入で明らかに効果があったといった評価が多かったようです。

しかし、介入の効果はせいぜい2~3日で、効果は長く続かいようで、アメリカではイエレン財務長官が、為替介入は多用すべき手段ではないと発言し、日本は為替操作こくといわれることになりました。

それから何日たったでしょうか、先週あたりから急に円高傾向が明らかになり、週末は153円台です。

この円高に驚いて日経平均は暴落という事になっています。

財務省が円安阻止のために、知恵を絞り、何兆円も使い、多大のコストと労力をかけて何日間か2円ほど円高にする努力をしたすぐ後から、アメリカ経済の様子が変わってき近く金利引き下げかという見方が背景が大きいといわれます。

さらに、日本も金利の正常化(引き上げ)の方向という見方もあるわけで、少し長期に見れば、円レートを取り巻く状況は円高傾向が強まる方向への変化の時期を迎えるという認識はどちらかというと一般的です。

冒頭の川柳を投稿された川柳子は、財務省の先見能力に疑義を呈したという事なのでしょう。

言われてみれば確かにその通りですが、それほど国際投機資本によるマネーゲームは予測が難しい世界だという事でもありましょう。

第二次大戦後、絶対的な経済力を持つアメリカは固定相場制を良しとしブレトンウッズ体制を作りましたが、1970年代に至り、国際収支赤字国に転落、窮余の策として変動相場制導入になったことはご承知の通りですが、その後為替の変動が、世界経済の不安定と、マネー資本主義の盛行を生んだことは明らかでしょう。

その中で特に日本は、変動相場制に対する対応に失敗することが多く、経済運営の失敗につながることが多いようです。

ならば、対応の下手な日本はどうしたらいいのかという事になるのです。

という事で考えてみますと、こんな事ではないでしょうか。

基本は、マネーゲームは短期視点、実態経済活動は中・長期視点だという事です。そして、為替レートは中・長期的には実体経済の状態に引き寄せられるのです。

マネーゲームで相場を作るような力はとても持てない日本ですから、出来れば少し長い目で物事を見て、あまり短期の損得や相場の行き過ぎた変動など気にしない事にするのがいいのではないでしょうか。

長期的視点をしっかり持って、確りした経済政策をとっていれば、一見稚拙のように見えて、それが最も賢いことなのではないでしょうか。


アメリカ4~6月GDPは実質2.8%(年率)の上昇に

2024年07月26日 17時25分38秒 | 経済

あまり大きな記事にはなっていませんが、アメリカの4-6月の実質GDP成長率は、2.0%という予想を上回り2.8%になったということです。

日本では今年度の政府経済見通しの実質GDP成長率は1.3となっていますが、そこまでは無理という状況になりそうで、今年度は0.4%、来年度は1.2%(日経新聞社)などと予想されています。

岸田さんの今後6年間の方針は1%以上という事で、アメリカの成長率にはとても及びません。

アメリカの4-6月(年率換算成長率)が高くなった要因は、GDPの7割を占める個人消費が2.3%増えたことが大きく効いているという事で、消費需要に牽引された高成長というのが明らかなようです。

アメリカはインフレが収まらない中で経済活動は活発で、設備投資も実質5.2%の伸びで前四半期の4.4を上回っているようです。

住宅投資は高金利でこのところ不振のようですが、民間消費と設備投資によって牽引されるというのは、いつの場合でも経済成長の促進に必須な条件です。

アメリカ経済は国際収支は万年赤字で財政と双子の赤字と言われ、決して経済全体としては健全ではないのですが、力強く成長する元気があるという事は、経済不振の日本から見れば、羨ましいことです。

日本は万年黒字の国で、借金より貯金が多いという経済全体といては誠に健全な国ですが、そのおカネを積極的に活用し、経済成長を実現するように使っていないのです。

主な使い道は、借金国アメリカの国債を世界で一番沢山持っていたり、国内の経済活動より海外の経済活動に使ったりですから結果は現状のようになっているのです。

何が違うのか、高い成長率を上げているアメリカと比較してみますと最も違うのは日本の消費需要の弱さです。

ではその原因は何かといいますと、これは単純で、賃金の上昇率が物価の上昇率より低いという事にあるようです。

このブログの「実質賃金の上昇に必要な条件は?」でグラフを出していますが、皆様疾うにご承知のように2022年の4月以来、今年5月まで25か月、賃金の上昇は物価の上昇を「下回って」います。実質賃金はっずっと前年より少なくないのです。

これでは実質消費支出を増やせとっても、家計は「無理です」と言うでしょう。そして、これを何か月、何年続けても消費支出が実質GDPを押し上げたり、言葉を換えれば、経済成長の牽引役になったりすることは不可能でしょう。

回答はただ一つ「もう少し賃金を上げたらいかがですか」という事になるのです。日本の企業は結構収益を上げ、自己資本比率も依然に比べればずいぶん高くなり、経営基盤も安定してきました。この春から夏にかけてはそれを評価されて、日経平均は大幅に上がりました。  

にもかかわらず、日本の労働組合は「もっと大幅な賃金の上昇が必要」という賃上げ要求をしません。「日本経済最大の不思議」はこれでしょう。

労働組合のナショナルセンターの連合は「今春闘の賃上げは5%を超え、33年ぶりの高水準と言いますが、毎月勤労統計では賃金水準の上昇は2%弱ほどで、消費者物価の上昇率は下がってきましたが、2%を超えています。6月の統計でも多分同様な状況でしょう。

先日最低賃金の事も取り上げました。中小企業では賃上げは無理という言葉が聞かれます。何故でしょう。価格を上げればいいのです。政府のそれを奨励しています。日本物価は訪日客が驚くほど安いのです。円安のせいだけではありません、賃金上昇率が低く日銀の目標の賃金インフレ2%にも届かないからです。

賃金も物価も上げましょう。国内要因だけならば、賃金上昇より物価上昇の方が高くなることはありまあせん。

賃金水準が今より高くなっても、日本経済が国際競争力を喪失し、経常収支赤字国に転落することは先ずないでしょう。

未だ賃上げの余裕は十分あります。その余裕をしっかり計測し、その余裕を賃金水準の上昇につぎ込むこと政労使が検討すべき経済政策でしょう。

それが出来れば、日本は消費不況から脱出し、消費が経済成長の主役になり、久方ぶりの成長経済に転換していくことになると思うところです。

思い切ってやってみませんか。


ハチの巣を処理しました(ご報告)

2024年07月23日 14時08分59秒 | 経済

7月9日にハチの巣のことを書きました

我が家によく巣を作る蜂は、あしながばちの仲間かと思いますが、小さなおとなしい蜂で、あまり危険を感じたことはありません。

しかし、夏休みに我が家に遊びに来る子供たちの家族、まだ小さい孫やひ孫たちが、ミニ菜園のミニトマトなどを採りたいといって、知らずにハチの巣に近づいて、もし刺されたりすると大変だから、早いうちに撤去した方がいいのではないですかと家内は言います。

「蜂はこちらが攻撃しないと襲ってこないよ」と言っても、「でも新聞などで、遠足の児童がスズメバチに刺されたなんて話もありますよ」などと言います。

「スズメバチに刺されたらそれは大変でしょう、ショック死もあるようだから。でもうちの蜂は小さい蜂で、もし刺されえてもそんなに痛くないよ」と言っても「相手は子供ですよ、あそこは怖いといって遊びに来なくなりますよ。」と駄目押しです。

やっぱり、何とかしなければならないかなと思うのですが、折角一生懸命蜂が巣を作って、卵を産み付け、蜂の子を育てようとしているのに、殺虫剤をシュッとひと吹きではそれこそ蜂が可哀そう・・・、と思っていろいろ考えました。 

という事で、まずミニトマトの収穫をしながら様子を見ました。なるべき刺激しないように巣の正面の辺りの真っ赤な実も、静かに朝夕、食べる分の収穫を繰り返しました。

蜂からは何の反応もありません。小さな蜂は、巣の材料を集めるのかトマトの葉の間を飛んでいます。

これなら孫やひ孫が来ても大丈夫かな、などと思っていましたが、4~5日すると蜂がいなくなったようです。後ろの巣を見ると巣作りをしていた蜂もいません。

本当の理由は蜂に聞かなければ解りませんが、経験から言うと、人間があまり頻繁に来るので、危険と判断して巣作りをやめたという可能性が強いように思われます。

しかし、人が来なくなれば、また巣作りに帰ってくることも考えられますので、やっぱり巣は除去しておいた方がいいかと思い、散水ホースの水を細くして、上からかけてみました。

もし蜂がいれば、「台風でも雨のかからないところに作ったつもりなのに。なんで?」と言うかもしれないなどと思いましたが、蜂はいませんでした。

巣は水に濡れて簡単に下に落ちました。隙間に手を入れて拾い、以前見つけたもう少し大きな巣と並べて、ガラスの割れたフレームの中に並べて「展示?」してあります。


消費者物価、国内物価はほぼ安定へ

2024年07月19日 14時24分24秒 | 経済

今日総務省統計局から2024年6月分の消費者物価指数が発表になりました。

今、消費者物価指数は2つの意味で大変重要です。1つは日銀が金融政策の変更、現状のゼロ金利政策を変更して日本経済を金利が機能する正常な状態に戻す政策に踏み切るための条件として2%インフレ目標を重視しているという点、もう1つは、毎月勤労統計の賃金指数の上昇が、物価の上昇を上回ることが消費不振によるゼロ・低成長経済脱出の必須条件となっているという点からです。

まず前者の点から見ますと、日銀のインフレ目標2%というのは「賃金上昇を伴う消費者物価指数の上昇と言っているところから、日本の国内経済が生み出す消費者物価指数の上昇が2%というのが基本的視点だろうと思われます。

これは消費者物価指数でいえば、「生鮮食品とエネルギーを除く総合」に近い概念だと思われますので、下に掲げるグラフでいえば、緑の線に当たります。

消費者物価主要3指数の推移(総務省「消費者物価指数」)

消費者物価主要3指数の対前年上昇率(%、出所:同上)

図で見ますと、緑の線は、上のグラフ、指数自体では5月、6月は106.6で横ばい、対前年上昇率は下のグラフで見ますと5月2.1%。6月2.2%でほぼ2%になってきています。青の線はエネルギー関係の上昇を反映、赤の線は天候不順による生鮮食品の価格上昇をを反映して多少の上昇基調です。

日銀が、国内経済の基本的な動きを重視しているとすれば、政策金利の正常化(引き上げ)はそろそろ視野に入るということでしょう。

一方、後者の毎月報道されている実質賃金低下傾向につきましては、2022年4月から、この5月まで25か月連続で対前年実質賃金低下という長期にわたる異常事態で、6月の数字が発表される来月上旬が待たれますが、感じでは少し難しいかなです。ボーナスが入る現金給与総額では、ボーナスが良かったようですから可能かもしれませんが。   

ところで、もともと金融政策で賃金を上げることは、日本では難しいのです。黒田前日銀総裁は、アジア開銀におられ、為替が安くなったり輸入インインフレとなれば、たちまち賃上げ圧力が強まり国内インフレに転嫁されるという世界の常識の中で、大幅円安となれば2%インフレは容易に可能、後のインフレ抑制が大事とお考えだったのでしょう。

所が、日本はそうでないのです。日本は、「賃金は経済成長率にリンクすべし」という稀有な認識を労働組合、企業の従業員が持っている国なのです。

この読み違いが今に至っているのですが、連合が本気になって、物価上昇を大幅に上回る賃金獲得に動かなければ実質賃金はなかなか上がらないでしょう。

この辺りを日銀も、企業労使も、もちろん政府も、理解しないと、実質賃金上昇ははかばかしくなく、そのせいで、金融正常化(金利引き上げ)もやりにくいという困った状況が続くのではないかと心配しています。


円レート・金利と実体経済、何が重要か?

2024年07月17日 16時38分23秒 | 経済

円レートが160円と158円の間で揺れ動いているようです。

マスコミは、政府が円高防止のために何兆円かの介入に踏み切ったらしいといった見方を書いています。介入のタイミングが上手いので2円も円高に動いたといった専門的な分析などもあります。

それと同時に、こうした介入による円安は一時的なもので、長続きするものではない、といった評論もあり、事実2~3日するとまた円高に戻ったりしています。

一方ではアメリカの景気が転機に入ったのではないかという意見が多くなり、消費の伸び悩みを指摘する声があります。テレビでは、アメリカの店頭で、買い物客が、物価がずいぶん高くなったので買い控えですと言っているところが映ったりしています。

アメリカが不況になればFRBは政策金利の引き下げに踏み切るだろうという事で、9月の引き下げを予測して円高ドル安という見方も増えています。

日本も物価上昇が2%に近づいたので、本格的な金利引き上げに動くのではないかという観測もあります。

実体経済とそれに即した金利政策から見れば,黙っていても円高になってくるという認識が一般的です。日銀短観によれば、今年度後半の円レートは141円というのが企業の平均的な予測のようですが、こうした実体経済面の認識と、何兆円使って一時的だが2円ほど円高にしたなどという為替介入のニュースがだれにどれほど重要なのかなどとついつい考えてしまいます。

確かに為替介入などのニュースの際に登場する専門家は証券・金融関係のチーフアナリストとかストラテジストといった方々で、マネー取引の分野の方々です。マネー取引は現金や現物を動かすわけではありませんから、実体経済の取引とは比較にならない巨額なカネ(信用)を瞬時に動かし値動きによるキャピタルゲインを中心に考えるのでしょう。

こうした動きは、当面の実体経済の動きを前提に予想されるカネの動きを予測し、短期的な投機心理を読みながら、それに伴うマネーの動きに由来する派生現象(デリバティブズ)を捉えてカネ(信用)そのものを売買するのでしょう。

信用経済(マネー経済)と実体経済では実体経済が、現実の人々の生活に関わる本来の経済で、マネー経済は実体経済がスムーズに動くように潤滑油としての役割といった関係にあるはずだったのです。

然し最近は、金融、証券、為替といったマネー経済の部分が、独自の発展を遂げ、実体経済と異なる基準で活動したり、実体経済をトラブルに巻き込むような存在になったりすることが多くなっています。

リーマンショックの際、その点が大いに反省され、実体経済こそが、人類社会の本来の経済という論調が見られましたが、このところまた、マネー経済の活動の活発化に拍車がかかってきているように感じられます。

マネー経済は基本的に付加価値を生まず、ともに配分の移転が主要な目的になるように設計されてきています。

今の日本経済を考えて見えれば、金利の正常化(引き上げ)が必須であり、併せてアメリカの金利引き下げの可能性が高くなっています。産業界は当面20円ほどの円高を想定しているのです。

アメリカは基軸通貨国ですが、多分に自国中心の政策をとるでしょう。日本は自らの、ここまで落ちた実体経済の状況を十分に弁え、政府、日銀は、産業労使が早期に健全な安定成長経済に戻すために役立つ金利水準、為替水準を、実体経済ベースで策定し、小手先の為替介入などに惑わされない実体経済中心の政策路線を進んでほしいと思っています。


実質賃金の上昇に必要な条件は?

2024年07月12日 14時47分46秒 | 経済

前回は、今の日本経済に必須な実質賃金の上昇について、直接の責任を持たなければならないのは「労使」であることを指摘したうえで、「プラザ合意」以降、円レートが基軸通貨国などの経済政策によって、変化することが一般的になった国際通貨情勢の中で、我が国の経済が安定成長を維持し、国民生活の安定的な向上を維持するためには、政府、日銀そして労使が十分な相互コミュニケーションを持ち、連携した政策の展開が必須であることを示唆してきたつもりです。

 今回は、この25か月連続の対前年実質賃金の低下が、日本経済の成長を大きく阻害している事を前提に、具体的にどうすれば実質賃金の反転上昇が可能になるかという条件をみて行きたいと思います。

まず掲げたのは、上は2022年1月以来の毎月勤労統計賃金総額(名目)の対前年同月上昇率と消費者物価指数の対前年同月上昇率のグラフです。下は、上の図の名目賃金と物価の差、実質賃金の推移です。

 資料:厚労省「毎月勤労時計」総務省「消費者物価指数」  

ご覧のように賃金上昇率が物価上昇率を超えていたのは2022年3月までです。以降つい先々月まで一貫して赤い柱が上回っています。下の図は、その差、実質賃金の低下そのものの推移です(2022年12月は逆ですが、これは現金給与総額を取ったせいで、「きまって支給する給与」が一般的には使われています)。  

2022年の4月から、コロナ禍で値上げできなかった食料品や生活必需品などの一斉値上げの波が起き、それが「2023年1月をピークに2023年10月まで続きました。

これは例月報告しています消費者物価指数の「生鮮とエネルギーを除く総合」いわゆるコアコアの動きで跡付けられますが、それ以降はまた上昇基調になっています。

コアコアの鎮静化は顕著ですが今の上昇は為替要因、主因は円安によるものでしょう。この円安はアメリカの高金利継続を背景に国際投機資本の動きで起きるものです。

円安対策としては、為替介入と日銀の金利引き上げですが為替介入は効果は僅少で一時的、日本は為替操作国に指定されるという不名誉に繋がります。

日銀の利上げについては借金まみれの政府が折悪しく裏金問題の取り込み中で、多分日銀も動きにくいのでしょう。政府の定額減税、補助金継続という誤った政策だけが動いているようです。

一方、賃金の動きの方を見ますと、この4月、5月と33年ぶりといわれる大幅賃上げの効果は出てきているように見えますが、よく見ると5月は昨年5月の上昇率に達していません。

結果的に円安による物価上昇の勢いには及ばず、いまだに1ポイント弱の差(実質賃金低下)があります。

5月は、総理府の「家計調査」の結果では、勤労者世帯の「勤め先収入」は順調な増加が見られますが、6月、7月のボーナス、8月以降の状況が心配されるところです。  

以上みてきましたが、最も自然の形での実質賃金黒字化と言えば、アメリカが早期に0.25%今年中に2回程度、金利を引き下げ、円安が円高方向に反転する。合わせ技で日銀がゼロ金利の完全脱出に踏み切る。消費者物価指数上昇が2%を切る。名目賃金2~3%の上昇で実質賃金は1%程度の上昇に変わる、といった予想でしょうか。

然し客観情勢としては、アメリカ政府はドル高を望んでいそうですし、日本政府は金利の引き上げはできるだけ先延ばしという意向でしょう。

労使の立場からは、連合は、最低賃金も含めて、もう少し高い賃金上昇を望んでいるのではないでしょうか。経営サイドも、満額回答をしたところも含めて経済成長率が高まるのであればボーナス増額、多少の賃金増額調整に必ずしも否定的ではないでしょう。

統計数字の動きを見ながら、出来れば外国の政策を当てにするのではなく、日本の労使、政府、日銀の判断を十分すり合わせ臨機応変の政策を取れば、日本経済の活性化はそれだけ早まるのではないでしょうか。 

労使は、ともに協力し合えば、自分たちの力で日本経済を動かせることを学ぶ良いチャンスではないでしょうか。


実質賃金上昇の必要性の検討

2024年07月11日 15時49分03秒 | 経済

昨日は改めてこれまで25か月続いてきた実質賃金水準の対前年マイナスという状態からの脱出が、日本経済の回復・正常化に必要と指摘し、そのためには、今春闘での賃上げは、33年ぶりの高水準だったとはいえ、必ずしも十分なものではなかったのではないかと指摘しました。

賃金決定というのは労使の専決事項ですから、望ましいのは労使の組織がいかなる賃金決定が今の日本に望ましいのかを検討し議論を重ね、傘下の、企業に周知し、個々の企業はそうしたマクロの情報をベースに自社の経営状況の中で最適な決定をしていくという努力でしょう。

戦後日本の労使は、それぞれに労働側は力ずくの賃上げ闘争、大幅賃上げ要求、経営側は、適正な生活水準、国際競争力維持可能な賃金コスト管理など激突、衝突を繰り返しながら、経営側の生産性基準原理、労働側の経済整合性理論と合理的な賃金決定理論に到達してきました。

しかし、1985年の「プラザ合意」で欧米から「円切り上げ」要求を受けて、そうした賃金決定基準の労使の理論は成立しなくなり、「春闘の終焉」と言われ、その後の賃金決定は,今に至る、漂流状態です。

理由は、経営側の生産性基準原理も労働側の経済整合性理論も、基本的に、固定相場制ないし為替レートの安定を前提にしたものだったからです。

結局、日本は1985年の「プラザ合意」、2008年のリーマンショックという海外発の政策的円高にさらされ、その後、日本初の円安政策である黒田バズーカによる円安、そして今回のアメリカの金利引き上げによる円安という2回の政策的円安を経験しています。

プラザ合意による円高については日本の労使は徹底した賃金水準の引き下げで対応しましたが、それにはバブル期を含め2020年まで15年を要し、その手段が賃金の低い非正規労働者の多用という形だったため、雇用構造や社会情勢に大きな歪みを残しました。

リーマンショックの円高に対しては労使打つ手も失い、結局黒田日銀の異次元金融緩和での解決を待つだけでした。

日銀の金融政策の転換で日本経済は円安(円レートの正常化)を迎えましたが、為替レートが正常状態になったにも拘わらず、日本経済は消費が伸びない消費不況に悩まされ、今に至るデフレ状態(需要不足)で殆んどゼロ成長近傍にとどまっています。

円レートが正常化して($1=120円)、「春闘の復活」は言われましたが、それは政府が賃上げを主唱する「官製春闘」で、労使は殆んど賃上げの正常化についての意見は持ちませんでした。(連合は「定昇+経済成長率」、経団連は企業の賃金支払い能力など)

今回の欧米の金利引き上げによる円安についても、「実質賃金の長期にわたる低下」という異常状態への対応のために賃上げが必要という意見はあっても、永続的な円安の中では、欧米インフレの範囲内、乃至円安による賃金コストの低下の範囲程度の賃上げが必要というような意見は労使からも、残念ながら、アカデミアや担当官庁からも聞かれませんでした。

つまり、円高については人件費抑制→コスト削減という政策目標は明確でしたが、円安になったとき、賃金引上げ→消費需要喚起という逆のサイクルが必要という現実には、労使とも、学会も関係官庁も気づかなかったという事なのでしょう。

前置きが長くなってしまいましたが、こうした立論のもとに、今年の賃上げはもう少し高くてもよかったのではないか。賃上げが足りなければ、労使は秋闘で賃上げ交渉をし、早期に日本経済の活性化に取り組んだろうかという前回の主張につながるのです。

次回は現実の統計を見ながらそのあたりを論じてみたいと思います。