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tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

変動相場制と日本経済:日銀の認識を問う

2023年07月04日 13時22分31秒 | 経済
変動相場制と日本経済:日銀の認識を問う
戦後の為替システムは固定相場制でした。太平洋戦争で日本国土は灰燼に帰し、終戦の年から2年間は国民所得統計もありません。

そんな日本も国民の真面目な努力で次第に復興し、経済活動も活発になり、アメリカとの取引でも単一為替レートが決められるまでになり、終戦から4年目の1949年にやっとGHQから$1=360円という為替レートを決めてもらうまでになりました。

当時アメリカは、圧倒的な経済力を誇り。第二次世界大戦後の世界を理想的なものに作り上げようと考えていたのでしょう。国際経済は固定相場制の下にあるべきだと考えていました。ドルは金に裏打ちされ、安定した価値を持っていたからです。

この理想は、アメリカの経済力が続くうちは機能しましたが、アメリカが次第に国際収支赤字国になり、アメリカに35ドル持っていけば金1オンスに換えられるという事で、アメリカの金準備は急速に目減りすることになりました。

そして1971年当時のニクソン大統領がドルの金兌換を停止するという、いわゆる「ニクソンショック」で、ドルはペーパーマネーになってしまいました。
そして、ドル安を決めた一時的なスミソニアン体制を経て結局1973年から今の変動相場制にすることになりました。

ドルは金の裏付けのある絶対的価値を持つ通貨から、アメリカの経済力の評価によってマーケットで価値決まる「(基軸)通貨」になったのです。

然しマーケットは常に「正しい」とは限りません。多様な経済的要因、投機資本の思惑などで常に動きます
通貨の取引を徹底的に自由化すれば、プライスメカニズムによって通貨はその国の経済価値を正確に表わすという仮定に立つのが「変動相場制」という事でしょうが、現実にはそうはなりません。

日本に関わる具体的な例を挙げましょう。
それはプラザ合意です。当時石油危機を率先克服、経済好調で円相場は割安という状況の中で、日本経済の一人勝ちを懸念した欧米主要国は日本に円相場の切り上げを要求しました。

経済好調だった日本は、鷹揚に「了解」といったようです。日本は、円安気味だから多少の切り上げも認めようという事だったのでしょう。

しかし結果は2年で240円から120円になり、マーケットは、日本経済の実力は2年で二倍になったという回答を出しました。2年で国民経済生産性が2倍になった計算です。
その後の日本の惨状を見れば、マーケットは誤りを犯すものだと理解できるでしょう。

ここまでは事実の列挙です。
そこで問題ですが、日本の政府、日銀の態度を見ていますと、一貫して「円レートは与えられるもの」という感覚であることを感じます。しかし、それで良いのでしょうか。

唯一例外は、2発の黒田バズーカでしした。あれがなければ、日本は$1=70~80円という為替レートで未だに苦しみもがいていたかもしれません。

こう考えてみますと、変動相場制でも為替レートはそれぞれの国が、自国の経済力に応じたレートを表明、申告し、それを安定的に維持する努力義務を負うという「ディシプリン(縛り)」をベースにすることが必要と考えるのがいいのではないでしょうか。

勿論申告するレートには、IMFなど適切な機関の同意が必要という事になるのでしょう。

世界が、あるいはアメリカが「変動相場制」をマーケットメカニズムが正しく働くという前提で、今の様にマーケット任せにすることは、世界経済の成長発展につい、適切な判断ではないようです。

6月度「日銀短観」製造業回復、非製造業好調維持

2023年07月03日 14時03分07秒 | 経済
6月度「日銀短観」製造業回復、非製造業好調維持
製造業は、国際情勢の不安から、資源価格の上昇、サプライチェーンの混乱などで、不振を強いられましたが、ようやく安定の方向が見えてきたという感じになって来たようです。

一方非製造業は、コロナ禍がなんとか通り過ぎる気配になった昨年末以来一息つき、ここに来て 、インバウンドの増加も含め、好調を維持できそうな様子です。

今回の日銀短観は、回復の遅れた製造業にも元気が出て、日本経済は、製造業、非製造業揃い踏みで当面順調といった状況になって来そうな気配を示しています。

折しも株価の急速な上昇があり、これは直接実体経済に関係ないにしても、雰囲気を明るくする効果は結構大きいでしょう。

具体的なDI (「良い」-「悪い」の%表示)の数字を、「前3月期」-「今6月期」-「来9月期」の順に並べてみます。(「良い)という企業が多いほど高い数字」

製造業は、大企業 1-5-9と尻上がり、中堅企業 ▲5‐0‐2と回復、中小企業 ▲6-▲5-▲1 マイナスながら改善です。(▲はマイナス)

非製造業は、大企業 20-23-20と好調維持 中堅企業 14-17-12と水準は低いが同様な推移、中小企業 8-11-7と水準はちょっと低いがほぼ順調といった状況です。

コロナと国際紛争で痛手を受け、なだ痛手が続いている世界経済、その影響を受ける日本経済ですが、当面しばしの安定を企業は期待しているようです。

以上は「業況」といういわば企業経営としての「感触」ですが、具体的の経営数字についての回答を見ますと、こちらは、昨2022年度と今23年度の実績と見込みです。

経営の実態を最も正確に反映すると言われる売上高経常利益率の数字を見ますと、製造業大企業は10%前後を維持、中堅、中小企業は5%前後というところですが、23年度は22年度よりいくらか低くなるという感じです。

非製造業を見ますと、大企業は7%を維持、中堅企業は4%前後、中小企業は4%弱という水準ですが、矢張り23年度は22年度よりいくらか下がるという見通しのようです。

国際情勢不安定の中で何が起きるか解らないという面は消えませんから、これからの見遠には多少慎重というのも当然かもしれません。

但し、調査企業の2023年度の円レートの想定は131~132円ですから、現状の140円を超える状況とはかなり相違していますので、その点はご留意が必要です。

更に、雇用人員判断を見ますと、全体的に不足が見られ、企業の雇用意欲の強さが感じられます。

設備投資についてはソフトウェア投資についての積極性が顕著です。
総じて、企業は、製造業、非製造業ともに、経営に積極さを感じさせるところですから、この状況が阻害されるような、国際情勢や、国内の経済政策が邪魔しない事を願うところです。

日本経済の安定成長を考える 5

2023年06月30日 13時51分10秒 | 経済
<賃金、物価、生産性、為替レートの関係の基本から>
前回はマイナカード問題を挟んでしまいました。
河野デジタル相の剛腕に丸投げして無理を通そうという政府のやり方の安易さに愛想が尽きた結果です。

今回は、物価問題に帰って5回目で、今回で纏めにしたいと思います。
4回までに書いて来た事は、すべて国内経済をベースにしたものです。しかし。今のどこの国の経済も国際的な経済変動の影響を受けざるを得ません。特に日本のような無資源国は資源を輸入しそれを加工して輸出するという形で輸出入のバランスをとらねばなりません。

その関係で起きる問題は大きく2つあります。
1つは、海外の資源価格が変動した場合の対応、2つは、為替レートが変動した場合の対応です。

先ず、海外の資源価格が変動した場合です。
下がった場合は、対応は容易ですので、省略します、
主要な問題は資源価格が値上がりの時に起きます。この場合、理論上の正解は、値上がりした分を 正確に価格転嫁していく事です。

資源価格の値上りは、値上りした分だけ日本が損するという事ですから、損した分(実質GDPのマイナス分)を日本国内でその資源の使用分に応じて皆で負担するしかないのです。

この考え方は、日本では第一次石油危機の時の失敗に労使も国民も学び、合理的な対応が出来るようになっています。
今回のエネルギー資源の高騰でも欧米は10%前後のインフレを招き、金融引締めなど苦労していますが、日本ではそうしたことは起きていません。

ネオジムなどの希少鉱物資源の値上がりの場合も、価格転嫁しつつも、日本は省資源の技術開発なども併用し、資源インフレを食い止める努力が確り行われているようです。

この問題についてまとめますと、海外資源の高騰は「世界各国共通」で、日本はその対応には巧みですから、どちらかというと「ピンチはチャンス」の国ではないでしょうか。

次に、為替レートの変動の場合です。
資源価格は世界共通の問題ですが、円レートの変動は日本だけの問題です。円高はプラザ合意(1985)の時、円安は黒田バズーカ2発(2013~14)の時で、どちらも日本は対応に失敗しいています。

ながーい目で見れば、プラザ合意で大幅な円高を強いられた経済外交の大失敗を、30年たって黒田バズーカで取り返したという意味では、黒田バズーカの実行という政策は大成功だったのです。

この30年の間に、諸外国はインフレ、日本はデフレで、プラザ合意当時の$1=240円という為替レートでの国際競争力が2014年には、$1=120円で達成できたのです。

もし、1985年から2014年まで、30年かけて円レートが240円から120円に徐々に円高になったのであれば、失われた30年は無くて、日本はずっと「ジャパンアズナンバーワン」だったという事も十分考えられます。

しかし、現実は僅か2年で円レートが240円から120円になったので、その対応に30年間苦しんで、経済も社会も大きく劣化したのです。

為替レートは1国を狙い撃ちで沈没させることが出来ますから、油断すると大変恐ろしいことになるという教訓を日本は十分学んだわけです。

黒田バズーカ後、10年程をかけましたが、急激な円安への対応に矢張り日本は失敗したようです。
円高、円安に対する賢明な対応策を日本は学んで来ているのでしょうか。

このブログでも、円高、円安になってからの対応策について種々論じてきました。しかし結局は、異常な円高、円安に「しない事」が最大の対応策だという事になるのではないかと思っています。

此の点については、改めて、経済外交の重要性、そして当面する金融政策の面も含め、取り上げる機会を持ちたいと思います。

日本経済の安定成長を考える 4

2023年06月28日 15時01分49秒 | 経済
<賃金、物価、生産性、為替レートの関係の基本から>
前回は物価を中心にみてきましたが、今回は生産性と賃金です。
生産性については「実質経済成長率」の数字で代替して問題ないと前回の最後に指摘しましたように総理府の発表する四半期GDP統計の数字を見て煮ます

最近時点の四半期GDP速報は2023年1-3月期の第2次速報です。
コロナ禍でマイナスになったりプラスになったりのGDP成長率でしたが、これによりますと、昨年1-3月期から今年1-3月期までの実質経済(GDP)成長率は順に0.5、1.8、1.5、0.4、1.9(%)という事で、2022年度の平均は1.4%です。

2022年度からは消費需要が安定してきているので、今年度は2%を超えるのではないかと期待されます。(今年度の政府経済見通しは実質成長率1.5と控えめです)

という事で当面の経済成長率は「2%」程度と考えてみましょう。日本国内で生産され消費されるモノやサ-ビスは、2%程度増えますから、日本人の賃金が2%ほど増えて、ちょうど購買力とモノ・サービスの供給の増加が一致して、経済は2%成長、インフレはゼロという均衡経済になります。

それでは賃金の方は如何なっているかですが、賃金の指標は、未だ春闘の賃上げ率しかありません。連合の集計結果は3.66%(6/5発表、加重平均方式)で、定昇などを除いたベア部分は2.33%と推計されています。

賃金上昇の最終結果は、これにボーナスや残業代が入ったり、定年年齢到達者の賃金減額があったりでGDPから支払われた人件費の総額はGDP統計の「雇用者報酬」として確定するのですが、春闘賃上げ率はその先行指標です。

ところで2022年度の雇用者報酬は、前年比2.1%で、昨年の連合の賃上げ集計は2.09%と偶然にもほぼ同じです。

以上の数字を並べてみますと、今年は経済成長率(生産性)は2%程度、賃上げ率は3.66%という事ですから、今年も賃上げ率と雇用者報酬の伸び率が「もし」同程度になれば、今年は、3.66%から2%を差し引いて1.66%の物価上昇になるという計算になります。

政府・日銀が望んでいるのは、多分、経済成長2%~3%、雇用者報酬4%~5%で、「4%-2%=2%」あるいは「5%-3%=2%」で生産性上昇より2%ポイント高い賃金上昇で、いずれにしても2%程度の物価上昇という「軽インフレ社会」という事ですから、それに近づいてきているという事でしょう。

しかし現実は、前回指摘しましたように消費者物価の独歩上昇状態です。経済は必ずしも理屈のようには行かないのですが、この原因は、これまでの長い間、最低賃金をはじめ賃金も、輸入原材料も、農水産物の価格なども上がって来ているのに、消費不振で値上げ出来なかった我慢の分が、昨年来の輸入物価上昇で限界に達し、一斉値上げが波状的に起きたという事でしょう。

ですから黒田さんも現日銀総裁の植田さんも、この消費者物価上昇は早晩終わるので、それを待ちましょう、という姿勢です。

理論的にはその通りですが、物価には市場メカニズムの中に、売り手、買い手の心理状態が反映して理論と乖離します。これは一種のムードのようなものです。
「値上がりの前に買おうと、買い急ぎ」
「生産性上げず、値上げで利益出し」・・・

この所の、株価の異常な上昇もこうしたムードに影響するかもしれません。
こんな状態になると、経済政策、金融政策は無視するわけにはいかないでしょう。
アメリカ、ヨーロッパでは、こんなムードが10%前後のインフレを呼び、金融引締め、金利引き上げ政策を生むようです。

「インフレだ! 賃上げストで取り返せ」
という動きも、労働側からすぐに起きるようです。

日本人は総てに慎重ですが、人間の心理は洋の東西を問いませんからそろそろ政府、日銀も気を付けた方がいいのではないでしょうか

日本経済の安定成長を考える 3

2023年06月27日 13時28分05秒 | 経済
<賃金、物価、生産性、為替レートの関係の基本から>
前々回、前回で、政府・日銀が、「賃金、物価、生産性」の三者の関係について、どんなバランスが日本経済の安定成長路線と考えているかという事と、それに対して今の日本経済の実情としての「賃金、物価、生産性」の動きはどうなっているかを見てきました。

政府・日銀は、望ましいバランスと現状との違いを識別する方法として、「2パーセントインフレ目標」と「現実」とのギャップを最も解り易い指標として考えているのでしょう。

これは確かにその通りで、目標と現実のギャップは象徴的に、物価の動きに出て来るので、先ずそれを見て、そのギャップの原因を考えてみるとことにします。

先ず、消費者物価ですが、この所の年率の上昇率は3.2%(5月)です。しかしこれは輸入物価の値下がりや、政府の政策が反映するエネルギー価格なども入っていて、日本経済の賃金、物価、生産性の動きそのものの反映ではありません。

そこで、日本経済自体の賃金、物価、生産性の関係を示す「生鮮食品とエネルギーを除く総合」、いわゆるコアコア指数を見ますと、4.3%(5月)という事で政府の2パーセント目標の2倍以上になっています。

日銀の全相殺の黒田さんも、現総裁の植田さんも「そのうち下がるからその時期を待って金融政策の正常化をする」という事ですが、コアコア指数は一本調子で上っていてなかなか下がる気配がありません。

加工食品などを中心に10%前後の上昇を続けているものもあり、最近上げ過ぎではないかといった声も聞かれます。上げ過ぎというのは、値上げムードに乗って便乗値上げの部分が入って来ているのではないかといった見方です。

この場合は値上で利益を挙げようという意識が混ざることになり、行き過ぎると消費者の反発、消費抑制、消費不振などの可能性も生まれ経済が混乱します。

政府も6月からの電気料金の大幅値上げを認めたところですから、少し気にし始めたようです。

ところで、コアコア指数が落ちついて2%程度になれば、ゼロ金利の見直しということになリ、日本経済全体の正常化という段階になるのでしょうが、その際の賃金と生産性は、どうあるべきかという事になります。

大事なのは生産性の行方です。生産性の向上は、日本中のあらゆる産業・企業がそれぞれに、より効率的な生産活動を追求するところから生まれるわけですが、それを示す数字は実質GDPの成長率です。

この場合、生産性は、賃金との関係ですから勿論「労働生産性」ですが、労働力人口や就業者数はほとんど変わらないでしょうから、実質GDPの年率伸び率が生産性の上昇率としてもいいと思います。

日本経済はゼロ成長時代から脱出の気配が見られますが、前々回も触れましったように、生産性が賃金上昇の基準にもなり、賃金、物価、生産性のバランスのベースにもなるものです。勿論経済成長率は、国民全体としても最も望むところでしょう。

次回は、「生産性と賃金」の現状、その関係と物価についてみていきたいと思います。

日本経済の安定成長を考える 2

2023年06月26日 14時31分28秒 | 経済
<賃金、物価、生産性、為替レートの関係の基本から>
前回の第1回に、最近の日本経済の特徴をいくつか挙げ、日本経済が変わり目にあることを見てきましたが、総じていえば、良い方向に動いている事は明らかなようです。

しかし、種々アンバランスな点もありますので、そのあたりを「本来あるべき姿」に持っていく事が必要でしょう。

政府・日銀は、物価上昇2%という指標を重要な判断基準としていますが、これは物価(消費者物価)が0だったころに掲げられたもので、現在はもう3%を超え、国内要因の部分の上昇は4%を超えています。

政府も日銀も、これから下がると言って放置していますが、それでいいのでしょうかという問題もあります。

そこで、政府・日銀が何故そう考えているのかも含めて先ず、物価が何によって動くのかの基本を見てみます。

海外要因は後から付け加えるとして、国内要因による物価の形成は、基本的には、賃金と生産性の関係によって決まります。

生産性が3%上がれば、賃金を3%上げても、利益も3%増え、労使ともに安心です。生産性上昇が3%なのに賃金が5%上がれば企業は利益が出ませんから、企業、は販売価格を2%上げ、売上高も5%増にし、利益も5%上昇で、2%インフレ経済にするでしょう。

政府・日銀が2%インフレ目標を決めたのはゼロ成長ゼロインフレのころで、日本経済は低迷でしたから、2%ぐらいのインフレになれば、何となく景気が良い感じで、経済が上手く回るのではないかという事で、そう決めたのでしょう。

これは欧米主要国では年に2~3%のインフレは普通という現実から、現実の経済として妥当な目標と判断したのでしょう。

そして、賃金を高めに誘導し、2%程度のインフレを起こし、消費者は値上がりする前に買おうと購買意欲を高め、企業は、値上りと売り上げ増で経営を積極化し、結果的に徐々に景気が良くなるという動きを期待し、賃上げ奨励、官製春闘を演出しました。

しかし、この目論見は外れ、消費者は将来(老後)不安から生活防衛の貯蓄に走り、労働組合の賃金供給にも点火せず、目標は棚晒しになったままで、当時の黒田日銀はゼロ金利を続けざるを得なかったという事でした。

これが変わったのが、コロナ明けで消費が動き始めたこと、消費不振で値上げをせずに我慢していた生活関連物資・サービスの生産流通分野で、この際値上げしないともうやれないというる切羽詰まった気持ちでの一斉値上げの動きだったのでしょう。

一斉値上げが始まったのは2022年の春からです。折からの原油価格高騰による輸入物価の高騰、アメリカ、ヨーロッパの急激なインフレもあり、一斉値上げは波状的に起こり、まだ続いています。

この状況は、労働組合の賃上げ要求態度にも影響し、欧米のインフレ抑制のための高金利と日本のゼロ金利継続による円安の急進行で潤う企業が賃上げ容認の姿勢を示したこともあり、(それにしては小幅でしたが)春闘賃上げ率も1%程度高まることになりました。

それぞれの動きはちぐはぐですが、今迄の、長期不況に縛られた意識から脱出したいという雰囲気が広汎に出てきたというのが現状でしょう。 
問題はこの不揃いな動きをどうするかです。これが次回の課題になります。

日本経済の安定成長を考える 1

2023年06月24日 14時23分12秒 | 経済
<賃金、物価、生産性、為替レートの関係の基本から>
日本経済が、従来の長期低迷から脱出するのではないかという見方が最近強くなっています。

昨年から日本の消費者物価が上昇を始めました。欧米に比べれば小幅と思われていますが、5月の消費者物価のコアコア指数を見れば、アメリカは4月の5.5%から5.3%に下がり、日本は同3.9%から4.3%に上昇、このままではアメリカを追い越す気配です。

これも昨年からですが、家計調査(毎月)の平均消費性向が長年の低下傾向から反転上昇する月が殆どになって来ました。

春闘で労使が「共に」賃上げが必要と言い始め、春闘の賃上げ率が、これまでの2%台から3%台に上ったようです。(そろそろ厚労省から最終結果が出るでしょう)

国際情勢の変化からでしょうか、製造業の生産設備の国内回帰が盛んになり、また半導体分野などでは海外企業が日本に巨大工場の建設に動き、日本自体も主要企業が協力しまた政府系機関も大規模生産設備に踏み切りつつあります。

コロナの終息状況から、インバウンドの急速な拡大が見込まれるという指摘が多くなりました。

最近はヨーロッパの機関投資家を中心に東京のマネーマーケットに関心を高めたようで、大量の資本が流入し、急速な日経平均の上昇がありました。

貿易赤字が常態化するような気配があり、円安が、じわじわと想定外の水準まで進んだりする様相が見られます。

動きの中には健全な経済活動とみられるものから、物価や為替など先行きが心配されるような動きもあります。

工場の国内回帰のような実体経済そのものの活動もありますし、株式市場への投機資金流入のような、マネー経済の動きもあります。

それらは、円レートの動きなどと相互に影響し合いながら、これからの日本経済が、健全な成長路線に向かうという、国民の願いにそれぞれにプラスあるいはマイナスの効果を持つのでしょう。

経済活動は、こうした複雑な要素の合成の結果なのですから、大変わかりにくいということになるわけですが、例えば、政府・日銀がインフレ率2%という極めて単純な指標で日本経済の動向を判断し、また政策の調整をしようとしていますように、誰にも解り易い、基本的な数字もあるはずです。

そんな意識を前提にして、今後の日本経済の安定成長のために適切なバランスを構成するべき指標、その数字について、出来ればそれらのバランスの在り方から望ましい方向を確かめてみたいと思いつつ、現状を出来るだけ整理してみたと思います。

5月消費者物価:コアコア指数上昇続く

2023年06月23日 14時34分45秒 | 経済
5月消費者物価:コアコア指数上昇続く
今朝、総務省統計局から2023年5月期の消費者物価指数が発表になりました。

最近マスコミは総合指数ではなく、変動の多い生鮮食品を除いた「生鮮食品を除く総合」(下のグラフでは赤い線)を主要指標として発表することが多いようで、対前年上昇率は3.2%で前4月の3.4%より低下としている見出しもあります。

然し本文の説明では、食品、飲料、外食、宿泊料などの値上がりが続いていて、収まる気配がないといった説明もあります。

以下、実態を確り見ていきたいと思いますが、このままの状態では消費者物価の上昇は問題含みになるというのが当ブログの持つ実感です。

海外では、アメリカはFRBが金利の引き上げでインフレ抑制を強力に進め、明らかに効果を見せています。副作用の景気の減速にも注意を払っていますが、インフレ鎮静が、経済先行きの安心感につながっているようです。

イギリスは、労働側の賃上げ攻勢も強いようで、金融引き締めの効果が小さく、金融引締めの一層の強化で舵取りが難しくなっているようです。

日本の場合は、国民がインフレ嫌いで、放置してもインフレ昂進の可能性は少ないからと考え、異次元金融緩和継続の黒田路線を植田総裁も踏襲しているようですが、些か問題含みではないでしょうか。

先ず下のグラフでは、今年2月は政府の補助金でエネルギー料金が下がり、「総合」(青)と生鮮食品を除く息総合」(赤)は下がっていますが、「生鮮とエネルギーを除く総合」(緑)はまっすぐ上昇です。下がった電気ガス料金は入っていないからです。

         消費者物価指数主要3指数の推移

                資料:総理府統計局「消費者物価指数」

昨年来上り続けて、5月になって漸く青と赤が揃って横這いになったので、これで上昇も「ピークかな」ですがそうはいかないようです。
                
この辺の動きを対前年上昇率で見てみますと、下の様になっています。
消費者物価3指数の対前年同期比の推移

                       資料:上に同じ
     
今年2月のエネルギー補助金の効果は大きかったのですが、政府は6月から電気料金の大幅値上げを認めています。青・赤の線がどう動くか、ちょっと怖いですね。

上のグラフで5月の青・赤の線が横ばいになり、下のグラフでは対前年伸び率が縮小しているのは、総理府の消費者物価10大費目の表で見ますと「光熱・水道」が、対前年同月比でマイナス8.3%だからで主として電気代の値下がりによるものです。

公共料金の動きは、経済現象でない要素が大きいので、よく解りませんが、電気料金はまた6月からは政府の意向で上がるのでしょう。こうした経済現象を攪乱する要因は別として、今の本当の問題は、「緑の線」が一貫して直線的に上昇している事です。

この所毎月指摘しておりますように緑の線(生鮮とエネルギーを除く総合)は日本経済の中の日常の消費活動の動向を天候や輸入物価の影響を除いてみる事の出来る所謂「コアコア指数」(芯の芯)です。

この指数が一貫して直線状に上っているという事は、日本経自体が明らかにインフレ傾向を持って来ているという事を示していると見るべきなのです。

冒頭にも挙げました生鮮を除く調理食品、乳卵類、飲料、外食、宿泊料、日用雑貨などは1年で10%前後の値上がりです。
しかもそれが昨年来の一斉値上げの波を、2年目に入っても上げ幅を大きくするものもあるような形で、続いているようです。

鳥インフルの影響を受ける鶏卵、鶏肉のような特殊事情もありますが、年10%のインフレが2年にわたって続くというのは矢張り問題でしょう。

消費者物価の上昇は、消費支出を抑制します。日本の家計を再び過度な節約指向に引き戻さないように慎重に考慮しながらの経済活動、経済・金融政策が望まれる段階に入っているのではないでしょうか。

そろそろバブルへの分かれ目でしょうか?

2023年06月19日 16時27分33秒 | 経済
今日は株価にも黄色信号が付いたようです。
その道の専門家のコメントでは「底堅い」が共通語になっているようですが、午後になって400円近くまで下げて下値を試したのではないでしょうか。

上げ幅が大きかっただけに、この程度の下げでは、小安いとか、今日は様子見、とかいうことになるのでしょう。

2015年の4月に、「バブルなのか、バブルでないのか」を書いていますが、その前に書いている「2種類の物価」も併せて、実用的な価値(使用価値)に見合った価格はバブルではないが、「値上がりを目指して買う」ような段階になるとバブルの可能性が、というのが基本的な視点です。

今の日本の株価はどうかと言いますと利回りが2%以上もあるような株は国債や預金金利と比べれば、絶対有利ですから値上がりしても当然かもしれません。

然し高率配当に問題があって、突然配当も株価も大幅下げたなどというケースもあるので(カルロス・ゴーン式経営)、これが「確定利付き」と「配当利回り」のバランス関係どう判断するかの時に可否を分ける大きな要因でしょう。

日本国内の人間の場合は、「確定利付き」の金利は日銀、政府のゼロ金利政策の結果ほぼ「0」ですから、利回りは株の方がいいというのが殆どのケースでしょう。ですから政府は預金から株へと言ってNISAやiDeCoを税金まで免除して推奨するのでしょう。

しかし普通の人は株がいつ上るか下がるかは解りませんし、利回りが4%もあるからと買ったら株価が1割下がることもざらですから、簡単には怖くて買えません。

ところで、外国人が、今回の場合は、ヨーロッパの投資家がみんなで日本株を買ったように説明されていますが、そうだとすれば、確定利付きがゼロ金利だからというのではなくて、日本の株は出遅れの様だから(経済が出遅れの結果なのですが)、そこを狙ってみんなで買って、上ったら売って儲けようという事なのでしょう。

もともと日本企業を育てて、日本経済を発展させるための投資ではないのですから、狙っているのは、ある程度のバブルを発生させることが目的なのでしょう。

日本人は真面目ですから、日本に投資してくれるのは有難い、この際、日本株の株価の水準訂正をして、その間日本の投資家も儲けられればなどと考えるのでしょう。

「底堅い」、「未だ上がるのでは」という雰囲気に押されて日本の資産家も素人投資家もこぞって提灯をつければバブルも本番に入りそうです。
外資が引き揚げた後どうなるかが、大小あってもバブルの宴の結末はどれも似たものでしょう。

1990年に付けた3万8千円台の再来があるかもしれないなどという言葉が、そのうち聞かれるのではなどと心配していますが、若しそれも良いじゃないのというのであれば、それに見合った日本経済になる努力が必要です。

防衛装備品を投資勘定に入れたからと言って、それが経済成長を促進することはありません。子育て支援は、看板は出来ていますが、資金の裏付けがありません。
ヨーロッパやアメリカの「日本にバブルを」に乗って、資金を作ろうというのでしょうか。
そういうのが成功したためしは余りないようです。

今日は株価が下がっていますが、「脚下照顧」、足元を確かめる事の方が大事かも知れません。

日銀は静観、異次元金融緩和はいつまで放置か?

2023年06月16日 22時22分52秒 | 経済
昨日、今日と日銀の金融政策決定会合が行われました。
消費者物価の上昇が相変わらず続いている事に、そろそろ家計の消費行動も影響を受ける様子が見え、公共料金(電気料金など)は政府が引き上げを決め、春闘の賃上げが多少高かったと言っても、消費者物価の上昇の方が先行しそうな様相は相変わらず続いています。

一方、無理して(気前よく)高めの賃上げを決めた企業も、日銀の見方によれば収益状況はますます良いようで、海外からの日本の株価はもっと上げるべきだといった意向があるのでしょうかPBRが1を切っているのは日本企業に積極性がないからだと言われたようで、急に自社株買いを始めたり、株価の上昇を望むような動きが出ました。

PBRは企業経営の積極性の指標かも知れませんが、それは企業の積極性や成長力を評価して株価が上るからで、自社株買いをして株価を上げても、別に経営が変わったわけではなく、PBRの数字が上るだけで経営の実態は同じでしょう。

そこにウォーレン・バフェットさんの発言が在ったり、急にヨーロッパのマネーが東京市場に流入して株価が異常な暴騰を示したり、どう考えても、日本企業に賃金より株価を上げろと言う要求をしていると思われるようなことになっています。

こんなに株が上がるほど日本経済は順調なのかと言えば、政府も経団連も、今年は賃上げ率は上ったがこれを継続的にしなければと言いながら、防衛費や少子化対策といった財源の裏付けのない政策を打ち出すだけで、来年の賃上げにはあまり自信がないようです。

今年の賃上げが3%台に乗ったと言っても、為替レートは今年に4月には昨年4月より5%ほど下げて(円安)いますから、ドル建てでは賃上げは帳消しでマイナスです。やっぱり日本の賃金水準は、国際的には下がっているのです。

しかも国内では消費者物価の上昇が続き、コアコア指数は4月には3.8%、5月には3.9%の上昇ですから、実質賃金低下は国内の原因で続いているのです。  

黒田さんが異次元緩和の継続ばかりだから何か新機軸をと言うので経済学者の植田さん替わったという感じなのですが、現実の状況は何も変わりません。
YCCなどと言いますが、金利は経済実態の反映で決まるものですから、無理に金利のコントロールで経済をそれに合わせるというのは、時計の針を回せば時間が経つと考える様なものでしょう。

そして株だけ上がればみんな豊かになったと思うのではとバブルの再現のような株価上昇について「企業の収益性を評価したもの」と言われても、「賃上げが低いから収益が上がるのでは」と「成長と分配の好循環になっていません」という意見が出ても当然でしょう。

「物価の上昇については気にしている」と言われて、日銀は、昔は「物価の番人」と言われていた事を思い出してみても詮無い事のようです。

今回の金融政策決定会合の結果が日銀の分析能力によるものか、折角の円安、折角上がってきた株価を下げたくないような意向の影響か、解らない事ばかりですが、今夜も日経平均のCFDは上がっているようで、6月になれば電気料金の大幅な値上げが待っているといった現実が、何か先行きの不安を感じさせるのではないでしょうか。

「異次元金融緩和の継続」はどうなるか

2023年06月14日 14時17分06秒 | 経済
「異次元金融緩和の継続」はどうなるか
前々回、最近の日本経済は、何かおかしいと書きました。

昨日今日の様子を見ていましても、やっぱりおかしいという感覚は消えません。
直接おかしいなと感じるのは、株価が、どう考えても異常ではないかと思われるほど急激に上がっている事です。

勿論日本人の投資家や大衆株主の力で、こんなに急速で大幅の株高が起きるとは思われません。日本の投資家はもっと臆病でしょう。
これからの日本経済が、こんなに株価が上るほど力強い成長力があると考えているとはとても思われません。

昨日も岸田総理の記者会見がありましたが、防衛予算増額についても異次元の少子化対策の財源についても、国民が安心できるような健全な財源確保の具体案はありませんでしたし、急速な経済成長の回復を感じさせるような発言もありませんでした。

アメリカをはじめ、海外の株式市場も日本のような異常な上昇は見られませんし、何で実体地経済の冴えない日本の株価だけがかつてのバブル期を上回るようなスピードで上がることは、どう見ても異常に感じられます。

日経平均が大引けで少し軟化して終わっても、引け後、CFDは着実に上昇し、明朝の寄りつきに向けて着実の上がっていき、そのまま、上昇した水準で日経平均は始めるといった感じで、何か決められたレールの上を進んでいるような状況です。

報道によれば、ヨーロッパ筋のカネが流入という事ですが、何かヨーロッパが、日本に株バブルを起こしたいという要因があるのでしょうか。

更に、日本政府や日銀が、この異常な株高の進行について何も触れていないという事も何かおかしい感じがします。

菅総理の時、一時日経平均が30,000円を付けました。菅総理は、「3万円は目標のまた目標だった」と喜んでいましたが、今、総理や関係閣僚からは、何の意見も声も聞かれません。
あたかも、「もうそれは当然のこと」と分かっているのではないかと感じられるほどです。

明日からは日銀の政策決定会合が開かれます。
植田総裁の予想の様に消費者物価の上昇率が鎮静かするか、それとも「生鮮食品とエネルギーを除く総合」(通称コアコア)が相変わらず上昇を続けるのか、6月からは電気料金の大幅値上げがあり、心配されるその影響など、日銀としては、最も気になるところでしょうが、どんな見解が出るのでしょうか。

アメリカが、インフレ鎮静から利上げストップに動く時期に、日本が逆に、異常に長期化した「異次元金融緩和政策」から、金利引き上げに動くかは、日本経済にとっても$:円レートに影響し、アメリカにとっても日本にとっても気になるところでしょう。

異常な株高に象徴される日本経済の現状を、一体どう見たらいいのか、政府は無反応、日銀の反応はいかにですが、そのあたりから何か日本経済の現状の異常についての何かのヒントが見いだせるのかと注目するところです。

株式市場関係者は、拍手と万歳かも知れませんが、何か違和感をお持ちの方も多いのではないかと思うのですが、手放しで喜んでいていいのでしょうか。

輸入インフレは終局へ、残る消費者物価指数の動向

2023年06月13日 12時36分13秒 | 経済
昨日、日本銀行から、5月分の輸出入物価と企業物価(昔は「卸売物価指数」と言いました)が発表になりました。

マスコミの報道でも輸入物価の動きが収まり、日本の物価への影響も小さくなってきたといった解説がされています。

このブログでも、海外物価が上がれば日本の輸入品の物価が上がり、それが企業物価を押し上げて、最終的には消費者物価の上昇になるという立場から、このところ毎月輸入物価指数、企業物価指数、消費者物価指数と3つの主要な指数を一覧のグラフにして観察して来ました。

       主要3物価指数の推移(消費者物価指数は東京都区部速報)

                       資料:日本銀行、総務省       

ご覧い頂いた方には、この3つの物価がどんな関係にあるかを、毎月発表されるごとに、じっくり見て頂けたことと思います。

輸入物価指数の巨大な山の高さ、それに引き換え、大分なだらかな企業物価指数の山、遅れてじりじり上がる消費者物価指数、高さの違い、時間的なずれ、それに影響を持つ国内事情なども随時取り合上げたつもりです。

主要3物価指数の低前年上昇率 (%)

                      資料:上に同じ

輸入物価も国際資源価格の落ち着きで当面大きな問題はなさそうな状態、それを反映する企業物価、それにしても、日本自体の事情の反映でしょうか、なかなか上昇の収まらない消費者物価の動きというのが、この所の日本の主要物価指数の動きです。

ロシアのウクライナ侵攻問題、OPECの原油減産問題、穀物の主要生産国における干ばつ、水害、山火事などの異常気象問題など、国際資源価格に関わる問題はいろいろありますが、現状、何とか一応の安定という事でしょうか。

今後も、この主要3物価については、状況により発表の都度取り上げていくつもりですが、今回は、国際的な物価問題も何とか落ち着いて、後はそれぞれの国の国内問題としての物価問題になって行くのだろうと見ていますので、このブログでは、今後は消費者物価指数の追跡に一層力を入れて行きたいと思っています。

国際紛争の種は尽きないようですが、紛争や戦争は、それを引き起こすリーダーにとっては当面気が済むのかもしれませんが、現実に起きるのは物的・人的な悲惨な破壊だけで、人類社会にとってはマイナスばかりでしょう。

人間が作り上げたものを人間が破壊するような事がなければ、物価や経済の分析もずっとやり易くなって、より人々の役に立てるのに、などと思いながら、数字を追い、グラフを書いています。

最近の日本経済、些か異常では?

2023年06月12日 11時47分09秒 | 経済
今日は月曜日、週明けの東京市場は150円ほどの上昇から出発し、徐々に上値を切り上げているようです。

何故こんなに上がるのでしょうか、それまで上下を繰りかえすだけの日経平均が今年に入って1月の26,000円から6月は32,000円という急騰で、まだ上るといわれています。

上っているのは株価だけではありません。昨年来、消費者物価はじりじりと上がって来ていますが、このブログでも最近指摘していますように「生鮮食品とエネルギーを除く総合」、いわゆる「コアコア指数」の上昇は、この所少し異常な水準まで上げて来ています。

アメリカやヨーロッパが8~10%といったインフレで、アメリカのFRBやEUのECBなどの中央銀行は、金利の大幅引き上げでインフレ退治に動いたのはご承知の通りです。

その結果、国内要因で起きたインフレである上記「コアコア指数」はアメリカでは7%近かったものが5%近くまで下がり、金利引き上げも終わるかとみられています。

しかし日本の場合は昨年来の食料、飲料や、調味料、日用品などの一斉値上げが収まらず「コアコア指数」が昨年春の1%以下から5月(東京都区部)では3.9%まで上がり、更に上がる気配です。

日米の消費者物価の長期の観察では、インフレ体質のアメリカは日本より上昇率が2%程度高いという差が常態ですので、今の日本のコアコア指数の上昇は些か異常に感じられます。

アメリカのFRBがインフレに敏感になり、金利引き上げでインフレ退治に躍起になったのに引き換え、日本銀行は、インフレは次第に収まると楽観的で、異次元金融緩和のままで静観でいいのでしょうか。今後も電気料金をはじめ、公共料金の引き上げに刺激されての物価上昇が懸念されます。

株価が異常な上昇を示し、一部に地価やマンション価格の高騰が言われる中で、日々の生活に関わる消費者物価の上昇が日本としては異常な水準に達しているという現実は、放置できるのでしょうか。

株高で日本が豊かになったような感覚を作り、消費者物価の上昇を放置し、来年はさらに高い賃上げをしようというムードを作り、かつてのバブルの再現を思わせるような状態の中で、財源のない防衛費の増額や少子化対策の財源を作ろうという方向に「明確な意識もないままに」進んで行く危険性が感じられるのではないでしょうか。

これは現政権のとっては都合のいいことかもしれません。現政権が頼るアメリカにとっても都合のいいことかもしれません。

そういえば、株価の上昇は、ウォーレン・バフェットが来日して、「これからは日本株」といったことも大きな影響があったようですし、この所、急にPBR(蓄積過多で株価が低い)などというアメリカ型の企業評価が言われたり、何か、かつてのバブル前の「前川リポート」(労働時間短縮、内需拡大、金融緩和を推奨)を彷彿させるような雰囲気があります。

煽てられてバブルをやると、その咎めは大きい事を日経平均のピーク38,000円が教えてくれている事にも十分気を付けた経済、金融政策が必要なように思われますが、如何でしょうか。

防衛装備品と子育て支援:経済学の理論と現実

2023年06月10日 17時57分42秒 | 経済
会期末の国会で防衛費の財源確保について与野党の議論の激化が予想されています。

国会では大いに議論し、国民も大いに関心も高めてほしいと思います。今後問題になる少子化対策の財源も頭に入れての議論をしていただきたいと思うところです。

このブログの今回の視点は少し違っていて、GDPの計算をする国民経済計算の中で防衛費や少子化対策費はどんな扱いになっているのかという事です。

一口でいえば、防衛装備品については、確か2016年頃に扱いが変わって、それまでは防衛装備品を買うのは「消費」だったのが「投資」に変わっています。

戦車、軍艦、飛行機、大砲などは固定資本形成に入るとのことで、弾薬などは在庫品の扱いだそうです。

一方、政府はこれからは人間に投資する事が最も重要だと言っていますが、少子化対策、子育ての支援は総て消費支出に計上されるのでしょう。

確かに、経済学では保育費も教育費も学用品も総て消費支出ですが、これは人への投資で、これが充実すれば、出生率も上がり、教育レベルも向上、その結果、技術革新などもレベルもスピードも上がり、人びとの生活も社会の高度化も進んで経済社会の発展が進むのですからこれはどう考えても確かに投資です。

では、防衛装備品は、本当に投資でしょうか。
戦車も軍艦も飛行機も大砲も、どう見ても固定資産ですから、固定資本形成になったのでしょうが、これらが物の生産や技術開発のために活用れるという話は聞いた事がありません。

これらは戦争という破壊活動のために使われるだけですから、使われる時は物の破壊と人的損傷が随伴するもので、生産という役割とは全く無縁ですから、固定資産の様に見えても、やっぱり消費物資でしかないはずです。そういう意味で、以前は消費物資に分類されていたのでしょう。

理論的には、やっぱりその方が正しいと思うのですが、第二次大戦後、平和が長く続き、いわゆる兵器がが破壊活動に従事することが少なくなって、折角カネをかけて作ったのだから固定資産にして経済建設に役立つと区分してもいいのでは、といった気持が湧いてきたのでしょうか。記念建造物や装飾品並みという事でしょうか。

更には核弾頭の様に、使ったら大変ですが、「持っているだけで」核戦争の抑止力になるから、平和維持に役立っているという理屈も生まれるのかもしれません。

然し使うと必ず巨大な破壊をもたらすことが明白なものですから、そう言ってもあまりまともな議論には聞こえません。

今の岸田内閣の政策のなかでは、この2つの、投資のように見えて消費でしかないものと、消費のよう見えて実は最大の投資であるという2つのものが、限られた予算の分捕り合戦をやっているという様相です。

国会で議論する先生方も、国民の皆様方も、この問題、一体どんな風にお考えなのでしょうか。

1-3月期GDP上方改定の中身

2023年06月09日 14時34分08秒 | 経済
昨6月8日、内閣府から今年、2023年1-3月のGDP第2次速報が発表になりました。

第1次速報(5月)では、対前期比の実質成長率は0.4%で年率換算1.6%でしたが、第2次速報では前期比0.7%の成長と大幅に高まって、年率換算では2.7%という事になり、政府も大喜びで発表することが出たという事でしょう。

昨年来のGDPの四半期別速報を、このブログでも毎回取り上げていますが、昨年来の傾向として見えて来ているのが個人消費の伸びが堅調になって来ているということです。

長い間日本経済は消費不振で成長しないと言われてきましたが、昨年からは様子が変わって来ています。

この傾向は、今年の1-3月にも続いているようで、このブログでもやっと日本経済も個人消費と企業設備投資の両肺健全化で成長軌道に乗るのではと予測しているところです。

ところで、1-3月の2次速報が一次速報から何が違って上方修正されたかという点を瞥見しておこうというのが今日の目的です。

経済活動をGDPの需要面から見れば、「内需」と「外需」から成り立っていますが、この所の貿易赤字続きからも解ります様に外需はマイナスで、内需が支えています。

第1次速報では、国内需要が0.7%の伸び(以下対前期)、海外需要が‐0.3%の落ち込みで差引き0.4%のプラス、年率換算1.6%(0.4%増の4乗)です。
第2次速報では外需-0.3%は変わらず、内需が1.0%になって計0.7%、年率換算2.7%の成長です。

では、0.7%の成長から1.0%の成長に押し上げたのは何かと見てみます。
動いている項目を見ますと、家計最終消費支出が0.6%から0.5%に下がっています。
第1次速報では入っていない3月に入ってからの消費が伸びなかったという事でしょう。

民間住宅は第1次の0.2%増から-0.1%に落ちています。マンション建設の減速でしょうか。

一方、民間企業設備は0.9%増から1.4%増に伸びています。これは法人企業統計季報が出て実態が解るという事で、企業活動の活発化の結果でしょう。
今回のGDPの大幅改定も企業の設備投資が予想より活発だったことが主因ということが見えてきます。

些か気になるのは企業設備の伸びの改定が(多分)在庫品増加を含む数字になっており、設備投資より在庫品増加が国内需要の増加に寄与しているとみられる点です。
GDP増加1%の寄与度の計算では設備投資の寄与度は0.2で変わらず、民間在庫の寄与度が第1次の0.1ポイントから第2次速報では0.4ポイントに増加しています。

以上は民間部門で、公的需要は第1次の0.4%増から0.3%増に下がっていますが、民間経済活動が活発になれば政府が引っ込むのは自然でしょう。

最後に消費需要で気になることは、3月に入っての消費支出が伸び悩んだことで、この原因として消費者物価の上昇が、生活必需品(光熱費も含む)で5%から10%に近づき、その騰勢が衰えないという問題です。

公共料金も含めて、家計の圧迫になるような値上げをさらに続けることは、折角の消費需要の回復をを阻害するレベルになっていると思われます。

ここまで消費者物価が上昇した段階では、改めて経営を値上げ依存で考えることは控え、生産性向上で収益を上げる方向への経営マインドの転換が必要な時期に入って来ていると考えるべきではないでしょうか。消費者物価上昇に警鐘が必要でしょう。