司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

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指名委員会等設置会社等における本店移転に関する事項の決定の委任

2024-07-04 09:51:50 | 会社法(改正商法等)
 指名委員会等設置会社の取締役会は,その決議によって,指名委員会等設置会社の業務執行の決定を執行役に委任することができる(会社法第416条第4項本文)。

会社法
 (指名委員会等設置会社の取締役会の権限)
第416条 指名委員会等設置会社の取締役会は、第三百六十二条の規定にかかわらず、次に掲げる職務を行う。
 一 次に掲げる事項その他指名委員会等設置会社の業務執行の決定
  イ 経営の基本方針
  ロ 監査委員会の職務の執行のため必要なものとして法務省令で定める事項
  ハ 執行役が二人以上ある場合における執行役の職務の分掌及び指揮命令の関係その他の執行役相互の関係に関する事項
  ニ 次条第二項の規定による取締役会の招集の請求を受ける取締役
  ホ 執行役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
 二 執行役等の職務の執行の監督
2 指名委員会等設置会社の取締役会は、前項第一号イからホまでに掲げる事項を決定しなければならない。
3 指名委員会等設置会社の取締役会は、第一項各号に掲げる職務の執行を取締役に委任することができない。
4 指名委員会等設置会社の取締役会は、その決議によって、指名委員会等設置会社の業務執行の決定を執行役に委任することができる。ただし、次に掲げる事項については、この限りでない。
 一~二十四 【略】

 監査等委員会設置会社は,取締役会の決議によって重要な業務執行(会社法第399条の13第5項各号に掲げる事項を除く。)の決定の全部又は一部を取締役に委任することができる旨を定款で定めることができる(同条第6項)。また,監査等委員会設置会社の取締役の過半数が社外取締役である場合には,当該監査等委員会設置会社の取締役会は,その決議によって,重要な業務執行の決定を取締役に委任することができる(同条第5項本文)。

 (監査等委員会設置会社の取締役会の権限)
第三百九十九条の十三 監査等委員会設置会社の取締役会は、第三百六十二条の規定にかかわらず、次に掲げる職務を行う。
 一 次に掲げる事項その他監査等委員会設置会社の業務執行の決定
  イ 経営の基本方針
  ロ 監査等委員会の職務の執行のため必要なものとして法務省令で定める事項
  ハ 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
 二 取締役の職務の執行の監督
 三 代表取締役の選定及び解職
2 監査等委員会設置会社の取締役会は、前項第一号イからハまでに掲げる事項を決定しなければならない。
3 監査等委員会設置会社の取締役会は、取締役(監査等委員である取締役を除く。)の中から代表取締役を選定しなければならない。
4 監査等委員会設置会社の取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
 一 重要な財産の処分及び譲受け
 二 多額の借財
 三 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
 四 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
 五 第六百七十六条第一号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項
 六 第四百二十六条第一項の規定による定款の定めに基づく第四百二十三条第一項の責任の免除
5 前項の規定にかかわらず、監査等委員会設置会社の取締役の過半数が社外取締役である場合には、当該監査等委員会設置会社の取締役会は、その決議によって、重要な業務執行の決定を取締役に委任することができる。ただし、次に掲げる事項については、この限りでない。
 一~二十二 【略】
6 前二項の規定にかかわらず、監査等委員会設置会社は、取締役会の決議によって重要な業務執行(前項各号に掲げる事項を除く。)の決定の全部又は一部を取締役に委任することができる旨を定款で定めることができる。

 ところで,指名委員会等設置会社は,例えば本店移転に関する事項の決定を,執行役に委任することができるか。すなわち,本店移転による変更の登記の申請書の添付書面として,取締役会議事録ではなく,執行役の決定書でよいか。

 また,監査等委員会設置会社においても,本店移転に関する事項の決定を,特定の取締役に委任することができるか。すなわち,本店移転による変更の登記の申請書の添付書面として,取締役会議事録ではなく,例えば代表取締役の決定書でよいか。

 この点,

1.会社法上,本店移転に関する事項の決定について,取締役会の決議事項である旨の明文の定めはない。

2.登記実務において取締役会の決議事項として取り扱われているのは,会社法第362条第4項第4号の「重要な組織の変更」に該当すると考えられているからである(松井信憲「商業登記ハンドブック(第4版)」(商事法務)190頁)。

3.指名委員会等設置会社においては,取締役会は,「重要な組織の設置等」(会社法第362条第4項第4号)の決定を執行役に委任することができる(江頭憲治郎「株式会社法(第9版)」(有斐閣)589頁)。また,監査等委員会設置会社においても,一定の要件(会社法第399条の13第5項,第6項)を満たせば,取締役会は,この決定を特定の取締役に委任することができる(同書617頁)。

と考えられる。

 この点,余り参考文献は見当たらないが,わずかに,「事例式 商業登記申請マニュアル」(新日本法規)に,

「一般的には、指名委員会等設置会社においては執行役らの決議若しくは執行役の決定により・・・・・具体的な本店の所在場所及び移転時期を決定している。」(296ノ6頁)

「指名委員会等設置会社の場合には、執行役らによって具体的な本店移転場所及び本店移転日を決定することとなるので、その場合には執行役らの決定を証する書面(形式としては、執行役会議の議事録となると解される。)の添付を要する。」(297頁)

という記述が見られる。

 というわけで,

1.指名委員会等設置会社は,例えば本店移転に関する事項の決定を,執行役に委任することができ,この場合,本店移転による変更の登記の申請書の添付書面としては,取締役会議事録ではなく,執行役の決定書でよい。

2.また,監査等委員会設置会社においても,本店移転に関する事項の決定を,特定の取締役に委任することができ,この場合,本店移転による変更の登記の申請書の添付書面としては,取締役会議事録ではなく,例えば代表取締役の決定書でよい。

と考えてよいであろう。

 実際のところ,取締役会で決定され,登記の申請書の添付書面は,取締役会議事録であることが多いようであるが。
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