0.問題意識
破産手続が終了した株式会社に財産が残存する場合,会社法第478条第1項第1号の規定によって,取締役が清算人に就任する場合があるか。破産手続が終了して,しばらく経ってから財産が発見されたような場合(例えば,休眠抵当権の抹消を企図したところ,当該抵当権者が破産手続開始決定を受け,当該破産手続が終了していた場合)は,どうか。
ある筋から指摘を受けて,びっくり。当初は,肯定せざるを得ないのではないかとも考えたが,熟慮の結果,以下のように,やはり否定すべきであると考える次第。
1.会社法が定める清算の手続
株式会社が同時廃止(破産法第216条第1項)等によって破産手続が終了した後,当該株式会社に財産が残存する場合には,その後の手続は,会社法が定める清算の手続による(会社法第475条第1号)。
2.株式会社の破産手続の開始と取締役との委任関係
平成17年改正前商法下においては,「この場合の清算人は,委任者たる会社の破産により委任契約が終了したこととなっている解散前の取締役がその地位に就任するのではなく,会社法478条1項2号または3号(※平成17年改正前商法第417条第1項第2号又は第3号)のいずれかの規定によって定めることとなる(最判昭和43年3月15日民集22巻3号625頁)」(相澤哲編著「立案担当者による新・会社法の解説」(商事法務)144頁)と解されていた。
cf. 最判昭和43年3月15日民集22巻3号625頁
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=54066&hanreiKbn=02
しかし,近時の最高裁の判例においては,「会社につき破産手続開始の決定がされても直ちには会社と取締役又は監査役との委任関係は終了するものではないから,破産手続開始当時の取締役らは,破産手続開始によりその地位を当然には失わず,会社組織に係る行為等については取締役らとしての権限を行使し得ると解するのが相当である(最高裁平成12年(受)第56号同16年6月10日第一小法廷判決・民集58巻5号1178頁参照)。」と解されている。
cf.
平成21年4月21日付け「株主総会決議不存在確認の訴えの係属中における破産手続開始の決定」
したがって,破産手続が終了した株式会社に財産が残存する場合における会社法下の清算手続においては,会社法第478条第1項第1号の規定によって清算人が就任することもあり得るのではないかとの疑問が生ずるが・・・。
昭和43年3月15日判決と平成16年6月10日判決等は,一見矛盾するようであるが,会社の代表機関の果たすべき職務として,会社の財産管理に関する職務とそれ以外の職務とを峻別したものと理解されている(瀬戸英夫・山本和彦編「倒産判例インデックス」(商事法務)287頁)。
この理解に従えば,破産手続の開始によって財産の管理処分権を奪われていた取締役に対して,破産手続が終結したからといって,権限を復せしめるのは妥当ではないから,会社法第478条第1項第1号の規定によって取締役が清算人に就任することは,否定すべきであろう。
よって,以下のように解することになるのであろう。
3.同時破産廃止の場合
上述のとおり,同時破産廃止(破産法第216条第1項)の場合に,残余の財産が存するときは,会社法が定める清算手続に入る。したがって,取締役は,退任する(会社法第477条第6項)ことになるが,この場合の清算人は,最高裁昭和43年3月15日判決のとおり,従前の取締役が清算人に就任するのではなく,会社法第478条第1項第2号又は第3号のいずれかの規定によって定めることとなる。
4.異時破産廃止の場合
異時破産廃止(破産法第217条第1項前段)の場合,破産手続開始決定時点では,取締役は当然には退任しない。しかし,財産の管理処分権は破産管財人に専属し,取締役は,会社組織に係る行為等について権限を行使し得るのみである。
cf. 最高裁平成16年6月10日第2小法廷判決
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=52298&hanreiKbn=02
したがって,破産財団から放棄された財産を目的とする別除権につき,別除権者が破産者の破産手続開始決定当時の代表取締役に対してした別除権放棄の意思表示は,これを有効とみるべき特段の事情の存しない限り,無効である。
cf. 最高裁平成16年10月1日第2小法廷決定
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=62619&hanreiKbn=02
破産手続中であっても,清算人を選任することは可能であると考えられている(東京地方裁判所商事研究会編「類型別会社非訟」(商事法務)48頁)。
その後,破産手続が終結したものの残余財産が存するとき,会社法が定める清算手続に入り,取締役は,退任する(会社法第477条第6項)ことになるが,この場合の清算人は,最高裁昭和43年3月15日判決のとおり,従前の取締役が清算人に就任するのではなく,会社法第478条第1項第2号又は第3号のいずれかの規定によって定めることとなる。
5.平成17年改正前商法下における破産の場合
破産手続が終了して,しばらく経ってから財産が発見されたような場合も,会社法が定める清算手続に入るのであり,会社法第478条第1項第2号又は第3号の規定によって清算人を選任することになるが,平成17年改正前商法下において破産手続が終了していた株式会社について,当該株式会社の財産が発見された場合は,どうか?
この場合,「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(平成17年法律第87号)第108条本文により,「施行日前に生じた旧商法第404条各号に掲げる事由により旧株式会社が解散した場合における新株式会社の継続及び清算については,なお従前の例による」ものとされている。
したがって,清算人の選任についても,「なお従前の例のよる」ことになるが,従前は,前述の最高裁判例(最判昭和43年3月15日民集22巻3号625頁)に従って,実務上の取扱いがされていた。
よって,この場合の清算人は,平成17年改正前商法第417条第1項第2号又は第3号のいずれかの規定によって定めることとなる。
6.裁判所への清算人選任の申立て
清算人の選任を裁判所に申し立てることができる旨の規定(会社法第478条第2項)があるが,いきなり同項の選任の申立てによるのではなく,同条第1項第2号又は第3号の規定により清算人が定まらない場合に限って,裁判所への選任申立てが認められるという点は,留意すべきである。
すなわち,株主総会を招集すればその決議によって清算人を選任できる見込みがある場合には,清算人の選任申立てではなく,仮清算人の選任申立てをすることが適当である(前掲「類型別会社非訟」47頁)。
平成17年改正前商法下において破産手続が終了していた株式会社に関する手続も同様である。