Altered Notes

Something New.

音楽を蔑ろにするアイドルという存在

2019-06-10 16:16:00 | 音楽
ほとんどの場合、アイドルと呼ばれる人々は歌のCDを出したり配信したりする。歌なのだから音楽である。音楽だからたくさん売れたり、曲の出来具合が評価されたりすると著名な音楽賞を受賞することもある。・・・にも関わらず、歌手でもある筈のアイドルたちからは曲の音楽面(*1)に対する話は聞かれない。アイドル達が自分達が歌っている曲が音楽的にどうなのかについて話をしているところを寡聞にして聞いたことがない。

アイドルが自分達の曲について話す時の切り口は下記のように2つある。


1.歌詞
一つは歌詞である。四十八とか坂道にまつわるグループの場合は総帥が作詞家なので歌詞を褒め称えるのは必須行事でもあろう。歌だから歌詞を語ることは決して不自然なことではない。しかし”歌詞は音楽ではない”。歌詞を語ってもその曲の音楽面を語ったことにはならない。

アイドルにとって歌唱していて特に印象的な歌詞や言葉のフレーズというものはあるだろう。そしてその歌詞が脳裏に浮かぶ時にはその歌詞に付随したメロディーや和音、そしてリズムも頭の中では再生されていることだろう。しかしアイドルはその印象的な旋律・和音・リズムを今ひとつ意識化できず、音楽それ自体を語る”言葉”を持っていない。だから音楽について話すことができないのだ。譜面も読めない子がほとんどであり、実際のレコーディング時には「仮歌」と呼ばれる「譜面が読める歌手が予め歌って録音したもの」を聴いて曲を覚える。その後にアイドルが歌ってレコーディングする。実に情けない。


2.ダンス/舞踊
もう一つはダンス(舞踊)である。
アイドル達の発言を聞いていると「この曲を踊れて嬉しいです」「あの曲を踊ってみたいです」等々。また「○○先生(振付師)の振りが格好良いけどとても難しかったです」「この曲のこの部分の振りが大変で…」といった発言も聞かれるが、要するにアイドルにとっては曲というのは”ダンスを踊る為の対象素材”という認識しかないようである。逆にその曲の音楽面についてアイドルが真剣に(歌手として、音楽家として)語っている場面を見たことがない。

アイドルは明確に「曲を踊る」とは言うのだが、「曲を歌う」とは言わない。アイドルにとって曲は「踊る」ものであって「歌う」ものではないのだ。意識の持ち方が既に明後日の方向を向いている。

実際、”△△史上、最高難度の振り付け”という触れ込みで新曲が発表されたりするのだが、そんな最高難度の舞踊をこなしていたら、とてもじゃないが歌を歌として音楽的に歌い上げるところまで神経は回らないだろうし回る訳がない。(*2) 事実、だからこそ音楽番組に出演する時でもアイドル達が集中するのは舞踊のことであって音楽(歌)ではない。その証拠に当たり前のように口パクでパフォーマンスするのである。音楽を聴かせる番組においてはオーディエンスに対してこんな失礼なことはないだろう。また、”最高難度の振り”を押し出すことはあっても”音楽的な特徴”を押し出すことは極めて稀であり、事実上「無い」と言っていい。

要するにアイドルにとって曲は舞踊を鑑賞してもらう為のツールでしかないのだ。その曲が音楽的にどのような成り立ちになっていて、どのように歌い上げて、どのような音楽的な特徴があるのか、といった音楽面への関心は皆無と言って過言ではない。また、アイドルグループのメンバーの中には酷い音痴で、とてもじゃないが歌でお金が取れるようなレベルにはない人物がごまんと在籍している。

アイドルにとっての「曲」が”聴かせるもの”ではなく”見せるもの”となっているのだ。それを裏付けるようにアイドルが売り出すCDにはほぼ必ずDVDが付いており、映像を楽しむ、つまり曲を視覚的に「見せる」方に重点が置かれていることが見て取れる。

これほど音楽することに無関心かつ低スキルな連中が歌のCDを売ってコンサートやTV番組で歌って、果ては音楽賞を受賞したりするのはとんでもないナンセンスと言えないだろうか。これだけ音楽を蔑ろにする姿勢を隠しもしない連中が音楽グループとして存在していること自体が音楽に対する冒涜に等しいのではないだろうか。

アイドル自身も己が音楽コンテンツに携わっている自覚は無さそうだし、そのように誘導しているのは仕掛け人であるプロデューサーである。例えば四十八関係・坂道関係の総帥は音楽知識はほぼゼロであり、音楽を語る言葉を持たない音楽プロデューサーである。音楽を単なるパズルのピース(部品)くらいにしか考えていない事は明らかだろう。これはこの御大から出てくる曲の多くは過去の有名曲の模倣であることが少なくないことでも判る。音楽的にクリエイトすることは始めから放棄しているのだ。「恥知らず」としか言いようのない所業である。プロデューサーが音楽の価値を完全に軽視しているのだから、その教え子でもあるアイドル達の認識も推して知るべしである。

こうして日本の音楽文化は破壊、そして雲散霧消の方向へ導かれるのだ。その意味で現在のアイドル文化の罪は計り知れないほど大きなものがある。



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(*1)
例えばその曲の旋律・和音・リズム・曲の音楽的構成・音楽的ルーツ・サウンド面の特徴、等々である。

(*2)
最高難度の振り付けを考案する振付師もまたアイドルは歌手でもあって曲をきちんと歌唱する必要がある事を忘れている。歌手が曲をきちんと歌唱できる余地を残した振り付けならばともかく、歌唱に神経が回らないほど難しい舞踊を押し付けるのは本末転倒である。