週刊浅草「江戸っ子瓦版」 -のんびりHiGH句な日々-

文学と食とRUNの日々を、PHOTO5・7・5で綴るエッセイ♪

【連載】異国を旅して -韓国篇1(鷺梁津水産市場)-

2017年01月22日 | 【連載】異国を旅して

 

【忘却の異国を胸に秋の朝】哲露


 職場の移籍を機に、再びの国を目指す。

 海外は11年前、前職占い本のバブル真っ盛り、社員旅行で行ったラスベガスが最後。

 そして、前回韓国を旅したのは、15年ほど前だったか。

 明洞の早朝、旨そうな匂いに誘われて入った韓国語だけのローカルの店。

 オムニの笑顔、優しいコムタンの味を鮮明に憶えている。

 後のことは大概忘れてしまったから、五感の中でも味覚、嗅覚というのは侮れない機能なんだと思う。

 12年勤めた会社とおさらば。

 新たに10年パスポートを手に入れた。

 束の間、神様からの休暇。





 成田へ向かう途中、同行するはずの友人からキャンセルの報。

 予期せぬ、ひとり旅に、ちょっぴり心細さを憶える。

 ええい、ままよと、限定恵比寿で乾杯。

 しばし、グッバイ、わが祖国よ。

 いざ、イムジン河の国へ。






 玉突きの滑走路を飛び立つ。

 霞ヶ浦を一望し、気流の安定しない千切れ雲を抜ける。

 果たしてそこは、眩いばかりの雲海。

 雲上の愉悦、久しぶりの海外。

 乱気流に機体は上昇下降を繰り返す。

 気弱が徐々に消え、かつての無鉄砲、突進ぶりが蘇り、胸の高ぶりが始まる。

 エジプトから陸路でイスラエルに向かった、あの感覚。

 不安より期待。

 旅が始まったのだ。


 


 空港であらかじめ、DLした簡易韓国語、ソウルの地下鉄MAP、翻訳アプリを眺める。

 アラフィフのメモリーは、すぐに機能しない。

 通路側に寝ていた女性が化粧を始めた。

 脱いだ靴の上に、マリオの靴下が載っている。まさか阿部さんのファンではあるまいな。

 イミグレーション用紙に記入するのに、その女の子にペンを借りる。

 機内では、韓国語、日本語のアナウンスがある。

 感覚を取り戻せ。





 空港から市街への直通列車に乗る。

 15年前にはなかった未来がそこにある。

 ソウル駅で乗り換え、東大門へ向かう。

 仁川空港で借りたwifiは、快調!

 現地の友人にLineで到着の旨を伝える。

 全く便利になったもんだ。






 地下をかなり歩き、宿泊ホテルの出口へ。

 帰宅ラッシュに遭った。

 不意に韓国の日常に飛び込んだ感覚が微妙に嬉しい。 





 ホテルでシャワーを浴びて、街へ出る。

 交差する駅近で待ち合わせした友人が連れてきてくれたのは、鷺梁津水産市場。

 巨大な海のマーケットは、新旧入り混じり、どこまでも続く。

 ベテランとニューフェイスが隣り合わせの市場ビルを歩くと、築地の移転を連想してしまう。

 昭和のおっさんは、歴史を感じる旧市場に惹かれた。






 大きな水槽から海が溢れ、宇宙人のような生ダコのえぐい迫力に視覚を奪われる。

 いやー、食好き、料理好きはいつまで見ても飽きないね。

 大小の魚をアレソレと、売り場のおっちゃん、おばちゃんと会話を楽しむ。

 大ぶりの生牡蠣、生ダコ、アイナメを一尾買う。

 ここで買った海の幸を、切り分け、調理して、二階の食堂で味わえるのだ。







 二人では多すぎる牡蠣、山盛りの丸ごと一尾のアイナメの刺身、踊る生ダコ。

 醤油わさびもあるが、韓国流に、辛子味噌が通っぽい。

 Hiteビールで喉を潤し、ソウルでの再会に乾杯す。

 市場の喧騒以上に、食堂のサラリーマンたちの咆哮がすごい。

 呑んべえは、万国共通、新橋と変わらんね。






 この国で嬉しいのが、どこでも付け合せのキムチがサービスなことだ。

 そう考えると、日本の居酒屋でも、漬物サービスが欲しい。

 ノロなどなんのその、海のミルクたっぷりの生牡蠣にかぶりつく。

 舌に吸い付く生ダコの吸盤、捌きたての白身の新鮮に酔う。

 これに甘すぎない微炭酸のマッコリがよく合うのだ。 





 マッコリに飽きたころ、合成酒のチャミスルに。

 やはりあっしは、甘味の入らない酒が好ましい。

 けだし、郷に入れば郷に従え。

 へえ、心得ておりやす。





 さすが市場だけにアラも無駄にしない。

 ほっちゃる骨、頭を入れたアイナメ鍋で、脳が停止するほどお腹がいっぱいに。

 その辛いスープをメウンタンという。

 酔い覚ましに、夜の街をぶらつく。

 東京の治安の良さはよく言われるが、一見隠微に見えるこのあたりも平和そのものだ。







 結局、呑んべはダメね。

 夜灯りにつられ、今、韓国で人気という店へ。

 あんだけ飲み食いして、二次会は揚げたチキンで飲むという。

 韓国人のタフさに悲鳴をあげつつ、今度はCASSという銘柄のビールへ突入す。

 なるほど、見た目よりあっさりした胸肉のスパイスに、酒が進むのね。

 財布に優しい韓国の食材、訪韓初日にすっかりハマった。

 夜は更ける。





 ホテルに戻る道すがら、街のイルミネーションが美しい。

 眠らない街、ソウル。

 明日からどんな出会いが待っているだろう。

 ホテルのTVに、韓流スターのドラマやバラエティーが流れる。

 ハングルをBGMに、沢木耕太郎の深夜特急を読む。

 アンニョハセヨ、ソウル。

 再会に乾杯!

 韓国の旅はまだ続く。