彦四郎の中国生活

中国滞在記

武漢視察を予定のWHO調査団、いまだ中国入国できず—デドロス事務局長「失望」を表明、中国側は‥

2021-01-10 19:58:49 | 滞在記

   12月7日付朝日新聞の一面・二面は「ウイルス潜む山"危険だ"―中国コロナ 中国・雲南で起源探る」と題された記事だった。「コロナ解明 高い壁―コウモリ由来? 科学者注目―他動物の"可能性"見方も―ヒトに近い感染源 焦点」「ウイルス巡り国際対立」などの見出し、中見出し記事も。(取材記事執筆者 野口憲太)

 2003年~2004年の「SARSウイルス」、2012年~2013年の「MARSウイルス」、そして今回の「新型コロナウイルス」。「SARS」と「MARS」はいずれもコウモリが自然宿主であり、中間宿主はそれぞれ「ハクビシン」、「ヒトコブラクダ」から「ヒト」への感染。そして「ヒトからヒト」へということが判明している。2013年、中国国家科学院武漢ウイルス研究所(中国国家科学院病毒研究所)のチームは2003年に中国を襲ったSARS(重症急性呼吸器症候群)の起源を探りに中国雲南省の省都・昆明から南西方向に山道を約300kmの銅鉱山内の坑道に向かった。2012年に付近でSARSの症状を彷彿させる思い呼吸器障害に陥った人が続出したからだ。

 現地に赴いた研究員らは4年間をかけて銅鉱山坑内から約1300の検体を採取し、239種のコロナウイルスを検出した。今回の新型コロナウイルスの蔓延を受け、その遺伝子とそれらのデーターを突き合せたところ、最も近い存在として浮かんだのが「RaTG13」だった。(「Ra」はコウモリの一種、「13」は2013年に採取されたことを意味する。)

   この武漢ウイルス研究所チームのリーダーが、その後、「バットウーマン」とか「コウモリ女」との異名を学会でもつ石正麗研究員だった。研究員たちは銅山近郊の村々の洞窟や村々の人たちの血液調査による検体なども調査研究した。そして2018年に、「住民がコウモリと日常的に接触する村の状況などから、ウイルスがコウモリから直接にヒトに感染した可能性も指摘した」論文が発表された。「SARS」の起源は「コウモリ」として研究成果は学会の定説となり、石研究員は2019年には米国の微生物学アカデミーの会員にも選ばれた。

 今回の新型コロナウイルスの起源の「自然界宿主」や「中間宿主」は、その真相はもうすでに中国政府によって判明している可能性はあるが、いまだ世界に発表されてはいない。このため、新型コロナウイルス感染が始まったとされる「華南海鮮市場」からもほど近い(16km)  国家科学院武漢ウイルス研究所からの新型コロナウイルスの事故的流出も疑われて1年近くが経過してきている。

 昨年の9月11日、米国ニューヨークポストや英国メトロなどの外信によると、中国出身のウイルス学者の閻麗夢(yan limeng)博士は、英国のTV番組にビデオインタビューに出演して、新型コロナウイルスが武漢の実験室でつくられたという科学的証拠について「中国疾病預防控制中心(中国CDC)と現地の医者から得た」と明らかにした。閻博士は香港大学に在職していたが、身辺に脅威を感じ、昨年の4月に米国に亡命してしている状態だ。

 彼女は「夫は私が米国に逃避したことで非常に腹を立てている」としたうえで、「もし、中国でこの事実を暴露したら、私は殺害されただろう」と話した。また、このことを世界に暴露する理由について、「世の中に対して真実を語らなければ自分が後悔することを知っているから」と話した。そして、「ウイルスの起源を知ることは大変重要で、もしわれわれがそれを克服できなければ、それはすべての人々の生命を脅かすだろう」ともTVインタビューで語った。

 英国フィナンシャル・タイムズの記事によると、2015年、科学誌『ネイチャー』は、「中国科学院武漢ウイルス研究所がつくった人工ウイルスの流失の危険性」を指摘する記事を掲載してたようだ。

 また、華南理工大学(中国広東省広州)の生物学部門の肖波濤教授は、昨年の2月6日に、ドイツに本部のある研究者向けサイト「リサーチゲート」に、「新型コロナウイルスの考えられる原因」と題した論文を投稿。華南海鮮市場からわずか約280mにある「武漢市疾病予防コントロールセンター(武漢市疾病預防控制中心)・中国CDC)」の実験室で、コウモリ(600匹)を含む実験動物の飼育の状況について述べ、こうした動物の糞や汚染されたゴミが外部に漏れ、最初の患者に感染したと考えるのが「妥当だ」との見解を出している。(この投稿を肖氏はすぐに撤回した。そして2月下旬、肖氏が米国メディアに対し「発表済みの論文や報道を基にした推測で、直接の根拠はない」と投稿論文を撤回した理由を釈明している。さまざまな国家当局からの肖氏への圧力もあったのではないかと推測もされている。)

 世界的パンデミックとなった新型コロナウイルス感染の状況下、中国政府は国内のメディアを使って、「新型コロナの起源は中国」との見方を否定する情報を主張し続けている。新型ウイルスは2019年12月上旬に武漢の海鮮市場で確認されたが、それより前に海外に存在していたとする主張だ。昨年11月25日、中国共産党機関紙の「人民日報」が、「新型コロナ感染症の始まりは武漢ではなかった。輸入された冷凍食品に由来しているのではないか」とする専門家の見解を掲載した。

 2014年頃から中国国内ではインターネット規制が急激に規制され始めた。この年に中国政府は国務院直属の政府機関「国家インターネット情報弁公室」(CAC)を新設している。そして、各省に支部を設けた。各種インターネットを制御しながら、「コロナの発生源は国外」で中国も被害者という世論を形成してきている。

 WHOが「世界的パンデミック」とようやく発表してから数か月後の昨年の夏に、WHOは調査団を中国に派遣した。しかし、この調査団はほとんど「訪問しましたよ」という単なる形式的なもので、新型コロナ感染が広まった武漢にも行くことは中国政府は認めなかった。その後、中国政府は新たな調査団の受け入れをせず、半年あまりが経過した。  —「いまだにWHOの調査受け入れず」と12月12日付の「夕刊フジ」は伝えていた。また、WHOで緊急事態対応を統括するマイク・ライアン氏が11月末、ウイルスの起源が中国国外だとする説を「相当な憶測だ」と否定する声明を出している。

 そしてようやく、中国政府は12月中旬になり「WHOの調査」の受け入れを認めこととなり、12月16日に「国際調査団の1月上旬派遣」をWHOは明らかにした。このWHO調査団は15人で構成され、ほぼ同じ人数の中国側の専門家と協力して調査を行うという。今回の調査団は武漢市にも入ることを希望しており、「華南海鮮市場」での調査も行いたいという。

 このWHO調査団の一員であるドワイヤー教授(オーストラリア・シドニー大学のウイルス学専門家)は、12月23日、日本のJNNのインタビューに、「1月4日に中国に向けて出発したいと思っています。まず、北京に行き、隔離の後、武漢に行くのだと思います。初期の感染者に興味がありますが、武漢が感染の起源とは限りません。」と答えていた。

 この調査団を率いるベンエンバレク博士(デンマーク・WHOの動物由来の感染症専門家で19年間WHOに勤務中。2010年前後に2年間、中国で勤務。)は、1月3日、「(中国・雲南省で)新型コロナウイルスと似たようなグループに属するウイルスが、コウモリから不自然な量、発見されている」として、新型ウイルスがコウモリの集団から発生した可能性があるとの考えを示した。その上で、ウイルスがどのようにヒトにうつったのかのかを解明するため、最初の感染が確認された武漢の海鮮市場で、ウイルスが持ちこまれた原因などを調べる方針を明らかにした。また、最近、武漢ではなく"イタリア起源説"が言われ始めていることについて、「新型コロナと近いウイルスが雲南省で発見されていることから、中国で発生したとみるのが最も論理的だ」と語った。(※インド・バングラデシュが起源だとする論文なども、11月中旬に中国の研究チームから研究結果が報告されてもいる。)

 武漢での新型コロナの発生時期と感染者数については、中国当局と香港メディア(サウスチャイナ・モーニングポスト)の報道とは「①最初の感染者が発症した時期」②「武漢市が12月31日までに確認した感染者数」の二つで食い違っている。まず、①感染症発症の時期は中国当局は「12月8日」、香港メディア「11月17日」、次に②感染者数は中国当局「27人」、香港メディアは「266人」。

 いずれにしても、初めての0号患者の発生から13カ月以上も経過した今、WHOの調査団が武漢の海鮮市場に行ったとしても、なかなかその調査で「武漢が発生源」という痕跡を見つけることはほぼ難しいだろうとは思われる。証言者の聞き取りも含めて、中国政府側は万全の対応をとってくるだろうと思われるからだ。「中国起源」が科学的証拠が見つからなければ、中国政府はこのことを内外にアピールしていくだろう。また、イタリアやインドなどてのWHOの調査も要求していくかもしれない。

 調査解明にとって最も重要な人物と目される中国科学院武漢ウイルス研究所の中心的な研究員である石正麗研究員がこの調査団の中国側専門家として入っているという情報はない。また、WHO調査団員と彼女との調査交流・意見交換もされないかとも思われる。

    石正麗研究員は、武漢での感染拡大後、数カ月間行方不明となっていた。(消息不明となり海外逃亡説も一時ささやかれた。) そして、5月下旬に開催された「全国人民代表者大会」(全人代)の開催期間中に、テレビ出演し、「私は中国で元気にしている」と国民の前に姿を見せて答えた。

 石研究員ほどではないが、この武漢ウイルス研究所の王延軼所長(39歳)も、起源解明には重要な人物だ。「なぜこんなに研究実績もほとんどない若い女性が、この著名な研究所の所長になれたのか?謎がささやかれる美人すぎる所長」と言われる王所長。彼女も石氏と同じ日に中国のテレビに突如出演し、「アメリカの主張(武漢ウイルス研究所からのウイルス流出)は完全な捏造(ねつぞう)だ」と全国民に語った。

 WHO調査団は、武漢の海鮮市場に行きたいということは表明しているが、武漢ウイルス研究所や市場と至近距離の武漢防疫予防センターに行くのかどうかは、分かっていない。おそらく中国側はこれは認めないのではないかと推測もされる。

  1月7日付の「夕刊フジ」に「デドロス激高―習 中国起源を隠蔽か」という見出し記事が掲載されていた。世界保健機構(WHO)による国際調査団の入国を、1月5日になっても許可しないという状況が発生しているという。「中国ベッタリ」と揶揄(やゆ)され、国際的にも批判の多いWHOのデドロス事務局長が「大変失望している」と中国を批判する事態となっている。

  WHOは、日本を含めた各国の専門家による調査団(15人ほど)を今月第1週に中国に派遣すると昨年12月中旬すぎにに発表した。各団員は今月4日~5日に中国に向けて出発し、中国国内で隔離期間を経て、新型コロナの感染源となった湖北省武漢市に入る予定をしていた。ところが、デドロス事務局長は5日の記者会見で、中国当局が国際調査団の入国に必要な許可を出していないことがこの日に判明したとして、冒頭の批判を口にした。デドロス氏が中国の対応を批判するのは極めて異例だ。

 WHOによると、調査団のメンバーのうち2人はすでに出国したが1人は引き返すこととなり、1人は経由地に留まっている。他の団員も自国を出る前に、渡航できなくなっているという。

 このような事態に対し、1月6日、中国外交部の報道局長である華春瑩氏は、「査証(ビザ)の問題だけではない。専門家班の訪問の具体的な日付と細部の調整を巡り協議が続いている。ウイルスの起源追求の問題は非常に複雑だ。中国における国際専門家班の作業が円滑に進むよう、我々は必要な手続きを踏み、関連する手配をしなければならない。専門家班の訪中に向けて好条件を整えるため、全力を尽くしている」と述べた。

   そして、8日には、中国政府の国務院に所属する「国家保健衛生委員会(日本の厚労省に相当)」は、「国際調査団を中国は歓迎する」との声明をおこなった。しかし、具体的に受け入れ日程についての説明はなかった。なぜ受け入れを突然、延期させているのか? 1月3日にWHO側調査団を引率するベンエンバレク博士の会見コメントなども影響しているのかもしれない。