読売新聞8月24日付の「中国新指導部チャイナセブン」リストの報道が仮に事実だとしたら、「習近平派と胡錦濤派」が協力して「江沢民派(上海閥)」を追い落としたと言える。現在のチャイナセブンでは、序列3位の「張徳江」氏がいる。彼は上海閥であり、北朝鮮との関係のトップである。つまり、北朝鮮と中国をつなぐパイプ役である。読売報道リストには、彼に代わる「上海閥」が新チャイナセブンには一人も入っていない。ということは、中国と北朝鮮が、いわゆる経済的な利益関係で繋がろうという指導部メンバーを除外していることを意味する。今後の中国と北朝鮮関係が変化するであろうということを人事面から多少読み取ることができる。2012年秋の党大会「新チャイナセブン」では、江沢民派が複数入っていたが、今回の読売報道では0である。
王岐山氏に関しては、留任となるかどうかまだ予断を許せないが、彼を巡っては、中国本土からアメリカに逃亡した大富豪の郭文貴氏が、米国営放送のVOAに何度も出演しては、中国共産党のスキャンダルを暴露しており、最近では王岐山氏に関するさまざまな問題を舌鋒鋭く追及している。その真偽は不明だが、腐敗追放キャンペーンの旗振り役を務めていただけに留任が難しくなってきている可能性もある。留任も視野にいれていたとされる習近平氏が、長老たちとの「妥協案」として、「王岐山引退」のカードを切った可能性もある。その見返りに、浙江省時代の側近「陳敏爾」氏を、2段階昇格で最高指導部入りさせたという見立も可能だ。(左より5番目の写真が王氏)
ポスト習近平に近いととりざたされていたのが、前・重慶市委員会書記(トップ)の孫政才氏であったが、最近、失脚をさせられていて、彼の妻に関する汚職等の疑いで取り調べを受けている。2012年の薄煕来氏の逮捕・失脚とよく似ている構図でもある。もう一人のポスト習近平にとりざたされていた広東省委員会書記(トップ)の胡春華氏はリストに入っている。(左より6番目が孫氏)
今回、読売報道による「新チャイナセブン」リストの氏名や新役職などは次の通りとなっていた。
1、習近平(留任) 64才(党総書記・国家主席・中央軍事委員会主席) 2、李克強(留任) 62才(国務院総理)―胡錦濤派 3、汪洋 62才(全人代常務委員長)―胡錦濤派 [上記の写真で左から2番目] 4、胡春華 54才(副首相)―胡錦濤派[上記の写真で左から3番目] 5、韓正 63才(人民政治協商会議主席)―習近平派[上記の写真で左から4番目] 6、栗戦書 67才(中央規律検査委書記)―習近平派[上記写真で左から5番目] 7、陳敏爾 56才(宣伝・イデオロギー担当) ―習近平派[上記写真で左から6番目] ※「3、〜7、」の数字は序列を示すものではない。
読売リストの6番目にある「栗戦書」氏(党中央弁公庁主任)は、習氏とロシアのプーチン大統領との特別な関係を、ここ数年間下支えをしてきた人物といわれている。第二期習政権らとっても、プーチン氏との関係をより一層深めることが「政権」の命綱と考えている人事なのかもしれない。また、リストの3番目に入っている「汪洋」氏(副首相)は、米国対応の要となると目されている。
◆ この読売の記事に関して、杉野光男氏(東洋証券 主席エコノミスト)は次のように指摘している。
読売新聞の「新チャイナセブンリスト」の記事は、今 世界を駆け巡っている。こんな記事を書いて、読売は大丈夫かな?と このスクープを読んだ人々は多いかもしれない。読売はリスクヘッジとして、「リストの最終的な顔ぶれも含め、党大会まで駆け引きが続くものとみられている」と記事の一文に書き ある種の逃げも打っている。どこの国でも「新指導部人事」に関する情報は手に入りにくい。-----この最高指導部リストが、習派、もしくは反習派が意図的に流した観測気球の可能性だって大いにある。
中国人は政治の噂が大好きだが、うっかりスマホでチャットしたら、ネット警察に補導される可能性がある。だから暗号符丁を使った会話が増えている。以下はその実例。党人事を企業人事に見立てている。
①7席変5席=定員7名から5名に ②理事長3、和諧団1、蛤蛤1=理事長(習派3席)、和諧団(胡錦濤派1席)、蛤蛤(カエル)―(江沢民派1席) ③総経理連任失敗 大海取代之=総経理(李克強・総理)留任ならず、大海(汪洋)が就任 ④監事長連任失敗 栗子取代之=監査役(王岐山・規検委主任)留任ならず、クリ(栗戦書)が就任
このチャットでは、予想が読売と異なり、李克強氏が首相辞任となっている。和諧団とは胡錦濤氏が提唱した「和諧社会」と、彼の出身母体の「共青団」を合成した「胡錦濤派」の暗号だ。江沢民氏は風貌のため以前から「蛙(カエル)」と揶揄されている。大海=汪洋氏とはシャレた表現では。
◆―習近平氏の「7人の影軍団」ブレーン―
習近平氏には7人の影のブレーンがいると言われている。中でも これまで突出しているのが王滬寧(おう・こねい)氏だ。江沢民、胡錦濤と三代続けてブレーンの中心を担ってきている。中国の巷では「影軍団」のことを「帝王師(ていおうし)」とささやく人もいる。「帝王師」とは「皇帝の老師(ろうし)」のことである。皇帝を創りあげるための「賢者」で、控えめで目立たず、権力欲が少なく信頼のおける「切れ者」であることが求められる。これは、中国古来からの習わしといっていいだろうか。
この王氏は、中国社会の内外政策の総設計師のような存在でもあるようで、江沢民政権の「三つの代表」、胡錦濤政権の「科学的発展」「和諧社会」、そして習近平政権の「中国の夢」「中華民族の偉大なる復興」という国家政策のスローガンを繰り上げたのも王氏といわれている。習氏の信頼も厚いようだが、元は大学教授でもあった。1995年生まれの人である。王氏は、中国の新保守主義の創始者とも言われ、西洋式の民主主義に反対し、共産党政権と政府が後押しをして「国づくり」を進める国家主義を支持することにより、1989年以来の中国首脳陣のイデオロギーの屋台骨を提供してきた人物とも評されている。
影の軍団の他の6人は、このたびの読売リストにある「栗戦書」氏、そして、劉鶴(りゅう・かく)氏、何毅亭(か・きてい)氏、丁薛祥(てい・せつしょう)氏、李書磊(り・しょらい)氏、鍾紹軍(しょう・しょうぐん)といった人々である。
◆もし、「陳敏爾」氏がチャイナセブン入りをした場合、ポスト習近平の争いとして、序列何位に入るのかも注目されよう。とりわけ、胡春華氏との序列関係にも注目が集まるだろう。