現代中国は、国を覆う「現代版情報・万里の長城」によって、インターネットを介した外国からの情報をほぼ封鎖(閉鎖)・管理・統制をしている。このネットの戦いを中国政府は「陣地戦」とも呼ぶ。そして一方では、中国国内のものすごく多い(日本の比ではない)インターネット関連局(会社)の情報が溢れている。ほとんどは携帯電話アプリを通じてのインターネット視聴だが、そのインターネット視聴人口は8億人以上にのぼる。ネット利用の買い物総額は年間に130兆円という途方もない金額である。また、中国のテレビ局は300以上もある。
情報が溢れかえっている中国だが、その情報はほぼ完全に中国共産党が指導する中国政府のコントロール(統制・発信)のもとにある。この情報統制は2015年ころを境に一層の強まりをみせてきている。6月9日や16日の、100万人・200万人の集会・デモなどの報道は、6月下旬まではほぼその情報は統制され、中国本土でテレビ報道されたり、インターネットで発信されることはなかった。7月に入り、ぽつりぽつりと 香港に関する今回の問題の報道が始まった。
その報道は、100万人以上もの人々が集まって「逃亡犯防止条例」などに反対してデモを行ったということや、そのようすの映像、香港問題の真相(※なぜ反対しているのか)、デモ参加者の人数についてなどは 現在に至るまで一切報道されていない。報道される映像や内容は、中国政府が「暴徒」と呼ぶ人たちが暴れていたり破壊する場面、香港警察と対峙、双方がやり合う場面などである。
8月30日の深夜に日本から中国に戻り、テレビ報道やパソコンのインターネット記事、携帯電話を使ったインターネット記事や映像を見ながら、この9月の1カ月間の香港問題に関する中国国内での報道・記事を振り返ってみると次のようなものだった。
9月上旬、「乱港分子 周庭 黄之鋒 "港独"組織頭目」の拘束・逮捕、そして放免に関する記事が多く見られた。そして、「暴徒」に関する映像と記事のオンパレード。香港政府と香港警察と中国政府を支持する香港でのデモなどの報道も目立ち始めた。
9月3日には、「共拘35人」とこの日のデモ参加者で暴徒35人を拘束逮捕したことや、6月以降の拘束・逮捕者は1183人にのぼること、その中には71人の女性がいることなどが報道されていた。主犯的な「暴徒」の顔写真や名前や所属などがインターネツト記事に掲載も。指名手配犯の扱いである。
9月上旬、「第一特区政府会 正式撤回 条例草案」との見出しで、逃亡犯防止条例の正式撤回がインターネット記事に掲載されていた。これはテレビでは報道は規制されていた。デモ隊の過激な行動により損壊させられた地区や建物などを見まわる林鄭月娥長官のようすも報道。ドイツに行き、ドイツの外相と面談し香港の危機を訴えた黄之鋒氏。中国外交部報道部副部長の華春莹報道官がドイツ政府への抗議声明を出している放映も流されていた。
また、香港のある公共建物内に家族とともに来ていた男性が、香港政府・中国政府支持の思いで中国国歌を歌っていたら暴力を受け、顔面に一筋の血が流れ、抗議をする姿、その男性が抱きかかえる娘が その場の怖さで泣き叫ぶようすが、さまざまなメディアで報道され、男性への賛辞とともに広く報道されていた。その記事に対して、「我支持香港警察、你们可以打市民了!」の読者書き込みなども。
ショッピングモール内の広場で、千人の人が集まって、香港政府と警察・中国政府を支持し、中国国旗を振りながら中国国歌を唱和するようすの映像も連日 広くさまざまなメディアで報道されていた。「香港経済の下落で人々の不満がデモ隊・暴徒に向かってきている」の報道も。
逃亡犯防止条例制定(反対する多くの人達は、この条例を「送中法」と呼ぶ。)のきっかけとなった台湾での殺人事件。今年の2月に香港在住の陳同佳(男・21歳)と潘暁穎(女・22歳)の二人が台湾に旅行し、陳が潘を殺してしまったという事件である。この潘さんの母校では、この学校の生徒たちが制服を着て手をつなぎ、学校側の指示により「逃亡犯防止条例」制定支持の訴えを行っているようすの映像なども中国国内では報道されていた。「なぜ、この条例に反対するのか?反対する人達の気持ちがわからない」という印象をもたせる効果のある報道でもあった。
◆中国国内での香港問題に関する記事・報道はだいたいこのようなものである。中国本土に暮らす14億人の人々は、中国政府によってコントロールされた このような報道がすべてであり、香港問題については、逃亡犯防止条例に反対してデモをする人を、「反中国分子・暴力分子」の印象や認識しかもちえないようだ。