彦四郎の中国生活

中国滞在記

現代中国における宗教事情❶—中国政府が公認している5つの宗教―そして「邪教」とは‥

2018-05-31 21:45:25 | 滞在記

 アパートに隣接している福建師範大学(倉山校区)の正門付近に、4月20日ごろから1週間あまり「防犯邪教浸透」の大きな看板や、それに関連する「防犯邪教、邪教撲滅」の説明看板が広く展示されていた。看板設置の展示主催団体は、福建師範大学の「武装学部や社会歴史学部」、そして地域の「共産党地域委員会」である。

 「邪教」とはいったいどういう宗教を指すのかとの説明や具体的な「宗教団体」なども書かれている。例えば、中国で多くの信者をかってはもっていた「法輪功」、キリスト教系の「統一協会」や「モルモン教」「エホバ」など十数種類の宗教団体である。終末思想が教義に入る宗教なども全て「邪教」である。「全民行動起来、堅決反対邪教!」というスローガンなども書かれている。

 「大学生是一个有追求、有梦想、有好奇心的群体、这都不坏事‥‥」(大学生時代とは、いろいろなことを追及したり、夢想に陥ったり、好奇心旺盛をもつ。これはすべてが悪いわけではないが‥‥。しかし、邪教などに夢想したりしてはいけない!)   そして、邪教にからめとられた若い人や学生が捕えられ裁判を受ける写真なども掲示されている。

 同じ時期に、閩江大学でも「反邪教」の大きな看板が掲示されていて目立っていた。おそらく中国各地の大学でのキャンペーン期間なのかもしれない。中国に初めて赴任した2013年9月から、中国の都市でも農村でも、この「反邪教」キャンペーンや掲示は、いたるところで見ることができた。

 ―中国政府が公認している宗教とは―

 中国政府が公認している宗教は、カトリック・プロテスタント・イスラム教・仏教・道教の5つだ。キリスト教は中国では「耶蘇教(やそきょう)」と書かれる。カトリックとプロテスタントで2つとカウントされているが、イスラム教はスンニ派やシーア派もまとめてイスラム教と定義、仏教も同じく真言宗や天台宗や禅宗など宗派問わず仏教という扱いだ。

 中国の宗教信仰で最も人口が多いのは「道教」だ。これは全国いたるところに「道教寺院」がある。そこに祀られているものは、三国志の英雄「関羽」であったり、地域の歴史的偉人であったりさまざまだ。キリスト教を信仰する人(クリスチャン)の数は、少なく見積もっても1億3000万人で、共産党員の約9000万人を超えている。仏教寺院も全国各地にかなり多い。

 宗教活動が認められるのは、教会や寺院、モスクなどの建物内や敷地内のみで、敷地外のありとあらゆる活動は禁止されており、講演や募金、福祉活動なども宗教活動としては行えない。

 5つの宗教以外だと、55の少数民族が独自に信仰する民族宗教や地域宗教などがあり、多くが自然や先祖崇拝、既存の宗教などが融合したものが多いとされる。大きなものでは、内モンゴルや中国東北三省に多いラマ教(チベット仏教)がある。私が住む福建省は台湾海峡の両岸地域は「媽祖信仰」の天後宮が多くみられる。これらの民族宗教に関しては、敷地外でのパレードなどの活動は黙認されている。これら少数民族宗教は、中華人民共和国が建国された時からの少数民族優遇策で、事実上容認されている。

 ―経済発展の中、信仰に救いや安らぎを求める人が増加―

 経済が発展する中で中国も仕事や人間関係、将来への不安などでストレスを抱える人が増えており、宗教を信仰する人が増えてきているといわれている。現代中国では、「5宗教と民族宗教」に限って言えば活動制限は多いが、日本人が思っている以上に信仰的には自由さがある。ただ、1949年に中華人民共和国が建国以来、共産党政府は一貫して宗教は国家統治のマイナス要因との認識を変えていない。かって毛沢東が「宗教は毒」と発言したこともよく知られているし、チベットの状況を見ればそれはよくわかる。あくまで宗教は国家、中国共産党を超えるものではなく、政府の監視下に置くというのが中国政府の宗教政策となっている。

 ―中浯政府が目を光らせているものは―

 1949年の建国直後には廃仏運動が全国的に繰り広げられた。文化大革命時期には、すべての宗教が敵認定され攻撃対象となり、多くの宗教施設が徹底的に破壊されつくした。そのため、中国にある教会や寺院、モスクなどは古いものが少なく、2000年以降に再建されたものが多い。特に、中国政府が目を光らせているものは、集会等で不特定多数の人が集まること。そして、それが反政府や反共産党勢力となることである。一度、中国政府が、反政府団体とみなすと徹底的に規制して団体を壊滅へと追い込む。そのいい例が「法輪功(法輪大法)」であろう。

 ―外国からの宗教が新たに公認されることはありえない―

 中国国内で生まれた「新興宗教」、ましてや外国の新興宗教などは、新たに公認する、または容認するということは、現代の中国ではありえないというのが、中国の宗教事情だ。キリスト教に関しても、「カトリック」と「プロテスタント」以外の、新興宗教(キリスト教の一派)は、中国での活動は公認されておらず禁止の対象(邪教)となっている。活動的にも信仰的にも厳禁対象だ。

 昨年から、大学などでの「キリスト教に関する行事(クリスマスイベントなど)」を禁止する通達が行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 


韓国と北朝鮮―「分断」された朝鮮半島、人々の暮らしの今の実像を追う「写真集」とは❷

2018-05-30 10:07:12 | 滞在記

―②北朝鮮と韓国。境界線の向こうに、僕らと変わらぬ人の営みがあった。—2017年出版・写真集『border | korea』 (リブロアルテ刊)  著者・菱田雄介(45)          インタビュー記事2018年5月7日 吉野太一郎

 薄い光の中で、少女が佇む2枚の写真がある。片方は北朝鮮、片方は韓国で撮られたものだ。それぞれ、どちらで撮られたものか、分かるだろうか。服装や背景などから推測できるかもしれない。では、次はどうだろう。

 謎に包まれた国、全体主義で一糸乱れぬ指導者称賛の国。そんなイメージで語られがちな北朝鮮。しかし、菱田雄介さんがレンズを通して向き合った人々の表情からは、拍子抜けするほど、資本主義の韓国との違いを見出すのが難しい。菱田さんが出版した『border|korea』は、固定観念を揺さぶる写真集だ。2009年から2015年まで、7回の訪朝で撮った写真を左側に、2017年まで十数回の訪韓でレンズに収めた写真を右側に並べている。

 2001年以降世界の何か国かで、歴史の傍らにある人々の生活を写真で撮るようになった。目のあたりにしたのは、1本の国境線が、同じ民族であるにもかかわらず、多くの人々の生活や思考、そして運命を変えるか、だった。アジアでは、朝鮮半島の軍事境界線だった。日本からすぐ近くにある1本の線の、向こう側にいる人々を訪ねてみたいと思った。菱田さんが初めて北朝鮮を訪れたのは2009年5月。感想は「戦中の日本にタイムスリップしたような感覚」だった。「軍国主義で指導者に忠誠。子供の頃から富国強兵(=先軍主義)の価値観で生活している。でも、僕だって戦前に生まれていたら、祖父が当時抱えていたのと同じ価値観だっただろうし、北朝鮮に生まれていたら全力でマスゲームに参加し、指導者万歳を叫んでいたと思う」と語る。

 北朝鮮側から見学した板門店で、軍事境界線の向こう側に韓国を見た。「とても奇妙だった。今いる場所が戦前の日本だとしたら、線をまたいで陸路の先に日本人観光客で賑わうソウルの明洞があり、IKKOがプロデュースするBBクリームの店があるなんて‥‥。」 線のどちら側にいるかで、人は戦前の日本人にも、BBクリームを買い求める人にもなりうる。北で撮った写真と同じ構図を、南でも撮影して、2枚の写真を対比させてみようと考えた。

 北朝鮮の首都・平壌は「ショーウインドー都市」とよく言われる。案内人という名の写真撮影監視係がぴったり着いて回り、単独での自由行動は許されない。政治的に自由な発言が許可される国でもない。「行っても表面的なものを見せられるだけだ」という人も多かった。

 それなら徹底的に表面を見よう、髪の毛一本、顔のニキビやえくぼ、服のしわ、ボタンの付け方まで、目に見えるものは細部まで逃さず形に残し、目の前にある北朝鮮の現実と向き合おうと決めた。北朝鮮で写真を撮ったら、韓国に飛んで同じ構図の写真を撮った。年格好の同じ人や気象条件、建物や山河の配置まで同じものを探して、何度も足を運んだ。

 北朝鮮の人たちを撮影すると、金日成・金正日バッジをつけることに非常にこだわることに気づいた。では、バッジをつけていない時はどんな表情を見せるのだろうか。100kmと離れていない北朝鮮・南浦と韓国・仁川。海岸線がつながった南北の海水浴場の風景をとらえた。週末を楽しむ人々。思春期の少年の顔に表れたニキビ。赤ん坊を抱く母親の視線。政治体制や思想、文化は大きく違っても、人間の楽しみや悩みに大きな違いはない。

 しかし、異質や脅威が強調されるあまり、そこに住む人間の存在は置き去りにされてしまいがちだ。「怖い国、拉致する国、嫌な国。テレビで平壌の映像が流れると、日本の僕たちは、北朝鮮を先入観で見てしまう。<変な国だ>と切り捨て、思考停止してしまう。でも、そこに映る人々の顔を見たて『この人たちも同じ人間なんだ』と思えるかどうか」

 アメリカのトランプ大統領は、米朝会談に応じると表明する一方、シリアをミサイルで爆撃し、北朝鮮への軍事行動も辞さないとの構えも残している。「広島に原爆を投下したエノラ・ゲイの搭乗員に、広島の人々の表情はまったく見えていなかったでしょう。そういうことを思い描けない世界の中は不幸だと思うんですよね。」

 2018年、朝鮮半島の情勢は急転した。4月27日の南北首脳会談では、年内に朝鮮戦争を終結させると宣言した。68年間、南北が銃を構えて向き合ってきた軍事境界線も、その役割を終えるかもしれない。「7年間の撮影を通じて、南北の境界線を挟んだ写真にだんだん『違い』がなくなってきていると感じていた。今後、違いはさらになくなっていくのかもしれない。劇的な変化に正面から向き合い、固定化した北朝鮮に対する価値観に一石を投じていきたい」

◆以上、5月7日付、「菱田雄介さんへの吉野太一郎さんのインタビュー記事」でした。(※一部写真は異なります)

◆私たちの国の隣国、「朝鮮半島」を巡る問題は、2人の写真集に関する吉野太一郎さんの記事を読んで、「同じ人間が生活している国である」という、当たり前と言えばあたりまえのことを考えることの大切さに改めて気づかされる。この当たり前のことが案外、私たちが日々受け取る報道の影響が強くて、抜け落ちてしまっていることが多い。日本人が中国という国、中国人という人々をみる目やイメージもそうだし、中国人が、日本という国・日本人というものをみる目もそうだ。

◆韓国の文在寅大統領という人には興味がある。彼は「南北の将来の統一」という悲願を胸に秘め、就任1年が経過した現在でも多くの韓国国民の支持を得ている大統領だが‥‥。米朝首脳会談の行方を巡って、その実現のために努力をしている(一見「太鼓持ち」のようなイメージも受けるし、金正恩に利用されている面もあるが‥‥)文大統領。彼の今後の「統一戦略」とはどういうものだろうか‥‥‥。朝鮮半島に生活し暮らす人たちにとっての人生を左右する重要な未来のページを開こうとしている文氏だが‥。一方、金正恩は「ただ自分の保身というか、体制の存続というか、そのことしか眼中にない人間で超策士、人を人とも思わないと」の印象が強い。実態もそうなんだろうと思って間違いないだろう。

◆―中国人学生が日本のアニメ映画『火垂るの墓』(高畑勲監督・スタジオジブリ)に感動するという事実―

 3月末より、3回生の学生を対象にした「特別講座―日本映画名作で綴る日本の社会、歴史・文化」という特別授業で、日本の名作映画12作品を観てもらった。この講座の最終日の昨日(5月29日)、講座全体の感想を学生たちに書いてもらった。その感想の中で『映画・火垂るの墓』に感動しましたということを書いている学生がとても多かったのには驚いた。

 学生たちにとって今まで学んだ、教えられた「日中戦争・第二次大戦」の内容は「いかに日本軍から大きな被害を受けたか」「中国共産党がいかに抗日戦線で頑張ったのか」という内容である。日本に原爆が投下されている事実は知らされてもいるだろうが、そんなことは、中国を侵略し多大な被害を与えた対する「日本が受ける当然の報い(むくい)」という感じで受け取っている学生も多いかと思う。これが、ほとんど多くの中国人の「日中戦争」「第二次大戦」の日本に関するイメージだろう。

 こんな中での『火垂るの墓』(父と母を戦争で亡くした「兄と小さな妹」が、戦時下の日本で空襲を逃れながら生活を二人だけで営み、そして、死んでいく物語)という作品に対する中国人学生の反応には少し驚いた。戦争という中で、「日本人も、同じ人間だったんだ」ということに初めて気づきもする作品の内容だったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 


韓国と北朝鮮―「分断」された朝鮮半島、人々の暮らしの今の実像を追う「写真集」とは❶

2018-05-29 10:49:24 | 滞在記

 1910年の「日韓併合」から1945年の日本敗戦まで日本に支配された朝鮮半島。そして、1950年代初頭におきた「朝鮮戦争」から以降70年近くの長きにわたって国家が分断され、北の「北朝鮮」、南の「韓国」として現在に至っている朝鮮半島。北朝鮮の政治体制は極端なまでの「金王朝・金一族のどくさい体制」であり、「韓国」は民主政治。南北を分ける「38度線」を流れる「イムジン川」(臨津川)。私が大学生1970年代のはじめころの日本、この「南北分断」の嘆き、朝鮮半島の人々の気持ちを歌った「イムジン川」という歌が歌われた。一番の歌詞はつぎのようなものだったかと記憶している。

 「イムジン川 水清く とうとうと流れいく 水鳥 自由に 群がり飛びかうよ わが祖国南の地 想いは遥か イムジン川 水清く とうとうと流る」。そして、二番の歌詞の中には、「‥‥誰がこの祖国を二つに分けたのか‥‥」という歌詞があったようにも記憶している。

 この祖国「分断」ということが日本で起きていたら、私たち日本人は今、そのことについてどういう気持ちでその現実を迎えているだろうか。1945年の6月~8月、当時のソ連(ソビエト、現在のロシア)は北海道侵攻を目前にしていたのだった。もしこれが行われていたら、戦後の日本は分断されていただろう。

 今、朝鮮半島を巡る情勢下、「米朝首脳会談」の行方が注目される中、韓国・北朝鮮、双方国の人々はこの状況にどのような思いを抱いているのだろうか。それぞれの思いに大きな隔たりはあるかと思うが、いずれは「祖国統一」という想いは双方とも強く抱いていることと推察する。もし、日本が分断されていたらと推測すると、その「統一への想い」は これまた強いものが双方にあるだろうとも思う。

 そんな朝鮮半島の人々の暮らしの「今の実像を追う」日本人フォトジャーナリスト2人の写真集が出版されたことを5月上旬と下旬のインターネット記事で知った。日本の新聞やインターネットやテレビなどでは、北朝鮮の金一族の非情なまでの支配実態、貧困を極める人々の暮らしばかりが報道される状況のもと、人々の思いや想い、生活の実像はいったいどうなんだろ、知りたいと思うのは、私だけではないだろう。こんど日本に帰国したらこの2人の写真集を見てみたいと思う。

 ①―「変わる北朝鮮、街中でいちゃつくカップル、そして‥‥。写真家が見たリアル。」―写真集『隣人。38度線の北』『続・隣人。それから。38度線の北』(初沢亜利・撮影)―インターネット「ハフポスト日本版」吉野太一郎さんの初沢さんへのインタビュー記事―

 一糸乱れず指導者礼賛美を叫ぶ全体主義国家の北朝鮮。そんな国でも、一人一人が喜びや悲しみ、楽しみを感じながら暮らしている。北朝鮮に生きる生身の人間の姿。それを突きつけ、日本人の「隣国感」を変えられないか。写真家の初沢亜利さん(44)がそんな思いで、2010年から計4回の北朝鮮訪問を重ねて2012年12月に出版したのが、写真集『隣人。38度線の北』(徳間書店)だった。

 1作目は、北朝鮮で出会った人々の喜怒哀楽の表情をクローズアップした写真を多く並べた。それから2年後の2015年、知人から気になる話を聞いた。「北朝鮮は経済制裁下でも豊かになっているらしい」と。本当だろうか。行って確かめよう、と、再びカメラをかついで2016年12月、5度目の平壌に向かった。それから2018年冬まで計3回の訪朝で撮りためた写真をまとめたのが、続編『続・隣人。それから。38度線の北』(徳間書店)だ。自由な取材ができない状況は変わらないが、それでも北朝鮮を何度も訪れている写真家は、少なからぬ「変化」を感じている。

 人と人との関わりや。社会の変化を追った写真が増えた。国全体が故・金正日総書記の喪に服していた4年前とは、いろいろなことが変わっていたと感じたからだ。北朝鮮国営の高麗航空に乗れば、これまで必ず「NO Picture!」と制止されていた機内の撮影が、とがめられなくなっていた。平壌市内に降り立つと、自動車の交通量は「目算でも4年前の3倍」に増えていた。外貨が使える飲食店に、明らかに裕福な人々がタクシーでやってきて、タワーマンションに帰って行く。

 不動産取引や貿易で資産を築いた「トンジェ」と呼ばれる富裕層が形成されていることをうかがわせる光景だった。若い人々、特に男性の服装がカラフルになった。同性が手をつないで歩くのは、韓国も北朝鮮も同じだが、男女が人目をはばからずにイチャイチャする姿は、4年前には見られなかった。巨額の資産を築くことは御法度だが、金正恩は富裕層を黙認しつつ経済を牽引させようとしているとも伝ええられる。金正恩が李雪夫人と腕を組んで表舞台に現れるなど、「これまでの慣習を打ち破ろうとしている」と、初沢さんには映る。

 もちろん、経済発展著しい平壌だけが北朝鮮の全てではない。平壌から30kmも郊外に出れば夜は真っ暗な田園地帯。農作物の盗難を防ぐために、畑に泊まり込む家族がいた。初沢さんは語る。「いつもは貧しい様子を撮らせたがらない案内人も、今はある程度、見て見ぬふりをしてくれた。一生懸命生きている姿を伝えてくれればそれでいいとも案内人は言ってくれた」。案内人(撮影監視人)との「信頼関係を築きながら撮れるものを広げていく。撮影はそんな微妙な間合いを探る作業でもありました」。

 4年前に比べ、訪問が許可される地方都市は大きく広がった。「北朝鮮が経済の改善に自信を持ち始めている表れかもしれない」と、初沢さんは感じる。核実験や長距離ミサイル開発を繰り返した北朝鮮に対し、アメリカ主導の経済制裁が続く。「国民生活が打撃を受けて干上がっている」との報道が多い中、初沢さんは「少なくとも表面的にはまったく感じられなかった」という。

 前回の写真集を出したときには、日朝国交正常化への期待など「青臭い希望みたいなものがあった」と話すが、日朝関係は膠着状態が続く。南北首脳会談が開かれ、史上初の米朝首脳会議に向けて駆け引きが続くなど、国際情勢が大きく動く中、日本が独自に打開しようという動きは見えにくい。「このタイミングでどう北朝鮮と向き合ったらいいのか、政府も国民も考えていなかった。それが露呈したということじゃないでしょうか。でも日本人が北朝鮮を仮想敵国として政治利用し、お茶の間で笑いものにしている間に、北朝鮮は粛々と自力更生の道を歩んでいたんですよ」。

 「『住民を抑圧して食べ物がない国が長く持つわけがない』という過去の妄想を、日本人は捨てきれない。ただ、北朝鮮は明らかに前例のない発展をしています。その姿を、今後も見続けて伝えていきたい」と初沢さんは語った。

◆次号に続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 


東アジアの最近状況を巡って―「人権・民主」の「"じ"の字も"み"の字」もない米朝首脳会談のゆくえ

2018-05-27 11:10:30 | 滞在記

 6月12日の「米朝首脳会談」が実現されるのかどうかを巡って、目まぐるしく変化する状況に世界の注目が集まるこの2週間あまりだが、おそらく6月12日にはなんらかの形で第一回目として会談は行われるだろう。(又は、多少の延期はあっても行われるだろう。)「まず会って会談したい」、基本的にそれが、「米中のトランプ・金正恩」の本音だからだ。まず会うことによって双方に(米朝の国民双方ではなく、トラ・金、双方に)とって、政権維持のためという個人的な利益が双方大きいからだ。

 1年前の2017年5月25日と27日のブログは、「東アジア情勢を考える❶❷―北朝鮮の体制転換を望まないという、中国・米国・日本・ロシアの本音」というテーマだった。この1年ほど前の、北朝鮮・韓国を巡る状況とは次のようなものだった。➡①3月に韓国に米国のTHADミサイル配備、中国猛反発、韓国に経済制裁開始、②4月以降、北朝鮮の核ミサイル実験での威嚇が本格化、③5月上旬、米国の「空母打撃群」の朝鮮半島沖への派遣、④韓国大統領選挙で文在寅勝利、前大統領の逮捕‥‥‥など。

 あれから1年間が経過したが、その間の東アジア状況の変化として次のことがあげられる。①韓国と北朝鮮の急接近、②中国と北朝鮮の急接近(兄弟国関係の回復)、そして、③米朝首脳会談の実施への動き、さらに、④台湾に対する中国の統一圧力の急速化、⑤米中の貿易摩擦など、米中関係の緊張が高まる、⑥日本に対する中国の歩みは少しだが接近、⑦米国民の北朝鮮や中国に対する不信感の増加、中国国民の米国への不信感の増加‥‥など。

 そして、この5月中旬、トランプ大統領の「会談が行われない可能性もある」「中国への不信感示す」の発言に対し、金正恩も会談の「取りやめの可能性」を表明。北朝鮮外務次官の雀善姫の「アメリカが、我々と会談場で会うか、でなければ核対決の場で会うかどうかは、アメリカの決心と行動いかんにかかわっている」発言などを受けて、トランプ側も「米朝首脳会談」の中止の可能性を示唆、一連の北朝鮮高官の発言などを受けて、トランプは「会談の中止」を書簡で北朝鮮に送った。この間、中国は、5月上旬に行われた米韓軍事演習を理由に北朝鮮が「南北閣僚級会談」の中止や、米朝首脳会談の取りやめを示唆する北朝鮮側の主張に同調し続けた。

 トランプ大統領が「会談の中止を発表」した翌日の中国の中央テレビ(CCTV)の報道は、次のような報道の仕方だった。「朝鮮半島情勢」のテレップ(文)を流し、まず、北朝鮮の豊渓里での核施設の坑道を爆破する様子とその光景に興奮する欧米記者の様子を放映、そして、トランプの「中止声明」をテレップ報道、これに対する中国側のコメント・見解は特になしという放映の仕方だった。つまり、中国国民向けには、「北朝鮮は核施設の廃棄を始めているにもかかわらず、アメリカは一方的に会談中止を発表した」という報道の方法だ。アメリカ悪しへの印象操作の手法である。はたして中国・習近平政権は、この間の「米朝会談の動き」を本音はどう思っているのだろうか?確実に言えることは、「米韓朝の三国主導ではなく、中国主導でなければ北朝鮮に対して容認しない」ということだろう。だから、6月12日までに再度、「中朝首脳会談(第3回)」が開催される可能性は高い。

 ◆―米朝首脳会談中止「中国は満足している」中国軍事戦略の米専門家―産経新聞(電子版)5月26日付より

 米議会の超党派政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」委員で、中国の軍事戦略の専門家、ラリー・ウォーツェル氏が25日、東京都内で産経新聞のインタビューに応じた。同氏は、トランプ大統領が6月に予定されていた米朝首脳会談の中止を決定したことについて、中国は、米朝間の仲介役の立場が維持されるとして「とても満足しているだろう」と述べた。また、「中国の習近平(国家主席)や共産党政権は、米国や韓国が、北朝鮮の核の脅威にさらされることは「(在日・在韓)米軍の脅威」にもなることから、「中国が好む」状態であると強調した。‥‥‥‥‥‥‥。

 5月26日の昨日、アメリカのトランプ大統領は、「6月12日米朝首脳会談はありうる」という発表を一転して行った。その前後、北朝鮮の金正恩側も「関係改善のための首脳会談がどれだけ切実に必要か―北朝鮮、異例の低姿勢」「トランプ大統領のことを内心は高く評価していた」などの発言が続いた。そして、同じ日の26日、突然の「韓国・北朝鮮首脳会談」がとりおこなわれた。そして、北朝鮮が6月12日の「米朝首脳会談を強く望む」ことの声明を発表する運びとなった。「中止」という事態だけは避けたい金正恩のようだ。なぜだろう?いろいろな計算と思惑があるようだ。

 同じ日の「ロシア・日本首脳会談」、朝鮮半島を巡る情勢の中で「米・中・北朝・韓国」の4か国の蚊帳の外におかれている感のある「日露」首脳は、共同声明で、朝鮮半島問題を巡る「日露を含めた六か国協議」の開会を求めた。

 このような「米朝首脳会談」に関して、日本のインターネットでのアンケート調査で、「日本人のこの問題に関する」意識の調査としては興味深いものがある。  ―米朝首脳会談の再設定、期待する?― 5月27日(本日)段階の結果(回答人数合計 2万4449人)

                  期待する18%・期待しない80%・分からない2%

 期待しないが80%となっている。日本人は、この回答が多いだろうと思うことは納得できる。これは、アメリカのトランプ大統領側の要求にも韓国側の文在寅大統領側の要求にも、「北朝鮮の人権・北朝鮮の民主化」についてのことが、一言も、一行も、「人権の"じ"の字も民主の"み"の字も」ないからではないだろうか。もちろん中国の習近平政権は、そのことを要求するはずもない。

 今回の米朝首脳会談に関して、金正恩は「①体制の保証」と②「経済関係の再開や支援」を条件にあげている。すでに、中国からは体制の保障は得ているが、アメリカからも言質をとっておきたいのだろう。少なくても、アメリカによる「斬首作戦・暗殺」の恐怖からは免れると思っている節もある。日本人の多くが望むことは、「最終的な北朝鮮の現体制の崩壊」である。「残虐非道を地で行く金王朝のこの世からの崩壊」である。しかし、今回の「米朝会談」の実現によって「この体制の存続」が今後長期にわたって存続することを世界が認めたということになってしまうという危機感である。日本と朝鮮半島は隣国なのだ。だから、「民主・人権」に何の関心ももたない「米朝会談」の実現を複雑な気持ちで見ているのだと思う。私もそうだ。

◆―「喜び組」の定年は25才 口にするのも‥‥な酷い罰ゲームも―2017年3・6日付『NESポスト』より

 ‥‥金王朝の主席や北朝鮮政権幹部たちの接待をする「喜び組」は3つの部隊に分かれるとされる。歌や踊りを習得し、パーティを華やかに演出する「歌踊組」、マッサージで慰労する「幸福組」、そして性的相手をする「満足組」だ。北朝鮮の内情に詳しいジャーナリストの恵谷治さんは語る。

 「メンバーは18才から25才までの選りすぐりの美女。朝鮮労働党の組織指導部第5課という人事を担当する部署の職員が、全国の学校を回って、美女学生を物色するのです。毎年北朝鮮全土から選ばれる女子の数は約300人ともいわれます。それから厳格な健康診断を経て、最終的に50人ほどが選ばれます。喜び組に入る絶対条件は処女であること。」(恵谷治さん)

◆日本でいえば、「徳川時代」の悪徳藩主のような面を彷彿させ、それをさらに拡大させた悪徳将軍のような金王朝の実態。粛清などを大量に行う恐怖政治など、今世紀に入ってもまだこんな「絶対どくさい」の国が存続し、我が物顔にその存在を世界に示していることに、または隣国から保護さえもされているこの世界の現実には、じくじくたる思いを、私たち日本人の多くは持っているのではないかと思う。「社会主義」を名乗るこの国の姿に、墓場の「マルクスやエンゲルス」もさぞや怒っていることだろう。

◆だから、今のような「金王朝体制保証」を前提とした「米朝首脳会談」の行方に、「期待しない」という声が多くなるのは 自然でもあるし、むしろ日本では「会談反対」の声が多いのではないかと思われる。トランプだけでなく、「人権・民主」に対する見識や節操のない韓国の文在寅という「太鼓持ち」のような男にも少々呆れてしまう。見たくもない「茶番劇」「歴史の・人類の人権・民主に関する後退劇」だが、この劇(中止や延期もありうる)の影の総監督は「中国の習近平」、主役は「北朝鮮の金正恩」、準主役は「アメリカのトランプ」、脇役に「韓国の文在寅」、ヒロインは「なし」、そして、準脇役に「ロシアのプーチン」、通行人に「日本の安倍」という感じだろうか。

 

 

 

 

 


南シナ海を巡る東南アジアの状況の一端―「南海・九段線のTシャツ」着用のベトナムへの中国人団体客―

2018-05-26 08:10:02 | 滞在記

 ―中国人団体旅行客のTシャツに「九段線」 ベトナム当局、没収―

 5月16日、ベトナム国営紙トイチェ(電子版)は、「ベトナム中部のカムラン国際空港からベトナム入りした14人の中国人団体旅行客が着ていたTシャツの背中部分に、中国が南シナ海のほぼ全域で管轄権を主張する根拠としている<南海九段線>が描かれていた」と報じた。「南シナ海の領有権で中国と対立するベトナム当局は、Tシャツを没収し、旅行客への処分を検討している」とも報じられていた。同紙によると、「団体は中国西安からの旅行客で、入国管理を通過後、バスに乗り込んで上着を脱いだところ、九段線が描かれたそろいのTシャツをベトナムの旅行代理店が見つけ通報した」と伝えられる。中国人旅行者は、Tシャツは中国の市場で購入したと説明している。

―「九段線」とは―

 「九段線」は、中国では「南海九段線」と呼ばれている。中国の地図の南シナ海部分には九本の線がある。九重の線ではなく、9本の線である。それは、第1線(台湾・フィリピン間の海峡付近)、第2・3・4線(フィリピン付近)、第5・6線(ボルネオ島―マレーシァ・ボルネオ付近)、第7・8・9線(ベトナム付近)が描かれ、中国は「宋」の時代から中国が「南シナ海」全域とその島々を実効支配していたものだと主張、数年前にオランダにある「国際司法裁判所」の判決(中国の主張を認めない)を認めないとするかたちで、実効支配を着々とすすめ国際紛争の一つとなっている。

 広い南シナ海の中国が実効支配しているたくさんの美しい南海の島々、「東沙群島」「西沙群島」「南沙群島」。3000m滑走路の建設など、軍事的にも今や完全に近いほど習近平政権になってその支配が強まった。日本にとっても日本籍船舶がこの海を多く通っているシーレーンだけに、この事態は日本にとっても重要な問題だ。

 ベトナムやフィリピン、そして、マレーシァやインドネシアなど、南シナ海を領海とする国々にとっては、日常的には日本以上にこの問題は深刻だ。どの国の領土の前に広がる海のすぐ「目と鼻の先」まで、「九段線」を引いて「中国の領海」を主張し、軍事的にも経済的にも各国に圧力を強め「さからうな!」という威圧を続けているているからだ。ベトナムなどの漁船は、少し沖合で漁をしようとしたら、中国海警の船舶による拿捕(だほ)など、常に危険が伴う状況かと思う。

〇「南シナ海」を巡る中国の加速する実効支配の動きに関して、ベトナム・マレーシァ・オーストラリア・中国などの各国では①~④の以下のような動きがこの5月にはあった。

 ①―ロシア企業、ベトナム沖の南シナ海で石油採掘、中国は反発―5月18日付「産経新聞」記事の概略は以下の通り

◆―ロイター通信は17日、ベトナム沖370kmの南シナ海で、ロシア国営石油企業ロスネフチが、石油採掘に着手したと報じた。ベトナム政府は近年、南シナ海の領有権を主張する中国からの圧力を受け、同海域での石油採掘許可を控えてきた。この海域での石油採掘は、ベトナム政府との合意で「スペインとロシア」の企業も開発権をもっている。これに対し中国外務省は17日、「中国が管轄する海域内では、いかなる国家も中国政府の許可なく石油・天然ガスの探査・開発活動を行ってはならない」と反発している。―

 ②―ベトナム国家主席、5月29日から来日、「南シナ海問題」「実習生問題」などで協議か―

 ベトナムのクアン国家主席が25日、国賓として日本を訪問するに先立って、ハノイの国家主席府で日本の報道各社と会見した。その中で、①「中国が実効支配を加速させる南シナ海問題での日本・ベトナム連携対応」②「日本に来日しているベトナムからの技能実習生の劣悪な労働条件問題改善」などについて協議をする予定だと記者団に語った。

 ③―マレーシア政権交代。92歳のマハティール氏勝利は「中国との蜜月関係にNO」の民意か。

 5月9日、マレーシァ下院議員選挙で、過半数以上を獲得した野党連合を率いるマハティール元首相(92)が、首相に就任することが決まった。(結果・与党勢力79議席、野党勢力113議席)  「中国=マレーシァ関係の立役者」を父に持つ現職与党勢力のナジブ首相率いる「国民戦線」と、マハティール氏率いる「希望同盟」との戦いだった。マレーシァ国民が、ナジブ政権内の度重なる不正問題や中国の習近平政権が掲げる「一帯一路」プロジェクトにのめり込む姿勢への危機感として国民が反応し、「中国との蜜月関係にNO」という民意を反応した結果とも言われている。

 ④―中国、オーストラリアとの関係縮小すべき―中国政府系新聞「環球時報」5月23日配信

 上記の見出しの記事は、中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報の社説。記事内容の概略は次の通りだ。

◆最近のオーストラリアの反中国的な姿勢に不満を示すため、同国との関係を縮小すべきとの見解だ。これは、「鉄鉱石・ワイン・牛肉」などについての輸入の削減やタンブール豪首相の訪日の延期などが含まれる。5月23日、中国の王毅国務委員兼外相とビショップ豪外相が会談し、王氏は「冷え込んだ両国の関係を正常化するにはオーストラリア側が<色眼鏡>を外す必要があると指摘した。

 中国は、オーストラリアとの関係を速やかに改善させるよりも、当面は苦しませるべきだと指摘。「中豪関係を破棄する必要はない。しばらくの間、関係の進展を遅くさせればよい」とし、例として「ターンブル首相は今年訪中を希望しているが、する必要はない。数年後に訪問すればよい」とした。

■■■―最近の「東南アジア、南シナ海」などを巡る記事の状況を見て―■■■

 ここ最近の世界の目は東アジアの「北朝鮮を巡る問題」(米朝会談のゆくえ)に集まっているが、「南シナ海」を巡る東南アジアもなかなか大変だ。中国の急速な「覇権主義化」によるものだが、最初に紹介した中国人観光客の「九段線Tシャツ」問題などは、このような「中国国家」の対外姿勢を中国国民が「中国偉いぞ!」と感じて周辺諸国を観光してまわる結果の反映と言えないこともない。

 中国政府の日々のプロパガンダ(宣伝)―「中国の夢」―により「大国としての自信をつけた中国国民の意識」、日本への観光に行く人は「日本の国への敬意」というものを感じて観光する人が多いようだが、他のアジアの諸国に観光する場合の中国人にとっては、「一段 蔑み(さげすみ)の意識」をもって観光に行っているのかもしれない。これはなにも中国だけの話ではない。1970年~90年にかけての高度経済成長時代、日本人もこのような感覚でアジアの国々に観光に行った歴史もあったのだ。そしてそれは、現在でもそういう潜在的な意識をもってアジアなどに観光する日本人もまだ少なくないのかもしれない。

 しかし、日本人と中国人の国民性には大きな違いがある。中国人の方が、「勝ち誇ったさま」を よりあからさまに表現したがるといった傾向がかなり強いように思われる。日本人の場合は「世間に対して恥を知る」文化だが、中国人はそのような文化背景はまだ希薄だと中国生活を長くして思う。