



日本から中国の福州に戻って10日間あまりが経った。最近の福州は、寒暖の差が激しい。およそ、3週間あまり京都より季節が早いようだが、日中ポカポカと暖かい日と真冬のような日が交互にやってくる。大学の校内は、木蓮や菜の花が満開となっている所や、桃の花が2分~3分咲きとなっている所もある。一日一日、春がやってきている。「日本もあと1か月と少しで桜か。学生達にも見せたいなぁ。」と思いながら、季節の節目を眺めている。宿舎近くの公園には、寒桜が10数本植えられている所もあり、満開になっていた。中国人は、「梅・桃・木蓮・蓮・牡丹・水仙・椿---。」などの花に情緒を感じるようである。しかし、街の花屋にある花は、「大きな百合と薔薇」ぐらい。あとは、豪華な造花ばかり。「情緒を感じる花は、外の自然の中や庭や公園で愛で、家の中は豪華に見えるような花で飾る。」というのが中国人の生活的美意識なのかもしれない。



後期(2学期)の授業開始日は、2月17日(月)。先週末、1か月間の冬休みを終えて、故郷から続々と学生達が帰ってきた。後期、私は1年生の「総合日語2」と3年生の「日語応用文書作」を担当する。火・木・金曜日の3日間で12時間の授業担当。4日間の休みの日は授業準備等にもあてるが、大学の本部キャンパスともかなり離れている宿舎での一人暮らしは、とても孤独感を感じ続けることの多い生活であることに変わりはない。日本に3週間あまり帰っていたので、この10日間は、もう一度孤独感に慣れていくための、「あきらめ」という心的作業開始。石川啄木の「一握の砂」「悲しき玩具」などの短歌に慰めを求めたりもする。
石川啄木「一握の砂」より
頬につたふ なみだのごわず 一握の砂を示しし人を忘れず
何となく汽車に乗りたく思いしのみ 汽車を下りしに ゆくところなし
何がなしに 頭の中に崖ありて 日毎に土のくづるるごとし
ある日のこと 室の障子をはりかえぬ その日はそれにて心なごみき
病のごと 思郷のこころ湧く日なり 目にあおぞらの煙かなしも
こころよき疲れなるかな 息もつかず 仕事をしたる後のこの疲れ
ふるさとの山に向かひて 言うことなし ふるさとの山はありがたきかな




日本に一時帰国して、「ずいぶんと痩せたね。」「スマートになった。」と度々言われた。鏡を見ると、頬が少しこけてきている。半年ぶりに体重を測ったら68㌔。6㌔減。確かにスマートにはなっているのだが--。ウエストも---。痩せ方が何か変?まあ、中国滞在の慣れない環境でのストレスや食生活なども影響しているのだろうなぁぐらいに思っていた。日本では、知人・友人との酒席も多かった。2月上旬頃、空腹時に胃などの不快感を感じるようになり食欲が少なくなった。もしかしたら胃潰瘍かな?
中国に戻る二日前(その翌日は建国記念日で医院は休み)に、胃の様子が心配になり、かかりつけの医院に行った。時間の関係で「胃カメラ検査」が実施できず、したがって薬も出してもらえず、不安を抱きながら中国に戻った。相変わらずの胃部の不快感と食欲不振が続き、授業時以外は元気があまり出ない日々。病院に行きたいが、中国語での対応が満足にできないので行けない。しかし、このままではますます悪化しそうだ。思い切って、学生に電話をし、「私も学生たちも授業のない4日前の水曜日午後」に 、どこか検査してもらえる病院への付き添いを頼んだ。(中国の大きな病院は、平日9:00~12:00、14:30~17:00まで診察しているようだ。)
午後1時ごろに病院に「福建中医薬大学付属人民医院(福建省人民医院)」に着き、診察の順番を待った。3時ころに診察室に入る。担当は穏やかな感じのお婆さん女医だった。学生に通訳をしてもらいながら、症状等を話す。診察後、まず胃潰瘍の原因となる「ペロリ菌」の有無を調べる検査(ビニールに息を吹き込んで、菌の有無を調べる簡単な検査)をした。(約250元の費用) 検査の結果、「菌」は見つからなかったので、癌の疑いもある。不安が一気に高まった。「仕事半ばで、日本に帰国の可能性も--。」
次に、「胃カメラ検査」(約450元)を依頼した。口からカメラを飲み込むと、嗚咽とともに涙が自然と流れている。胃部の肉片なども切り取られた。検査の結果、癌症状は発見されず。しかし、胃や十二指腸などに3か所もの胃潰瘍状態との結果。「1か所じゃなく、3か所も!これじゃ、痩せるはずだわ。頬がこけるはずだ。」と結果と原因がわかったことに、少し胸をなでおろした。おそらく、胃潰瘍の症状は昨年から始まっていたのかも知れない。中国での生活は、言葉の問題や日中間の緊張問題、中国人と日本人の国民性の大きな違い、食生活の違いなど、ストレスも知らずのうちに抱え抱えてていたのだろう。この日の診察・検査・薬の費用は、合計約900元(1元は約17円)。日本のような健康保険制度がない中国では全額払いとなる。(老人は保険制度が適用されるようだ゛) 大きな自己出費。(大学が加入している保険制度は入院時のみ適用型)
処方の薬を飲み続けて4日目。胃部の不快な痛みもなくなり、快方に向かいつっあるようだが、健康時の空腹感はまだ戻ってきていない。本格回復まで、当分は好きな酒を飲むことができない日々が続きそうだ。(それもストレスだが) 今後、夕方の空腹時に飲むビール、寝る前に飲むストレートのウイスキーなどを控えた方が良いようだ。健康が不安になると、異国での暮らしはさらに大きな不安に包まれる。