goo blog サービス終了のお知らせ 

彦四郎の中国生活

中国滞在記

「老人の生(せい)と性」を描いた日本文学の名作➋—谷崎潤一郎の『瘋癲老人日記』と谷崎潤一郎、そして現代、内館牧子の著作

2025-01-29 10:01:36 | 滞在記

 谷崎潤一郎(1886年-1965年)は、川端康成・三島由紀夫とともにノーベル文学賞の有力候補にあがっていた作家(文学者)でもあった。このノーベル文学賞のゆくえは、谷崎が65年に死去(享年79歳)することにより、1968年に川端康成が日本人初のノーベル文学賞を受賞することともなった。(※川端はその4年後の1972年にガス自殺。享年72歳。)

 文豪ナビ(文庫本)の一冊、谷崎潤一郎シリーズでは、「妖しい心を呼びさます 愛の魔術師」と銘打たれてもいる。私もこの言葉に表されるように、さまざまな愛と性にまつわる文学作品を作った人だと思ってもいる。当時は社会的にもまだタブー感が現在以上にとても強かった「人間のさまざまな愛の在り方、性愛の形、性の交わり方の形」を、かなり赤裸々(せきらら)に描いた、世界的にも稀有(けう)な文学者だと思う。つまり、人間の奥底に潜む性愛・性交の、異形的な性的欲望、人間の性的本性かも‥を、文学作品として描き切った作家ともいえるのが谷崎潤一郎だ。

 そのさまざまな作品には、性愛・性交の形として、「マゾヒズム」「夫婦交換性的交わり(スワッピング)」などなど‥の心理も作品で描かれる。思うに、「私は普通の性愛・性交を望むノーマルな人間だ」と思っている人であっても、その奥底の深層心理の中には、実は谷崎の描く世界への願望が眠っているのだろうか‥とも思う。

 この谷崎が最晩年に書いた作品が『瘋癲(ふうてん)老人日記』だった。(1961年に刊行。62年に毎日芸術賞大賞を受賞。谷崎が亡くなる4年前の作品で、彼が75歳の時に書いている。)  この『瘋癲老人日記』の表紙絵や挿絵を書いたのは版画家の棟方志功。版画絵には、「—不能ニナッテモ 或ル種ノ 性生活ハアル—」との文字が彫られてもいる。老人(高齢者)の「生・性」を描く川端康成の『山の音』や『眠れる美女』などの、情緒的・抒情的作品とは大きく違う作風だが、まあ、これらとある意味、並ぶ作品であるとは思う。

 この『瘋癲老人日記』。物語は次のようだ。性的不能に陥っている77歳の卯木督助(うつぎとくすけ)老人は、息子の嫁の颯子(さつこ)に惹かれ、ついにその美しい肉体を手にする。だが、それは倒錯(とうさく)的な夢の実現だった。颯子の足に変質的な愛を感じる督助は、彼女の足の拓本(たくほん)を作り、それを仏足石に形どって墓石にし、その下に自分の遺骨を置き、永遠に彼女の足に踏まれる喜びを得ながら眠ろうと計画し実行する。作品の文体は歴史的仮名遣いによるカナ書きの身辺雑記の日記体で書かれている。

 この『瘋癲老人日記』は、1962年に映画化された。(主演:山村聡・若尾文子、東山千栄子など)  また、演劇などでも上演がされてきたようだ。

 実はこの『瘋癲老人日記』で谷崎によって描かれる、卯木老人が恋する颯子という女性には、そのモデルとなった実在の人がいる。そして、私はその女性に何度も何度もあったことがある。私がまだ20代だった頃からの行きつけの喫茶店の女性店主だったからだ。その女性の名は渡辺千萬子さん。

 谷崎潤一郎の墓は京都東山山麓の法然院の墓地にある。近くには銀閣寺や哲学の道があり、私は学生時代には銀閣寺境内に隣接していた下宿で暮らしていたので、この法然院にもよく散歩に行っていた。法然院墓地には、マルクス経済学者として有名な河上肇や歴史学者として著名な内藤湖南、哲学者として有名な九鬼周造など、京都大学の著名な教授たちの墓もある。

 谷崎の墓には、二つの自然石の墓石があり、それぞれの墓石には、「空(くう)」「寂(じゃく)」の文字が刻まれている。「寂」と書かれている方の墓石が谷崎潤一郎の墓。墓のすぐ背後の山の傾斜地には、彼が好きだった紅シダレ桜の樹木が枝を垂らしてもいる。そして、この「寂」と刻まれた自然石の底部には、颯子の実在のモデルとなった人の足型があるのかもしれない‥とも思いつつ墓を眺めたりもする。

 70歳代となった晩年の谷崎潤一郎が渡辺千萬子さんに、激しく恋心を抱いていたことは、二人の往復書簡集などを読むとよくわかる。「(京都東山)鹿ケ谷の場所にアナタの家を建てること大賛成です。さうしたら私たちも泊まりに行けます。死後もそばにゐられます‥」などの千萬子さんあての書簡など‥。谷崎は、この時すでに、法然院に自分の墓を作ることを決めていたようだった。それは、『瘋癲老人日記』で、卯木老人が義理の息子の嫁である颯子を連れて京都に行き、あちこちの寺院(名刹)を見て廻った末に、法然院を墓所とすることに決めたくだりの文章があることからもわかる。そして、谷崎は新しくできた渡辺千萬子さんの家(※法然院のすぐ下の哲学の道沿い)に1ケ月間ほど滞在。その2カ月後に79歳の生涯を閉じた。

■渡辺千萬子さんは、谷崎潤一郎の三番目の妻となった松子夫人の長男(松子が谷崎と結婚する前に離婚した夫との間にできた子供)と結婚していた。つまり谷崎にとっては千萬子さんは、義理の息子の嫁となる。また、千萬子さんは、画家・橋本関雪の孫にあたり、哲学の道の近くに画室を構えていた祖父の関雪の家に、よく行ってもいて、なじみのある界隈だった。

■市民図書館で数年前に『デンジャラス』(桐野夏生著)を借りて読んだ。興味が惹かれた実に面白い本だった。物語の実在・実話のモデルとなっているのは、谷崎潤一郎と渡辺千萬子さん、そして谷崎の妻である松子夫人など。彼らの心情を軸として物語が展開される。

―書籍紹介には次の一文が—君臨する男。寵愛される女たち。「『重ちゃん、ずっと一緒にいてください。死ぬ時も一緒です。僕はあなたが好きです。あなたのためには、すべてを擲(な)げうつ覚悟があります。』 兄さんはそのまま書斎の方に向かって歩いていってしまわれました。その背中を見送っていた私は思わず目を背けたのです。これ以上、眺めてはいけない。ーそう自戒したのです。」(本文より抜粋)

 文豪が築き上げた理想の<家族帝国>と、そこで繰り広げられる妖しい四角関係—。日本文学史上もっとも貪欲で危険な文豪・谷崎潤一郎。

■私は中国の大学の4回生対象の「日本文学作品選読」の講義で、谷崎潤一郎の初期作品『刺青(しせい)』と『春琴抄(しゅんきんしょう)』を取り上げている。谷崎は東京大学の学生の頃から、『源氏物語』(紫式部著)に傾倒している。そして、その現代語翻訳本も執筆した。(谷崎翻訳版『源氏物語』)  そして、1948年に長編文学の『細雪』を執筆・発表した。この小説は、それぞれ個性の違う四姉妹の女性たちを描いた物語だ。

 それはもあの『源氏物語』で描かれる光源氏と恋人関係にあったさまざまな女性を描いたように‥。思うに、谷崎潤一郎という人は、『源氏物語』の世界に、死ぬまで憧れ続け、それを実践もした人とも言えるかもしれない。それにしても、死期も近い人間の老いらくの恋の谷崎のすごい生・性へのエネルギーや情熱、真剣さには圧倒もされる。このような生き方ができるのは稀有(けう)ではあるが‥。そして、老年にさしかかる手前の50歳代の男女を描いた『鍵』(1956年。谷崎が70歳の時に書いた作品。)、70歳代の男の生・性への執念である『瘋癲老人日記』が作り出された。

■私が谷崎潤一郎の文学作品で最も好きな作品は、『盲目物語』、『吉野葛』、『少将滋幹の母』などの歴史ものジャンル作品。谷崎の歴史もの文学作品は、文章に気品が漂ってもいる。そして、美学論である『陰翳礼讃(いんえいれいさん)』は素晴らしい。この書籍内容は、大学での3回生対象の「日本文化名編選読」で、九鬼周造の『"粋"の構造』とともに、日本文化における日本人・アジア人の美意識論として講義している。この二人は法然院にて眠っている。

■銀閣寺にほど近い哲学の道の疎水沿いに喫茶店「グリーン・テラス」がある。ここから徒歩10分ほどのところにある娘の家から、孫と一緒に哲学の道を散歩し、この喫茶店に立ち寄ったりもした。私が学生時代に銀閣寺界隈に下宿していた関係もあり、卒業後もこの界隈によく行って、喫茶店に2時間余りを読書や論文執筆をしたりして、タバコと珈琲でよく過ごした。

 そして、ここは谷崎潤一郎ゆかりの、渡辺千萬子さんの自宅兼喫茶店の家でもあった。(※2003年まで、「アトリエ・ド・カフェ」という喫茶店名で渡辺千萬子さんが店主として営業していた。その後、千萬子さんは店主を引退して、彼女の親族関係者かと思われる人が店主となり喫茶店部門(1階部分)を営業している。2階・3階部分は住居階。2階・3階部分にも玄関がある。) この喫茶店は、「私が人に薦めたい京都の喫茶店ベスト20」のうちの一つに入る。

 京都丸善書店の今、文庫本コーナーに並ぶ、川端康成や谷崎潤一郎の書籍。谷崎の『痴人の愛』は、映画化決定と記されていた。『雪国』、『伊豆の踊子』、『古都』と立てられて書架に並べられている川端の『眠れる美女』。そして、筒井康隆の『敵』。

 そして高齢化社会が本格化した2010年代、1948年生まれの内館牧子(現在76歳)が書いた『終わった人』(第1作)、『すぐに死ぬんだから』(第2作)、『今度生まれたら』(第3作)が、老人(高齢者)の生を描く小説として発表された。1作目も2作目も映画化される。これらの3作ともに、60歳~80歳までの男性、女性が主人公として描かれ、社会的にも大きな反響を呼んだ。私もこの3作を呼んだがとても面白かったし、描かれている内容や場面がとても身近にも感じられもした。優れた老年世代小説(文学)だと思った。ようやく、川端や谷崎や筒井の描く男性の老年の生・性の世界から、女性の老年の心情が中心に描かれた作品群の誕生だった。(※内館のこのシリーズは、『老害の人』(第4作)、『迷惑な終活』(第5作)へと続いてもいるようだ。)

 そして、2年ほど前に、NHKプレミアムドラマ「今度生まれたら—70代では人生やり直せない?」がシリーズで放送された。主演の松坂慶子、夫役の風間杜夫、友人役の藤田弓子などが出演。3世代2家族+αの人々が描かれた。

 3世代2家族+αの人々が描かれた。とても面白く、素晴らしく秀逸なドラマであった。


高齢化社会となった現代、「老人の生(せい)と性」を描いた日本文学の名作とは➊—川端康成の『山の音』と『眠れる美女』

2025-01-28 10:19:32 | 滞在記

 私は中国の大学で「日本近現代文学」や「日本古典文学」などの講義を初めて担当することとなった2015年以降、いろいろな作家の日本文学作品というものをこの10年間余り講義のためにも多く読むこととなったのたが‥。

 そのようなさまざまな古典文学・近現代文学、そして現代文学の作家や作品の中で、「老人」(高齢者)の生活、暮らし、悩み、不安、性への思い、死や健康など、「老人(高齢者)」の生をテーマに描く日本文学作品というものは、とても数が少ない。このような近現代文学が書かれた、明治・大正・昭和という時代は、まだ人生50年~60年の時代でもあったのだから‥。

 しかし、2000年代に入り、日本に限らず、中国や韓国などもまた、そして世界的にも人口に占める高齢者の比率が急速に高まった現代社会。日本では65歳以上の高齢者年齢層が人口の30%超を占めるようになった現在。この「老人(高齢者)」の「生(せい・生きざま)」を描く文学作品に注目(関心)が高まってきているようだ。この1月17日に全国公開された、筒井康隆原作の映画「敵」への社会的関心の高さもその一つの現れかとも思う。

 そして、日本の近現代文学者(作家)の中で、この「老人(高齢者)の生(せい)」を描いた作家として、秀逸な作品を残している人がいる。川端康成(1899年-1972年:享年72歳)と谷崎潤一郎(1886年ー1965年:享年79歳)の二人だ。

 まず川端康成が1949年に初稿として出版された『山の音』。この『山の音』は、ノーベル文学賞を受賞した川端の作の中でも、最も優れた作品との評価も多い。(※川端が50歳の時に書いた長編小説。) 物語は、老いを自覚し、ふと夜半に目覚め耳にする山や谷の音に、死期の告知の始まりと怖れはじめもする男・尾形信吾(62歳)。ともに暮らす会社員の息子の浮気と自堕落な生活態度、そんな夫をもつ息子の嫁への同情、そして彼女にふと淡い恋情を抱くようにもなった主人公。彼の様々な夢想や心境を基調に、長く連れ添っている老妻、出戻りの娘など、家族内での心理的葛藤を、鎌倉の町の美しい自然や風物とともに描いている『山の音』。1950年当時の日本人の平均寿命は、男性52歳・女性58歳となっていた時代だった。

 この『山の音』は翌年の1950年に映画化された。主演は山村聡。息子の妻役は原節子、息子役は上原謙、妻役は丹阿弥谷津子。監督は成瀬己喜男。映画ポスターには、「愛情のなだれか  女の嗚咽(おえつ)か ‥ひとり聞く山の音」と書かれてもいる。

 川端の『眠れる美女』は、「老人(高齢者)の生と性」への想いを描いた作品としては、日本文学史上に残る秀逸な文学作品かと思う。(1960年に初稿となった、川端が60歳の時の作品。62年に毎日出版文化賞受賞。)。そして、この作品は谷崎潤一郎の『瘋癲(ふうてん)老人日記』と比較されることも多い。(※「老人の生と性」を描いた作品の双璧として。川端の作品の方が上質[上品]な趣(おもむき)があり、私は好きだが‥。)

 作家の石田衣良(いしだ・いら)[64歳]などは、この『眠れる美女』が川端康成の最高傑作の作品だと評す。また、作家の三島由紀夫は「文句なしの傑作」とも評す。物語は、主人公の江口老人(67歳)が海辺の謎めいた館を訪れるところから始まる。そこは睡眠薬で深く昏睡状態になっている若い女性に、客が添い寝するという秘密倶楽部(※男性器の挿入性交は禁じられている。)だった。江口は眠っている娘の匂いをかぎ、肌にふれ、ときには指を口に含んだりしながら、過去につきあいがあった女性たちのことを回想する。性的不能となってしまっていて、年齢的にも平均寿命年齢を過ぎてもいる67歳の江口。それなのに、まだ異性を求めることがやめられない。

 奇術のようだと謳(うた)われたこの作品の川端の上質の気品ある情緒的な文章描写力もすごい。寝室に入る手前には「深紅のびろうどのかあてん」が下がっている。「かあてんの前に薄い光の層がある感じで、幻の中に足を踏み入れたようだった。」などと描く。饐(す)えた臭いを放つ老年のエロティシズムと熾火(おきび)のような命への執着が怪しく底光りしているような描写力のある名作『眠れる美女』。寝仏に似た清潔さをもつ娘と、思い出の女たちの姿を、フィルムのように重ねあわせ、老人は過去と現在の欲望を同時に生きているのだった。

 この『眠れる美女』は、2016年にオペラでも上演されている。奇しくも主演の一人は映画「敵」の主演男優の長塚京三。また、映画化もされている。(主演は原田芳雄。) 2008年に発売された『眠れる美女』の書籍には、女優の多部未華子がイメージキャラクター(眠れる美女)とされる写真が挿入されてもいるようだ。

 鈴木涼美(作家・エッセイスト)のこの『眠れる美女』への評論なども優れた作品評かと思う。

■私は中国の大学の4回生の「日本文学作品選読」では、川端康成の作品としては『伊豆の踊子』を中心に扱っている。学生の年齢層20歳前後を考えると、青春の初恋を描いたこの作品がふさわしいと思えるからだ。『眠れる美女』の作品に魅力を感じるのは特に50歳をすぎてからの読者層かと思われる。川端は、青年時代の恋としての『伊豆の踊子』、中年の恋情としての『雪国』、そして老年の性愛としての『眠れる美女』を、自分の経験や想像力などももとにして描いた作家でもあった。

 

 

 

 


映画「敵」(長塚京三主演)と、原作本の『敵』(筒井康隆著)、二つとも秀逸な映画や文学作品だった—新しくなったイノダ珈琲三条店に入る

2025-01-26 08:44:01 | 滞在記

 「映画化される前の原作を先に読むべきか?、映画を先に見るべきか?‥‥」、数日間迷ったのが映画「敵」だった。映画の全国公開日前日の1月16日付朝日新聞の朝刊に、この映画の広告や関西での上映館の情報が大きく掲載もされていた。京都市内の大きな映画館でも上映されるようだった。結局、1月21日(火)の午後、京都新風館シネマで映画を先に見ることになった。

 この映画は、第37回東京国際映画祭(24年10月下旬~11月上旬)で三冠(東京グランプリ賞・最優秀監督賞・最優秀男優賞)を獲得した映画なのだ。どんな映画なのだろうと期待をもった。この東京国際映画祭での映画「敵」についての審査員の講評としては次のものなどがあった。「純粋で最も気高い形の"真の映画"である。」(香港の俳優で、映画「赤壁」などの主演男優・トニー・レオン氏)   「ある老人の心の世界と彼が直面する諸問題を描き出すことによって、人々に与える感動を見事に創ることに成功した。」(ジョニー・トー氏)

 新風館の映画シアターの壁面に掲示されていた、映画「敵」のさまざまな場面とその時の言葉が並ぶ。「私、先生に教えてもらいたかったなぁー」「フランス人の夫婦って、愛してるかどうかを言葉で確認するんでしょうー」「こんなこといきなり教え子が聞くのも、先生の想像ですか?ー」「楽しい時間って、すぐに終わりますねー」「杜仲茶のお茶漬けで締めるー」「来るべき日(Xデー)に向けてー後何年もつか」「"敵"はある日突然に現れるー」

 ー人生は恐ろしく、美しいー。とも銘打たれた映画「敵」。原作は作家の筒井康隆(90歳)。監督は吉田大八。主演は長塚京三(79歳)。この映画で共演した3人の女優について、インタビューを受けた長塚京三は、「いずれ菖蒲(しょうぶ)か杜若(かきつばた)」と語って(評価)いる。その三人女優とは、瀧内公実[大学での元教え子役](35歳)、河合優美[数少なくなった友人と時々行くことのあるバー「夜間飛行」のアルバイト女性役。大学ではフランス文学を専攻している学生。](24歳)、黒沢あすか[20年ほど前に亡くなった妻役](53歳)。他に、松尾諭、松尾貴史などが出演している。

 映画「敵」は、この3人の女性とのこと(※特に瀧内への性的な]夢想願望なども)を中心に描かれているが、主人公の渡辺儀助(77歳/フランス近代演劇史を専門とした大学教員を辞して10年)が、一人暮らしの中での、朝食を作る場面など、日常のこまごまとした暮らしのようすを描く場面が秀逸でもあった約2時間ほどの映画作品だった。

 映画「敵」を見終わって映画館から徒歩10分ほどのところにあるイノダ珈琲三条店(三条通)に入った。ここは2年間ほど、店内改修工事のために閉鎖されていたので、今回が改修後初めての入店。

 懐かしい、店の奥にはこの三条店名物のの大きく丸いカウンターテーブル席。そしてその中に、数名の珈琲職人たちが白い衣服と帽子をつけて入っていてコーヒーを淹れてくれる。このカウンター席は、10年ほど前までは喫煙可能だったので、備え付けの各種新聞を読んだり読書をしながら喫煙したものだった。その後、このカウンター席のそばに喫煙ルームが併設されるようになって、テーブル席での喫煙はできなくなっていった。この日、このカウンター席で読書をしている人もいた。私は、映画「敵」のパンフレットを読みながら、この店で久しぶりに過ごした。

 この日、このカウンター席で読書をしている人もいた。私は、映画「敵」のパンフレットを読みながら、この店で久しぶりに過ごした。

 パンフレットを読みながら、この映画の原作である筒井康隆の「敵」そのものを読んでみたくなった。筒井康隆が64歳の時に書いた小説のようだった。筒井はこの映画についてのインタビューコメントで、「Q:64歳の時に"老い"について書いたのは?なぜ?ですか‥」という質問に、「A:年をとるのが怖かったからでしょうね‥」と。

 翌日の22日(水)の午後、京都丸善書店でこの『敵』(新潮文庫)を購入し、読み始めた。映画とはまた違った文章としての面白さや秀逸さを思う文学作品だと、読み進めながら思う。これは日本文学史上での「老人の生活・性を描いた文学」という分野での作品としては代表的ともなる傑作のひとつになるかと思われる。

■新潮文庫版『敵』。裏表紙の作品紹介は次のような文章だった。「渡辺儀助、75歳。大学教授の職を辞して10年。愛妻にも先立たれ、余生を勘定しつつ、ひとり悠々自適の生活を営んでいる。料理にこだわり、晩酌を楽しみ、時には酒場にも足を運ぶ。年下の友人とは疎遠なりつつあり、好意を寄せる昔の教え子、鷹司靖子はなかなかやってこない。やがて脳髄に敵が宿る。恍惚の予感が彼を脅かす。春になればまた皆に逢えるだろう‥。真切の傑作長編小説。」

■『敵』(筒井康隆著)は、「朝食」「友人」「物置」「病気」「講演」「鷹司靖子」「老臭」「買い物」「夜間飛行」「昼寝」「信子」「風呂」「煙草」「敵」「幻聴」「春雨」「孤独」「酒」「珍客」「性欲」「預貯金」「睡眠」「野菜」「遺言」‥‥など43篇からなる。

■日本の近現代文学史上、この老人の生活・性・暮らしを描いた作品で、秀逸なものとして、川端康成の『山の音』や『眠れる美女』などがある。このことについては、次号のブログで紹介したい。

 


来週から中国の「春節」が本格的に始まる—今年の春節期間の外国旅行先としては日本がトップとなるようだ—王さんたちが今年も旅行で日本に来た

2025-01-25 07:33:34 | 滞在記

 1月16日付京都新聞には、「訪日消費、初の8兆円超 24年 客数も最多3686万9900人」の見出し記事。国別の消費額として「➀中国21.3%、➁台湾13.4%、➂韓国11.8%、➃米国11.1%、⑤香港8.1%、➅オーストラリア4.3%、⑦タイ2.8%、➇その他27.2%」と報道されていた。(※➀➁➄の中華圏合計は42.8%となる。)

 1月21日付朝日新聞には、「訪日客最多 "よかった68%"」の見出し記事。これまでの過去最多の訪日外国人観光客数は、2019年の3188万2049人だったが、この24年がそれを上回る訪日外国人数になったことについて、「よかった」「よくなかった」の感想を日本人にアンケート(1月18・19日)した結果の数字に関する記事だった。

 オーバーツーリズムなどの問題もあり、このようなアンケートを朝日新聞が実施したようだった。記事によると、18歳から29歳までの年齢層では、「よかった」(79%)、一方、70歳以上では「よかった」(63%)と年齢層によって違いがみられるとのこと。平均的には、「よかった」(68%)、「よくなかった」(21%)との報道。

 さて、今年の中国の「春節」(旧正月)は1月28日(大晦日)から約10日間の期間始まる。そして、春節期間をはさんでの前後40日間余り(※今年の場合は、1月14日頃から2月19日頃まで。この期間は、残っている会社の年休などをまとめて消化しやすい雰囲気となる。)が「春運(春節運行)」期間といって、国内の交通機関は全て春節ダイヤ増便に切り替わる。今年は延べ約90億人が国内外への大移動が行われるとの予測報道。

 海外に旅行する人もこの春節期間が1年間で最も多くなる。昨年24年は春節期間海外旅行先人気1位はタイ、2位は日本だったが‥。今年の場合の「25年春節の海外旅行先ランキング」は、「➀日本24.3%、➁東南アジア22.3%、➂韓国17.2%、➃ヨーロッパ10.3%、➄オーストラリア10.1%、➅ロシア7.1%、⑦アメリカ5.9%、➇中東諸国1.2%、➈アフリカ0.3%」との報道。また、日本国内の旅行先としては、「大都市ではなく地方都市へ」となっているようだ。(※フジテレビ報道番組「めざまし8」より)

■海外旅行をする中国人は、次の時期に海外へ行く場合が多い。➀春節開始前の10日間余り。そして春節前に中国に戻る。➁春節の大晦日や元日を家族・親族で過ごし、翌日あたりからの時期に10日間余りの旅行。➂春節期間終了後から10日間余りの海外旅行。(※➀➁➂のいずれも「春運」期間となる。➁の飛行機運賃が最も高額となる。)

 京都では1月中旬頃から中華圏の訪日観光客がぐっと増え始めた。私の中国生活でとても世話になっている王文重さんとフィアンセの甘(かん)さん(※昨年もこの時期に観光で初訪日した。)は、1月15日に中国福建省福州市の空港から関西空港に着き、その日のうちに関西空港から北海道の千歳空港に飛び、札幌のホテルに宿泊。雪の北海道巡りを行った。19日には千歳から関空に戻り京都のホテルで3泊。(京都市内をレンタル自転車で廻ったり、奈良にも足を延ばす。)

 私は20日の夜、京都南座前で彼らと待ち合わせをして、祇園の「やげんぼり花見小路店」で再会の乾杯🍻をした。店には中国の上海から来日した4人の客も。彼らに聞いてみたら、「この店の評判をネットで知って初めて来ました」とのこと。王さんたちと祇園界隈の店で二次会をして、日中の唄を歌い合ったりして、夜10時30分頃に「再見(つぁいじぇん)」。王さんたちは22日からは大阪に移動し宿泊。今日、25日に中国に戻る。そして、春節の大晦日や正月は王さんの故郷や甘さんの実家のそれぞれに行き春節を過ごすこととなる。

 2月上旬過ぎからは、閩江大学4回生の康さんたちが10日間余り来日予定で、訪日コースは王さんたちと同じく、まずは北海度、そして関西コース。

 中国の春節に合わせて中国に帰国する日本国内への留学生たちもいる。昨日、閩江大学の3回生の陳さんと李さん(彼女たちは交換留学生として1年間日本に留学中)から、「先生、やっと(日本のl留学先大学での)期末試験が終わりました。29日に中国の春節に戻ります。26日(日)に京都に行きますので会いたいです」との連絡が入った。

 『京都花散歩』(水野克比古著)という、とても優れた写真集の小書籍がある。1年間の四季折々の花の名所の写真集だ。今の季節(1月下旬)は、「水仙」と「蝋梅(ろうばい)」。その写真を撮影した場所(多くは寺社)も記されている。

 私の自宅の界隈でも蝋梅の花が咲き始めている。椿の花も開花し始めている。我が家の庭の水仙もあと1週間ほどしたら開花しそうだ。梅の開花もあと1~2週間で開花してくる。2月2日の節分からは春に向かう。

 

 

 

 

 


女性に対する男の美学のかけらもない男たち—中居正広の性加害問題、フジテレビ制作幹部たちの所業問題に思う

2025-01-24 06:24:50 | 滞在記

 東京湾のお台場に立つフジテレビ本社ビル。「世界のタンゲ」と言われた建築家・丹下健三が「自身の作品の集大成」ともしたビルともされる。1996年に完成した、球体の展望室をもつこの巨大ビルは、お台場を象徴するランドマークともなってきている。(※私は、親族の結婚式で初めてお台場に来た2018年にこのビルを見たが、やたら目立つて"君臨しているぞ"感が強烈なだけで、優れた建築物だとはちっとも思えなかったが‥。「世界のタンゲ」の名折れではないかと思える建築物だと思っている。)

 このフジテレビ本社ビルに、「フジの天皇」として長らく君臨していたのが日枝久(ひえだ・ひさし1937年生まれ・現在87歳)だった。1988年からフジテレビの社長に就任し、その長期政権は2017年まで続いた。現在は同社取締役相談役として隠然たる力を持ち続けているともされる。フジテレビの良しも悪しも、フジの企業風土を作った人でもある。今回、表ざたになった中居正広(52歳)の性加害(性犯罪・強姦罪)、そしてそれをお膳立て(性上納)したともされるフジテレビ幹部職員たちの問題に関して、やはりそのような企業風土やテレビ放送内容を作ってしまったという点では、彼にはその責任は大きなものがあるだろうと、私は思っている。

 昨年の12月中旬、週刊誌『女性セブン』の報道によって明らかになった中居正広の女性とのトラブル問題。下旬には週刊誌『週刊文春』報道で、そのトラブルとは性加害(強姦犯罪)問題であることが報じられた。その後、1月に入り、この問題は、フジテレビの幹部たちによる性上納問題が明らかにされることともなり、インターネット報道では連日、この問題に対するたくさんの記事が報じられることとなって、現在に至っている。

 松本人志(61歳)の性加害(犯罪)問題では、吉本興業の複数の芸人たちによる松本人志への性上納事件(吉本興業の企業風土の問題も)だったが、今回はより公共的な企業であるフジテレビの幹部たちによる性上納問題でもあり、フジテレビの企業の在り方、放送内容や番組の在り方そのものも問われる事件となっている。

■以前にも何度かこのブログで書いているが、特に日本の民放テレビ局の午後7時~9時のゴールデン時間帯と言われる番組内容の多くは、とてもくだらない、軽薄な番組に満ちている。これを視聴する国民にも問題がある。そのような番組のタレントとして中心となっていたのが中居正広や松本人志であった。また、中居正広ととても仲が良いとされる和田アキ子(73歳)などの「アッコにおまかせ」なども低俗な番組の一つだとは思うが‥。この番組では、「芸能界のご意見番」を自称している和田アキ子だが、この中居正広問題では、一言も触れることがないご意見番?が聞いてあきれもする。

 この問題に対する中居正広の1月9日の声明「示談が成立したことにより、今後の芸能活動についても支障なく続けられることになりました」や、1月中旬の港浩一フジテレビ社長の会見の内容に対して、社会的に大きな批判が起こり、さらにこの問題は大きくもなっていった。1月16日付朝日新聞には、「フジテレビ、調査委設置—中居さん問題 社員関与報道受け、社長、説明遅れおわび 回答避ける場面目立つ 他のテレビ局質問できず」の見出し記事。

 1月21日付朝日新聞には、「フジテレビ 体質問う声 中居さん問題 CM停止30社超 説明不足の会見で状況悪化 会見のやり直しを求める署名2万筆」の見出し記事。今回の性加害・犯罪事件(強姦事件)は、2年ほど前に起きたとされる。中居正広の自宅に、フジテレビ幹部が被害者女性を呼び、フジテレビ幹部たちともどもの食事会を企画。そして、被害女性(フジテレビアナウンサー)だけが参加する結果を作り、中居正広が強姦に及んだとされる事件だった。そのため、女性は心身に大きな障害をもつことになり長期入院。今回の事件は氷山の一角で、長期にわたりこのような性上納的な行いが広範に行われていた可能性も大きい。

 このフジテレビ幹部とは誰なのか。インターネット報道やyoutubeでは、「フジの三悪人」として、その中心人物は中島優一・フジテレビ編成総局部長(52歳)の名前が報じられてもいる。(※事実かどうかは第三者委員会の報告を待つが‥。現在彼は、出社停止中)  他の二人の名前も挙げられていた。

 さらにこの問題での、フジテレビ局内の問題として深刻さを感じるのは、アナウンサー室長(部長)の佐々木恭子(52歳)アナウンサーの対応の問題だ。彼女はフジテレビの看板アナウンサーとして長年活躍、いわばフジの顔でもあった。その彼女は今、アナウンサーを統括する部長職にある。被害者女性は、中居正広からの性被害を佐々木部長に相談し、被害を訴えたが、結局、佐々木部長はこれを聴くだけで、中島優一部長に問いただすこともなく隠ぺいしたとされることだ。

 フジテレビの朝の報道番組「めざまし8」メインキャスター谷原章介は、1月22日の同番組で一連のこの問題についての苦しい胸のうちや問題に関する謝罪を表明した。彼はフジテレビのアナウンサーや社員でもないので、謝罪する必要はなかったのだが、それでもフジテレビの報道番組に関わるものとして、誠実に思いを表明した。それと大局的な和田アキ子。彼女などは即、引退すべきかとも思う。(起用しているテレビ局もテレビ局だ。)

 1月22日付朝日新聞の「天声人語」にも、この一連の問題について書かれていた。

 最近までフジテレビの取締役(専務)で、昨年6月に関西テレビ社長に就任した大多亮氏が、今回の中居・フジテレビ問題について記者会見を行った。翌日の1月23日付朝日新聞には、「元フジ専務"重い案件 衝撃"現・関テレ社長 当時の対応を釈明 米ファンド 再会見要求」の見出し記事。この米ファンドはフジテレビの株7%を保有しているようだ。

 中居正広が2年前くらいに起こした、今回問題になっている性加害・強姦事件を起こしたことをフジテレビ側は知りながらも、この2年間余り、中居をメインキャスターとする番組をいくつか続けていたことや、さらに新たな中居をメインとする番組を放送してきた経緯など、フジテレビの企業体質・風土は、大きな社会問題となっている。

 今日・1月24日付朝日新聞、「中居さん 芸能界引退 女性トラブル"全責任は私に"   フジ:第三者委を設置 3月末めどに調査報告」「窮地のフジ混乱 社長"会見は失敗"  社員説明会"退陣求める声も" スポンサー離れ長期化か」「中居さん姿見せぬまま トラブル報道から1ケ月」などの見出し記事。

 フジテレビへのCM停止・差し替えは現在、75社超にのぼっているようだ。調査委員会の3月末報告では、その真相がどこまで報告されるのだろうか‥。フジ三悪人との報道のある人物や佐々木アナ部長の責任問題などの真相は、どのような調査結果として報告がされるのだろうか‥。

■この問題が社会的に批判をされたことを機に、民放テレビ放送局の、くだらない、日本人の少なくない人を痴呆化に導く番組が少しでも減少に向かうことを願う。また、昨年11月から12月に、「松本人志復帰に向けての動きも‥」と報じられていたが、復帰などを許してはだめだろうと思う。

 まあ、松本人志や中居正広などというのタレントは、「男として、人間として最もかっこ悪い」と思える人物だ。女性に対する男としての美学の片輪もない‥。まるで時代劇の地位を利用した高慢な悪代官や悪旗本を見ているような気もする。(※性上納をするのが時代劇では悪徳商人という構図だが。) 芸能界を即引退、当たり前だろうと思う。(余生は静かにひっそりと目立たぬように暮らせ。本来なら強姦傷害事件として立件され刑務所に行く事例だとも思うが‥。)