"瀟瀟春雨下、相約一把傘"(春雨や 身をすり寄せて 一つ傘)。これは、中国遼寧省大連市の市政府から日本の北九州市に送られてきた大量のマスクなどの支援物資のダンボール箱に書かれていたメッセージだ。"日本加油!"(日本ガンバレ!)のメッセージとともに届けられた。
岡山県備中高梁市にある吉備国際大学。小さい城下町にあるこの大学は4000人ほどの学生数のうち1500人ほどが中国を中心とした留学生たちが占める。4年ほど前に、この町に一泊して備中高梁城を見学した際に、この大学も訪問し 学務課の人から留学生たちのことなどを聞いたことがあった。JRを利用して岡山市までアルバイトに通う留学生も多いとのことだった。この大学に、中国人留学生の卒業生たちからマスクなどの支援物資が届けられた。
京都府宇治市にある萬福寺には、私が暮らす中国福建省からマスク4万枚が送られてきた。この寺とかかわりの深い中世期中国の禅僧・隠元禅師の縁に基づくものとのこと。日本で中国語検定を実施している「日本漢語水平考試HSK事務局」にもマスクが中国から届けられた。「山川異域 風月同天」(山河は違う地域だが 風や月は同じ空にある)のメッセージが段ボールに書かれていた。
4月10日頃、京都府綾部市には中国江蘇省常熟市からマスク2万枚が送られてきた。「出入相友 守望相助」(いつでも互いに友人のように接し、ともに見守り助け合おう)「綾部市頑張れ」のメッセージがダンボールには書かれていた。綾部市は1月下旬に、市が備蓄していたマスク2千枚を常熟市に支援寄贈していた。「10倍返し」だと、綾部市は感謝した。京都市には中国湖南省長沙市からたくさんのマスクが送られてきた。2017年から文化芸術交流を続けけてきた縁だという。
大量のダンボール箱の中は医療器具やマスクが入っていた。このダンボールを日本に送ってきたのは中国の映画界の団体とそれに所属する男優・女優たちだ。中国版「ランボー」の主演者・呉京(ウージン)や女優の楊幕(ヤンミー)などの名前も。日本語で「日本の皆様の中国に対する温かい支援と応援に感謝します」、中国語で「一衣帯水、一起加油!」「一衣帯水唇歯相依、一起加油! 日本&中国」などのメッセージ。
3月下旬頃から、中国各地の市や省(主に日本の都市との友好都市関係)だけでなく、団体や個人有志たちから、マスクや医療器具などの支援物資が、感謝のメッセージとともに、「日本ガンバレ」と書かれて とりわけ日本に届けられることが多くなった。これはなぜだろうか。もちろん、1月下旬から2月下旬頃までにかけて日本の都市や県、個人有志や団体から中国各地にマスクなどの支援物資がたくさん送られた経過もあり、その返礼の思いもあるのだが。とりわけ、なぜ日本なのか。
中国が新型コロナウイルス感染拡大の爆発的拡散の最中にあった2月2日、中国外交部の華春瑩報道局長は、「多くの国々からの支援物資の支援に感謝しています。とりわけ日本からの支援物資には"武漢加油!・武漢頑張れ!、中国加油!・中国頑張れ!"と中国語で書かれてあり、さらに、"山川異域 風月同天"の漢語のメッセージには特に感動しました」と語る映像・画像などは、中国でも日本でも報道されていた。
実は、韓国から中国への支援物資は日本より韓国の方か時期的にも早く、量的にも多かったのだが、韓国のことは、ことさらの感謝として取り上げてはいなかった。これはなぜだろうか。いくつかの要因があるかと思うが、まず、言葉というもののもつ力・メッセージ性があるかと思う。日本と中国は世界でただ2つの"漢字を日常言語として使う国"である。韓国語のメッセージは中国人にはわからないが、日本語や日本の漢語文字は中国人に伝わりやすい。「山川異域 風月同天」という文章は、その後 中国では流行語ともなった。
次の理由として、1月23日に「武漢封鎖」が発表されて、ほぼ即座に「中国からの入国禁止措置」を発表した国がいくつかあった。それらは、ほぼ中国ととても親しい友好国・兄弟国だった。北朝鮮はなんと武漢封鎖前日の1月22日から「中国からの入国禁止」を発表、続いてロシアは1月下旬に「中国からの入国禁止」を発表した。ここ数年、中国寄りの国策を撮り続けているフィリピンも1月下旬に「観光半ばの中国人観光客を強制的に中国に戻す」という措置をとり「中国人入国禁止」を発表した。中国人からすれば、この悲嘆にくれ始めた時期に、日ごろは愛想のいい協力関係の強かった国々から「裏切られた」という思いだったかと思う。「それに比べて日本は……」という思いが生まれてきたのかと思う。日本の人々からのメッセージはより心に刻まれたことだろうかと思う。
三つ目は、中国の人々が抱く日本という国への憧憬というか尊敬というか、そのような敬慕感情が以前からあることだ。この日本への感情は単純なものではなく、1990年代から始まった「反日教育」にともなう「鬼子日本には負けたくない」という感情と表裏をなしてはいるのだが。このような敬慕感情は韓国という国に対しては、中国人はあまり抱いていない。
四つ目は、中国政府がアメリカとの対抗上や一帯一路政策のためにも、日本政府との友好関係をより確かなものにしたいという思いや、4月に予定もされていた習近平主席の日本訪問という日程のこともあったのかと思われる。
◆日本の安倍首相への批判も日本では大きくなりつつある。その一つは「なぜ、迅速に中国からの入国を禁止しなかったのか。中国への忖度や今年度の東京五輪招致への執着が災いを大きく広げた」というものだ。これはこれで、確かに的を得ているところもあるのだが、日本と中国の未来を考えるとき、事はそんなに単純に批判できるものではないと、私は思う。がしかし、まずは感染拡大を抑えることが最重要。これらの批判が高まってきたことはしかたがない。今日19日(日)の報道では、ついに日本での感染者数が1万人を超えてきた。
◆世界の国々、とりわけ日本への感謝を表明した外交部会見から3日後の2月5日、華春瑩報道局長は、「美流感己致1900万人感染1万多人死亡、比例高于中国疫情」と、アメリカのインフルエンザ感染者数や死亡者は中国の新型コロナウイルス感染者の状況より深刻だと表明し、アメリカを牽制し、中国国民にも「アメリカの方が大変な状況なんだよ」と国民の不満や不安をそらそうとも中国政府は試みていた。
兵庫県豊岡市にある兵庫県立コウノトリ郷公園が、「鳥取市内で生まれたコウノトリの中国への飛来が確認された」と発表した。これまで日本で巣立ったコウノトリの海外への飛来は、韓国で9例確認されているが、中国では初めてとのこと。親のペアはいずれも豊岡市で生まれている。昨年5月に鳥取市内の巣塔から巣立った雄のコウノトリが中国・浙江省台州市(東シナ海沿岸)で4月6日に確認・撮影された。昨年の12月にも目撃されていたという。撮影したのは中国人のバードウオッチャーの人だった。鳥は入国制限という人間世界とは違って、国境はないのだろう。
この浙江省台州市の台州病院からも、4月1日に熊本市にマスクや防護服などが届けられた。熊本大学に留学経験のある医師の提案で、同医院が送ってきたのだという。また、県と熊本市が郷土運営する団体にも3月下旬、熊本大学に留学経験のある中国人たちの同窓会から2万枚のマスクが届いた。にダンボール箱には、「熊本頑張れ 一滴水之恩 湧泉相報」(一滴の水でも受けた恩は湧き水にして返す)と書かれていた。
日本の京都では4月10日過ぎころから、南方の国からやってきた燕(つばめ)の姿をよく目にするようになってきた。日本で生れ、巣立ち成長し、そして秋から冬になると暖かい南の国々に飛んでいく。そして、日本が春の季節になると、再び、自分が誕生した日本の古巣へとぴたっと戻る燕たち。『東洋の理想』(岡倉天心著)の一節「アジアは一つ」を思い出す。
日本では4月17日に、「緊急事態宣言」を全国都道府県にて宣言。都市封鎖や外出禁止・制限はないが、人との接触をできる限り減らしてとの強い要請や全国的な営業休止要請。私もだが、できるだけ家にいて過ごす人も多くなった。一日中家族と過ごすことの多い日々がもうすでに半月あまり前から始まっている日本だが、いつまで続くかわかららい状況下、誰もがつのる不安感やイライラ・ストレスは避けられないものかと思う。
中国では春節始まりの1月24日以降、外出禁止や制限が2カ月あまり続いた。ずっと2カ月間、家に家族と共に過ごすことにより、不安やストレスが大きく、夫婦関係や親子関係にもさまざまなものが変化もしたかと思う。4月上旬の日本のテレビでは、「中国、離婚数が増加、離婚調停の依頼数が25%増えた」「離婚届は記録的な数に」「中国 家庭内暴力の事案も増加」との報道があった。また、4月7日には、「グテーレス国連事務局長が"世界的にDV(家庭内暴力)急増 国連が警鐘"世界各国に対策要請」「フランス DVが1週間で3割増加」なども日本のテレビで報道されていた。
4月11日、中国では「111人の新たな感染者が―そのほとんどは海外からの帰国者」と報道されていた。3月上旬になり、感染の拡大がほぼ抑制され始めてきた中国。3月中旬頃から、海外に暮らす中国人の帰国希望者が増加。ヨーロッパのロンドン発上海行の片道航空券などは、相場の10倍以上の18万元(約280万円)以上に高騰していた。発売後2時間で100席以上が完売したという。中国への渡航便が90%以上削減されているための高騰だ。
私が暮らす中国福建省の福州市では、2月4日から都市封鎖の実施、外国からの入国者に対しては2月下旬には「自宅ではなく2週間の指定ホテル隔離」が早々と決定された。北京では3月中旬までは外国からの入国者は自宅隔離だったが、それ以降はホテル隔離に変更された。そしてほとんどの地域でもホテル隔離となっていった。こんな中、高額の航空券を購入し、この3月中旬すぎ頃に中国に戻ってきた女性が逮捕されていた。日本のテレビ報道によると「ドイツから帰国した留学生 隔離がイヤ!バスから逃走」「女性への批判が沸き起こる―"留学生のイメージに泥を塗った」「海外で悪い考え方を学んできたのか」と批判されているという。今現在、彼女は拘束を解かれたのだろうか?