亜熱帯地方の福建省の季節では、5月は初夏、6・7・8・9月の四カ月間は35度以上の真夏、そして10月は晩夏と半年間は30度以上の夏の気候。今年は新型コロナウイルス感染問題で、私が勤める福建省の閩江大学でも、5月末日でもまだ学生たちは大学に戻ることはできていない。初夏の5月中旬ころ、大学構内に10数本あるデェイゴの樹木の花は満開となり、下旬頃には花は散っていく。淡い水紫色の花をさかせる藍花楹(ランファイン)が咲き誇る。この樹木の涼し気な花が咲き始めると、「あと1か月半で夏休みになるなあ」と嬉しくもなる。日本ではよく見られるドクダミの白い花も5月には咲いている。
5月中旬頃になると蓮の花がポンポンと開花し始め、約1カ月間をかけてほとんどが開花し、6月下旬には湖面をピンク色に染める。今年のこの季節、2万人の学生たちは誰一人も大学に戻っておらず、蓮もひっそりと静かに開花を始めていることだろう。
ハイビスカスやブーゲンビリア、睡蓮なども、本格的に花を開花させ始めるのも5月中旬ころからだ。そして福建省福州市が世界の本場であるジャスミンも花を開花させ、高貴で上品な香りを漂わせる。同じ亜熱帯地方の沖縄では、沖縄ハーブの一種で、料理を盛ったりご飯を包む葉として昔から使われていた月桃(げっとう)の花も開花する。5カ月間あまり、人がほとんどいない大学構内は今どうなっているのだろう。
福建省ではバナナの収穫時期は年に2回ほどあるが、5月になるとその時期の一つとなり、とても安く出回り始める。中国西部の甘粛省や新疆ウイグル自治区などを主要産地とするスイカや瓜もたくさん出回り始める。また、中国南部の貴州省や広西チワン族自治区などではレイシが収穫期を迎え、全国に出回る。パパイヤの実も大きくなり始める5月下旬。
例年、6月20日頃卒業式が行われる。閩江大学では約5000人余りが卒業予定だが、今年は新型コロナウイルス問題で一堂に会した卒業式は挙行されないだろう。どういう形式になるのか、まだ大学から連絡はない。
日本語学科の4回生は63名。通常は1学年は40人(2クラス)ほどだが、この学年だけはとても多い。昨年の6月から卒業論文指導が始まった。私が担当した学生は7名。日本語学科の9名の教員がそれぞれ7名ほどを担当して、指導が開始された。それから約一年後の今年5月23日(土)、卒業論文発表会が行われた、学生たちはまだ大学に戻ることが許可されていないので、口頭発表や質疑応答などはインターネット・ONLINEで行われた。
前日の22日(金)午後、発表会のリハーサルが行われた。発表会は3つのグループに分かれ、それぞれのグループに21名の発表者となる。各グループの教員は3名。他に、発表会のスタッフ(記録・計測など)として各グループに3名の3回生が参加。23日(土)の午前9時から発表会が開始され、終了したのは午後3時頃だった。(各グループ6時間ほど)
事前にグループ21名分の卒業論文(本稿)を教員は読んでいて、事前に卒論評価(70%分の成績)をつけて、この日の卒論発表会に臨んでいる。この日は、発表(報告)の評価・質疑応答への評価などが合わせて30%分の成績評価が付けられる。日本語学科の学生たちの論文テーマは例年、主に「①日本語言語学②日本文化学③日本文学④日本社会学」4つに大別される。そして、①〜④ともに日本と中国を比較した内容のものが多い。毎年、学生たちとともに卒業論文指導をしたり、完成した卒業論文を読んで、私も一緒に学ぶことも多い。
私のグループの教員は他に、中国人教員の譚先生と林先生。そして、21名の卒業論文のテーマは次の通りであった。
①『千羽鶴』の文化コードへの研究、②楊貴妃描写の中日比較研究、③中日「児童文学」の比較研究―現実題材作品を中心に、④『蟹工船』における労働者のイメージの変化―小説と再創作、⑤大江健三郎の核文学について―『ヒロシマ・ノート』を中心に、⑥太宰治の孤独文学―『人間失格』を中心に、⑦『細雪』と『第一炉香』の女性形象比較、⑧受容と変革―芥川龍之介の『杜子春』について
⑨日本語動詞「かかる」の多義性研究、⑩中日助数詞の対照研究、⑪太宰治の『人間失格』に関する漢訳風格について、⑫現代における中日若者言葉の対照研究、⑬中日両国におけるゴミ分類施策の比較研究、⑭『紅楼夢』と『源氏物語』における男性像の比較
⑮『山海経』の日本の妖怪文化への影響について、⑯日中色彩語の文化的内包の比較研究―赤・白・黒・青を例に、その象徴的意味、⑰中日における新年風俗の形成について、⑱中日の無常観について―『紅楼夢』と『源氏物語』を中心に、⑲中日の高齢化問題について、⑳陰影美について―谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』を中心に、21・中日の伝統服飾の変遷と現状
◆21人が発表した卒業論文のうち、9つほどは けっこう優秀又はかなり優秀な内容の論文という印象だった。
◆全体発表会(63名)が終了後、総合評価が90点以上の学生たちの論文は、再度の口頭試問が行われた。私が担当した7人の学生のうち、⑮・⑱・⑳の3人は、再度の口頭試問が他のグループの教員たちとともに行われた。その結果、3人ともに90点以上の再評価となり「優秀論文」となった。他の教員から、「寺坂先生、3人もの優秀論文おめでとうございます」のコメントが送られてきていた。全体の何篇もの優秀論文の中から、後日、さらに「最優秀論文」が選ばれることとなる。
◆昨年度から、卒業論文の本稿執筆や卒業論文発表会での学生の発表や口頭試問は日本語で行われることとなり、日本語能力のきわめて弱い学生は卒業論文で赤点がつき、このため卒業論文評価が不可となる学生もある。今年、私の担当する21名のグループでは、20名が可(合格)となった。
◆例年、卒業論文発表会のあった日の夜は、「卒業パーティ」がレストランなどで開催されているが、今年はそれはできなかった。