1980年代から1990年代にかけては、中国の国産テレビドラマの製作力が不足していたため、海外のテレビ番組(香港・台湾・日本・アメリカ・韓国など)が巨大な市場を占め、発展していた。日本のテレビドラマが中国における輸入海外ドラマの中心となっていたのは、とりわけ1983年から1997年の、約15年間がその黄金期であった。
一方、NHKスペシャル『シルクロード』や『海のシルクロード』が1980年代から90年代にかけて日中合同製作放映され、ベールに包まれていた「中国」についての関心が一挙に日本国民の間に広まった。1990年代から2000年代初めにかけて「中国ブーム」が起き、多くの人が中国へ旅行に訪れた。(※中国に旅行した知人たちの「中国式トイレにはまいったよ!」という話もよく聞いた。)
日本に於いては、1964年の東京オリンピックを契機として1960年代にテレビの普及が急速に進み、1970年にはほぼ100%近くとなった。中国におけるテレビの普及率は、1985年(約70%)、1995年(約85%)、2000年(約94%)、2010年(約97%)となっている。
日本の二人の学者(原田・塩田)が1999年に行ったサンプリング調査によると、中国大陸の人の75%の人が『赤い疑惑』(※中国では1980年代前半に放映)を、72.6%の人が『おしん』(※中国では1980年代後半に放映)を、57.2%の人が『燃えろ、アタック!』(※中国では1980年代前半に放映)を見たという。山口百恵の中国での人気はすごかったようだ。また、『燃えろ、アタック!』を見て、バレー選手を志した中国女性も多くいたという。貧しい家庭環境から、逆境を乗り越えて成功して行く「おしん」の姿は、特に 中国の人々から大きな共感を受けることとなった。これらの日本のドラマの中国人視聴者は、包括的なもので、老若男女、労働者、農業従事者、商業従事者、学生などの各年齢をほぼ含んでいた。
1990年代に入ると、生活の向上傾向とともに中国の大衆文化もしだいに発展してくると、1992年から日本のトレンディードラマが中国の各大都市で急速に人気を高めた。『東京ラブストリー』(※前出のサンプリング調査では33.2%)などの多くの日本のトレンディードラマが、ファッショナブルで、現代的で、都会的であることの代名詞となった。そして、鈴木保奈美は一躍 中国でのアイドルとなっていった。その後、『一つ屋根の下』、1996年の『ロングバケーション』、1997年の『ラブジェネレーション』、1989年の『GTO』、2000年の『ビュティフルライフ』などで演じる日本の俳優は、ファッショナブルな服装に包まれ、洗練されていながらも痛ましい美しさをもったストーリーによって、多くの中国の視聴者に好まれ、彼らの涙をさそったという。
この1990年代の時期に中国中央テレビ局(CCTV)が放送した日本のテレビドラマには、『北の国から』、『すずらん』、『星の金貨』などがある。『北の国から』の主演ともいえる田中邦衛は、1980年の『君よ憤怒の河を渉れ』での悪役とは全然違った魅力を中国人に印象づけた。また、「1995年秘密」(『北の国から』)に出演した宮沢りえ(※純の恋人「小沼シュウ」役)や『星の金貨』の主役:酒井法子、連続テレビ小説『すずらん』の主役:常盤貴子などの女優の人気も高いものとなった。3つのドラマは、舞台が北海道である。中国人の観光客が北海道行きを多く望む理由は、これらのドラマの影響もあるようだ。
他に、俳優として、木村拓哉・竹之内豊・滝沢秀明・松たか子・反町 等は中国で人気となり、多くの中国人の若者のあこがれの対象となったという。これらの日本ドラマは中国の流行文化に大きな影響を与え、1990年代の中国の若者の中に「哈日族」(※日本に熱狂する族)を誕生させた。
1990年代の後半より、それまでの中国の海外ドラマのなかで日本より影響の少なかった韓国のドラマが徐々に存在感を高めて来た。日本の「冬のソナタ」に始まる韓流ブームのようなものが中国でも始まってきていた。2000年代に入ると、中国におけるテレビでの海外ドラマ放映の割合で、韓国と日本は逆転し、韓国ドラマの方が多くなった。韓国の「官民一体となった」ソフトパワー戦略の勝利ともいえる。また、中国国内で制作されるテレビドラマの本数も激増し、中国政府は国内テレビでの海外ドラマの放送を制限するようになった。
2008年の1年間統計では、テレビドラマの放送内訳として、①中国国内製作ドラマは約50万本(約85%)、②香港制作ドラマは約3万本(5.5%)、➂韓国製作ドラマは約2万4千本(4.5%)、④台湾製作ドラマは約2万本(3.6%)、⑤日本製作ドラマは約2千3千本(0.44%)となっている。
1990年代末までは、日本のテレビドラマは多くの中国の視聴者が「最も愛する」ものであったが、2000年代になると中国のテレビ画面では、主流ドラマ番組から周辺的な存在へとしだいに向かっていき、視聴者層も全体的なものから、若年層を中心とした特定の層へと縮小していった。しかしながら、日本のテレビ番組の中国テレビ市場での地位と、中国の視聴者への影響は依然として軽視できるものではなく、現在でも時にブームが出現する。例えば、2005年に日本で放映された『白い巨塔』が2006年に中国で放映され、ブームを起こしたことや、2008年頃に放映された『結婚できない男』(阿部寛主演)なども、中国で高い視聴率を記録したことなどである。(※韓国ドラマも2005年をピークとして減少していく。)
そして、2005年頃より、中国でも日本でも「パソコン」などの普及によって、視聴のスタイルが大きく変化することとなった。とりわけ中国では、安価な「海外ドラマや映画」の海賊版での視聴、インターネット配信による「違法ダウンドーロ」による視聴が広範に行われるようになった。さらに、中国のさまざまなインターネット配信会社による配信無料サービスの普及によって、中国国内外のテレビドラマや映画はインターネットで視聴する人々が激増した時代となったのである。
私も2013年9月に中国に来て以来、中国のインターネツト会社の無料配信により、多くの日本のドラマや映画、アニメを見ることができた。日本のテレビを見ることができなかったので、インターネツト無料配信が 唯一の楽しみでもあった。中国の大学生たちも、ほぼ全員が寮生活。寮ではテレビ設置が禁止されているので、インターネットを使った視聴を行って生活している。だから、インターネツトでの様々な視聴方法に非常に詳しくなるようだ。
ちなみに、現在 全世界のインターネツト利用者の人口は、一位:中国(6憶5千万人)、二位:アメリカ(2憶8千万人)、三位:インド(2憶4千万人)、四位:日本(1憶900万人)、五位:ロシア(8千4百万人)となっている。中国は携帯電話インターネット利用者を含めた超巨大ネツト大国である。携帯電話の普及率は90%に達しているが、インターネット普及率は48%となっている。
—蒼井空(あおい そら)—
この人の名前を知る日本人は少ないだろうと思う。私も中国に来るまでは知らなかった。1983年生まれの彼女は、2002年にAV(アダルトビデオ)女優としてデビューをしたようだ。その彼女の何本ものAVが中国で大人気となった。海賊版として違法販売され、インターネット配信の違法ダウンロードによって 瞬く間に 中国男性のアイドルとなっていったという。その日本国内外での人気の高さから、「嫌われ松子の一生」「ガリレオ」「嬢王」などのテレビドラマにも出演。
そして、中国・韓国・台湾などでも活動を開始し、とりわけ中国では絶大な人気をほこる日本人の一人である。「蒼井老師」「空老師」(※中国語では「老師」は「先生」の意味。) 日本に関連する中国国内のイベントなどにも出演すると、彼女のAVを見たこともない何万人という観客が参加するという超有名人大物となっているようだ。
—金城武(かねしろたけし)—
1973年に台湾で生まれ育った彼の父は日本人で祖父は沖縄、母は台湾人だ。国籍は日本。日本語・中国語・英語を流ちょうに話すことができる。1998年、東京の新宿歌舞伎町を舞台とした映画『不夜城』の主人公:劉健一役で有名となった。その後、中国や台湾、香港の映画界でも活躍し、中国でも有名となってきた。2008年には、映画『レッドクリフ—赤壁』での諸葛孔明役を演じている。
2013年9月に中国に来て以来、中国でブームになった日本の人気テレビドラマが3つあった。2013年の『半沢直樹』と連続テレビ小説『あまちゃん』、2015年の『5-9私に恋したお坊さん』である。『半沢直樹』のせりふ「倍返し」(※中国語では「加倍奉還」と言う)は中国でもブームとなった。
2012年9月の尖閣諸島問題以降の「日中関係悪化」の中、日本のテレビドラマが中国政府によって さらに激減させられることになった。しかし、日本のアニメやドラマのファンは多い。そこで使われるのがインターネツトでの動画共有サイトだ。例えば各国のテレビ番組をリアルタイムで流す「風雲直播」。中国本土だけでなく、香港、台湾、韓国、日本の局も網羅し、視聴派は無料。「半沢直樹」も日本での放映当時、同時に見られたという。知的財産保護意識の高い日本では考えられない状況だが、これによってソフトパワーとしての日本のドラマが中国で視聴される有益さは大きいだろうと思われる。しかし、日中関係の政治状況によって 中国当局は このインターネットでの視聴をできなくなる電波措置を行ったりもしている。
女優や男優で、現在人気が高い日本人をあげるとすれば、さまざまなドラマにも出演している「嵐」のメンバー、「石原さとみ」「新垣結衣」「小栗旬」「綾瀬はるか」などの名前があげられると思う。
日本人の若手俳優として「古川雄輝」なども、最近の中国では人気が高くなってきている。日本のCS放送で放映された『イタズラなKiss〜Love in Tokyo』がネツト経由で中国で注目された。中国ツイッター「微博」のフロワーも100万人を越している。『5-9私に恋したお坊さん』のドラマにも三島聡役で出演したり、映画『永遠の0』や『潔く柔く(きよくやわく)』に出演している。1987年生まれの27才。
2015年7月に上海でのファンミーティングのため中国に来た際には、空港に1000人を超す女性たちが出迎え、宿泊先のホテルには数百人が待ち受ける騒ぎとなったようだ。中国で古川は「男神」と呼ばれている。
◆中国では、テレビ局が約300局ある。チャンネル数は、各ケーブルテレビや衛星放送の各局を加えると、約1300チャンネルが存在する。各家庭では、そのうち約100ほどのチャンネルが視聴できる。中国中央テレビ(CCTV)は16チャンネルあるが、そのほとんどを全国各地で視聴できる。多チャンネル国家であり、国内で製作されるドラマや番組は膨大である。そして、同じ番組や同じニュース番組が複数回放映されている。