3月11日に北京冬季パラリンピックが閉幕したが、このパラリンピックはロシアのウクライナ侵略問題により、世界の話題となることも少なく終わってしまった。話題性としては、開会式での世界パラリンピック委員会(IPC)の会長の言葉を巡る中国政府の無通訳・無幕字場面のこと、ウクライナ選手団の活躍のことくらいだった。ウクライナ問題にかき消されてしまった感がある。3月15日付朝日新聞、「戦争が傷つけた平和の祭典—パラリンピック閉幕」の見出し記事、「北京パラ閉幕—多くの重い課題残して」と題した社説記事。
3月14日、イタリア・ローマで、アメリカ大統領補佐官のサリバン氏(安全保障担当)と中国共産党常任委員で外交部門トップの楊洁篪氏がロシア・ウクライナ問題を7時間余りにわたって会談をした。3月16日付朝日新聞には、「米中高まる不信感—高官会談7時間」「中国の対ロ支援懸念、対抗"兵器開発の疑い」の見出し記事‥。記事は、7時間もの長時間の会談では、米国側は中国にわる対ロシア支援に対する懸念を表明し、中国側はウクライナと米国による生物兵器などの開発に懸念示し、双方が激しく反発し合う会談に終わったと伝えていた。
この双方の批判は、双方ともかなり無理のある主張ではある。なぜかと言うと、中国とロシアは1994年ころから両国の軍備に関しての協力関係を締結し、特にここ2〜3年は、アメリカに対抗するために準軍事同盟的に軍の協力関係を強め、合同演習などを行うようになってきている。
3月16日付朝日新聞、「ロシアを非難しないアジア」の見出し記事。この記事を書いたのは朝日新聞アジア総局長の翁長忠雄氏。ベトナムやラオスやカンボジア、インドなどは国連総会でのロシア非難決議では棄権、タイやインドネシアなどは中立的な外交立場をとっていてるなど、ロシアを非難しないアジアの国々が多数を占めているとの記事内容だ。
国連総会のロシア非難決議にて、棄権をした国もアジアには多い。(中国・モンゴル・ベトナム・ラオス・インド・パキスタン・スリランカなど。北朝鮮は反対。賛成は、日本・フィリピン・インドネシア・カンボジア・タイ・ミャンマー・シンガポールなど。ミャンマーは昨年の軍事クーデータにより、軍政が敷かれているが、国連大使は今もクーデーター前の大使が務めているため賛成に回った。中国べつたりのカンボジアが賛成に回ったのは不思議ではあるが‥。)
3月16日付夕刊フジには、「中国 ロシアに武器供与か―米国は露支援のベラルーシ制裁、習氏の危険な選択」「世界2・3位の全体主義国家連携」の見出し記事が掲載され、朝の報道番組「めざまし8」では16日の放送中に、「速報 中国がロシアへの軍事的・経済的援助行う」と速報を流していた。だがこの速報や夕刊フジの記事などは、特にとりたてて報道するような目新しい内容ではない。ロシアのウクライナ侵略以前から、軍事的・経済的相互支援を日常的にしていたからだ。また、中国側の「生物兵器研究開発」という主張は、ロシアの虚偽情報拡散政策にただ単に乗っかっているに過ぎない感がある。
3月16日付朝日新聞の、「プーチン氏と手を切るべき—中国の政治学者の文書、SNSで拡散 波紋」の見出し記事は注目に値する。この中国の政治学者は中国の中枢的シンクタンクに在籍し、副所長の現職にもある胡偉氏の文書だからだ。「ロシア・ウクライナ戦争のありうる結果と中国の選択」と題されたこの文書。3月5日付で書かれ、ロシアについて「国内外の情勢は日増しに不利になっている」と指摘。西側諸国の制裁の影響や、国内の反戦勢力による政変の可能性に触れ、「ロシアの大国としての地位は終わりを迎えるだろう」と分析。だから、「中国はロシアのプーチン大統領と断絶すべき」と書かれた文書。政府の外交方針と一致しないため不適切と判断されたためか、ネットサイトから削除され、まもなく閲覧できなくなった。このような見解を持つ人も中国政府のシンクタンク内には存在していた。
この間の米中高官会議を巡る状況や、中国のウクライナ問題への対応を巡る状況、特にロシアへの関わり方に関する問題について、テレビ朝日系列の朝の報道番組「羽鳥慎一モーニングショー」では、最近かなりの総力をあげて特集を組んでそれなりに優れた報道していた。その報道でのテロップには、「"ロシアが中国にウクライナでの軍事支援を要請した"と、アメリカが報道—14日 米中高官会議7時間に及ぶ」、「ロシアの軍事支援"中国に要請"」などのテロップ。
このことについて、テレビ朝日の千々岩森生総局長は、「2月4日のプーチン・習近平会談では、①NATOの拡大に反対、②両国の友好に上限はないと、信頼関係をアピール」、「ロシア軍のウクライナへの全面的な侵攻が始まった2月24日時点では、①中国はロシアへのウクライナ侵攻のための武器提供はしないと表明していた。また、②ウクライナ侵攻のための支援は必要ないと中国は表明していた」とまず指摘。
ウクライナでの戦況が長引いている現状に関しての中国側の様子について、千々岩総局長は、「米国CIAバーンズ長官の分析として、"ウクライナ情勢が、中国が得ていて予想していた内容と異なる展開をしているため、習近平主席は落ち着かない状態にあるのだろう。ロシアの侵略行為との関りで、中国への評価の低落を懸念している"」と話す。
さらに番組では、千々岩総局長の報告として、以下のことを報道していた。①3月10日の外交部の記者会見で、中国国営メディアの記者が「Q:中国が衝突緩和のための措置を取っていないという指摘もありまるが?」という質問。これに対し趙立堅報道官は、「NATO拡大を促したのは誰か。ウクライナをそそのかし緊張をあおっているのは誰か。中国は公正な態度で、和解のために建設的な役割を果たしている」と答えた。千々岩氏は、「アメリカのことを批判している国営メディアとわざわざ事前にすり合わせをして、あえてこの質問をさせたのでは。国際社会からの批判を気にして、スタンスが微妙に変化している」と指摘。
②「ロシアのシルアノフ財務相3/13:欧米などの制裁による打撃を緩和するため、中国に期待。"中国とはこれまでの協力関係を維持するだけでなく、西側の市場が閉ざされる環境で、中国との協力関係を拡大することを要請」と指摘。
―中国の微妙な姿勢の変化について―➃「李克強首相(3/11全人代閉幕後の記者会見で):非常に憂慮している。国際社会とともに平和が戻れるよう積極的な役割を果たしていきたい。大規模な人道危機を除くべく、停戦交渉を支持する」、「王毅外相(3/9記者会見で):戦闘と戦争ができるだけ早く停止することを期待すると、初めてウクライナ情勢を"戦争"と表現」と指摘。だが一方で、⑤「中国は経済制裁に一貫して反対—趙立堅(3/9会見で):制裁は関係国の人々の生活に困難をもたらす。中ロはエネルギーを含む、正常な貿易協力を進める<ロシアとの貿易維持を表明>」「李克強(3/11会見で):世界経済の回復にショックを与え各国にとっても不利益だ。対ロシアへの金融制裁には反対する」との会見を指摘。
―なぜ経済制裁に反対について―⑥「制裁に賛成するとロシアを敵にまわすことになるため、中国としてはアメリカと対峙する上で軍事的に頼りになるロシアとはうまくやっていきたい考え」と千々岩総局長は語っていた。
3月19日付夕刊フジには、「プーチン見限り 中国豹変—"漁夫の利なし"本音は重荷—軍事支援したら完全に米欧を敵に回す」の扇動的な見出し記事。この見出し記事の内容を執筆しているのは、またまたジャーナリストの長谷川幸洋氏。記事内容はそれなりにまっとうなのだが、見出しそのものは、全く虚偽的な表現だ。まあ、見出し的には「フェイクニュース」の一種。同日同紙の記事には、「米中対立の"新冷戦"構造は、ロシアの侵攻により激化する―非民主主義国は経済劣勢に」の見出し記事。この記事を執筆したのは高橋洋一氏。まあ、"新冷戦構造"が激化するのは、そのとおりだろう。だが、"非民主主義国は経済劣勢に"ということは?がつく。現在、世界の非民主主義国は90超あり、民主主義国の80超を上回ってもいるのだ‥。
3月19日付朝日新聞、「バイデン氏、習氏に警告へ―ロシア支援なら"代償"―19日、米中首脳協議へ」「米、制裁の抜け穴警戒―習氏の立場、見極める」、「中国、ロシアと深めた協力—"指図され仲裁、絶対ない"と」などの見出し記事。
3月16日、オランダのハーグにある「国際司法裁判所」は、ロシアのウクライナ侵略に対するウクライナ政府の提訴を受けて審理され、「ロシア軍の即時撤退命令」を下した。裁判判事15人のうち、賛成13・反対2だった。反対したのはロシアと中国の判事のみ。インドは国連総会のロシア非難決議には「棄権」に回ったが、今回はインドの判事も賛成に回った。この判決に対し、ロシアのペスコフ大統領報道官は、「今回の結論を受け入れられない」と表明。ウクライナのゼレンスキー大統領は、「完全な勝利だ。ロシアは命令を無視すれば、さらに孤立するだろう」との声明を出した。
日本のインターネット配信で、最近の「北京市民の本音」と題した動画ニュースを見た。日本の報道関係者が中国の北京市民十数人にインタビューをしている動画ニュース。アンケート質問は次の二つ。「①台湾統一に向けて武力侵攻はあると思いますか。ないと思いますか。②将来、世界のトップリーダーとなる国は、どの国だと思いますか。」。
①については、「武力侵攻はやらないだろう」と答えた人が約60%、「武力侵攻をするだろう」が約40%。「武力侵攻をやらないだろう」と答えた人の中で、「もし武力侵攻したら支持する」と付け加えていた人も多かった。②については全員が中国だと誇らしげに答えていた。これがおそらく、現在の中国国民の意識なのかも知れない‥。中国の習近平政権は、ウクライナ問題・情勢の推移を見極めながら、来たる台湾統一に向けてどのような方策・戦略をとるべきかじっと研究もしている。
そんな中、小さな記事だが、3月19日付朝日新聞に「台湾人 対日好感度最高に―世論調査(1月)」という見出し記事が掲載されていた。記事によると対中感情がかなり冷え込んでいることがわかる。2020年の1月の世論調査と比較すると次のようになる。「①親しくすべき国はどこ」について、中国と答えた人は「31%➡15%」に半減、アメリカと答えた人は「15%➡24%」と増加。「②台湾に影響を与えている国はどこ」についても、中国と答えた人は「45%➡25%」に激減。アメリカと答えた人は「13%➡58%」に激増している。今回のウクライナへのロシアの侵略、中国やアメリカの対応を目のあたりにして、この世論の現在地はまた変化もしているだろう。どのように変化しているのだろうか…。
3月21日付日刊ゲンダイ、「急浮上 ノーベル平和賞 ゼレンスキー受賞の可能性」「欧州議員が画策 ゼレンスキーに白羽の矢、ノーベル平和賞ノミネートの狙い」の見出し記事が掲載されていた。また、「プーチン大統領"ゼレンスキー大統領との直接会談が必要"と」の見出し記事も。一方で、プーチン大統領はゼレンスキー大統領への暗殺集団をキエフに多く入りこませてもいる。