彦四郎の中国生活

中国滞在記

トランプの置き土産❶―米国:議事堂占拠暴動、中国:香港52人大量逮捕―「両国デストピアの競演」

2021-01-14 19:10:19 | 滞在記

 米国の首都・ワシントンCDが1月6日、大混乱に陥ってしまった。大統領選挙最後の手続きとなる大統領選挙人投票を実施し、大統領選挙の結果を最終確定させる「米国連邦の上院・下院の合同会議」が開かれていた連邦議会議事堂に、トランプ大統領の支持者たちが大挙押し寄せ、バリケードを突破して議事堂に侵入・占拠するという異常事態(暴動)が発生した。議会審議は中断を余儀なくされ、警備当局に撃たれたトランプ支持の女性や暴漢に襲われた警察官など5人がこの暴動事件で死亡した。この日、ワシントンCDには夜間禁止令が発令された。バイデン次期大統領は、「これは抗議活動ではない。暴動だ。」と前代未聞の事件を非難し、トランプ氏もツイッターで支持者たちに向けて「家に帰って」と事の顛末にやんわりした形だけの自制を求めるという事態となった。

 暴動の発端は、トランプ氏が、議事堂前の広場での大規模抗議集会を呼びかけ、トランプ氏が集まった集会参加者に議事堂を取り囲こみ抗議することを煽り、連邦議事堂を包囲する数万人が取り囲んだことだ。このデモの群衆が議事堂になだれ込み占拠するという事態に発展した。11月上旬の「米国大統領選挙」の結果について敗北を認めないトランプ氏の言動により、トランプ支持者たちによるかなりの混乱はある程度予測もされてきたが、このような無残な光景の暴動、しかも、世界の民主主義陣営の象徴たる「米国連邦議事堂」での暴動には驚愕させられた。「夕刊フジ」には、「米 暴動―議会乱入!!発砲」「トランプ支持者の女性死亡」「州兵急派 首都戒厳」の見出し記事が。

 翌日の日本の朝日新聞には、「米議会占拠4人死亡―トランプ支持者ら暴徒化」「「トランプ氏あおった末―選挙敗北認めず 支持者"不正と戦う"と」「民主主義への攻撃―批判次々」「バイデン氏秩序回復訴え」「モンスター制御利かず」「社説:民主主義の凋落」などの見出し記事が掲載された。

 英国のジョンソン首相は「ワシントンの恥ずべき光景」とのコメントを述べた。フランスのドリアン外相は、「民主主義への重大な攻撃。米国民の意思・票は尊重されなければならない」と訴え、選挙結果の受け入れを拒否し続けるトランプ氏を批判した。議事堂を暴徒から防衛するため、窓越しに窓を破って侵入しようとする暴徒たちに拳銃を向ける姿は、世界に衝撃が走った。

 NBCやCNNなど米国の主要テレビ報道は、トランプ支持者の議会乱入を「テロ」と糾弾し、大統領の即時罷免を要求。ワシントンポスト紙も社説で、「トランプ大統領は社会秩序、国家安全保障の脅威」であり、1月20日の退任日を待たず、ペンス副大統領が憲法修正25条に基づいて、大統領による職務遂行は不可能と宣言すべきと主張した。ニューヨークタイムス紙は社説で、「大統領罷免弾劾あるいは刑事訴追により、大統領の責任を追及する必要がある」と主張した。

 支持者たちに議会のへの突入を事実上呼びかけたのはほかでもないトランプ大統領だった。この日の抗議集会で支持者たち聴衆に向かって議会に行くよう呼びかけたのだ。本人がどこまで意図していたかはともかく、結果的にはトランプ大統領が権力維持のために支持者たちを煽り、次期大統領を最終的に確認する議会の手続きを暴力で阻止しようとしたに等しい。これはもう、テロというよりクーデターと言ってもいい暴動事件であった。

 ニューヨークタイムズなど多くのメディアは、連邦議事堂になだれ込んだ群衆を「mob」という単語で表見した。無秩序で騒がしい暴徒集団という意味だが、"暴力団""下層民"とか"ギャング""理性的でない群衆"などの意味もある。多くのメディアがこの非難めいた「mob」という言葉を使って報じているようだ。議事堂に突入している暴徒たちの写真などを見るとこの「mob」という表現もうなづける。

 このワシントンDCの米国連邦議事堂での暴動は、中国ではとりわけニュースとして大きく、連日、「これが西欧民主主義の末路だ」と記事に掲載されたりテレビで放映・報道された。中国共産党政権にとっては、願ってもない「暴動、事件、テロ」をトランプ氏は引き起こしてくれた。すごい「中国への置き土産」だという感のある中国での報道だ。

 中国のインターネット記事のさまざまなサイトを閲覧する。議事堂前で抗議集会に参加した数万の支持者たちを煽るトランプ氏の姿、議会に乱入した暴徒たちの姿。議会内を我が物顔で闊歩する姿、民主党のペロシ下院議長の執務室に入り込んで椅子に座っている暴徒の姿。ヨーロッパのかってのバイキングのような姿の男などを嬉々として報道している。

 暴徒が破ろうとしている窓に向けて銃を向ける人の姿、「抜槍(銃)武装対峙」の中国語のテレップ。銃で撃たれ床に血まみれで倒れている女性の姿。議事堂に乱入した暴徒たちの姿や態度など。

 「総統己怪物 全美厳防特朗普発射核兵器」(トランプ大統領はすでに怪物・モンスターだ。米国からの核兵器攻撃に厳重に備えよ!)の記事も中国では報道されていた。

 議事堂を取り囲む群衆、議事堂に這い登る暴徒たちの群れなどなどの映像や写真。中国の人たちにとって、「西欧型民主主義」の壊滅的印象を強く受ける諸映像はどう映っているだろうか。中国共産党政権は中国式の政治統治体制の優秀さを声高に誇ることができるかっこうの「反面教師」としての今回の暴動、昨年12月の中国香港52人大量逮捕の中国からのお歳暮返しとなるトランプ氏の「置き土産」だ。

 中国外交部の華春瑩報道局長は、2021年1月7日の記者会見で、トランプ大統領の支持者らによる米連邦議事堂占拠について、2019年に香港の立法会(議会議事堂)をデモ隊の一部が占拠した事件を引き合いにして、「(米側は)香港の過激で暴力的なデモ参加者を民主の英雄と呼んで美化した」と述べ、「米国は"二重基準だ"」と、米国を批判した。米国の議事堂占拠で死者が出ていることについても、「香港の警察は非常に抑制的かつプロで、デモ参加者に一人の死者も出なかった」と米国を批判した。

 この中国政府は、昨年12月に香港の立法会議員(国会議員)など52人を一斉逮捕した。昨年の7月1日に「香港国家安全維持法」を制定して以来、最大規模の逮捕事件だった。罪名は、「国家転覆」の罪状。「立法府議会において、香港総督の林鄭月娥氏が提案した予算案に反対し、国家転覆を図ろうとした」ことがその罪の内容だと云う。民主派勢力つぶしに手あたり次第という感がする。こちらももう「民主」の「民」の欠片もない罪名だ。次は、「区議会議員」の民主派議員らの大量逮捕に向かうのかと懸念が高まっている。

 米国のトランプ大統領は世界に「恥ずべき光景」を演出したが、中国もまた‥‥‥。米議会突入と香港での大量逮捕、2020年はこうして終わり、2021年はこのようにして始まった。世界が向かう「2つの暗黒」を示す局面だ。経済学者の岩井克人氏は「ディストピア」(※ユートピアの反対概念)の米中競演と表現していた。まあ、そういう感はなきにしもあらずだと思う。

 前代未聞のこの暴動、「民主主義大国」としての米国の看板を失墜させ、世界に醜態をさらす結果となった翌日・翌々日の1月13日・14日の朝日新聞。13日、「襲撃"扇動"のトランプ氏への弾劾手続きへ―米議会乱入 下院議長が手続きへ」、「トランプ大統領弾劾提出―下院共和党の一部が賛同か」、14日、「米下院可決の公算大」「議会襲撃 数百人訴追へ」の見出し記事。

 下院で弾劾が可決され、上院で続いて可決されれば弾劾が成立する。退任予定日の1月20日以降に上院では審議に入る可能性もあるが、どうなるか‥。米国の民主主義のためにも「弾劾」が成立した方が良いのだが‥。

 1月6日の米連邦議事堂での暴動があった日、東京では「トランプ支持」のかなりの人数のデモ行進(日本人主体)が行われていたのにもまた驚く。

     資本主義社会(国)での広がる経済格差、階層格差の深刻さ。これは日本社会でも所得格差が広がり、いわゆる経済的下層階級が大量に増加しつつあり、非正規雇用の派遣労働者も増大してきている社会だ。この問題がさらに深刻化し、新型コロナ感染の先行きもまったく見えない2021年、「民主主義国」の代表たるアメリカと「全体主義体制下」の中国、それぞれが「ユートピア」ではなく「デストピア」の世界にますます向かいつつあるこの世界の先行きを暗示するような年末と新年の始まりとなった。

 トランプという人を支持する人々の「イライラ」「焦り」が知性の欠落とともにこの暴動を引き起こすエネルギーとなってしまっていることを実感させられた。それくらい、この資本主義社会が行詰まり、それとともに「民主主義」もコロナ禍によってさらに危機に瀕しているのが今の世界だ。