4月7日付でブログ記事「—ハラリ氏の最新インタビュー『トランプ政権、AIの危険性、人類の未来』➀」を書いた。3月下旬、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏が日本を訪れた際、ANN(朝日テレビ局)の求めに応じて、東京科学大学(2024年10月に東京工業大学と東京医科歯科大学が合併して設立)の大岡山キャンパス図書館にて、1時間余りのインタビューを行った。(インタビュアーはANNの徳永有美キャスター)
このインタビューの内容は、大きく分けると、➀「トランプ時代"秩序崩壊"の危機」、➁「歴史上比類なき"AIの脅威"」、➂「AIが奪う"信頼""民主主義"の危機」、➃「(AIによる)人間への"偽装"を禁止せよ」。今回はこのインタビュー内容について、少し詳しくその概要を書きたいと思います。
➀「トランプ時代2.0"秩序崩壊"危機」
徳永:『NEXUS』の大部分は2021-22年の間に書かれたということですが、今の世界とのリンクを感じました。特にトランプ政権です。ハラリさんは今の世界情勢をどんなふうにご覧なっていますか?
ハラリ:非常に厳しい状況です。人と人との間にある信頼が失われ、国内、国家間の秩序が崩壊しつつある。最も憂慮すべきは、現在、人類全体のリーダーシップが不在なことです。トランプ氏のような世界観は古くからあります。この世界観は"世界は弱肉強食"と考えています。弱者は強者に従うべきと考えています。「ウクライナがロシアの攻撃を招いた」という(トランプ氏の)発言に疑問を持つことでしょう。
彼には弱肉強食こそが世界の秩序で、強者の要求を拒んで争いになれば、拒んだ弱者の責任になる。グリーンランド取得への意欲も同じ発想でしょう。「要求を蹴ったデンマークが悪い」、そういう理屈になります。こういった人間社会の捉え方は、「弱肉強食こそ世の常」という考え方です。
この数十年、私たちは、この世界観(弱肉強食の世界観)と異なり、「力より(国際)法に基づく世界秩序を確立」しました。人類史を振り返ると、この数十年が最も平和な時代でした。これには破られざるタブーがあります。強国が正当な理由なく弱国を侵略・征服してはならないというタブーです。それによって安心感が強まり、国家は軍備や防衛の代わりに医療保健・教育・福祉に資金を投じられるようになりました。かっては、民主主義・独裁国家、帝国・都市国家を問わず、ほとんどの政府が予算の50%以上が兵隊や戦車などの軍備に充てていました。それが21世紀の初頭になると、安心感の高まりで、軍備費の平均は政府予算の6~7%で、対照的に医療費は10%に上がり、人類史上初めて医療保健や看護師・医師・病院への財政支出が兵器や要塞の支出額を越えたのです。
それが今、変わりつつあります。ロシアによるウクライナ侵攻や、トランプ2.0政権の政策を前に、各国に不安が広がり、強国による侵略から自らを守るには軍備拡大しかないと感じ始めています。ヨーロッパや東アジア諸国からすれば、もはや国際秩序もアメリカも頼れない。軍事予算を引き上げ軍備を拡大するしかない。他国も追随すれば軍拡競争になり、世界情勢は悪化するばかりです。
➁「歴史上比類なき"AIの脅威"」
徳永:歴史学者のハラリさんから見て、今の時代は過去のどんな時代と似ていると考えますか?
ハラリ:数千年の間に、混乱した秩序の崩壊と新しい秩序の創生が繰り返されてきました。しかし、過去との最大の違いはAIの台頭です。AIがこれまでの技術と異なり道具ではなく"行為主体"だからです。情報テクノロジーの行きついた先がインターネット。さらに今、人間と会話でき、自ら判断を下すことが可能となったAIが世界を度巻しています。
この歴史的瞬間の最大の疑問は、様々な面で人間よりも賢い無数のAIを世に放ち、経済・軍事・メディアなどの管理統制を任せるようになったらどうなるかです。すでにメディアにおいては人間からAIに権力が移行中です。今、最も力のある編集者はもはや人間ではなく、SNSなどのニュースを管理するAIのアルゴリズムです。これまで、何をニュースとして伝えるかを決めていたのは、新聞やテレビなどの編集者でした。すでにSNSでは、その役割をAIが担いつつあります。現在のXやTikTok、Facebookのニュースを管理しているのもAIです。
■ハラリ氏が最新刊の『NEXUS—情報の人類史』で紐(ひも)解くのは、人と人を結びつける媒介としての情報の歴史。そしてAI。情報テクノロジーの進化は、科学の発展や近代国家の形成に道を開き、20世紀、自由な情報の流れが民主主義を世界に広げたと言う。それと同時に負の副産物も生んだとハラリ氏は指摘する。
『NEXUS 情報の人類史』(抜粋)より 「印刷革命の直接の結果には、魔女狩りや宗教戦争もあるし、新聞やラジオは民主主義体制だけでなく、全体主義によっても利用された。産業革命はどうかと言えば、この革命に適応する過程で帝国主義やナチズムといった壊滅的な実験も行われた。」
※以下次回に続く
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