昨年の12月ころから表面化し始めた「米中二大大国」間の貿易を巡る「貿易摩擦」問題。今後少なくても2025年までの6年間、世界の覇権を競う「米中激突」は対立暖和や激化の紆余曲折を経ながらもおさまることはないだろう。今年の5月に入り、米国は中国製品の関税引き上げ第4弾実施を発表、中国側もその報復として米国製品の関税引き上げを発表している。
中国のホテルを利用する米国人には25%の料金を上乗せするという処置も始まっている。(米国は5月10日から2000億ドル[約22兆円]相当の中国製品に対する関税を引き上げた。またさらに、ノートパソコン・スマートフォン・衣類などに最大25%の3000億ドル[約33兆円]分の関税も引き上げると表明。一方の中国は6月1日より、米国からの砂糖・アルコール類・電化製品・衣類などの輸入品600億ドル[約6兆5000億円)分相当に対して報復関税を引き上げると表明した。)
5月9日~10日に「米中貿易協議」のため訪米した中国の「対米経済政策」の責任者でもある「劉鶴」氏。訪米して話し合いを持ったが、最終的に交渉が決裂した。その後中国の報道は、「貿易摩擦」といういままでの表現から「貿易戦争」という表現に変わった。5月14日には、習近平主席や耿爽(中国外交部報道局副報道官)は、「米国との貿易戦争に最後まで付き合う」と表明。現在世界の産出量の80%を占めている中国産レアアースの対米輸出規制も検討されている。(米国は、中国製品の関税対象からレアアースは除外している。)
日本のテレビ報道番組でも、この「中米貿易戦争」に関する報道がされていた。とりわけ中国外交部の副報道官からは、「米中の共同認識に対して、勝手にハードルを引き上げたのは米国側だ」「中国は貿易戦争を望んではいない。しかし、戦うことを怖れてはいない」「貿易戦争を激しく挑発して"貿易戦争"にしたのはアメリカ側だ」「完全な正当防衛だ」と、激しく応酬している。
中国共産党機関紙では、「これが中国の態度だ」として、「交渉するなら応じる、戦うなら付き合う、いじめるなら とんでもないことを考える」と報じ、対米強硬姿勢を鮮明にしている。日本のテレビ報道では、「米国が"白旗"の分野も!?中国の新世界秩序とは、関税に強気!中国的"米なき世界とは"」とのテレップも流れていた。また、米中日の3首脳の漫画が描かれ、中国は「談談打打 打打談談」・米国は「打打打打 打打打打」の姿勢の文字。6月28日・29日に日本の大阪で開催予定の「G20」でまであと1か月あまりとなった。
1か月ほど前には自民党の二階幹事長が訪中し習近平主席との会談を行っている。中国側は「一帯一路」への日本政府の参加を熱望している事情がある。とりわけ一帯一路への日本政府からの巨額資金が口から手が出るほど欲しいと言うのが実情だ。二階幹事長は、「アメリカの顔色ばかりうかがって、日中関係を考えるということではありません」と習近平主席との会談後に語っていたが、このコメントなどは中国側への配慮が強く滲んでいる。
5月下旬にアメリカのトランプ大統領が日本を訪問し、「日米の蜜月ぶり、関係強化」を世界に印象付けた。新天皇皇后との会談や大相撲観戦やゴルフなど、「友達外交」が展開された。これに対する中国側のインターネット記事や中国共産党系の機関紙、また、テレビの報道番組を見る限り、「日本を批判する」ような記事や報道は あまりされていない。安倍首相と二階幹事長の二枚看板による「日中米」関係へのバランス外交が今は有効性を持っているのだろう。
日本への「対日批判」はあれだけ激しかった2012年~2014年を経て2015年より和らげ始め、2018年より友好的な論調さえも出し始めたた中国政府。一方、この5月中旬から これまでの対米姿勢を改め、「全面的な反米キャンペーン」を展開し始めている。米国と中国が敵対した朝鮮戦争(1950年~53年)を描く映画をテレビで連日放送し始めた。(中国国営中央テレビの映画専門チャンネルは、5月16日から、番組の編成を変更。中国人民が外部の侵略や干渉に反対し、国を守った快挙としての朝鮮戦争という位置づけ。)
この映画の主題歌の曲に「反米歌詞」を新たに加えた『貿易戦争』という歌がカラオケや中国の携帯電話サイト「微信」などを通じて配信されフォロワーが急激に広がっているようだ。歌詞は、「加害者があえて戦おうとするなら、私たちは彼が気を失うまで殴るだろう」など。
「米国が中国に今後敗北"白旗"する可能性が大きい分野」とは、IT関係の分野だ。今後6年間で、世界政治・経済の中心となってきている情報産業分野は「4G」の世界から「5G」に変化するとみられている。中国は2015年より国家の総力をあげて民間企業(アリババ・ファウエーなど)と緊密に連携しながら、情報産業分野で世界のトップに立つことをめざす「2025中国製造」計画を行っている。これは、今後「中米」のどちらが世界覇権を握るうえで超重要なことだ。
『中国製造2025の衝撃』の著作・遠藤誉さんは、中国政治と社会情勢に精通している「中国ウオッチャー」の第一人者だ。日本のテレビ報道番組に出演し、「一帯一路」政策への日本の参加に強い懸念を表明していた。中国は現在、アメリカとの「貿易戦争」において持久戦の構えをとりはじめ、「中国製造2025」において米国に逆転する戦略を描いている。壮大な「一帯一路」政策は、西ヨーロッパのイタリアや東ヨーロッパ諸国との関係強化などもさらに進展させ、世界でのその影響力を着実に強めてきている。
2025年まであと6年間だが、来年1月(2020年)には台湾総統選挙が行われる。この選挙結果の動向により、米中対立は貿易戦争に留まらず軍事衝突の可能性もありうる。2020年夏は東京でのオリンピック開催が予定されているが、「台湾」を巡る情勢は、オリンピック以上というか比べものにならないくらい、日本にとっては 今後の国の命運を左右する重要な問題かと思う。