日本でも、世界各国でも、この5月には新型コロナウイルス感染パンデミックのウイルスの主流は、オミクロン変異種のBA2株となっているが、これまでの新型コロナウィルスの変異種の中でも、最も感染力が高いとされている。しかし、感染者の重症化率や死亡率はとても低く軽症化率が高いのも特徴だ。ウイルス自体が「生き延びて子孫を増やし続けるために、感染力は高めるが、症状を軽くする」という、インフルエンザ的なものへと変異していくウイルス自体の生存戦略があるのかと思う。
こんな現在の感染主流ウイルスの特徴を踏まえて、世界各国のほとんどがコロナ防疫対策を大きく転換し始めたのが、世界的コロナパンデミックが始まって2年間が経過した今年の3月頃であった。だが、中国は違う。超厳格な「ゼロコロナ政策」の堅守持続だ。今年3月中旬頃から始まった中国上海市での感染拡大は、3月下旬から都市封鎖が開始され、今もなお超厳重な都市封鎖が続いている。そして、中国の首都・北京市でも5月に入り36箇所地区では地区封鎖がとられ、まだ感染者数は少ないものの、今後の感染状況では全市都市封鎖の可能性もあると報道されている。(北京市感染者数は4/22~5/2までの期間453人) そして、北京市民約2000万人は毎日PCR検査を受けてもいると報じられていた。
このような感染拡大防止政策は、中国各地で行われていて、この4月・5月で都市封鎖が実施されている(又は実施された)都市は少なくはない。1人でも感染が確認された地区は、地区封鎖の措置などがとられている。
中国のテレビやインターネット報道に、「5月1日、上海市に近い中国浙江省のある高校は、在学生2070余人、教師170余人全員が大型バスに乗って、都市部から離れた地域にしばらくの間、学校を移動する」というニュースが報じられていた。そういえば、来月6月7・8日には中国の統一大学試験の「高考」がある。中国全土で1100万人超が受験する国家的な一大行事だ。特に高校3年生の感染を避けるため、1・2年生も教員も全てしばらく学校が移動するようだ。中国らしいというか、やることがダイナミック‥。この「高考」の全国実施に向けて、なんとしても5月中には、上海や北京の疫情を止めたいという思いも中国政府には滲む。
5月9日、「現在離開上海有多難」(現在、上海を離れて他の所に行くのは超困難)の見出し報道ニュース。どうしても事情があり、上海から故郷の南京に戻る必要がある若い女性の、上海を出て南京に行くための記録動画が配信されていた。上海発の新幹線や上海到着の新幹線はほぼないため、全身防護服に身を包んでワゴン車に乗りこんでいる動画だった。
上海市の感染状況はここ数日間は1日の新規感染者数は千人台にまで減少してきていて、今日16日からは一部スーパーや薬局が営業を始めるとの報道もあるが、都市封鎖で家から出られない人々は、「どうやってスーパーや薬局に行くの?」とも報道されていた。今のところ、5月末までは上海の都市封鎖は続くようだとの観測がされている。実に2カ月間もの都市封鎖は、2020年の武漢都市封鎖以来となる。
日本のYahoo!Japanのネット記事を日本で見ていると、時々「存在違法信息的网站」(現在、ネット空間のこの記事の存在は違法です)と中国語表示によって記事が閲覧できない時がある。私のパソコンに中国のネット会社の検索機能が勝手に入り込んでいるためだ。5月上旬にこの検索機能によりブロックされていたのは、「習近平の"ゼロコロナ"への固執が招いた上海ロックダウンの地獄絵」(現代ビジネス社配信5/2付)という見出し記事。1~2秒間の瞬間しか閲覧できず、すぐにブロックされる。こんなことは日本にいても時々ある。(※Yahoo!やGoogleなど欧米系メディアのネット検索は、中国国内では2015年頃から検索できずブロックされている。現代版「万里の長城」)
5月6日付朝日新聞には、「中国の水際 むしろ厳戒—隔離21日間 PCR検査10回」の見出し記事。14日付には、「"ゼロコロナ"北京ピリピリ—厳しい対応 市民に不信感」の見出し記事が掲載されていた。
4月29日付朝日新聞には、「台湾コロナと"共存"政策に転換—感染、初の1万人超」の見出し記事。日本のテレビでは、「台湾コロナ感染急増2万人超」との見出し報道が5月5日ころにされていた。「民主主義を壊さずコロナ防疫を行う、世界で最も優等生な台湾」とこの2年間、世界の手本ともされていた台湾も、このコロナ変異種オミクロン株には、その感染力の強さや重症化率の低さというウィルスの特性を科学的に判断して、「コロナとの共存政策」にと転換をした。また、これまでの海外からの入国者10日間隔離を1週間に緩和した。
世界各国のほぼ、ほとんどが、「Withコロナ(共存)政策」に転換する中、中国国内で最も感染対策の権威があり、国民の圧倒的な信頼を得ている鍾南山医師が4月6日に論文を発表した。いわゆる「中国のゼロコロナ政策」の是非に関する論文だった。なにせ、コロナ感染対策に関しては、中国国民にとって「この人の言う事なら、最も全面的に信頼がおける」人物である鍾南山氏の論文。世界の注目が集まる論文でもあった。
日本のテレビではこの鍾南山氏の論文について、「ゼロコロナ政策"長期的には継続困難"―中国の第一人者が指摘で波紋」の見出し字幕報道が4月22日になされていた。(朝日新聞アピタル) 日本のインターネット記事には、「"ゼロコロナ政策"限界を指摘、中国で感染症専門医の論文に波紋‥SNSで転載相次ぐ」(4/21)や「"ゼロコロナ"は限界?中国・感染症トップ専門家の論文が起こした波紋の先は」(4/24)などの見出し記事が掲載されていた。
この論文は、鍾南山氏ともう一人の専門家との共同執筆で、政府系研究機関・中国科学院の英文学術誌(オンライン版)で4月6日に公開された。鍾氏らは、ゼロコロナ政策は感染拡大の封じ込めに「重要な役割を果たした」と評価しつつも、経済・社会の正常化のためにも「長期的に続けることはできない」と論じている。中国メディアの『財新』(電子版)が4月19日に論文の内容を伝えると、ますます強化される一途の「ゼロコロナ政策」への不満も背景にSNS上での転載が相次いだ。(※さすがに、国民的な信頼の篤い鍾南山氏の論文だけに、中国当局はネット上での削除措置はしていないようだ。)
これに対し、中国共産党系メディアは4月20日、「目下のところはゼロコロナ政策の継続が必要」との4月8日の鍾氏の発言を強調して伝え、「ゼロコロナ政策継続への批判」を抑えている。また、王文濤商務相は4月18日、日米欧などの経済団体代表と面会した際、ゼロコロナ政策を緩和すると「1年後に200万人の死者が出るとの予測がある」と述べ、「ゼロコロナ政策」への理解を求めた。
この「1年後に200万人の死者」の根拠は何だろうか?オミクロン株は感染者の軽症率がとても高いコロナ変異種なのだが‥。科学的な見地に基づいた防疫対策よりも、政治的なことが優先されているのだろうか…。(※インフルエンザの致死率は最高で0.09%、2020年1月~2021年10月にコロナ感染の主流だった在来種の致死率は4.25%、そしてオミクロン株変異種の致死率はインフルエンザ致死率を少し上回る0.13%。仮にオミクロン株で200万人が死ぬとなると、感染者数は25億人以上が罹患することとなり、中国の人口14億人をはるかに上回る。)
5月10日、世界保健機関(WHO)のデドロス事務局長は、中国が新型コロナウイルス感染抑制に向け実施している厳しい封じ込め措置は、ウイルスの特性を踏まえると持続不可能だとの見解を示した。WHOが特定の国の感染対策に言及することは異例。同事務局長は、中国の専門家と議論してきたことを明らかにした上で、「この方法は持続不可能である。方針転換が重要だ」と指摘した。また、WHOの緊急事態対応を統括するマイク・ライアン氏も「ゼロコロナ政策が人権に及ぼす影響も配慮し、新型コロナの対策にあたっては人権に配慮し、社会や経済に与える影響とのバランスを取るべきだ」と指摘した。
このWHOの見解公表を受けて、中国のインターネット上ではゼロコロナ政策に疑問を呈するコメントが相次ぎ、「WHOのデドロス氏さえ意見を変えた」「政府はWHO事務局長の勧告を聞くだろうか」と言った声も上がっていた。中国当局は翌日、直ちに検閲に乗り出し、同政策に関するインターネット上の意見や議論を削除した。そして、デドロス事務局長やライアン氏の発言の削除も急いだ。そして、11日午前中には、ソーシャルメディア上でのハッシュタグ(SNS上での意見交換を広げる機能)は、使用できなくなった。さすが、中国だ‥。
5月14日付朝日新聞に、「北朝鮮 発熱の急増"爆発的"コロナ死者確認 隔離・治療18万人―パレード原因か」、5月15日付同紙には、「金総書記"建国以来の大動乱"北朝鮮新たに17万人発熱—防疫政策"中国に学ぶ"」の見出し記事が掲載されていた。この2年間、新型コロナウイルス感染状況が闇のベールに包まれ続けてきた北朝鮮だが、この5月上旬からおそらくオミクロン株変異種による新型コロナの感染爆発が起きていることを内外に初めて明らかにした。14日には、1日の新規感染者数が30万人に上った。
人口約2500万人の同国、日本の人口の5分の1程度の人口なので、日本の人口に当てはめてみれば、「日本で1日の新規感染者数が150万人に上った」換算となる。この半月ほどで、200万人余りが罹患したと報道されていた。北朝鮮人口の約1割近い罹患がわずか半月で起きたこととなる。新型コロナワクチンを国民は接種しておらず、感染はさらに拡大していく可能性が高い。5月12日、北朝鮮当局は全土の都市や町や村の各地区の都市・町・村の封鎖を発表した。
この北朝鮮のコロナ感染状況は中国でも報じられていて、この報道に対しての読者コメントとして、「これは韓国駐留の米軍による生物化学兵器使用によるものだろう。ウクライナにも米軍の生物化学兵器研究所があるようだしな」などのものが見られた。
5月13日のABC(朝日テレビ系列)の報道番組「大下容子ワイド!スクランブル」では、この「北朝鮮の感染爆発」と「中国のゼロコロナ政策を巡るWHOの見解」に関する特集報道が放映されていた。報道字幕には次のような文字が‥。「人口2578万人北朝鮮、昨日12日だけで1万8000人以上、これまでに16万2200人以上が完治、18万人隔離」「金正恩マスク姿 北朝鮮 新型コロナ初確認?公表したワケは?」
「5/10 スイスジュネーブWHO 過去には中国のコロナ対策を賞賛」「上海ロックダウン 5月いっぱい続けられる見通し」「北京 4月25日から規制がより厳しくなった—ロックダウンに向かっている」「WHO事務局長—ゼロコロナ政策は持続可能ではないと発表」「国連の公式アカウント—"デドロス発言を中国語版で発信したが、微博(ウェボー)や微信(ウィチャット)では削除されている」
「デドロス発言に反発—5/11 趙立堅副報道局長"ゼロコロナ政策の有効性を主張""中国は世界の中で防疫に最も成功した国の一つだ。無責任な発言を控えるよう望む"」「東京大学阿古智子氏―習近平国家主席のメンツと3期目に向けて、自分の指示に従う味方の見極め」などの字幕テロップが。
■「科学が政治か?人権かメンツか? 」、「一党独裁全体主義、民主主義どちらが優れた政治制度なのか?」。この中国のゼロコロナ政策を巡って、今また、改めてその解答に至るピーツ(一片)がまた一つが出始めてもいる‥。この8月には中国渡航を予定もしている私にとっても、その渦(うず)の中に巻き込まれている。