3月20日頃、「寺島実郎の世界を知る力」(youtube配信の講座)を視聴した。(寺島実郎:1947年生、政治・外交評論家。財団法人・日本総合研究所会長、多摩大学学長。かって立命館大学客員教授も歴任。) この講座の3月のテーマは「21世紀秩序と3つの権威主義国家—3つの戦争への視界」。この中で寺島氏は、「➀トランプ2.0の米国—権威主義への同調とディール、➁プーチンのロシア—階級より民族志向、➂習近平の中国—社会主義現代化強国・国家資本主義"中国の偉大な復興」と分析し、それぞれの権威主義国の現在の特徴をより詳しく述べた。
そして、トランプ2.0の出現による現在を「"20世紀システムの消衰と権威主義的潮流の台頭、"力こそ正義"の大国主義的合意形成の世界としている。そして、帝国主義時代の「力こそ正義」の潮流を押しとどめるために何が必要かのポイントとして次の点を挙げていた。「🔴21世紀システムの模索➡新たな世界秩序を支える理念(自立と自尊—自国の運命への決定力—他国への配慮・多様性と地球環境」「情報環境の激変の現在➡AIとSNSの進化に人間的に対応する」「全員参加型秩序とグローバルサウスの重要性」など。
いずれにせよ、21世紀は大国主義間合意形成が主となりつつある潮流になるのか否か、その見方・考え方が問われていると述べた。そして、3つの戦争(➀ウクライナ・ロシア戦争、➁ガザ戦争、➂台湾有事)と21世紀潮流に関して、『WAR—3つの戦争』(ボブ・ウッドワード著)を紹介していた。講座の最後に、谷川俊太郎の「二十億光年の孤独」や茨木のり子の「自分の感性くらい」、二つの詩を紹介し、講座を終える。
3月10日頃の日本の報道番組「ABEMA的ニュースショー」で、政治学者の舛添要一氏が、今の世界情況を「第二次世界大戦直前に酷似」と題して解説していた。第二次世界大戦が始まる直前の1938年、ドイツのミュンヘンでヨーロッパ主要四カ国による「ミュンヘン会議」(ドイツ・ヒトラー、イタリア・ムッソリーニ、イギリス・チェンバレン、フランス・ダラディエら、各国首脳)が行われた。
議題は、ポーランドやチェコやスロバキアの分割統治問題。ドイツのヒトラーは、これらの国々でのドイツ人在留者が迫害を受けているので、ドイツ人が多く住む地域をドイツに割譲したいと主張した。そして、「まあそれくらいの地域ならしかたがないか」としぶしぶ同調したイギリス・フランス。イタリアはヒトラーの案に最初から賛成。その後、それらの国々は、全土をドイツ軍に侵攻されることとなり、これに反発したイギリス・フランスなどとの間に第二次世界大戦が勃発したのだった。そして、戦火はヨーロッパ全土へと拡大、ソ連やアメリカ、日本も参戦。
確かに舛添氏の説明は、2014年のクリミア半島併合から始まった、ウクライナ領土を巡るロシアの侵攻・占領というこの一連の間の流れには、ヒトラーとプーチンの戦略的・思考的な共通性も見られる。
3月7日のBS・TBSの報道番組「報道1930」では、「アメリカは敗北しつつある」と題されて、フランスの歴史人口哲学者であるエマニエル・トッド氏(1951年生)の著『西洋の敗北』ついての特集報道を行った。
エマニエル・トッド氏はこの著作の中で、ロシアなどと比較して、「➀生産力—エンジニア減少による産業システムの衰退、➁社会の安全—社会状態を示す最重要指標—乳幼児死亡率の上昇、➂宗教—"宗教ゼロ"に向かう衰退、退廃社会の到来」を挙げて、アメリカの敗北を述べている。
まあ、このトッド氏の➀~➂の項目での指摘については、➀と➁はあまり信用できる内容ではないと思われる。しかし、➂の「宗教」に関してはとても参考になる指摘だった。また、この報道番組に主演していたコメンテーターの1人の「民主主義を担うのは市民—ボリュームゾーンのところに常識がある。中間層がいないと民主主義は機能しない」とのコメントは、その通りだとも思った。
この「報道1930」に先立つ2月下旬、日本の『文藝春秋』社の編集者が、エマニエル・トッド氏に単独インタビューをしたものがyoutubeで配信された。このインタビューでトッド氏は、アメリカでの宗教の形骸化とアメリカの衰退について、かなり詳しく述べていたが、とても参考になる内容だった。
トッド氏は次のように言う。「➀プロテスタンティズムこそが世界に君臨する英米を支えてきたのです。そして、(アメリカの)その衰退の要因として、宗教的要素、すなわちプロテスタンティズムの崩壊を指摘しました。すなわち、米国を含むアングロサクソン世界の内部崩壊です。そのプロテスタンティズムが崩壊し、"宗教ゼロの状態"に至ることで、道徳面・教育面・知性面での"退行"が起こりました。「➁西洋は世界から尊敬されていて西洋が世界を主導していると思い込んでいませんか。実は、"その他の国々"は、西洋に無関心で、むしろロシア側につき始めています。」と‥。
■確かにトッド氏の指摘するアメリカ社会での宗教、とりわけプロテスタンティズムの衰退を「アメリカの敗北」の要因の一つとする主張には説得力もある。「なぜトランプという人格的にも思想的にも大問題のある人物が米国大統領に再選されたのか?」「2020年の米国連邦議会へのトランプを熱狂的に支持する暴徒たちの議会突入がおきたのか?」「なぜ、トランプはビジネス・金儲け第一の人物なのに大統領になれたのか‥?」など、トッド氏の「宗教倫理観」の喪失論で、ある意味、一つの大きな要因としての説明もつく。
1905年、ドイツの社会・政治・経済学者であるマックス・ウェーバーは『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を著した。プロテスタンティズムの倫理感(つつましさを失わず、過度な金銭欲にはしらないという)がまっとうな資本主義の興隆につながったという説だ。このプロテスタンリズムは特にヨーロッパでは、イギリス・ドイツなどでは主流だったし、アメリカもそうだった。それが2000年代に入って徐々に、とりわけ金融・IT部門でのプロテスタンティズムの喪失など、世界の潮流ともなっていった。それにより、世界的に、そしてアメリカでも貧富の極度の差が生まれ、2015年頃からは中間層が激減してきている。反知性、反倫理のアメリカ社会の出現とも言える。
これがついにアメリカ社会では、トランプの再来をもたらした要因とも考えられるのかとも思われる‥。だからこそ、アメリカ社会のまっとうな再生の難しさがあるのだろう‥。