





17日間にわたって開催された2022北京冬季オリンピックがついに閉幕した。開幕前から、そして開幕中も、さらに閉幕後も、中国国内においての五輪関連報道の中心にいた選手の一人が谷愛凌選手(19)だった。米国生まれ(父は米国人・母は北京出身の中国人)。父も母も谷愛凌も米国籍だったが、2019年に、おそらく母と谷愛凌だけが中国国籍を取得。アメリカは二重国籍を認めている国なので二人とも米中二つの国籍を現在は持っていると推定されている。しかし、中国は二重国籍を認めない国なので、中国政府の発表では、「谷愛凌はアメリカ国籍を捨てて中国国籍を選んだ」としている。
この国籍問題を谷愛凌に海外の記者団が質問すると、彼女は回答は避けているので、おそらく二重国籍なのだろうと推測されている。彼女は競技実績も抜群な人な人だったので、米国代表として北京冬季五輪に出場できるのは確実だったが、特に中国政府と母親の強い勧めがあり中国代表としてこの五輪に参加した。いくつかの種目に出場し、金メダル2・銀メダル1を獲得した。
もう一人の、「米国籍を捨てて中国国籍・中国代表を選んだ選手」として、中国政府がプロパガンダをおこなっていた選手が、フィギュア女子の朱易(17)だった。父も母も中国出身で、米国籍だったが、両親も朱易も2018年に、アメリカ国籍から完全に中国国籍になった。父は世界でも有名なAIの研究者。「父も娘も米国籍を捨てて、中国国籍を取得した」と、ここ半年間あまりは中国国内ではおおいに宣伝された。しかし、国際大会の実績もまったくない朱易は、この北京冬季五輪フィギュア団体では演技らしい演技がなかなかできず、泣き崩れたため、中国国内で大きなバッシングを受けることとなってしまった。しかし、中国政府はこの「米国籍を捨てて中国を選んだ」神話をなんとか維持するために、女子フィギュア個人のSPで、泣かないでなんとか笑顔で演技を終えたことを称賛した。このため、中国国内のバッシングも収まってきた。
いずれにしても、この二人の選手の存在は、米中対立の政治状況を大きく反映した、中国の「アメリカより中国が優れているんだ」という政治宣伝(プロパガンダ)の象徴的な存在だった。
2月19日付朝日新聞には、「跳び越えられる米中の枠―米国出身、中国代表 谷愛凌」の見出し記事。この記事は、この中国のプロパガンダについては、ほとんど言及していない記事内容。「称賛とバッシング―中国籍の米国出身五輪選手に」の見出し記事も。





大会最終日が目前の2月19日、これも注目されるフィギュアペアのフリーの競技が行われた。日本からは木原・三浦ペアが出場した。そして、なんと0.63点の差で中国の韓・隋のペアが悲願の金メダルを獲得した。とても魅了される、二人の演技だった、この二人のペアは10年以上のペア歴をもつ。銀と銅はロシアのペアだった。





このフィギュアペアの中国代表金メダル獲得により、今大会での金メダル獲得数において、初めて中国はアメリカを越した。(中国9個、アメリカ8個) これは、中国政府にとっても「米国に勝つ」という政治的目標があっただけに、おおいに宣伝され(プロパガンダ)、中国国内も歓喜に包まれた。中国国内の各マスコミには、「冬奥最新金牌榜:中国代表団9金超越米国」(※冬の五輪、最新金メダル獲得情報:中国代表団はついに米国を追い抜いた)の見出し記事が躍った。金銀銅のメダル獲得総数においては米国は25個(中国は15個)だが、とにかく肝心の金メダル数においては米国に勝ったという大きな宣伝だ。




19日夜、フィギュアスケートの最後を飾るエキシビションが開催された。このエキシビションで最も注目を集めたのは羽生結弦の演技だったのかと思う。会場の歓声がひときわ大きかった。美しい、「これぞ男子フィギュアの美」という感のある、世界が魅了される演技だった。






エキシビションのフィナーレ、全選手がリンクに登場。中国代表の金選手が羽生に歩みより手をつなぐ、中国代表のアイスダンスの男性選手(身長は190cm以上ある)も羽生を、なんと抱きかかえるお姫様だっこ。この映像は、世界のみならず、中国国内では大きな歓喜で受け止められた。北京冬季五輪終了後も連日、羽生関連の報道が続き、中国国内での「羽生フィバー」はしばらくは止まりそうもない‥。逆に、米国代表の金メダリスト、ネイサン・チェンに関する報道は冷淡だ。その大きな理由は、彼の父(中国・広西チワン族自治区出身)も母(中国出身)が中国国籍を捨て、米国籍を取得しているからでもある。ここにも米中対立の政治的影に覆われてもいる。





開会式のあった2月4日は、中国でも日本でも「二十四節気」の「立春」だった。そして半月後の2月20日の閉会式が頃は、季節は「雨水(うすい)」(※春に目覚める植物や虫たちにとっての恵みの雨の季節)となった。1月31日から始まった中国の春節は、2週間後の2月15日の元宵節をもって終わることとなった。この元宵節の夜、中国では各家々にはランタンが灯され、町中の通りもランタンが飾られる。
2月20日、夜の8時(中国時間)頃から始まった2022北京冬季五輪の閉会式。全体総合演出は、開会式に引き続き張芸謀。閉会式にもストーリーがあった。中国伝統のこのランタンが登場、会場の観客の一人一人もランタンに灯をともした。





閉会式という別れの場、ここに「中国という国を象徴する樹木である柳(やなぎ)」にまつわる演出があった。中国において、この柳は、「別れと再会」(※柳の下で長い別離を惜しみ、そして、再びこの柳の下で再会する喜び。)を意味する樹木。柳の枝に新葉が芽生えるようすを、薄い緑色の衣装をまとった女性たちが表現。そして、季節は移り、柳の花が咲き、綿毛(種)が飛び散り、再び芽生える。こんなシーンを張芸謀は演出してみせた。見事だった。シンプルな中にも、高い芸術性が演出されていた。




そして、閉会式の最終場面、何千というランタンの映像が会場内を浮遊し始め、北京の空に舞いあがっていった。見事!。



会場の国家スタジアム(鳥の巣)を包む花火の美しさ。北京冬季五輪はここに幕を閉じた。






2月21日付朝日新聞には、「閉幕 異例続き―コロナ下 薬物疑惑も/認め合う姿に 五輪の価値が」、「輝き続けた 最後まで」、「次の舞台 羽生"舞台問わない"」、「日本選手団 最多18メダル 首位はノルウェー」などの見出し記事。ちなみに、今大会でのメダルランキングでは、「1・ノルウェー(金16)、メダル総数37、2・ドイツ(金12)、メダル総数27、3・中国(金9)、メダル総数15、4・アメリカ(金8)、メダル総数25、‥‥‥12・日本(金3)、メダル総数18」などとなっていた。22日には、「北京に見えた4つの課題―①ドーピング できてしまった前例、②技の高難度化 刺激と安全の両立は、③組織委の警告 人権語る空気消えて、④SNS中傷 "自衛"強いたまま」の見出し記事が掲載されていた。





今秋に開催される中国共産党大会で異例の3期目入りが確実視されている習近平国家主席(党総書記)の実績が、この北京冬季五輪でまた一つ加わった。「外交ボイコット」に踏み切った欧米などのいくつかの国を、「スポーツの政治化に反対する」と批判しながら、五輪を政治的に最大限に利用したのは間違いなく中国だった。私は、この「五輪の政治利用」について一定は、「それはどの五輪でもあるだろう」とは思う。だが、今回の北京冬季五輪は一定以上にそれが際立っていた印象だ。
2014年のロシア・ソチ冬季五輪における国家ぐるみのドーピング問題で、それ以降の五輪では、ロシアという国の参加は認められず、ROC(ロシア五輪委員会)という名称で個々の選手が五輪に参加している。このため、ロシアのプーチン大統領は五輪大会には招いてはいけない人だったが、中国政府は今回、特例で招待して「国賓」扱いをした。これは欧米日に対抗する政治的意図があることは明らかだ。
そして、大会が終了し、過去最多のメダル15個(金9)を獲得した中国選手団の活躍と、新型コロナウイルスパンデミックが世界で続く中での2度目の五輪成功は、中国の国威発揚の役割を十分に果たした。中国国営メディアは「五輪を通じ、信頼され、愛され、尊敬される中国を世界は見た」と自賛した。
習近平中国国家主席とプーチン・ロシア大統領という二人。「78億分の2」の男のこの二人の存在に、世界は揺り動かされている。そんなことを強く感じもする異例の五輪でもあった。
大会期間中の2月16日発売の中国共産党理論誌『求是』で、「決して西側諸国の法治体系を基準にしたり、"追っかけ"をしたりしてはいけない。中国には中国という国に最も適した法治・統治体制、中国流民主主義があるのだ」と強調した。増大した国力を背景に、盟友プーチン大統領とともに、国際秩序の変更を目指す中国、そしてロシアと、欧米日を中心とした民主主義陣営との対立がより一層に明確、より対立的にもなったこの北京五輪でもあった。





2月13日付朝日新聞に「ウクライナ選手"NO WAR"訴え IOC容認"一般的な平和の願い"」の小さな見出し記事。政治的・社会的な主張をこの大会期間中に選手に厳禁している中国政府とIOC。そんな中、ウクライナのスケルトン競技の選手が、「NO WAR in UKRAINA」(※ウクライナに戦争はいらない)と書いた用紙を掲げた。そして、「私は戦争を望んでいない。母国と世界の平和を願っている。それが私の立場だ。」とコメントした。この出来事に対し、IOCは「まあ、一般的な平和への願いのメッセージ」として容認した。ウクライナ国内には、ロシア軍の侵略に備えて「UKARINIANS will resist」(※ウクライナ人は(ロシア・プーチンに)抵抗し戦うだろう)の大きな横断幕も掲げられている。
昨日2月22日、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ東部へのロシア軍の侵攻を許可し、ロシア軍はウクライナ東部に進軍した。侵略という歴史に残る暴挙である。
今日2月23日付朝日新聞には、「北京 良い面も悪い面も五輪だな、と―相手への称賛と政治面と・東京が意義考える機会に」の見出し記事が掲載されていた。
■—次は、2030年サッカーワールドカップの開催国招致を目指す中国―

今年2022年6月、サッカーワールドカップは中東のカタールで開催される。その出場をかけて、今、アジア地区での最終予選が行われていて、3月下旬にはアジア圏出場枠の5カ国が決定する。現在のところ、このアジア最終予選での結果は、Aグループ1位イラン・2位韓国・3位UAE(アラブ首長国連邦)、Bグループ1位サウジアラビア・2位日本・3位オーストラリアとなっている。現在時点で中国はすでに、今度の2022サッカーワールドカップへの出場はでかなわなかった。
しかし、この6年間ほどで、中国のサッカーレベルは急速に実力をつけつつある。サッカー大好きの習近平国家主席、2017年ころから、中国国内の小・中学・高校の2万校ほどをサッカースポーツ重点校に指定するなど、その強化もしてきている。2026年のサッカーワールドカップは、アメリカ・メキシコ・カナダ三カ国による共同開催が決まっているが、中国は2030年の開催国を目指している。





1か月ほど前からインドネシアで開催されていたいた、女子サッカーアジアカップで、中国女子は準決勝で日本を、そして決勝で韓国を破り優勝した。この優勝の決定は、中国北京での冬季五輪が開幕した日とほぼ同じ頃だった。中国国内ではこの快挙は、大きく報道され、北京五輪の開会と共に、中国国民を歓喜させた。日本のサッカー女子代表はここ数年間、低迷を続けている。残念ながら、選手のプレーへの気迫というものが伝わってこないチーム状況だ‥。