中国グローバル化研究センター(Center for China and Globalization )[CCG]の王輝耀主任は、「1800年代初頭から本格的に始まった世界のグローバル化は、イギリス主導のグローバル化が0.0版だとし、1900年代を中心とした米国主導のグローバル化が1.0版だとすれば、『一帯一路』は中国がバージョンアップに関わったグローバル化2.0版である」と言う。そして「この『一帯一路』の成功のためには、超莫大な資金が必要であり、その資金は中国を中心とした現在の『一帯一路』加盟決定国が拠出できるには ほど遠く、とりわけアメリカの加盟による資金拠出が必要不可欠である」とみている。つまり、「グローバル化0.2版」は中国が中心となり主導するスタンスをとりながらも、アメリカや日本・ドイツの参加を望む現実が横たわっている。
「一帯一路」沿線地域のインフラ建設を行うには、毎年1兆7000億ドル(約190兆円)の資金が必要と試算されている。中国が主導している金融関係の3組織(AIID、新開発銀行、シルクロード基金)の資本総額は、2400憶ドル(約2兆6400億円)に過ぎない。近年、中国は毎年「一帯一路」沿線各諸国に総額1300億ドル(約1兆4300億円)の借款を供与している。その金額の拠出元の大部分は、中国国営の国有銀行や国家開発銀行ではなく、中国民間の「商業銀行」からの資金である。中国の銀行としては「海外投資プロジェクト」に対して、慎重な態度をとることも多い。このため、アメリカや日本の商業銀行や国有銀行の「一帯一路」への参加は、のどから手がでるほど欲しいものかと推測される。
上記の円グラフは、世界全体に占める主要国GDP(総生産額)の比率であるが、「1位、アメリカ24.4%、2位、中国15.5%、3位、日本6.4%、4位、ドイツ4.5%、5位、イギリス3.3%、6位、フランス3.2%、7位、インド3.1%、8位、ブラジル2.5%、9位、イタリア2.4%、10位、カナダ2.0%、その他32.7%となっている。上記の棒グラフは、そのGDPの各国の金額比較となっている。(※その他の中の、韓国は11位、1.9%、ロシアは12位、1.8%となっている)
➡「アメリカと中国、そして日本とドイツの4国」で、世界のGDPの50%超を占めているのが現状である。
人口という面からみていくと、現在「一帯一路」に加盟参加を表明している国の人口を合わせると「44億人」を占めるという。これは、現在の世界人口の63%。国内総生産(GDP)の面でみると、合計は21兆ドル(約2310兆円)にのぼる。この額は世界のGDPの約30%となる。アメリカや日本などが加盟した場合、今後10年間で、世界GDPの60%以上を占める可能性もある貿易機構となる可能性がある。
◆2016年・世界人口は73億人と報告されている。各国の人口は、「1位中国13.8億人、2位インド13.1億人、3位アメリカ3.2億人、4位インドネシア2.6億人、5位ブラジル2.1億人、6位パキスタン1.9億人、7位ナイジェリア1.8億人、8位バングラディシュ1.6億人、9位ロシア1.4億人、10位日本1.3億人、11位メキシコ1.2億人、12位フィリピン1.0億人---」などとなっている。日本周辺のアジアでは、韓国が約5000万人、ベトナムが約3000万人、北朝鮮が約2500万人、(台湾)が約2400万人、(香港)が約730万人となっている。
◆人口が多いということは、国力としては大きな要素となる。人的資源ともいわれる。特に国民の所得が向上すれば「物を買う購買層としての世界的大市場」となる。現在の中国がそうである。中国の現在の人口構成は「洋梨型」である。つまり、40代が最も多く、若年層になるにしたがって少なくなっている。中国は1970年代末からの改革開放政策のもと、「人口が多すぎるという圧力からの回避→一人っ子政策→外国資本への労働力解放→世界の工場への脱皮→労働力不足→賃金急上昇→消費購入力向上→外国資本への市場開放→世界の市場への脱皮→人口圧力の超越→世界の超大国へ」と現在に至っている。改革開放路線のもと、35年間をかけて国力の増強に成功し超大国となった国である。
1980年と2021年(推定)の「国民1人あたりのGDPを比較」する(上記の棒グラフや折れ線グラフの写真)と、中国は約42倍となる。次いでインドが9.5倍、インドネシアが7.6倍、日本やアメリカやドイツなどは4.5〜5.4倍程度。中国は、特に2006年以降の伸び率がすざましく、この10年間で1人あたりの経済的向上が飛躍的だったことを示している。
◆人口が多いという点では、中国と肩を並べているのがインドである。(2020年には中国を人口では追い抜く)インドは日本との関係は良好であるが、中国とは対立緊張関係が横たわる。今回の「一帯一路」にも加盟参加をしていない。日本人の間には、日本とインドが協力関係を結び中国に対抗すれば中国に対抗できると期待する人たちも多いかと思われる。日本とインドのGDPを合わせると、世界の10%近くを占めることになる。
しかし、インドの経済成長率は中国と比べると格段に低くなっている。インドには人口政策はなく、人口構成は完全なピラミッド型である。インドは1980年以降の中国と比較すると、「現在同じような人口を有しながら なぜ経済的な発展が遅れているのか」と疑問が浮かぶだろう。インドは中国と違い「多くの人口をかかえながら世界の工場になることはできなかったし、今後も難しいといわれている」のはなぜなのか。その最大の理由は「インド人労働者は権利意識が強すぎて、外国資本による工場や会社経営が困難である」と言われている。また、インド特有の身分差別制度がいまだ根強く残っていることも大きく影響しているとも言われる。このため、自慢のIT産業や国内資本だけでは、過剰労働力を吸収できず、野放図に膨れ上がる人口圧力に、インドは押しつぶされる可能性もあるとも言われている。
「一帯一路」構想の具体化に伴って、いろいろな問題も浮かびあがっている。中国の雲南省と国境を接するラオスやタイ、ミャンマーなどの大きな河川では、河川の港湾整備を環境への考慮をいないまま 中国側が大規模に工事を行い、それらの国々もそれを容認している。このため、河川の環境破壊が進み、漁民にとっては「魚がとれなくなった」との嘆きが起きているようだ。また、スリランカは現在多くの借款(借金)を中国から受けているため、借金のかたに港湾に中国の軍艦や潜水艦が寄港し、基地化を要求もしているという。この状況に、隣国インドのモデイ首相がスリランカ支援に動き出している。「大国が小国の弱みにつけこみ支配するのはよくない」との抗議もスリランカやインド国内で起きている。
「一帯一路」フォーラム国際会議の会期中、各国の中国に対する警戒感や懸念に配慮し、主催者の習近平国家主席は「中国は、世界各国とともに発展の経験を分かち合う。他国の内政には干渉しないし、社会制度や発展モデルを輸出もしなければ強要もしない」などと説明をしたが、中国国内の「人権や自由」に関する問題や南シナ海を巡る問題など、中華思想のもと「覇権主義」的行動を行っている中でのこの説明が、どれだけ各国に受け止められたかは疑問が残るところもある。
ちなみに、今回のフォーラム国際会議には、先に述べた「インド」は オブザーバー(正式な加盟参加ではない)の代表団参加させていない。また、オーストラリアなども、「中国に対する警戒感」から距離をもち参加を見送っている。TPP(環太平洋パートナーシップ)は、現在10か国(日本・カナダ・ベトナム・オーストラリア・ニュージーランド・チリ・ペルー・シンガポール・マレーシァ・メキシコ―中心国だったアメリカは、トランプ新政権が離脱表明)での締結を目指しているが、締結までには多くの困難も出てきているようだ。(※この中で、ニュージーランドは「一帯一路」への加盟・参加に最も積極的)
◆―ねらいは「政治・経済」の両面―
中国が、「一帯一路」の構想を提唱し、今回、習近平主席がここまで大規模な国際会議を開催したねらいは、何なのか。大きく2つあると言われている。1つは、「経済的」ねらいである。このことは、前号で述べたとおりである。もう一つは、国内外を意識した政治的なねらいである。中国では今年の秋に、五年に一度の「中国共産党指導部の大幅な交代をともなう大会」が開催される。この共産党大会で、習近平主席が2期目に入ることは確実視されているが、党の規約を2022年からの3期目の主席就任が可能になるように変えることも予想されている。それを前に、中国が主導する初めての大規模な国際会議を成功させ、国民の支持を取り付けて、みずからの権威を高め、人事をめぐる党内のかけひきを有利に進める思惑がある。また、アメリカ第一主義を掲げるトランプ政権の誕生で、国際関係に大きな変化が起こり始めた現在、経済をてこに各国との関係を強化し、超大国アメリカに対抗して 世界の中心的な国家となる「中国の夢」を追及するという思惑がある。
3〜4年後、最終的にアメリカが不参加の態度を強め、日本、ドイツなども参加しないとなると、「世界に大きくあげたアドバ―ルーンである一帯一路」が、資金的な問題で実現できなくなる可能性もある。習政権にとっても、大きな痛手となり、国民の支持にも、対外的にも大きな信用失楽の影響を与える事態となる。このため、日本やアメリカに対して「ことさらこれ以上関係を悪くしたくない」という中国側の思惑も見え隠れする。
◆このような「一帯一路」を巡る国際情勢の中で、日本国内でも「加盟参加をすべきかどうか」という、日本の将来の鍵(命運)を握る選択に関心がもたれ始めている。安倍政権の中でも、政権No.3の麻生太郎副総理・財務相や安倍外交の最高ブレーンである矢内正太郎国家安全保障局長(元外務省事務次官)などは、4年後のアメリカ大統領選の動向を見据えながら、中国包囲網を再構築し、安易な妥協をせず中国にあたるべきだとして「加盟参加」に慎重もしくは反対をしている。
一方、政権No.2の二階俊博自民党幹事長や安倍首相の最側近の今井尚哉首相秘書官(政務)は、AIIDなどにはまず参加し、中国側に恩を売り、日中関係の正常化をより実現するためにも「できるだけ早く加盟参加」の方向に賛成の立場をとっている。今井秘書官が、この5月の「一帯一路」フォーラムに参加した北京に滞在中、中国政府の外交政策決定の最高責任者である楊潔箎国務委員(副総理級)[王毅外交部長の直属の上司]と 内密に会って会談したという情報もある。日中平和友好条約締結40周年の来年9月の自民党総裁選までに、安倍首相の中国公式訪問を実現したいと 今井秘書官は考えているようだ。
いずれにせよ、1カ月以降後の7月、日本に於いて「日中韓」の首脳会談が行われる予定である。日本からは安倍首相、韓国からは文大統領、中国からは李克強首相(政権NO.2)の参加が予定されている。東アジア情勢を巡る いろいろなことが具体的に動きそうな予感がする。
「一帯一路」への 日本としての判断は、とても難しい情勢があり、その判断はなかなか難しい。いずれにせよ、中国を中心とした「グローバル化0.2」の時代は始まってきていると感じる。日本という国が、これから将来に向けて、「アメリカを中心とした政治経済圏と中国を中心とした政治経済圏の両方に対して 重要な位置を占めることが必要だ」ということ これだけは明らかなことではないかと考える。
安倍自民党政権に対抗すべき、民進党や日本共産党の党内論議は、この点に関してまったく聞こえてこない。また、政策としても具体的なことがまったく聞こえてこない。残念ながら、党内の相当深刻な人材不足の感がいがめない。
4年間近く住んでいる福州市内は、あいかわらず、そこかしこでの建設ラッシュが続いている。地方の中・大都市では福州(人口700万人・中国の都市としては30番目くらいの規模の都市)と同じように、道路や地下鉄の新設整備を進め、経済発展を進める都市が多くなってきている。「一帯一路」構想が進むなかで、広い中国全土の中で 経済発展が遅れていた地域や都市に活気があるのも、今の中国の一面でもあり事実である。
◆このようなテーマで文章を書くために、さまざまな資料などに目を通します。いままで知らなかったことも多く、自分の勉強にもなります。また、中国の大学で「日本概況」などの講義を行う場合の、私の基礎的な知識・学力ともなると感じながら、ブログを作成しています。それにしても、今回のブログ記事は長く長くなりました。すみません。