第二次世界大戦末期の1945年4月、ソ連側は「日ソ中立条約(日ソ不可侵条約)」[1941年4月に締結]を延長しないことを日本側に通告した。そして第二次世界大戦の終戦(1945年8月15日)1週間前の8月8日、突如、ソ連軍は日本が占領していた満州国に大軍(陸・空軍)をもってなだれ込んだ。この「日ソ中立条約」は、もし、一方が延長をしないことを通告しても、それから1年間はこの条約は有効性を持っていたので、条約の有効性が切れるのは1946年4月だった。だから、日本側としては、まさか1945年8月8日にソ連軍が満州国に侵攻するとは想定していなかった。
このソ連軍の満州国侵攻により、武装解除をされ、捕虜となった日本軍及びその他の日本人一般人など約60万人がソ連邦(ロシア)のシベリアなどの地域に送られ、過酷な労働を伴う収容所(ラーゲリ)生活を送らされた。いわゆるシベリア抑留である。日本人捕虜たちに対してこのような収容所生活を送るように命じたのは、当時のソビエト連邦(ソ連)の最高権力者のスターリン書記長(ソ連共産党)だった。
■このような捕虜の扱いは、国際法上でもポツダム宣言内容上でも、国際的な人権侵害であった。約60万人超のシベリア抑留者は、早い人では2〜3年間で日本に帰国することができたが、最も遅い帰国者たちは1956年帰国だった。実に11年間もの収容所での抑留生活を強いられた。映画「ラーゲリより愛を込めて」で描かれる山本幡男氏らの仲間の多くは、この11年間の抑留者たちだった。シベリア抑留者で、祖国・日本に帰還することなく、死亡したした人は約7万人(10人に1人)にのぼった。
実は、私の父(62歳で死去)も20歳余りの年齢でソ連軍の捕虜となりシベリア抑留を経験した一人だった。そのような父親のシベリア抑留体験のこともあり、父親の死後のことではあったが、2008年に極東ロシアのウラジオストックやハバロフスクなどのシベリア地方を訪れたことがあった。2022年12月9日から、映画「ラーゲリより愛を込めて」の全国公開が始まったが、この映画は見ておくべき映画だと思い、2023年1月12日(木)に京都市内の映画館でこの映画を観ることとなった。
二宮和也・北川景子主演の映画「ラーゲリより愛を込めて」をそれほど期待して映画館に足を運んだわけではなかったのだが、130分余りの映画を観て、実話に基づいた、60万人ものシベリア抑留者たちの物語に、心が震えた。近年の日本映画の中でも秀逸な映画だったと思った。この映画は、私のような高齢者よりも、若い人たちの観客が圧倒的に多かったのも印象にのこった。昨年の12月9日に公開されたこの映画は、ロングラン興行が続いていて、現在(1月28日)でも、上映が続けられている。
現在でも、この映画のポスターが貼られ、その横に『ラーゲリより愛を込めて』(文春文庫版)が置かれている書店もある。第二次世界大戦後、60万人を超える日本人が不当に捕虜となったシベリア抑留。ノンフィクション小説『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』(1989年文藝春秋社刊/辺見じゅん著)は、過酷な労働と厳しい自然環境の中で、仲間たちを励まし続けた実在の日本人捕虜・山本幡男(はたお)[享年45歳]の遺書を通じて、彼の壮絶な半生と仲間たちを描いた物語だ。
戦争によってもたらされた無情な仕打ちによって、終戦になっても収容所で重労働に喘ぎ、郷愁の念に苦しむ人々の実態(実話)が描かれている。先の見えない日々であってもなお、帰国の望みを捨てずに皆を励まし続けた山本幡男。規律厳しく不自由な(例えば、文章を書くことは禁止されている。もし、発覚すると禁固20年などの刑罰などが科せられる。)収容所の中で彼が書き綴り、仲間たちがそれを暗記し、日本の山本幡男の家族に決死の覚悟で届れた遺書を巡る『収容所から来た遺書』の実話に基づいた原作小説を、映画化したものがこの映画「ラーゲリより愛を込めて」であった。映画を観終わった後に、書店でこの原作を購入して読んだ。原作は映画に負けず劣らずというか、読み終わるのが惜しいくらい、よかった。
インターネット記事に、「感涙率97.1%」と題されて、若い女性たちのこの映画の感想が寄せられていた。「今まで観た映画の中で一番泣きました」「苦しい中でも 身近なところに 幸せってあるんだなあと気づかされました」「生きているからこそ 明日があって幸せな希望とか未来がある」「もっと今を大切に生きたいと思いました」などの感想‥。
私も「この映画を観てよかった!」と思いながら、何度となく涙が流れた。実話を映画化した物語に心が震えてしまったのだった。
この映画に出演している安田顕さんは、「(山本幡男さんという)こういう方がいたことで、実際に希望という形で救われた人達がたくさんいたんですね。同じ日本人としても知ってほしい人です」とコメントしていた。また、北川景子さんは、「自分が関わっている作品(映画・ドラマ)で、こんなに胸を打たれたのは初めてです」とコメントしていた。
原作著者の辺見じゅんさんは、この山本幡男という人に語ってもいるが、それは次号で紹介もしたい。
全国の書店には、『収容所から来た遺書』(文春文庫/辺見じゅん著)の他に、映画の封切り前に出版された映画・ノベライズ版の『ラーゲリより愛を込めて』(文春文庫/辺見じゅん・映画脚本:林民夫)が置かれている。
映画の他の出演者は、桐谷健太、松坂桃李、中島健人など。
映画のパンフレットには、山本幡男の遺書全文も掲載されている。この遺書、現代の日本に生きる私たちに向けた遺書にも思えた。(次号で一部紹介したい。)