特にこの11月に中国国内で多発した無差別死傷事件。日本国内の次のテレビ報道番組でも11月下旬に、このことについての特集報道が組まれていた。「深層NEWS」(BS)、「イチメン(TBSニュース)」(BS)などの報道番組で‥。
「深層NEWS」では連続して2回にわたり、中国での無差別殺傷事件とその社会背景などについて、「無差別殺傷件相次ぐ—社会不安?拡大」などと題されて特集報道。コメンテーターは、興梠一郎・神田外国語大学教授や柯隆・東京財団政策研究所主席研究員・静岡大学特任教授など。
この報道番組の中で、「無差別殺傷事件」を未然に防ぐため、広東省当局などが管理強化するとした「8つの"喪失者"(8つのタイプの人)」について報道がされた。その8つのタイプの人とは、「➀投資に失敗した人➁職を失っている人➂人生で"失意"に陥っている人➃男女関係で失意に陥っている人⑤人間関係で不和を抱えている人⑥精神的バランスを失っている人⑦精神状態が正常でない人⑧子どもの頃、不遇だった人」。
そして、「無差別殺傷事件」などを防止するために全国各地で、「居民委員会」(※中国共産党と政府の指導のもと、住民の生活、管理を目的とした地域住民の組織。一応は自治組織の体裁はとっているが、居民委員会の幹部は、党や地方市町村政府からの指名。日本の自治会と一部、似たところもあるが‥。私が中国で暮らす住宅団地にもこの組織はあり、私も毎年約500元[約1万円]の会費を支払っている。)などが、これらの調査・監視を担うこととなるだろうと報道されていた。
このような調査・監視はかっての「楓橋(ふうきょう)経験」(大衆を相互に監視させる社会統制方法。建国の指導者・毛沢東などがこの方法を広めたとされる。)などを想起させるとの指摘もコメントされていた。
TBS系のBS報道番組「イチメン」では、阿古智子・東京大学大学院教授をコメンテーターに迎えて、中国における無差別殺傷事件について「相次ぐ無差別殺傷事件 背景に社会への不満」と題して報道。この中で、地方政府が"事件を起こす可能性がある人」としての「三低 三少」ということについて報じていた。
この「三低 三少」とは、「三低」➡①所得(低)、➁社会的人望(低)、➂社会的地位(低)。「三少」➡①人との付き合い(少)、➁社会と触れ合う機会(少)、③不満を口にできる機会(少)。
この「無差別殺傷事件多発」の社会的背景として、中国経済低迷、将来への不安の増大があるとの指摘などがされていた。
11月の無差別殺傷事件の中には、小学校の校門前付近での人への車の突入事件もあったので、私が暮らす福州市内の小中高校でも、校門前付近の車止め防護が設置されるようになっている。私が勤める閩江大学にも、校門前に大きな石が狭い間隔に置かれた。防護柵も。そして、サスマタを持った警備員が新たに警戒するようにもなっている。
中国における「無差別殺傷事件多発」に関してYahoo Japnを閲覧すると、これに関連した記事は多数書かれているが、私は中国関連ジャーナリストの中島恵さんの記事を関心を持って一読した。中島さんは「なぜ、中国で、このような無差別殺傷事件が続いているのか。」として、「私が考える(事件の社会的)背景は、主に以下の3点だ。」として、次のように述べている。
1つ目は新型コロナの後遺症がここへきて一気に噴出、表面化しているのではないか、という点だ。‥‥2つ目は、そもそも論だが、やはり教育の問題が非常に大きいのではないかと感じる。‥‥勉強ができないと"人生の失格者"というレッテルを貼られてしまう。‥‥特に、中国で(20)18年頃から実施されている「中考分流」という教育方針だ。‥‥3つ目は戸籍の問題だ。‥中国人を大きく二つに分ける(都市戸籍と農村戸籍)戸籍が、社会のいろいろなひずみや問題、差別を生んでいる。」
この中島さんが指摘する3つの社会的背景については、私もそう思うところがある。2023年3月に中国に3年ぶりに戻り、親しい中国人にゼロコロナ政策の時のことに聞くと、それはもう、「ほんとうに苦労しましたね!」の一言に尽きる。また、日本のようなコロナによる休業補償制度はまったくなく、倒産や閉店せざるを得なくなった企業・店舗の数ははかり知れない。ゼロコロナ政策によって人生設計が狂った人々が、日本に比べ、はかり知れなく多いことかと思われる。
「中考分流」政策は、高校入試(中考)において、「普通高校」と「職業系高校」への入学者数を50%・50%に、試験点数によって峻別する制度だ。職業系高校を卒業しても、四年制大学の入学試験を受験はできないという政策になったので、将来に悲観的になる若者が増加しているかと思われる。
「戸籍」の問題は深刻だ。例えば、年金一つを例にとっても、都市戸籍者は月平均1500元(約3万円)の年金が受給できるが、農村戸籍者の月平均年金額は200元(約4000円)。「農民工」として、都市部に流入し、そのまま高齢者になっても都市で暮らす人も多い。しかし、農民戸籍なので、年金は毎月200元ほど。(※現在、農民工は2億9000万人ほどと報告されている。)
2023年頃からの住宅バブルの崩壊などを引き金としての深刻な経済不況の長期見通しや超就職難、コロナの後遺症、高校新入試制度の実施、戸籍の問題、住宅ローンの支払い困難問題など、「将来への希望」が閉ざされる「閉塞感」に、今、中国の人々の多くが(中間層も含めて)は直面している。
■日本では、2000年代に入り、小泉内閣のもとでの閣僚の竹中平蔵氏らにより「労働者派遣法」の大改悪が行われ、非正規労働者が多く生まれることとなった。このころ、日本でも無差別殺傷事件がよく起こった記憶がある。
この11月21日(木)の3回生の「時事日本語」の授業での、学生発表では、日本のYahoo Japanの記事閲覧の中から、「中国車暴走35人死亡 公共の場所で事件相次ぎ衝撃広まる」と題して発表する学生もあった。(※現在も中国では、Yahoo Japanは一般の中国人も視聴可能。ただし、yahoo Japanの検索機能は使用不可となっている。)
大切なものは「太陽・水・家族」、「家族のために頑張れる」という価値観が大きいフィリピン。国民の「幸福度」は世界でもトップクラスの80%以上の国だが‥。2000年代に入り、フィリピンには3回訪れた。しかし、仕事がない人が多かったのには驚かされる。国民の1割が、海外へ出稼ぎに行き、国の家族に送金し、家族のために頑張っている国だった。
そのフィリピンでは、最近、日本人を狙った拳銃強盗が多発していると11月下旬に報道されていた。「20年以上フィリピンに住んでいるが今年が一番こういう事件が多い」と、フィリピンで焼き鳥居酒屋を経営している日本人男性が語っていた。