「幸せを 感じる力が 運命を決する」「今日の いい一日を すごす」「鰹節は 身を削って 他のためによき ダシとなる」。中国に戻る前日の11月7日(火)の午後、京都市内の出町柳駅近くにある三つのお寺の門前に書かれている言葉を見る。ここ5カ月間余りの腰や足のかなり辛い痛み、1週間も続いた下痢症状など、生きることの辛さを日々感じているだけに、「幸せを‥」「今日の‥」の言葉がスッと心に染みいってもくる。
この三つの寺院は、それぞれの仏教宗派は違うが、門前に書かれている言葉は、仏教というものの教えの一端を示すような言葉でもある。「生きること 老いること、病(やまい)、そして死‥」。このことに一つの考え方を示した人がいた。その名はブッダ(仏陀)。71歳の今、最近はこの仏教というものに惹かれたりもするこの頃‥。
ブッダが生(う)まれ生(い)きた時代は今から約2500年前のインドの地。「人はなぜ苦しむのか‥。老いをどう受け入れ、苦しみといかに向き合うのか‥」を思索したブッダ。そして、そのブッダの思索は、アジアモンスーンの東南アジア、中央アジア、チベットや中国、そして日本において長い年月を経て、いろいな教えに変化しながら伝播していくこととなった。
私なりには、仏教の教え(叡智)の神髄は「諦(あきら)め・諦観(ていかん)」により現実を受け入れることだと最近は思うようになった。今の現実を「しかたない‥」と受け入れ、そんな自分の「今の生(せい)」をもって、「今日の一日をすごす」、できるだけ、「今日の いい一日を すごす(生きる)」ことかと思うようになった。辛いことの多いかった日でも、「今日もほら こんないいこともありました‥」と感じる心、つまり、「幸せを感じる力」の大切さを思う。そして、「寛容」ということも仏教の教えの神髄の一つなのでもあろうかと思う。つまり、「憎しみを越えて‥」か‥。「無常」も神髄。
11月8日頃から15日にかけて、ユーチューブチャンネルにて、2011年に放映されたNHKスペシャル「五木寛之 21世紀仏教への旅」(第1集〜第5集/各集[回]47分)を視聴した。(第1集「ブッダ最後の旅 インド」、第2集「心をつなぐ教えを求めて 韓国」、第3集「幸福の王国をめざして ブータン」、第4集「禅 混迷の時代を生きる 中国・フランス」、第5集「"他力"救いをめぐる対話 日本・アメリカ」)
1932年に日本で生まれた五木寛之氏は、生後まもなく、父や母(学校の教員)の赴任(転勤)にともなって、当時は日本の統治下にあった朝鮮半島のソウル(京城)やピョンヤン(平壌)で幼年期や少年期を過ごし、1945年8月の日本の敗戦(終戦)を迎えた。家族そろっての日本への逃避行(引揚げ)中に、収容所に入れられたりもし、そして母は亡くなった。13歳~15歳の彼にとってかなり壮絶な体験だったようだ。1947年にようやく、父・弟・妹とともに日本の福岡県に帰還‥。その後、早稲田大学に進学したが、学費滞納で退学することともなった。
1967年に『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞を受賞、1969年には『青春の門』で吉川英治文学賞を受賞しベストセラー作家となっていった五木寛之氏。そんな五木氏は1972年~74年には休筆、そして1981年~84年にも休筆している。
1981年からの休筆期に、彼は京都にある龍谷大学の聴講生となり、京都駅近くの大宮学舎(キャンパス)で千葉乗隆教授の「仏教史」などの仏教関連の講義を3年間にわたり受講し続けることとなった。朝鮮半島から日本への帰還のことや、龍谷大学での聴講生時代のことは、前記した「五木寛之 21世紀仏教への旅」でも描かれていた。1998年には『大河の一滴』というベストセラー書を著(あらわ)してもいる。
私が五木寛之氏の『親鸞』講談社刊(「青春篇」「激動編」「完結編」全6巻)を、市民図書館で借りて読み始めたのは昨年の12月から今年の2月にかけてのことだった。とても面白く、かつ読みやすく、親鸞がたどった仏教の求道の過程がとてもよく分かり、読み終えるのが惜しくなるような書籍だった。彼はこの『親鸞』を2010年~14年にかけて執筆し発表した。五木氏が80歳代の文学作品だった。
そして、「五木寛之 21世紀 仏教への旅」で世界各国を訪れたのは彼が70歳代後半から80歳代はじめにかけてのことだった。そんな五木氏は現在91歳となっているが、この11月10日には、『新・地図のない旅』を発刊している。
仏教に関しての著作も多い作家に瀬戸内寂聴さんもいた。51歳の時、仏教の天台宗の寺にて得度し尼僧ともなった彼女は、2年前の21年11月に享年99歳で亡くなった。雑誌『ハルメク』のインタビュー記事には次のような寂聴さんの言葉(話)が掲載されてもいた。
―その日、その日を拙(せつ)に生きる―2011年7月号より
私はどれほど健康な人でも、賢い人や高僧であっても、最後はぼけてしまった人を何人も見てきました。年をとると、体が心の滋養にはならなくなる。自分がどのように老いて死ぬか、私たちには誰にもわからないのです。それはやはり恐ろしいことです。だからこそ、私たちは、明日はないと思って、「今日は努力したな」と眠り、朝に目が覚めたら「ああ、まだ生きている」と感謝して、その日、その日を拙に生きる、それしかないのです。
―人生にはマサカという坂がある―2013年9月号より
人生は本当に山あり、谷あり。坂もいっぱいありますが、その中にマサカという坂があります。私たちはある日突然に、そのマサカに行きあたる。「まさか!」ということが起きるんです。(中略) 仏教の根本思想は「無常」です。生々流転、すべては変わっていくのです。幸せなことは続かないとマサカを覚悟しつつ、もしマサカの坂に行き当たったら、「無常」という言葉を思い出してください。同じ状態は続かない。すべては流れて動いているというのが無常、「常ならず」です。いいことはきっとまた起こるのですから。
■大学で担当している「日本概況」の特別講座で、11月13日(今週月曜日)には「日本の宗教文化」(日中比較)を講義した。(約90分間) 学生たちもけっこう真剣な面持ちで、話しにうなづきなからも聞いてくれていた。主に日本の仏教と神道、そして、霊魂や丑(うし)の刻(こく)参りなどの呪術などについても話した。中国の道教についても話す。中国では最近、若い人たちの仏教寺院巡りが大きなブームとなっている。中国経済の不況や就職難、社会の閉塞感などが、その時代背景にもあるかと思われる。
■日本の仏教界にもいろいな宗派がある。主には①「天台宗や浄土宗や浄土真宗」、②「真言宗などの密教」、③「曹洞宗や臨済宗などの禅宗」がある。②はこの世界についての哲学的な理解による悟り、①は"他力本願"的な悟り、③は禅による"自力本願"的な悟りという感があるが、①②③ともにつまるところは、結局、「自力を内包する他力本願」かと思われる。
■「人間は欲望を持つことで、わりと勝手に都合のいい物語を作り出してしまう。だからそこに苦しみも生まれる。物語を作り出すことを止めて、世界のありのままを認識できるようになれば、執着から解放されラクになる。それが悟りなのだ。」と説かれもする。そうは言っても、それは"簡単にできること"ではないし、それが正しいことなのかとも疑問ももつ。だって、人間から欲望や都合のいい物語をもたなくなって、それがいいとは思えない。それでも"どうすれば苦しみはなくなるのか"という方向性を知っておくと、それだけでラクになることは多いかとも思う。
ユーチューブ放送にて最近、「戦争とは?―宗教を巡る争いと戦争―ユダヤ教・イスラム教・キリスト教が争う理由/イスラム・ガザ戦争」を視聴。その説明は分かりやすく、とても優れたものだった。この世界の宗教には、四大宗教である➀キリスト教、②イスラム教、③ヒンズー教、④仏教がある。それぞれの宗教信者比率は、①32.9%、②23.6%、③13.7%、➃7.0%となっている。他には、中国の民間習俗宗教である⑤道教や、キリスト教・イスラム教などとも宗教の起源地がほぼ同じである⑥ユダヤ教などがある。⑤の比率は5.9%、⑥の比率は0.2%。
①②⑥の聖地としてパレスチナ(イスラエル)のエルサレムがある。そして、そのそれぞれの宗教を巡る争いや、宗教と政治権力が結びついたためにおきる戦争が、長くこの中東パレスチナでは続いている。10月上旬より始まったガザ地区を拠点とするイスラム勢力の一つハマスによるイスラエル攻撃、それに対するイスラエルの反撃が始まって1か月以上が経過した。イスラム各勢力がそれぞれの存在感をアピールするための「テロの時代」再びという感もある。
「戦争とは?―宗教を巡る争いと戦争‥‥」で解説者は、この六つの宗教の中で、仏教について、「怨(うら)みによつて、怨みは止まらず、慈悲によってのみ止(や)む」(ブッダ「法句経」より)や、「善と悪の二項対立を越えた思考―"老少善悪の人を選ばす"」(親鸞「歎異抄」より)を紹介してもいた。改めて仏教の「寛容」の世界観というものが注目もされる時代ともなったのかもしれない。
■戦争とは?➡個人またはその組織の権力維持や権力拡大といったような、欲望によって起こされるのが戦争だとつくづく思わされる。それに、歴史観や宗教観などが、とってつけたようにその個人や組織の戦争理由として展開される。プーチンという個人と彼を支持する組織のメンバーたちによるウクライナ侵略戦争しかり、今回のイスラエルへのハマスの攻撃から始まった戦争もしかり。東シナ海での戦争への緊張状態もしかり‥。独裁的に権力をにぎった個人とその組織の権力維持や権力強化というドロドロした人間的欲望から戦争は起きる。
この10日間余り、日本のテレビ局TBSの報道番組「報道1930」をユーチューブによって視聴。中東、ウクライナ情勢、米中首脳会談などについて報道されていた。
中国国内でも、ここ数日間は、中米首脳会談のことが、インターネット各局、新聞、テレビなどでも大きく取り上げられ続けた。
来年1月上旬に行われる、世界が注目する台湾総統選挙の候補者が11月24日には判明する。中国との対話を重視する国民党や民衆党の3人の立候補候補が総統選挙の候補者を1人に一本化する動きがみられるという情勢。一本化となれば、その支持率は50%を超えることとなり、現政権の民進党の候補者の支持率33%を大きく超えることとなり、中国寄りの政権が誕生することが現実味をおびる状況にもなってきている。さあ、11月24日にはどうなっているか‥。