彦四郎の中国生活

中国滞在記

武漢の実情を取材し発信、「社会秩序騒乱罪」で懲役4年の実刑判決だされる―菊池寛の短編『マスク』

2021-01-03 07:38:55 | 滞在記

 12月31日、日本の大晦日の日、ついに新型コロナウイルス感染の1日の感染者数が4515人と、4500人台になってしまった。この日、東京は1337人。このような国内感染状況に歯止めがかからない状況下、正月三箇日2週間後の1月中旬前後に向かっての感染者数のさらなる爆発的増加が心配される。この2カ月間で10万人の新規感染者数となった。東京都など関東4都道府県の知事が1月2日、「非常事態宣言」の発令を政府に要請、西村経済再生担当相は「検討を始める」と表明。

 イギリスでは感染力1.7倍とも言われる変異種のコロナウイルス感染拡大が爆発的となり、1日に5万人ほどの感染拡大状況となってきている。2020年年末の世界パンデミックの感染者数は8270万人、死者180万人、1月中旬には1億人の感染者数を超えるだろう。まさに70人に1人という感染者数となる。

 12月31日から1月1日の元旦にかけて、中国福建省の福建師範大学や閩江大学の中国人教員や学生たち、中国在住の卒業生たち、日本の大学院に留学後に日本にて就職している卒業生、現在日本に留学中の卒業生たちなどから、「新年快楽」(新年、おめでとう)の年賀メッセージがEメールやQQ、微博などで届いていた。「先生、日本の筑波大学大学院の試験に合格できました」との嬉しい知らせもあった。

 現在、感染者ゼロの中国武漢市の午前0時のカウントダウンの動画も送られてきていた。中国では、北京市や大連市、新疆ウイグル自治区、香港での感染はあるものの、全土的には世界に先駆けて感染を抑え込み、この1月1日の新年、特に2月12日からの今年の旧正月「春節」は「あの苦しかった昨年1~3月、世界に先駆けてコロナ禍を乗り越えた」と、例年にも増しての喜びをもってお祭り騒ぎとなるのだろう。

※人口14億人というスケールで、新型コロナウイルス発祥の地にもかかわらず、ここまで抑え込めるとは中国おそるべしと、中国情勢に詳しいジャーナリストの富坂聡氏。冨坂氏が言うには、「日本との決定的な違いは、経済再生とコロナ対策を両立させなかったこと。すなわち、いったん経済を完全に止めて、徹底的にコロナを封じ込めてから経済活動に入った。対策後は感染が起きても小規模なもりとなり、抑え込みやすくなったのです。中国のコロナ対策で、見習うべきところは非常に多い。」「日本では3密回避が打ち出されたが、中国の方針は4早。"4早"とは、早期発見、早期隔離、早期診断、早期治療。社会主義国家の中国では、議会を通さず法律に近い規制を作れる。政治制度の是非はさておき、国家規模で早期に4早を徹底できたのは大きいでしょう」と12月上旬に解説していた。

 あの「2020年1月23日、武漢封鎖」からほぼ1年近くが経過しようとしている。現在2021年1月1日現在の世界の感染者数は8270万人、感染者の多い国としては、①米国1900万人、②インド1020万人、③ブラジル750万人、④ロシア300万人、⑤フランス260万人、⑥英国230万人、⑦トルコ220万人、⑧イタリア205万人、⑨スペイン190万人、⑩ドイツ190万人となっている。アジアではインドの他に、インドネシア71万人、フィリピン47万人、日本22万人、中国9万5000人、韓国とシンガポールがそれぞれ6万人などとなっている。

 最初の感染が報告され感染拡大が1・2・3月に急拡大した中国。中国政府の公式発表以上はるかにはるかに上回るに感染者数や死者数があったとも言われている。この12月下旬の28日、中国上海の裁判所で、元弁護士の張展(37)氏に対する公判が行われた。新型コロナが蔓延していた武漢に取材に入り、死者の遺族たちへの中国当局の圧力や病院の状況をSNSなどで伝えたりしていた。この行動に対し、今回の初公判・判決では、「悪意をもって嘘の情報を流して、"社会秩序騒乱罪"の罪により懲役4年の実刑判決」を言い渡した。

 張氏は6月に拘置所内で抗議のハンガーストライキ開始し、以後は刑務官により鼻に管を挿入されて強制的に栄養を取らされている状態にあり、健康への懸念も強まっている。裁判前に弁護団は、先週面会した際の張氏の様子を明かし、「『重い刑が下されたら、最後の最後まで食事を拒絶する』と言っていた。張氏は刑務所で死ぬつもりでいる」と述べていた。

  日本のテレビ報道番組では12月29日、米国ポンペイオ国務長官はこの張氏への判決について、「中国共産党が党の公式情報に疑問を呈する人々を黙らせるためには、どんなことでもすることを改めて示している。アメリカはこの拘留と判決に強く非難する。すぐ無条件釈放をするように求める」との声明を出した。

 また同日、バイデン次期米国大統領が、中国との問題について、「不公正貿易や人権問題などで責任を負わせる。同盟国と共通の利益や価値観を守らなければならない。同盟国と結束して中国により強い立場で臨むと表明」と報道されていた。さあ、今年2021年、この中国とその包囲網を形成するとみられる米日豪印仏独などの国々との国際関係は人権問題や海洋進出問題、台湾問題、コロナパンデミックとその起源問題、貿易問題、民主主義と全体主義という体制問題などを巡ってどのように推移するのだろうか。

 年末の朝日新聞に「活字の中に"人間がいる"」と題された書籍紹介記事。菊池寛の短編小説『マスク』のことが紹介されていたので、1月2日の夕方に京都の丸善書店に立ち寄り、立ち読みした。文庫本10ページほどの短編だったので、あっという間に立ち読みで読めた。感染を怖れマスクをつける、外出の時のようすなど、「マスク」を付けている自分や人々に対する心理が短編で描かれていて興味深く読んだ。

 文庫本(文春文庫)の表紙や裏表紙には、「菊池寛が実体験をもとに綴った短編小説『マスク』」「100年前の日本人は、疫病とどう戦ったのか?」「スペイン風邪が猛威をふるった100年前。作家の菊池寛は恰幅が良くて丈夫に見えるが、実は人一倍体が弱かった。そこでうがいやマスクで感染予防を徹底。その様子はコロナ禍の現在となんら変わらない。スペイン風邪流行下の実体験をもとに描かれた短編『マスク』」

◆菊池寛の『マスク』が執筆された100年前。世界の感染パンデミックは新型インフルエンザによるものであった。のちに「スペイン風邪」と呼ばれるものだ。ヨーロッパが主な戦場となった第一次世界大戦中の1918年5月よりパンデミックが始まり、1920年の5月までの2年間、第一波感染、第二波、第三波と続く。特にウイルスの変異種の出現により第二波では致死率が高くなる。当時の世界人口の25~30%にあたる5〜6億人が感染、致死率も高かった。

  日本では当時の外国貿易の中核港である神戸から感染が拡大し、観光の地である京都など関西圏から全国に感染が拡大していった。世界の感染による死者数は5000万人と、第一次世界大戦の戦死者数1000万人をはるかに超えていた。日本では2300万人が感染し、38万人が亡くなった。(外地である「朝鮮・台湾」を含めると75万人の死者)   感染致死率が最も低かった日本でも、これは当時の人口の1%以上にあたる。感染拡大・死者数のピークは、日本では1919年の1~3月。当時の総理大臣・原敬、大正天皇、皇太子(後の昭和天皇)も感染した。(最も感染致死率が高かったのはインドの6%)

 この新型インフルエンザでは、「肺炎の重症化」にともなう死者が多く出た。政府もメディアも早期から特別な伝染病であるとは警告を発せず、集会やイベントなどの制限をかけなかったため、感染者が激増して行った。当時はワクチンも開発されず、2020年の5月にほぼ終息に向かい始めるが、全世界の人々の多くが感染により自然免疫を獲得したことによる終息だった。

※「スペイン風邪」と名前がついているが、スペインが感染拡大の発祥地ではない。第一次世界大戦中だったため、ヨーロッパの多くの参戦国は感染拡大について「戦意の喪失」を懸念してその報道をほとんど国内で伝えなかった。だが、大戦の中立国だったスペインはこの感染状況を報道していたため、この名前が付けられてしまった。