彦四郎の中国生活

中国滞在記

中国政府「春節の帰省自粛」を全国的に呼びかけ―台湾閣僚・唐鳳「民主主義を傷めず、抑制成功」と

2021-01-16 11:12:53 | 滞在記

 中国人が一年で最も大切にしている春節(旧正月)連休が近づいてきている。通常の年は約10億人が故郷への帰省や旅行で移動し、「世界最大の民族大移動」ともいわれる。しかし、中国でも新型コロナウイルスの感染が新たに広がっており、政府や地方自治体、会社や工場などがこぞって「帰省自粛」や「時差帰省」を呼びかけ、一部の企業や工場では帰省しない労働者に特別ボーナスを支払う措置を取り始めている。(※中国には地方から都市部に出稼ぎにでている「農民工」が約2億8千万人いる。)

 中国では西暦の年末年始は重視されず、1月1日を祝日とする以外は、12月31日も1月2・3日も休日ではなく通常と変わらず学校も会社の仕事もある。2013年の9月に初めて中国の大学に赴任した年の年末年始、私はそんなことも知らず、当然に12月31日~1月3日までは大学の授業も休みだろうと思って2〜3日間の小旅行をしていたら、1月2日の日に日本語学科の主任から、「今日の担当授業に寺坂先生が教室に来ていないと学生たちから連絡がありました。先生は今どこにいるんですか!?」と突然の連絡を受けて驚愕したことがあった。「しかたがないですね‥、私が替わって授業をしておきます」と主任教員。

 今年の春節は2月12日から始まり、11日が大晦日となる。1週間あまりが公式の春節休暇となるが、有給休暇を取って休みをつなげるなど、春節前後に勤め人は通常2週間~3週間の休みをとるのが通常だ。私が勤める閩江大学では1月18日ころまでに期末試験が終了し冬休み(2月28日まで)となるので、18日あたりから2万人超の学生たちは一斉に故郷を目指して帰省を予定している。

 感染が拡大してきている中国河北省の学生も、私が担当している授業には数人いて、帰省をどうしようか悩んでもいた。1月13日に2回生の「日語会話3」の期末会話試験をオンラインで一人ずつ40人(2クラス)に実施した。「冬休みの予定はどうですか?」という質問に、「コロナがまた心配なので家で過ごします‥」という学生もけつこういた。

 中国国家衛生健康委員会(※厚生省)によると、中国全土で1月14日の1日間に新たに確認された新規感染者数は144人に達した。前日13日の138人から増加し、202人の新規確認を確認した2020年の3月1日以来、10カ月ぶりの多さとなった。14日の新規感染者のうち、国内感染は135人。内訳は北京に隣接する河北省が90人、中国東北部の黒竜江省が43人、中国南部の広西チワン族自治区と中国西部の陝西省がそれぞれ1人などとなっている。

 「疫情昇級:春節不能回家?多密地区(感染拡大、春節には帰省は不可能なのか?特に感染拡大地区からは?)」「春節返郷 要隔離? 31省市 最新情況範総(春節の帰省では隔離が必要なのか?中国全土感染総図)」「河北確診 395例 己拡散 山西 新疆 浙江(河北省の感染は395人 既に山西省・新疆ウイグル自治区・浙江省にも拡散している)」などの中国での見出し記事。「中国9カ月ぶり 死者発表 新型コロナ 本土で感染増加」の朝日新聞の見出し記事。

 河北省では1月2日から14日までの感染者数がすでに700人超となっている。15日以降からは黒竜江省に隣接する吉林省が19人の新規感染者を確認し緊張が高まってきている。他に、河北省に隣接している山西省や中国西部の甘粛省、中国中部の上海や浙江省でも新規感染者が確認されてきている。

 河北省の省都・石家荘市(1100万人)、刑台市(800万人)、廊坊市(490万人)は都市封鎖(ロックダウン)をされている。また、全市民のPCR検査を2〜3日で実施。黒竜江省でも緊急事態宣言が出され、省住民3750万人に対し、2月の春節休暇中の外出や集まりを控えるよう求めた。

 春節時期には、鉄道は「春便」と言われる臨時列車が増発されるのが通年だが、今年はこの「春便」は停止された。コロナの第2次感染拡大を抑制するため、中国政府としては「今年の春節は人を移動させない」諸政策をとり始めている。「原地過年(現在地での年越し)」を呼びかけ、「企業・団体は従業員、職員が春節中も現地にとどまるよう、最大限の措置をとること」と指示した。さらに、帰省せず現地にとどまる従業員への特別ボーナス支給も推奨している。

 特に、各省・各自治体の市政府や共産党の幹部は現地にとどまり、どうしても離れる場合は申請し、厳格な審査を受けることも通達されている。また、河北省や黒竜江省、吉林省などの高リスク地域から帰省した人には2週間の集中隔離とPCR検査を義務づけている。一方、多くの出稼ぎ労働者を輩出している河南省・四川省・安徽省の側も「仕事先からの帰省は控えてほしいとの広報を出している。

 ロックダウンが実施されている石家荘市で、3人の家族が検問をすりぬけて(おそらく山間の小道を)て市街に車で出たためにつかまり、隔離施設に入れられた事件が、中国の全国ニュースとして報道されていた。

 中国では昨年前半(1~6月)でいったんは新型コロナウイルスの流行を収束させた。昨年10月1日からの国慶節期間の1週間の連休中は経済回復を目的に、旅行などを奨励する中国版「GO TOキャンペーン」も行っていたが、年明けの春節では一転して自粛などを促すことに。1年前から、あれだけの、世界一超厳しいコロナ対策を取り続けてきている中国でも、終わらぬコロナ禍に振り回される日々がまだしばらくは続きそうだ。

 1月5日に中国を訪問する予定だったWHO国際調査団が、シンガポールに一旦集合して、PCR検査を受け、陰性証明が出た調査員が1月14日にようやく中国の武漢に入国した。(1カ月間の滞在予定)   ここで2週間の隔離後、2週間あまりの調査活動を行うこととなったが、新たな調査結果はほぼ出てこないだろう。中国にとっては、「武漢でも国際調査を受け入れましたが、何もでませんでしたよ。起源は中国とは限らんでしょう。」と国内外へのアピールできるだけの調査となる可能性は高い。

  新型コロナウイルスの感染拡大が最初に確認された中国・武漢。武漢における同ウイルスへの感染者数が、これまでの公式発表の約10倍にあたることが、中国保健当局の調査で明らかになり、2020年12月下旬に調査結果が公表された。この中国疾病対策予防センター(CCDC)の調査報告によると、武漢住民1100万人の約4.4%が、4月までに同ウイルスに対する抗体を保有していたという。

 これは4月までに感染者が約50万人いたことを示唆しており、これまでに公表されている武漢累計約5万人の約10倍となる。PCR検査を徹底的に実施している中国の公式感染者数には、PCR検査で感染が判明した「無症状」者は常に含まれていないが、実数感染者数が10倍とはやはり驚きだ。この調査が実施されたのは昨年の4月だが、結果が公表されたのは9カ月後のこの12月28日だった。

 CCDCの研究員は12月30日、「データーの相違は中国だけに限ったことではない」とした上で、「複数の国が血清検査調査(抗体検査)結果を公表しているが、大半の場合、新型コロナウイルスに対する抗体保有者数が、確認された症例数の数倍に上がっている。よって、この種の相違は広く認められる現象だ」と述べた。

 日本においては、この年末年始から現在にいたるまで、1日の新規感染者数が4000~7000人を推移しているが、感染しているが「無症状」感染者でPCR検査を受けていない人が実際には無数にいるので、実数感染者数は1日に何万人というラインにいっているのかもしれない。

 1月14日付の朝日新聞に台湾のデジタル担当政務委員(閣僚)の唐鳳(タン・フォン)氏へのインタビュー記事が大きく掲載されていた。「民主主義を傷めずコロナ抑制に成功—信頼と協調が基礎」「デジタル推進 共通の価値観を見出す契機に」の見出し記事だった。唐氏はオードリー・タンの名前でよく知られている人だが、最近『デジタルとAIの未来を語る』という書籍を出版している。(唐氏は1981年生まれの39歳。小中学校で不登校を経験。高校に進学せず、IT業界を経て2016年から民間登用の閣僚。トランジェスターを公表。)

 人口2500万人と日本の4分の1の人口の台湾。新型コロナウイルスのこれまでの感染者数は870人ほど、そのほとんどが海外からの空港検査での感染確認で、それ以外の市中感染者数はたったの60人ほどだ。(※日本の人口比でいえば台湾の4倍なので200人超の感染者総数となる。)  唐氏は閣僚として 今回のコロナ感染抑制で大きな力を発揮している。

 中国の感染抑制・収束政策の基本は、❶「徹底的なPCR検査」で感染者をあぶりだし、❷「強制集中隔離」をする、❸「感染が拡大しそうな地区・市・省の水も漏らさぬ強制・強力な封鎖・ロックダウン」、❹「❶❷❸に従わない者への逮捕・拘束、強制隔離」❺「IT・AIのビックデーターを国家が管理し、感染者との濃密接触者も含めての追跡捜査」というこの5つの、世界で最も厳しく徹底している感染対策だ。さらに、❻「徹底した国家管理型情報統制」。中国当局に都合の悪い情報は一切ブロックし、当局の許可のない情報公開は厳禁。それに違反した者を逮捕し、裁判で懲役刑を科す。中国共産党一党支配という中国の政治体制のなせる政策だ。

 一方の台湾。これは世界で最も感染抑制政策に優れた「地区」だ。「民主主義を傷めず、コロナ抑制に成功」「IT・AIの発展活用は、政府と国民の信頼と協力を基本として、政党や政権のためのものではなく国民のために理解を得ながら活用し幸せにつなげる」「情報は公開し国民と共有しながら理解を求めて政策をすすめる」という台湾。

 「人が科学技術に合わせるのではなく、科学技術を人に合うよう変えねばなりません」とインタビューで語る唐氏のいる台湾。ここ東アジアに中国語を母国語とする2つの世界が存在している今。この台湾の唐氏のインタビュー内容は、この世界的な民主主義と全体主義がせめぎ合う苦難の時代に、時代の魁(さきがけ)、、人類が進むべきこれからの世界の希望となる内容のインタビュー記事だった。「唐氏へ、新年快楽! 寺坂」