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2023年5月24日 弁理士試験 代々木塾 特許法184条の4

2023-05-24 05:46:12 | Weblog
2023年5月24日 弁理士試験 代々木塾 特許法184条の4

(外国語でされた国際特許出願の翻訳文)第百八十四条の四
1 外国語でされた国際特許出願(以下「外国語特許出願」という。)の出願人は、条約第二条(xi)の優先日(以下「優先日」という。)から二年六月(以下「国内書面提出期間」という。)以内に、前条第一項に規定する国際出願日(以下「国際出願日」という。)における条約第三条(2)に規定する明細書、請求の範囲、図面(図面の中の説明に限る。以下この条において同じ。)及び要約の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない。ただし、国内書面提出期間の満了前二月から満了の日までの間に次条第一項に規定する書面を提出した外国語特許出願(当該書面の提出の日以前に当該翻訳文を提出したものを除く。)にあつては、当該書面の提出の日から二月(以下「翻訳文提出特例期間」という。)以内に、当該翻訳文を提出することができる。
2 前項の場合において、外国語特許出願の出願人が条約第十九条(1)の規定に基づく補正をしたときは、同項に規定する請求の範囲の翻訳文に代えて、当該補正後の請求の範囲の翻訳文を提出することができる。
3 国内書面提出期間(第一項ただし書の外国語特許出願にあつては、翻訳文提出特例期間。以下この条において同じ。)内に第一項に規定する明細書の翻訳文及び前二項に規定する請求の範囲の翻訳文(以下「明細書等翻訳文」という。)の提出がなかつたときは、その国際特許出願は、取り下げられたものとみなす。
4 前項の規定により取り下げられたものとみなされた国際特許出願の出願人は、経済産業省令で定める期間内に限り、経済産業省令で定めるところにより、明細書等翻訳文並びに第一項に規定する図面及び要約の翻訳文を特許庁長官に提出することができる。ただし、故意に、国内書面提出期間内に当該明細書等翻訳文を提出しなかつたと認められる場合は、この限りでない。
5 前項の規定により提出された翻訳文は、国内書面提出期間が満了する時に特許庁長官に提出されたものとみなす。
6 第一項に規定する請求の範囲の翻訳文を提出した出願人は、条約第十九条(1)の規定に基づく補正をしたときは、国内書面提出期間が満了する時(国内書面提出期間内に出願人が出願審査の請求をするときは、その請求の時。以下「国内処理基準時」という。)の属する日までに限り、当該補正後の請求の範囲の日本語による翻訳文を更に提出することができる。
7 第百八十四条の七第三項本文の規定は、第二項又は前項に規定する翻訳文が提出されなかつた場合に準用する。

〔解説〕

 PCTに基づく国際出願であって国際出願日を認められたものは、各指定国において国際出願日から正規の国内出願としての効果を有することとされているが(PCT11条(3))、PCTは一方で、出願人は指定官庁・選択官庁に対し、所定の期間内に翻訳文等の提出をしなければならない旨を規定することができる旨を規定する(PCT22条、39条)とともに、その手続が所定の期間内にとられないときは、国際出願の国内出願としての効果は指定国において当該指定国における国内出願の取下げの効果と同一の効果をもって消滅すると規定している(PCT24条(1)(ⅲ)、39条(2))。
 このようなPCTの規定に対し、翻訳文の提出を求めないという選択も可能であるが、日本国においては、権利は日本語で設定されることとなっていることから、日本国としては翻訳文を求めることとし、その旨を明確にするとともに、提出された翻訳文の取扱いについて定めたのが184条の4である。

・184条の4第1項(翻訳文の提出)
 外国語特許出願については、所定の期間内に所定の翻訳文を特許庁長官に提出しなければならない。日本国は日本語で特許権を発生させることとしているからである。

<翻訳文の提出期間>
 翻訳文の提出期間は、原則として、優先日から2年6月以内の国内書面提出期間内である。PCT22条(1)の優先日から30月の期間に対応するものである。

 PCT第二十二条 指定官庁に対する国際出願の写し及び翻訳文の提出並びに手数料の支払 
(1)出願人は、優先日から三十箇月を経過する時までに各指定官庁に対し、国際出願の写し(第二十条の送達が既にされている場合を除く。)及び所定の翻訳文を提出し並びに、該当する場合には、国内手数料を支払う。出願人は、指定国の国内法令が発明者の氏名又は名称その他の発明者に関する所定の事項を表示することを定めているが国内出願をする時よりも遅い時に表示することを認めている場合において、それらの事項が願書に記載されていないときは、当該指定国の国内官庁又は当該指定国のために行動する国内官庁に対し、優先日から三十箇月※を経過する時までにそれらの事項を届け出る。
(2)国際調査機関が第十七条(2)(a)の規定に基づき国際調査報告を作成しない旨を宣言した場合には、(1)に規定する行為をすべき期間は、(1)に定める期間と同一とする。
(3)国内法令は、(1)又は(2)に規定する行為をすべき期間として、(1)又は(2)に定める期間よりも遅い時に満了する期間を定めることができる。

 優先日とは、PCT2条(ⅹⅰ)により、国際出願が優先権の主張を伴う場合は優先権の主張の基礎となる出願のうち最先の日、国際出願が優先権の主張を伴わない場合は国際出願日である。

 PCT第二条 定義
 この条約及び規則の適用上、明示的に別段の定めがある場合を除くほか、
(ⅹⅰ)「優先日」とは、期間の計算上、次の日をいう。
(a)国際出願が第八条の規定による優先権の主張を伴う場合には、その優先権の主張の基礎となる出願の日
(b)国際出願が第八条の規定による二以上の優先権の主張を伴う場合には、それらの優先権の主張の基礎となる出願のうち最先のものの日
(c)国際出願が第八条の規定による優先権の主張を伴わない場合には、その出願の国際出願日

 ただし、国内書面提出期間の満了前2月から満了の日までの間に国内書面を提出したときは、国内書面の提出の日から2月以内の翻訳文提出特例期間内に所定の翻訳文を提出することができる。審査効率を低下させる品質の不十分な翻訳文の提出を防止するためである。
 翻訳文提出特例期間は、PCT22条(3)(国内法令の例外)に対応するものである。
 かっこ書において「(当該書面の提出の日以前に当該翻訳文を提出したものを除く。)」と規定したのは、翻訳文の再提出は認めないこととするためである。

<翻訳文の対象となる書類>
 翻訳文の対象となる書類は、国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲、図面の中の説明及び要約である。
 図面については、図面の中の説明がある場合に限り、図面の中の説明の翻訳文を提出しなければならない。
 願書については、様式が国際的に統一されているので、翻訳文を提出する必要はないこととした。

・184条の4第2項(PCT19条補正)

 PCT第十九条 国際事務局に提出する請求の範囲の補正書
(1)出願人は、国際調査報告を受け取つた後、所定の期間内に国際事務局に補正書を提出することにより、国際出願の請求の範囲について一回に限り補正をすることができる。出願人は、同時に、補正並びにその補正が明細書及び図面に与えることのある影響につき、規則の定めるところにより簡単な説明書を提出することができる。
(2)補正は、出願時における国際出願の開示の範囲を超えてしてはならない。
(3)指定国の国内法令が(2)の開示の範囲を超えてする補正を認めている場合には、(2)の規定に従わないことは、当該指定国においていかなる影響をも及ぼすものではない。

 外国語特許出願についてPCT19条の補正をした場合には、国際出願日における請求の範囲の翻訳文を提出することなく、PCT19条補正後の請求の範囲の翻訳文を提出することができることとした。PCT19条補正により、すでに不要となった国際出願日における請求の範囲の翻訳文の提出を要求するのは適切ではないからである。

 PCT19条補正後の請求の範囲の翻訳文とは、補正後の請求の範囲の全文の翻訳文を意味する。かつては、PCT19条補正は、補正により異なる部分が生じた用紙のみを差し替える形式で提出すればよいとされていたので、PCT19条補正書の翻訳文とすると、補正後の請求の範囲の全文の翻訳文を入手できないことから、PCT19条補正後の請求の範囲の翻訳文としたものである。
 しかし、現在(2022年9月)においては、PCT規則46.5(a)は、「出願人は、第十九条の規定に基づく補正をする場合には、最初に提出したすべての請求の範囲と差し替えるために、完全な一式の請求の範囲を含む差替え用紙を提出しなければならない。」と規定しているので、PCT19条補正書の翻訳文と規定しても、実質的には、PCT19条補正後の請求の範囲の翻訳文と同じこととなる。

 PCT規則46.5 補正書の形式
(a)出願人は、第十九条の規定に基づく補正をする場合には、最初に提出したすべての請求の範囲と差し替えるために、完全な一式の請求の範囲を含む差替え用紙を提出しなければならない。
(b)差替え用紙には、次のことを記載した書簡を添付する。
(ⅰ)最初に提出した請求の範囲と補正により異なるものとなる請求の範囲を特定し、及び最初に提出した請求の範囲と補正後の請求の範囲との相違について注意を喚起すること。
(ⅱ)最初に提出した請求の範囲であつて補正により削除されたものを特定すること。
(ⅲ)出願時における国際出願中の補正の根拠を表示すること。

・184条の4第3項(翻訳文不提出の効果)
 所定の期間内に所定の翻訳文を提出しないときは、外国語特許出願は、取り下げられたものとみなすこととした。
 国際出願日における明細書の翻訳文を提出しない場合は、請求の範囲の翻訳文を提出していても、取り下げられたものとみなされる。
 国際出願日における請求の範囲の翻訳文又はPCT19条補正後の請求の範囲の翻訳文を提出しない場合は、明細書の翻訳文を提出していても、取り下げられたものとみなされる。

 なお、外国語書面出願(36条の2第1項)については、外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文を所定の期間内に提出しないときは、直ちに取り下げられたものとみなされることはなく、その前に、特許庁長官が翻訳文提出の機会を付与するために、出願人に通知することとしている(36条の2第3項)。
 しかし、外国語特許出願については、このような規定は存在しない。特許法条約(PLT)では、PCTに基づく国際出願の翻訳文には適用する義務がないかあらである。

<PCT26条との関係>

 PCT第二十六条 指定官庁における補充の機会
 指定官庁は、同一又は類似の場合における国内出願について国内法令に定める範囲内で及び手続に従い国際出願の補充をする機会をあらかじめ出願人に与えることなく、この条約及び規則に定める要件を満たしていないことを理由として国際出願を却下してはならない。

 平成6年改正当時は、外国語書面出願について所定の翻訳文を所定の期間内に提出しないときは、補充の機会を与えていないので、PCT26条を適用する義務がなく、外国語特許出願について翻訳文の不提出に対して補充の機会を与えないこととしている。
 なお、平成27年改正により、36条の2第3項を新設して外国語書面出願については翻訳文の提出の機会を与えることとしたが、これはPCT26条の「国内法令に定める範囲内」というものではなくて、PLT(特許法条約)の要請によるものであり、PCT26条の適用を受けないものと解される。

<図面の中の説明の翻訳文不提出>
 図面の中の説明の翻訳文が提出されないときは、願書に添付した図面には説明がないものとみなされるにとどまり(184条の6第2項)、外国語特許出願が取り下げられたものとみなされることはない。

<要約の翻訳文不提出>
 要約の翻訳文が提出されないときは、外国語特許出願が取り下げられたものとみなされることはなく、特許庁長官による補正命令の対象となる(184条の5第2項)。要約は、もっぱら技術情報として用いることを目的とするものであるからである。

・184条の4第4項(故意でない場合による救済)

 184条の4第4項は、平成23年改正により新設したものであり、特許法条約(PLT)12条(権利の回復)に整合した救済手続を導入したものである。

<令和3年改正>
 日本国においては、特許庁の処分が後に行政争訟の対象となることも念頭に、「正当な理由」について慎重に解し、運用を進めてきた。
 この結果、近年、国内外の出願人等から、日本国の権利等の回復のための判断基準及び立証負担は、欧米諸国に比して厳格に過ぎるとの指摘を受けている。実態として、PLTに加入する諸外国における権利の回復申請に対する認容率は、故意でない基準を採用する国においては90%以上となっており、また、相当な注意基準を採用する国においても60%以上となっているが、日本国の認容率は突出して低い(10~20%程度)。また、手続面でも証拠書類の提出を必須としている点で厳しい運用となっている。
 特許等の権利化は国境を越えて行われることが多く、同様の手続の瑕疵に起因する期間徒過により喪失した権利等が他国では回復される一方、日本国では回復されない場合には、結果として日本国内では十分な救済が得られない事態になる。
 そこで、令和3年改正において、特許法条約(PLT)における権利等の回復のための要件を「相当な注意基準」から「故意でない基準」に転換し、特許法等において、手続期間を徒過した場合に救済を認める要件について、「(手続をすることができなかったことについて)正当な理由がある」から「(手続をしなかったことが)故意によるものでない」に改めることとした。

 外国語特許出願について国内書面提出期間内又は翻訳文提出特例期間内に国際出願日における明細書等の翻訳文を提出しなかったことにより、外国語特許出願が取り下げられたものとみなされた後であっても、当該翻訳文を提出しなかったことが故意ではないときは、経済産業省令で定める期間内に国際出願日における明細書等の翻訳文を提出することができる。

 経済産業省令(特許法施行規則)
(翻訳文の様式等)第三十八条の二
1 特許法第百八十四条の四第一項若しくは第二項又は第百八十四条の二十第二項の翻訳文は、様式第五十一又は様式第五十一の二、様式第五十一の二の二、様式第五十一の三及び様式第五十一の四により作成しなければならない。
2 特許法第百八十四条の四第四項の経済産業省令で定める期間は、同条第三項に規定する明細書等翻訳文を提出することができるようになつた日から二月とする。ただし、当該期間の末日が国内書面提出期間(同条第一項ただし書の外国語特許出願にあつては、翻訳文提出特例期間。以下この項において同じ。)の経過後一年を超えるときは、国内書面提出期間の経過後一年とする。
3 特許法第百八十四条の四第四項の規定により翻訳文を提出する場合には、同項に規定する期間内に様式第三十一の九により作成した回復理由書を提出しなければならない。
4 特許庁長官は、前項の回復理由書に記載された事項について必要があると認めるときは、これを証明する書面の提出を命ずることができる。
5 手続をする者の責めに帰することができない理由により特許法第百八十四条の四第四項の規定による手続をすることとなつた者は、その旨及び当該理由を記載した書面(以下この項において「申出書」という。)を第三項の回復理由書の提出と同時に提出しなければならない。この場合において、回復理由書に申出書に記載すべき事項を記載して当該書面の提出を省略することができる。
6 前項の手続をするときは、当該手続をした日から二月以内に、手続をする者の責めに帰することができない理由があることを証明する書面を特許庁長官に提出しなければならない。ただし、特許庁長官が、その必要がないと認めるときは、この限りでない。
7 第三項の回復理由書の提出は、二以上の事件に係る回復理由書について、当該書面の内容(当該回復理由書に係る事件の表示を除く。)が同一の場合に限り、一の書面ですることができる。
8 特許法第百八十四条の四第六項の規定による補正後の請求の範囲の日本語による翻訳文の提出は、様式第五十二によりしなければならない。

・184条の4第5項(翻訳文提出の効果)
 184条の4第4項の救済規定により翻訳文が提出されたときは、提出期間内で最も遅い時期に提出されたものとみなすこととした。
 184条の4第5項の「国内書面提出期間」は、翻訳文提出特例期間が適用されるときは、翻訳文提出特例期間となる。
 184条の4第3項は「国内書面提出期間(第一項ただし書の外国語特許出願にあつては、翻訳文提出特例期間。以下この条において同じ。)」と規定しているので、184条の4第5項の国内書面提出期間にもかっこ書が適用される。

・184条の4第6項(PCT19条補正をした場合)
 外国語特許出願については、国際出願日における請求の範囲の翻訳文を提出した後であっても、その後、PCT19条補正をしたときは、国内処理基準時の属する日までであれば、さらにPCT19条補正後の請求の範囲の翻訳文を提出することができることとした。
 PCT19条補正をしたということは、出願人は、補正後の内容で特許権を取得したいという意思があるからである。

 国内処理基準時とは、国内書面提出期間又は翻訳文提出特例期間が満了する時をいうが、国内書面提出期間内又は翻訳文提出特例期間内に出願審査の請求をしたときは、その請求の時を意味する。
 184条の4第6項の「国内書面提出期間」にも、184条の4第3項かっこ書が適用されるので、翻訳文提出特例期間が含まれる。

・184条の4第7項(PCT19条補正後の請求の範囲の翻訳文不提出の効果)
 外国語特許出願についてPCT19条補正をした場合において、184条の4第2項又は6項により、PCT19条補正後の請求の範囲の翻訳文を提出しなかったときは、PCT19条補正はされなかったものとみなされる。

 184条の7第3項は「第一項に規定する期間内に日本語特許出願の出願人により同項に規定する手続がされなかつたときは、条約第十九条(1)の規定に基づく補正は、されなかつたものとみなす。ただし、前項ただし書に規定するときは、この限りでない。」と規定している。

 外国語特許出願についてPCT19条補正がされなかったものとみなされたとしても、日本国に国内移行手続をし、出願審査の請求をした後、拒絶理由の通知を受けたときは、誤訳訂正書による補正であれば、PCT19条補正と同様の補正をすることができる(17条の2第1項1号)。



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