Some Like It Hot

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キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

プリティ・イン・ピンク - 80's Movie Hits ! -

2018-07-09 | 80's Movie Hits !

■「プリティ・イン・ピンク 恋人たちの街角/Pretty In Pink」(1986年・アメリカ)

監督=ハワード・ドイッチ
主演=モリー・リングウォルド ジョン・クライヤー アンドリュー・マッカーシー

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 人生においては見るべき時期に見ておくべき映画がある。ジョン・ヒューズが監督・製作・脚本を担当した青春映画の数々は、そうした映画だと思う。80年代青春映画の中でも根強いファンが多い。

 モリー・リングウォルドのスネたような表情、ジョン・クライヤーのツッパリ頭、あの頃のイケメン代表アンドリュー・マッカーシー、あの頃の悪ガキ代表ジェームズ・スペイダー、あの頃のダメ親父の代表ハリー・ディーン・スタントン・・・僕らがそれぞれのスタアたちに抱くイメージがそのまんま反映されているような、納得がいく役柄。同じような役者で、今同じような映画を撮ろうにも、きっと彼ら以上にピッタリの役者をキャスティングすることは難しい。数多くの過去の作品達がリメイクされる現代だが、ジョン・ヒューズもののリメイクに手を出したら、きっとそれはオリジナルを損ねるものにしかなり得まい。それはあの時期だからこそ輝きを放つ要素がいっぱいにつまっているからだ。

 その要素のひとつは、何よりも、アメリカのカレッジ・ラジオでいかにも流れていそうな挿入歌たち。サイケデリック・ファーズ、ニュー・オーダー、インエクセス、OMD、スミス・・・。86年当時、音楽シーンにはホイットニー・ヒューストンが登場、チャート上位に君臨していた頃だ。そうした流行を嫌い、通を気取る子たちが「いいよね」と聴いていた(であろう)音楽が、このサントラには収められているのだ。

 今ドキの若き映画ファンたちはこの頃のジョン・ヒューズものを観てどう思うだろう。やっぱり古くさいと思うのだろうか?。所得格差が大きくなり二極化が進む・・・と言われ続けている現代ニッポン。この映画で描かれる「貧富の差と恋愛」というテーマは、近い将来きっと日本映画でも扱われるテーマなのかもしれない。でもプロムっていいよな、あんなのが日本にあったらいいのにさ・・・と思う純粋な気持ちは、世代を越えてきっと同じだと思うのだけれど。ちがうか。


 ★

1.Pretty In Pink/The Psychedelic Furs

 サイケデリック・ファーズは、ヴォーカルのリチャード・バトラー中心に結成された、イギリスのニューウェイブバンドである。80年にスティーブ・リリー・ホワイト(U2で有名ね)がプロデュースを務めたアルバム「The Psychedelic Furs」でデビュー。映画で使われた Pretty In Pink のオリジナルは、彼らの2枚目のアルバム「Talk Talk Talk」に収録されている。ヒロインを演じたモリー・リングウォルドがこの曲が好きで、タイトルチューンに選ばれ、このサントラのために再録することになったというエピソードが残っている。初期の作品はヴェルヴェット・アンダーグラウンドなどの影響を色濃く受けており、どちらかというと暗い。しかし、ジョルジオ・モロダー一家のキース・フォーシーをプロデューサーに迎えた84年の「Mirror Moves」からはポップ、ダンサブルなサウンドに変身。その後一時期解散していたが、2000年には再結成。エコー&ザ・バニーメンなどと共にツアーも行った。2006年には、リチャード・バトラーがソロ名義のアルバムをリリースしている。

 映画の冒頭。清掃車が街を走る朝、ヒロインのアンディー(モリー・リングウォルド)が身支度をしている。ストッキングを履く足をなめるように撮るカメラ。この場面に流れる Pretty In Pink の躍動感は、僕らをビートにのせてこの映画の世界に入り込ませていく。ベッドで寝ている失業中の親父を起こす娘。ヒロインの家庭環境と、貧しいながらも好きな服を器用に自作してオシャレを楽しんでいる健気なヒロイン。そうしたシチュエーションや人物像を一気に見せてしまう演出は見事。そして舞台はヒロインが「面白くない」という学校へと移ったところで、この曲は終わる。学校の休み時間にアンドリュー・マッカーシーがヒロインをデートに誘う場面で、再びこの曲がインストロメンタルで流れる。

※The Psychedelic Fursの歌が流れる80年代の主な映画
1983年・「ヴァレー・ガール」 = Love My Way
1986年・「プリティ・イン・ピンク 恋人たちの街角」 = Pretty In Pink


2.Wouldn't It Be Good/Danny Hutton Hitters

 舞台は変わって、ヒロインがバイトするレコードショップ。パンクファッションの先輩が店の飾り付けをしている。その場面に切り替わるとき、印象的なシンセのフレーズが流れる。この曲が Wouldn't It Be Good。歌は流れず、イントロのフレーズだけという不幸は使われ方ではある。ミディアムテンポのどこか哀愁を感じさせるメロディー。この曲は、ニック・カーショウ84年の大ヒット曲のカヴァーヴァージョンである。ニック・カーショウは、当時ハワード・ジョーンズやポール・ヤングとともにアイドル的な注目のされ方をしていたアーティストだ。

 元来ニック・カーショウはギター弾き。70年代にはジャズ・ファンクバンドでギタリストとして活動、83年に I Won't Let The Sun Go Down On Me でソロデビューした。チャートではふるわなかったのだが、Wouldn't It Be Good(恋はせつなく) が84年に全英4位の大ヒットを記録、一躍大注目を浴びることになる。再発された I Won't Let ~ は全英2位を記録する熱狂ぶり。ちなみに84年の The Riddle は、小泉今日子の 木枯らしに抱かれて の元ネタだと言われている名曲。


シングルヒットが低迷する時期も、ギタープレイヤーとしての彼は多くのミュージシャンに評価されていた。エルトン・ジョンはその一人で、アルバム「アイス・オン・ファイヤー」に参加、ツアーでもエルトンをサポートしている。

※Nik Kershawの歌が流れる80年代の主な映画
1985年・「ガッチャ!」 = Wouldn't It Be Good
1985年・「シャイなラブレター」 = You Might
1985年・「スラッガーズ・ワイフ」 = Human Racing
1986年・「プリティ・イン・ピンク 恋人たちの街角」 = Wouldn't It Be Good (Danny Hutton Hitters)


3.Love/John Lennon

 ダッキー(ジョン・クライヤー)がアンディーの部屋で歴史のレポートを手伝ってもらう場面。彼女への思いをうまく表現できないダッキーは、アンディーがいなくなった後、一人、部屋で歌う。それがジョン・レノンの ♪Love。オリジナルは流れず、ジョン・クライヤーのアカペラのみ。サントラにも未収録。


4.Try A Little Tenderness/Otis Redding

 ダッキーはアンディーの幼なじみ。アンディーの力になりたいとも思うが、思いは空回りしっぱなし。アンディーの父親(ハリー・ディーン・スタントン)にもその思いを伝える。離婚を経験している父親には「アンディーが受け入れるかはわからいゾ」と言われる。アンディーがバイトするレコード店に、閉店間際にやってきたダッキーは、店に流れていたオーティス・レディングに合わせて踊り狂う。ガキっぽい行動なんだけど、彼なりの表現なんだろうか。冷めた視線で見つめるアンディーと共に、印象に残る場面だ。悪い子ぶっていないで、この歌詞のように”ちょっとやさしさを試して”みればいいのにね。ダッキーのキャスティングは当初マイケル・J・フォックスにオファーされたそうだ。どちらかというと”いい子”イメージのMJFではやっぱり似合わなかっただろうね。

 店で流れるのは Try A Little Tenderness。オーティス・レディングの代表曲としてよく知られており、多くのミュージシャンに歌われている名曲だ(「プリティ・イン・ピンク」のサントラには未収録)。オーティス・レディングは60年代ソウルミュージックの代表格にして、黒人音楽が”ソウル”というジャンルで呼ばれ始めた頃の先駆的存在だ。ギターのスティーブ・クロッパー、ベースのドナルド・ダック・ダンらバックバンド、いわゆるブッカー・T&ザ・MGズとのコンビネーション振りのよさは有名。名曲 (Sittin' On) The Dock Of The Bay などスティーブ・クロッパーと共作した楽曲では、白人音楽のよさも吸収して、多くの人々に愛された。67年に飛行機事故で死去している。

※Otis Reddingの歌が流れる80年代の主な映画
1980年・「ブルース・ブラザース」 = I Can't Turn You Loose (The Blues Brothers Band)
1985年・「パニック・スクール/冒涜少年団」(劇場未公開) = I've Been Loving You
1985年・「セント・エルモス・ファイアー」 = Respect (Aretha Franklin)
1986年・「トップガン」 = (Sittin' On) The Dock Of The Bay
1986年・「プラトーン」 = (Sittin' On) The Dock Of The Bay , Respect
1986年・「プリティ・イン・ピンク 恋人たちの街角」 = Try A Little Tenderness
1987年・「ダーティ・ダンシング」 =Love Man , These Arms of Mine
1987年・「エディー・マーフィ/ロウ」 = (Sittin' On) The Dock Of The Bay , Respect
1987年・「ティンメン/事の起こりはキャデラック」(劇場未公開) = Try a Little Tenderness
1988年・「ストーミー・マンデー」 = I've Been Loving You Too Long
1988年・「エイリアン・ネイション」 = (Sittin' On) The Dock Of The Bay (Michael Bolton)
1989年・「ミステリー・トレイン」 = Pain In My Heart
1989年・「ドリーム・ドリーム」 = Dreams To Remember
1989年・「ロードハウス/孤独の街」 = These Arms of Mine
1989年・「今ひとたび」 = Love Man


5.Get To Know Ya/Jesse Johnson
6.Round, Round/Belouis Some

 アンディーはいよいよブレーン(アンドリュー・マッカーシー)と初デート。レコード店までお迎えに来たブレーン。しかし店には先述のオーティス・レディングを踊り狂った後のダッキーが。電機メーカーの御曹司と失業中の親父の娘のデート。幼なじみのダッキーとしては「行くな」と止める。
「ヤツの仲間は君のことを見下しているんだ!」
「彼は金持ちだけど、私は卑屈になりたくないの。」
ダッキーの心配をよそにアンディーはブレーンの車に乗って、パーティをやっているという友人宅へ。ダッキーは雨に打たれながら壁にもたれている。壁画が印象的な、チラシの画像ですな。壁のピエロの絵は、誰を笑っているのだろう。降り出した雨は、道化師が心で流す”道化の涙”なのかもしれない。車に向かうアンディーとブレーン。十分に着飾ってきたつもりのアンディーに、ブレーンは一言。
「着替える?」
”貧富の差”はこうした会話にも現れてくる。そしてパーティやってる邸宅に入っていく場面で流れるのが、ジェシー・ジョンソンの Get To Know Ya。さらに下着姿で踊る連中を見てアンディーが来たことを後悔する場面で、短いけれど Round, Round が流れている。

 ジェシー・ジョンソンは、モリス・デイ率いるファンクバンド、ザ・タイムのギタリストだった人物。いわゆるプリンスファミリーの一員だった訳ですな。映画「パープルレイン」では Jungle Love を演奏しているザ・タイムが登場するが、その頃がちょうど絶頂期。プリンスとモリス・デイの不仲?が原因でバンドは解散してしまう。ジェシー・ジョンソンは85年にソロデビューを果たしている。90年代にプリンスの映画「グラフィティ・ブリッジ」のためにザ・タイムが再結成されるが、そこにはジェシーの姿もあった。Belouis Someなるアーティストだが(カタカナで表記したいけど読めない・・・)、日本ではどうもこの曲くらいしか紹介されていないようだ。ネットで検索すると外国の80sものコンピ盤に、Imagination なる曲でクレジットされている。情報お持ちの方、教えて。

 映画「プリティ・イン・ピンク」では Get To Know Ya が流れた後、アンディーとブレーンが親しくなっていく場面へと続く。

※Jesse Johnson関連の曲が流れる80年代の主な映画
1984年・「パープル・レイン」 = Jungle Love , The Bird (The Time)
1985年・「ブレックファスト・クラブ」 = Heart Too Hot To Hold (Jesse Johnson & Stephanie Sprull)
1986年・「プリティ・イン・ピンク 恋人たちの街角」 = Get To Know Ya
1988年・「アクション・ジャクソン」 = Faraway Eyes (Vanity)


7.Shell Shock/New Order
8.Thieves Like Us/New Order

 ブレーン君との初めてのデートはアンディーにとって苦いものでもあった。リッチな人々の乱れたパーティで幻滅、ダッキーとは絶交される。しかし、ブレーン君と分かり合えたし、別れ間際「プロムは一緒に」と言われる。ヘッドライトの逆光の中、二人はキスを交わす。父親にきちんと報告するアンディー。そんな娘に父親は言う。「こんな話をパパしか聞いてやれなくてすまない。」・・・なんか泣けるなぁ。昔観たときにはそんなこと思わなかったのに。

 その翌日。アンディーが車で出かけるのを自転車に乗ってやって来たダッキーが切なく見る場面。ここで流れるのが、ニュー・オーダーの Shell Shock。これまたイントロしか流れないのだが、独特のシンセ音が強く印象に残る。ニュー・オーダーはこの映画に楽曲提供を依頼され、Shell Shock を用意するのだが、製作者たちは Thieves Like Us や Eligula を使いたがっていた。しかし、結局 Shell Shock は採用され、ニュー・オーダーは3曲もこの映画にクレジットされることになったのだった。

 ・・・物語のその後。アンディーは急にブレーン君に冷たくされてしまう。金持ち仲間がアンディーのことを好ましく思わないことに流されているのだ。ブレーン君も彼女の気持ちに気づいてあげられない鈍さがいかんな。大人の視線で観るとどうもこのあたりはじれったい。友人から譲ってもらったピンクのドレスを手直しするアンディー。それぞれがぞれぞれの思いを抱きながら、プロムの夜が近づいてくる。Thieves Like Us は、そんな場面に流れる。映画では歌が流れることはないが、ひたすら"Love"を連呼するこの歌。彼らの抱く愛情のゆくえは・・・。

※New Order関連の曲が流れる80年代の主な映画
1986年・「プリティ・イン・ピンク 恋人たちの街角」 = Thieves Like Us , Shell-Shock
1986年・「サムシング・ワイルド」 = Temptation
1988年・「再会の街 ブライト・ライツ・ビッグ・シティ」 = True Faith


9.If You Leave/Orchestral Manoeuvres In The Dark

何べんきいてもこのグループ名は覚えられなかったなぁ。この際だ。みんなもきちんと覚えておくれ。オーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダークというんだ。クラフトワークやYMOの影響を受けてテクノポップ道を突っ走ったグループ。初期には単なるテクノポップではなく、社会性ある楽曲があることも特筆すべきところ。広島に原爆を投下した戦闘機エノラ・ゲイをテーマにした Enola Gay(エノラ・ゲイの悲劇) がそれだ。80年代半ばからはポップ路線に傾き、初期の暗さは薄れていく。アメリカのチャートにも顔を出すようになるが、本国での評価は下がっていくことにも・・・。僕はこの頃の Secret や So In Love はけっこう好きだったけど。

 実はこの映画のオリジナルのエンディングは、我々が目にする完成版とは異なるものだった。それはダッキーがアンディーの愛を勝ち取るように描写されたものだった。ところが試写で観た人々から不評を買う。みんなブレーンがアンディーと結ばれる方を望み、それにジョン・ヒューズもオリジナルの編集では、”貧しい者とリッチな者は共存できない”と観客が理解してしまうのでは、と心配した。そしてラストは変更され、再度撮影された。アンドリュー・マッカーシーは舞台で演ずる役のために、体重も落として髪も剃ったばかりだった。カツラをつけて撮影したが、他の場面と比べてアンドリューがやつれて見えるのはそのせいなんだそうである。

 ラストが変更されたことで、当初用意されたOMDの Goddess Of Love は合わなくなってしまった。そして映画のために書き下ろされたのが、この If You Leave である。本編では最も盛り上がるプロムの場面で流れる。しかし、前述のように撮影後にこの曲が書き下ろされたので、撮影中に出演者たちは実際には別な曲で踊っていた(それは「ブレックファスト・クラブ」の主題歌である Don't You (Forget About Me) だったとか)。そして If You Leave はOMDにとって最大のヒット曲となるのだった。

※OMDの曲が流れる80年代の主な映画
1986年・「高卒物語」 = We Love You
1986年・「プリティ・イン・ピンク 恋人たちの街角」 = If You Leave
1988年・「ミスター・アーサー2」 = Secret

Pretty in Pink (1986) Official Trailer - Molly Ringwald Movie





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