Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

チキンとプラム~あるバイオリン弾き、最後の夢~

2013-01-28 | 映画(た行)

■「チキンとプラム~あるバイオリン弾き、最後の夢~/Poulet Aux Prunes」(2011年・フランス=ドイツ=ベルギー)

監督=マルジャン・サトラピ & ヴァンサン・パロノー
主演=マチュー・アマルリック マリア・デ・メディロス イザベラ・ロッセリーニ ゴルシフテ・ファラハニ

フランスのコミック作家マルジャン・サトラピが自らの手で自作を映画化した意欲作。舞台はむかしむかしのイラン。と言っても前世紀とかそんなんじゃなく、宗教的戒律が厳しく政治に反映されるイラン革命よりも前のお話と思えばいいだろう。バイオリン弾きの主人公ナセルは大事な楽器を壊されてしまって失望し、死ぬことを決意する。映画はその最後の8日間を追っていくお話である。ものを壊されて死を選ぶ、しかもベッドに横たわって食べることを拒否することで死へ向かう・・・現実派の鑑賞者には向かない映画かもしれない。タバコの煙が塊になって空中を突き進んだり、突然アニメーションが挿入されたり、死に方を考える主人公がいかにもコミックな描写だったり・・・そんな映像表現もいけ好かないという方もあるだろう。でも原作がそもそもコミックだし、ファンタジーだし、せめてそういう部分を受け入れて観ないとすべての行動に重大な理由がつけられるラストで感動できない。説明くさい描写で納得ずくにしてわかりやすく進行するハリウッド映画とは違う。"感覚で観る"ことが求められる映画かもしれない。

主人公が人生を振り返る。仙人のような師匠に弟子入りしてバイオリン弾きとしての腕を磨くが、師匠に「お前は技術はあるが心がない」と言い放たれる。そんなとき、テヘランの街で見かけた美しい娘イラーヌに心を奪われてしまう。次第にお互い惹かれるようになり、ナセルは彼女にプロポーズ。イラーヌはそれを受け入れるが父親の反対で二人は別れることになってしまう。しかし失った愛と引き換えに彼のバイオリンは素晴らしい音を奏でるようになっていく。以来、長年の演奏旅行で活躍するナセル。母親の薦めで結婚をするが、そこに愛はなかった。ナセルの心にはバイオリン、そしてイレーヌの面影に支配されたままなのである。その妻は幼い頃からナセルに憧れていて、縁談を断りナセルを待ち続けた一途な女性。家いても子供の面倒をみない夫に厳しく接する。ナセルは「芸術家と結婚したのだから」と冷たく言い放つ。バイオリンやチェロなどの弦楽器のフォルムは女性のボディラインをイメージしているとよく言われる。そんなバイオリンを妻が叩き壊す。何事でもそうだが、物事の裏側や気持ちを理解できたとき僕らは本当に感動できる。映画は主人公の臨終へとカウントダウンをしながら、一方でその裏にあった出来事とそれぞれの秘められた心を描き出していく。ドアの陰で涙する妻、そしてナセルとイラーヌの再会。再会シーンは冒頭に登場するのだけど、そこに僕らは涙しない。でもまったく同じ場面を映画の終わりに目にして僕らは切なさでいっぱいになる。

ファンタジーであり、秘めたる愛情をめぐるラブストーリー。マチュー・アマルリックは、ナセルのちょっと偏った執着心を落ち着きのない目線で演じている。イラーヌを演じたのはイランの女優ゴルシフテ・ファラハニ。国際的に活躍する女優で、欧米作品に出演したために出国禁止になったこともあるそうだ。僕は「彼女の消えた浜辺」での不安げな表情でしか知らないだけに、この映画での満面の微笑みと大粒の涙はとても印象的だった。脇役には「ブルーベルベット」のイザベラ・ロッセリーニや「アメリ」「エンジェル」のジャメル・ドゥブースも出演。タイトルになったチキンのプラム煮込みがあまり出てこないのがちょっと残念。主人公が大好きなソフィア・ローレンをイメージした巨大なおっぱいにしがみつく場面がいいねっ。
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