これまでもいろんな映画評論を読んできたし、あれこれ観た今の年齢だからこそ評論を読むのは面白い。読んだ当時の僕に強烈なインパクトを与え、今でもそこに書かれていたことが映画を観る上での心構えや見方に影響を与えているものも多い。例えば畑中佳樹氏の「夢のあとで映画が始まる」では、「幸福な家庭に映画好きはいない。」という文章に衝撃を受けたし、別冊宝島のムック「映画の見方が変わる本」に収められた各界の人々の視点に驚かされた。淀川長治センセイや蓮見重彦センセイの著作にもいろいろ学んできた。
今回読んだのは「映画は父を殺すためにある」。何とも刺激的?なタイトルにちょっと引きつけられた。著者は宗教家の島田裕巳。ん?何か聞いたことがある。あ、オウム事件のときに名前を聞いた覚えがある。あの「映画の見方が変わる本」の中でもレビューを書いていた人。そんな訳で本屋で平積みされた文庫を手にした。
映画に"成長物語"はつきものだ。主人公が人間として成長する様は、いつも僕らを楽しませ、そして勇気づけてくれた。僕自身も映画の最初と最後でぜんぜん変わらない主人公の映画は好きでない。「マトリックス」はまさに救世主として成長するネオの物語で大好きだが、「海猿」の主人公仙崎は最初からデキるヤツなのでどうしても好きになれなかったものだ。島田裕巳氏は宗教学の立場から、この成長物語を"通過儀礼(イニシエーション)"と捉え、その視点から数々の映画を観た。そして、この本で「ローマの休日」「スタンド・バイ・ミー」「櫻の園」「いまを生きる」などを挙げて、通過儀礼の観点から詳細な分析をしている。
通過儀礼とは、かつてない経験、特にこれまでの自分(の価値観)を打ち消されるような経験をして、(人間的に)一歩成長すること。島田氏はアメリカ映画に通過儀礼として映画が作られているものが多いこと、そのキリスト教的な背景について考察している。強き父であることを求められる社会と、その父を越えるべき存在として意識する息子世代。父を越えること、自身が成長するために父を殺すこと。「スターウォーズ」はその典型だと言える。世界で受け入れられた黒澤映画は日本映画の中では珍しく通過儀礼の視点で描かれているという分析や、「男はつらいよ」の分析など興味深い。だが、1作品について詳しく掘り下げてかなりのページ数を費やしているだけにやや冗長な印象がある。その映画が好きなら読み込めるだろうけど、中原俊監督の「櫻の園」(名作!)を観ていなければこの章を読むのは辛いかも。
だが、最後に驚きが待っていた。この文庫の解説はあの町山智浩氏。僕の映画の視点を大きく変えた「映画の見方が変わる本」を編集した人物だ。町山氏は島田氏から教わった通過儀礼という視点で映画の見方が変わった。だが編集に関わった本で、島田氏にオウムについて記事を書いてもらったことが原因で、あの騒ぎになったという顛末にも触れていた。その後の二人の再会、交わした無言の握手。解説読んで涙腺がゆるんだ本は初めてかも。それは「映画の見方が変わる本」が僕にとって大きな存在だったからだろう。
今回読んだのは「映画は父を殺すためにある」。何とも刺激的?なタイトルにちょっと引きつけられた。著者は宗教家の島田裕巳。ん?何か聞いたことがある。あ、オウム事件のときに名前を聞いた覚えがある。あの「映画の見方が変わる本」の中でもレビューを書いていた人。そんな訳で本屋で平積みされた文庫を手にした。
映画に"成長物語"はつきものだ。主人公が人間として成長する様は、いつも僕らを楽しませ、そして勇気づけてくれた。僕自身も映画の最初と最後でぜんぜん変わらない主人公の映画は好きでない。「マトリックス」はまさに救世主として成長するネオの物語で大好きだが、「海猿」の主人公仙崎は最初からデキるヤツなのでどうしても好きになれなかったものだ。島田裕巳氏は宗教学の立場から、この成長物語を"通過儀礼(イニシエーション)"と捉え、その視点から数々の映画を観た。そして、この本で「ローマの休日」「スタンド・バイ・ミー」「櫻の園」「いまを生きる」などを挙げて、通過儀礼の観点から詳細な分析をしている。
通過儀礼とは、かつてない経験、特にこれまでの自分(の価値観)を打ち消されるような経験をして、(人間的に)一歩成長すること。島田氏はアメリカ映画に通過儀礼として映画が作られているものが多いこと、そのキリスト教的な背景について考察している。強き父であることを求められる社会と、その父を越えるべき存在として意識する息子世代。父を越えること、自身が成長するために父を殺すこと。「スターウォーズ」はその典型だと言える。世界で受け入れられた黒澤映画は日本映画の中では珍しく通過儀礼の視点で描かれているという分析や、「男はつらいよ」の分析など興味深い。だが、1作品について詳しく掘り下げてかなりのページ数を費やしているだけにやや冗長な印象がある。その映画が好きなら読み込めるだろうけど、中原俊監督の「櫻の園」(名作!)を観ていなければこの章を読むのは辛いかも。
だが、最後に驚きが待っていた。この文庫の解説はあの町山智浩氏。僕の映画の視点を大きく変えた「映画の見方が変わる本」を編集した人物だ。町山氏は島田氏から教わった通過儀礼という視点で映画の見方が変わった。だが編集に関わった本で、島田氏にオウムについて記事を書いてもらったことが原因で、あの騒ぎになったという顛末にも触れていた。その後の二人の再会、交わした無言の握手。解説読んで涙腺がゆるんだ本は初めてかも。それは「映画の見方が変わる本」が僕にとって大きな存在だったからだろう。