Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

ミラノ、愛に生きる

2012-08-12 | 映画(ま行)

■「ミラノ、愛に生きる/Io Sono L'amore」(2009年・イタリア)

監督=ルカ・グァダニーノ
主演=ティルダ・スウィントン フラヴィオ・パレンティ エドアルド・ガブリエリーニ マリサ・ベレンソン

紡績業で財をなしたミラノの名家の奥方が、息子の友人と恋におちる愛憎劇・・・という予備知識しかもたず映画館へ。三角関係がフランス映画のお家芸なら、家族を描くことはイタリア映画の得意とするところだ。日本の昼ドラみたいな単なるよろめきドラマになるはずがない。そんな僕の期待はまさに的中した。この映画が語りたいのは色恋沙汰ではない。一人の人間が自分を抑さえていたものから解放されて、自分を取り戻すまでのドラマだ。

ミラノの大富豪レッキ家にロシアから嫁いだエンマ(ティルダ・スウィントン)。家長である義父(名優ガブリエル・フェルゼッティ)が引退を宣言、後継者にエンマの夫タンクレディと息子エドが指名される。そのパーティの席に、エドがボートレースで敗れた相手だというシェフ、アントニオ(エドアルド・ガブリエリーニ)がやってくる。義父の死後、家を固く縛っていたものが次第に解かれていく。夫は会社の売却を検討し、エドは恋人との結婚を控えていた。そんなとき、エンマは娘ベッタから同性の恋人がいることを打ち明けられる。それぞれの道に動き始めた家族。エンマからは母親という役割も解かれていくことになるのだ。ある日、エンマは義母とアントニオのレストランを訪れる。そこで口にした海鮮料理に彼女は得も言われぬ感覚を覚える。彼女はアントニオの料理から、次第に彼の人柄に好意を抱き始める・・・。

・・・とストーリーを文章で追うとやっぱりよろめきドラマぽくなってしまう。でもこの映画が俄然面白くなるのはここから先だ。エンマがレストランで(文字通り)味わった感動。映像だけで綺麗にみせている。エビが皿の上でつややかに光っている。口に運んだ後ののけぞるような動き。嗅覚も刺激されているように幸福そうな表情では鼻腔を撮らんばかりにクローズアップ。陳腐な台詞ではこの感動は表現できない。アントニオと自然の中で体を重ねる場面でも、カメラはひたすら二人に寄っていく。エンマが浮かべる至福の表情。アントニオの力強い腕。震えるような動きの体。風に揺れる草木。エンマの服を脱がしていく場面は、まるで調理の下ごしらえをするようにとても丁寧なのが印象的。小さなショットの積み重ねが心情と開放的な情景を見事に捉えている。官能の表現っていろんな映画でみるけれどこれは見事だ。気品すら感じる。

そしてエンマが秘めていた抑え込んでいたロシアへの郷愁とアイデンティティ。アントニオに惹かれたことからエンマはその呪縛から解かれていく。サンレモの町でアントニオに会う場所はロシア正教の教会前。うまい演出だ。まるで収集された骨董のようにミラノに連れてこられたこと、本当はロシア人としての名があるのに夫がエンマと呼んでいること。自分を取り戻していくエンマは、そんな自分の過去や思いをアントニオに打ち明ける。そしてロシア人である自分を理解し、愛してくれるのは息子のエドだけ。家族の中では二人だけがロシア語で話し、エドはロシアの家庭料理である魚のスープを好むこともアントニオに話す。そしてあるパーティでアントニオがそのスープを出したことから、エドが母親とアントニオに対してもっていた疑いは確信に変わる。
「裏切りだ。」
エドがエンマに告げるこの言葉の重さ。それは普通の母と子以上の信頼関係だったに違いない。そして起こる悲劇。

エンマはエドの葬儀の日に家を出て行く。オスカー衣装デザイン賞にノミネートされた豪華なスーツではなく、前半とは違うジャージ姿で。ここでもこの映画は台詞に過剰に頼ることはない。最後まで「奥様」と慕うメイド、自分の道を選ぼうとする母親に静かに微笑みかける娘、エドの子を宿した婚約者。女性たちは視線や笑顔、仕草でお互いを認め合う。崩壊していく家族なれど、それを見つめる視点はとても優しい。やっぱりイタリア映画には家族愛の伝統が生きている。雪に包まれたミラノの町並み、明るいサンレモの風景も美しい。

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コメント (2)
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