Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

アーティスト

2012-08-26 | 映画(あ行)

■「アーティスト/The Artist」(2011年・フランス)

●2011年アカデミー賞 作品賞・監督賞・主演男優賞・作曲賞・衣装デザイン賞
●2011年カンヌ映画祭 男優賞
●2011年ゴールデングローブ賞 作品賞・男優賞・音楽賞

監督=ミシェル・アザナヴィシアス
主演=ジャン・デュジャルダン ベレニス・ベジョ ジョン・グッドマン ジェームズ・クロムウェル

今年はハリウッドが誕生して125周年、ユニバーサルピクチャーズとパラマウントピクチャーズが100周年というメモリアルイヤーである。その年に授賞式が行われるアカデミー賞を征したのがこの「アーティスト」。サイレントでモノクロのフランス映画だ。時は1920年代。ジョージ・ヴァレンティンはハリウッドの大スタア。彼に憧れる女優志願の娘ペピー・ミラーは、彼の主演作でダンサーとして出演することになった。新聞に載った写真のハプニングで出会った二人。ジョージはペピーに女優として生き残っていくためにアドバイスをしてあげる。ペピーは次々と役を得て、一躍人気者になっていく。ハリウッドはサイレントからトーキー映画へ移行する時期。サイレントにこだわるジョージは、映画会社の忠告を無視して私費を投じて新作を撮る。一方でペピー主演作はトーキー映画として製作され、同じ公開日を迎える。興行成績は歴然・・・観客が求めるものは変わっていたのだ。仕事も失っていくジョージ。そんなジョージを救おうとするペピーの思い。その行方は・・・。

世の中では賛否両論あるようだ。クラシック映画を観たこともない人にとっても、斬新と思う人もいれば抵抗がある人もいる。僕も仕事で関わっていた学生にチャップリンの「モダンタイムス」をみせたことがある(「映画授業」)が、サイレントで台詞が文字で表現されることに露骨に嫌な反応をされました。しかも「社会的に適応できない人を笑いのネタにするのは納得いかない」との感想まで。一方で誰にでもわかるギャグの数々は評判がよかったですけど。だから「アーティスト」に対する世間の反応は納得がいく。また、あれこれ映画を観ている目の肥えた人にとっても、CG全盛の今何故今サイレントで撮らねばならないのかと思う人もいれば、サイレントで撮ることに映画への敬意と愛を感じる人もいる。”映画は映像で語るものである”という淀川長治センセイの教えに共感する僕としては、後者の人たちの意見に共感できる。僕の友人はクラシック映画を好んで観る人なので同じサイレントという表現でもっとすごい映画はいっぱいあると言う。それはそれでわかるけど。

サイレントだから面白い点はいくつかある。例えば演ずる役者の表情の素晴らしさ。台詞がないだけに誰しもがわかるような映像でなければならない。それだけにオーバーアクトになるから、舞台を観ているようで仰々しく感じる人もいるかもしれないが。演ずる上での工夫も面白い。ジョージの楽屋に入り込んだペピーが彼の上着に手を通して、一人で抱き合う男女を演じてみせる場面。これはひとつの芸であるが、こういう見せ方や面白がらせ方の工夫がある。昔の映画にはこういう役者の芸や演技があった。CGの後処理で面白がらせる今とはまったく違う。ジョージが拳銃自殺をしようとする場面、画面にでてきた「BANG!」の文字。ところが次の画面でその音は家の外で車がぶつかった音だとわかる。これもサイレントならではの場面。また、音がない映画なのに音を使うことで、主人公の不安な気持ちをうまく表現しているのも素晴らしい場面だ。チャップリンが「モダンタイムス」を撮影した当時は既にトーキーの時代。されどサイレントにこだわって、音は歌とギャグの道具として用いていたっけ。

この映画が訴えているのは、ハリウッドがこれまで生み出してきた映画の数々へのリスペクトとオマージュ。サイレント時代のスタアの多くはトーキーに変わる時代に行き場を失ってしまった。この映画のジョージのようにミュージカルスタアとして活路があったのはやはり芸あってのこと。一時期過去の人と言われていて復活したフレッド・アステアあたりがイメージされているのだろうか。「サンセット大通り」や「イヴの総て」も頭をよぎるし、大スタアとの新人女優の恋・・・とくれば「雨に唄えば」あたり。いずれにせよ、僕らを魅了してきたハリウッドの名作たちだ。「アーティスト」からはこうした映画に対する愛がにじみでている。

だけど、残念なことがある。こうした過去の映画遺産への敬意や愛を示した作品が、ご当地であるハリウッドで製作されていないこと。それをリュミエール兄弟が映画を発明した”映画発祥の地”フランス映画が成し遂げたことは偉業だが、本家ハリウッドでこうした企画があがらないのはどうしてだろう。映画は見世物でもある。評価が分かれるような古風な映画を撮るよりも、観ている間だけは楽しいけど、見終わって何も残らない映画(「ミッドナイト・イン・パリ」でウディ・アレンがそう表現してたよね)の方が稼げるからに他ならない。アメコミのヒーローを共演させるという試みの映画ポスターが目につく今年の夏。それだって決して新しい訳じゃない。「マジンガーZ対ゲッターロボ」とか東映まんがまつりで既にニッポンはやっている。過去の良作に学び、その良さを今に活かせるような映画が今アメリカ映画に欲しい。「アーティスト」のエンドクレジットをながめて思ったのは、そんな寂しさでもあった。

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