羽を休める鳥のように

きっとまた訪れる薄紫の夕暮れを待ちながら

夜の思い

2015年05月15日 | Weblog
母に処方された薬の名前を検索している夜

わたしのいる場所から母のいるところは
実は近いのだけれど
母からは遠いだろう
距離も地理もまるでわからず
ただベッドで天井をみている

しばらく通院します
付き添いは一時間二千円かかりますがいいですか

よろしくお願いしますとわたしは電話口で頭をさげる

検索すればするほど「精神安定剤」という単語が波しぶきのように
おしよせる
もちろんわかっていたことだけれど

職員に連れられて精神病院にいく母は四時間も待たされても
静かに静かに大人しくしているという
何のための受診なのかと
わたしたちは理由を知っていてわたしが納得して了解した
了解したのはわたしである

先日スーパーで買った安物のカーネーションの鉢植えを持っていった
母はわたしの顔をみると笑ってくれる
今日はね 母の日だよ と言ったら「知ってる」と答えたのでビックリした
カーネーションの真ん中にクマの人形が入っている
ほらこれ かわいいでしょと言ったら 「うんうん」と返事
会話がなりたったのでそれで満足する

なぜ母は10分も経たないうちに「もう帰っていいよ」というのだろう
「ありがとう もう帰っていいよ」とかならず言うようになった

家に連れて帰ってあげたい、と衝動的に思うようになった
あとどれくらいの時間が残されているのかわからない

帰りたいと言わなくなった母が耐えていること 我慢していること
その反動の激昂なのかと考える

でも「連れて帰る」なんてわたしは言わないし不可能なことは明白だから
誰にも何も言わないのだ

怒ってもいいんだよと わたしはひそかに思っている
職員は手を焼いているし申し訳ないとは思うけれど

今夜も薬を飲まされて眠っているのだろう
ひどいときには頓服も処方されるだろう

ひとりで母を思う夜がこうして更けていく