(前回からの続き)
どの通貨を使うか、の議論はさておき、今年9月の住民投票等を経て、スコットランドが本当に英国から独立することになったら、英国としては当然、その債務のうち一定部分をスコットランドに引き継ぐよう要求することでしょう。
先述のとおり、英国の公的債務残高は2013年末時点で約1.49兆ポンド(約254兆円)と推測されています。これをかりに英国とスコットランドの人口比(約530万人/約6300万人)で割り振ると、スコットランド分の債務額は約1250億ポンド(21兆円あまり)となります。スコットランドのGDPは北海油田からの歳入分を含めると1500億ポンド弱(2485億ドル:2013年)くらいだから、累積の公的債務の対GDP割合は80%をゆうに超えることになり、ユーロ導入の認可基準のひとつである同比率の60%を大きく上回ってしまいます・・・。まあ実際にユーロの使用が認められるかどうかはべつにしても、この国家負債が「独立」後のスコットランド経済にとってたいへんな重荷であることは間違いのないところ・・・。
ところで、これに関連して個人的に関心があるのが、スコットランド生まれの大銀行・ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)に投じられた公的資金の扱いと今後のRBSの支援体制の行方です。スコットランドが「独立」した場合、これらのお金を英国とスコットランドの両国がどう負担するかが大きな問題となりそうだ、と予想しているからです。
Wikipedia等によれば、RBSは1727年にスコットランドの「首都」エディンバラに設立された歴史ある銀行です。もともとは同地方を地盤としていましたが、1980年代以降、積極的に海外業務に進出するも、アメリカの不動産バブル崩壊で膨大な不良債権を抱えて経営危機に陥り、2008年に英国政府から資本注入を受けました。それ以降も業績は回復せず、資産の劣化が止まらなかったため、同政府はRBSに公的資金を追加投入してきました。その累積額は現時点で458億ポンド、そしてRBS株式の同政府保有割合は81%に達しています。
先日発表された同社の2013年の純損益は90億ポンドの赤字と、2008年の上記の資本注入以降で最悪の結果に・・・。世界的な「リスク・オン」モードにもかかわらず株価は低迷しており、現時点(3/5)で328ペンスと、英国政府が損益分岐点とする407ペンスを2割も下回っています。こんなところをみると、この銀行は、近いうちにまたまた過小資本(もしかして債務超過!?)に追い込まれるのかも・・・。
このようなRBSのさえないパフォーマンスにさぞかし英国政府とイングランド銀行はイライラしているだろうなーと思うわけです。RBSがなかなか政府依存から脱却できないうえ、英国から離れたがっているスコットランド発祥の銀行だからです。そのため両者の本心は「まったく世話が焼ける。RBSの面倒はそっちでみてくれ~」といったところなのではないでしょうか。
ということで、かりにスコットランドが独立するとなると、おそらく英国政府はこれまでに取得したRBS株式の買い取りと、この銀行の今後の支援の双方をスコットランド新政府に求めるだろうと予想しています。上述の国家債務継承分に加え、これらにともなう負担が加わるのですから、独立スコットランドの財政は誕生直後からたいへん厳しい局面を迎えそう・・・。
そしてRBSにとってもスコットランドの「独立」は経営上の大きなリスクとなるかもしれません。最大のスポンサーが英国政府から財政基盤がさらに脆いスコットランド政府に代わる可能性が高いからです。本当にそうなったらRBSはどうなるのだろう?――― で、今後のRBSの株価に注目しています。世論調査でスコットランド独立派が優勢!なんて結果が出たら同社の株価は!? ・・・
(続く)
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(前回からの続き)
かりに英国からの独立を果たした場合、スコットランドはどの通貨を使用するのか―――独自通貨スコットランド・ポンドも、EU共通通貨のユーロも難しそう・・・となると、結局は「英ポンド」ということになるのでしょうか・・・。
実際、スコットランド自治政府を率いる民族党(独立派)は独立後も英ポンドを維持することを公約にしています。先述のとおり、それ以外の通貨では「国家」の通貨政策を成り立たせる見通しがつかないからでしょう。
では、スコットランドの希望は叶うのでしょうか。これもまた厳しいと思われます。スコットランドが独立した場合、英国もイングランド銀行(BOE)も英ポンドの流通を認めてくれそうもないからです・・・。
まあそれはそうでしょう。英国そしてBOEにすれば、国家の主要政策である外交や防衛、とりわけ財政政策が異なる国(スコットランド)と共通の金融・通貨政策をとることにメリットなんてないからです。それどころか、ユーロ圏の混乱ぶりを見れば分かる(?)とおり、逆にデメリットのほうが多いと認識しているはず。現に先月中旬、英国のオズボーン財務相はスコットランドの「首都」エディンバラで演説し、通貨の共有には財政・金融政策等の一致が不可欠であると指摘したうえで、スコットランドが独立した場合、英国とのポンドの共有は双方の利益にならないと述べています。
こうなってしまうとスコットランドの独立派は苦しくなってしまいます。英ポンドが使えないとなると、欧州連合加盟・ユーロ導入に望みを託すことになりますが、はたしてすんなり認められるかどうか・・・。で、英ポンドもユーロもダメとなれば、残る手は独自通貨スコットランド・ポンドの流通ですが、これはユーロや英ポンドに対して減価は必至(!?)・・・。
といったように、「通貨」ひとつをとっても、スコットランドの独立がいかに難しいかということが想像されるところです。自分たちの置かれた通貨・政治・経済面などの諸状況を冷静に眺めれば、スコットランドの人々は独立という道を選択することが限りなく不可能に近いことを認めるしかないだろう―――そう思います。
それでも9月の住民投票ではどんな結果が出るか予断を許しません。ウクライナやカタルーニャなどのヨーロッパの他国等の動きにスコットランド人の民族意識がさらに刺激され、どの通貨を使うか、といった小難しい議論は後回しでよいから、まずは!ということで独立支持票が多数を占めるかも!?
(続く)
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(前回からの続き)
前回書いたように、北海油田の石油資源が枯渇しつつあるなか、これからのスコットランドには拠るべき産業が乏しいため、かりに独立したとしても、「国民」がいまの生活水準を維持していくことは難しいだろう、と思っています。
このあたりはスコットランドが独立後にどの「通貨」を使用するのかをイメージしてみると想像がつきやすいでしょう。で、その通貨の選択肢は「スコットランド・ポンド」「ユーロ」「英ポンド」の3つのうちのいずれかとなるわけですが・・・。
はじめに独自通貨「スコットランド・ポンド」を選ぶという道が考えられます。通貨政策は、外交や国防等の各政策と同様、独立国家としてもっとも基本的かつ重要な政策のひとつであり、当該国家が独自の通貨を持つことは財政・金融政策との整合性を取るうえでもいちばん自然な成り行きだと思われます。
しかし、いまのスコットランドにはこの選択は難しいでしょう。スコットランド・ポンドはユーロや英ポンドなどに対して弱い通貨となると想定されるからです。
もしスコットランドが英国から独立したら、当然、英国はその国家債務のかなりの分をスコットランドに背負ってもらおうとするでしょう。実際にその金額がどれくらいになるのかはべつにしても、英国のいまの現状―――2013年の公的債務残高:約1.49兆ポンド―――から想像すると、スコットランドは独立当初から現状の「国力」では手におえないほどの巨額の国家債務を抱えることになりそう・・・。これは当然、通貨安の要因となります。
しかも、先述のとおり、スコットランドには貿易・経常収支を黒字に持っていけるほどの有力な産業は見当たりません。つまり自国通貨のスコットランド・ポンド安をテコに「輸出」で稼ぐという手が使えないということです。そのため、頼みの輸出品である石油の産出量が減り続ける今後の国家運営に明るい見通しは立たない―――スコットランドの経常赤字は年々膨らみ、金利は上昇していかざるを得ない・・・(多くの新興国と同じ)。
以上を考えると、独自通貨スコットランド・ポンドという選択肢は、通貨安を通じてスコットランドとその国民を貧しくさせるリスクが高いため、採用は困難ということになりそうです。そのためスコットランド独立派としては、独自通貨の導入をあきらめ、代わりに強い通貨の傘に入れてもらうという方向性を模索せざるを得ないということになります。
では次に「ユーロ」を選択するという道について。このあたりは欧州で最近独立した国々がめざすところと同じで、現実的であり、十分に検討に値しそうに思えます。
でも実際には政治的な理由でこれまた難しそうです・・・。スコットランドは独立しても欧州連合(EU)に加盟できるかどうか微妙だからです。
EUに参加するためには加盟28か国すべての同意が必要となりますが、カタルーニャの分離独立を阻止したいスペインが(英国とともに?)反対しそう(もしスコットランドの加盟を認めたらカタルーニャの独立を食い止められなくなるおそれが出てくる)。現にスペインは、2008年にセルビアから独立を宣言したコソボのEU加盟を承認しませんでした。これに関連し、EUのバローゾ委員長も「(独立スコットランドのEU加盟は)不可能ではないがきわめて困難」との見解を示しています。ユーロ導入のためにはEUに入れてもらわなくてはなりませんが、こうしたEU内の諸事情から判断すると、独立後のスコットランドのユーロ採用のハードルは相当に高い感じがします。
(続く)
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ウクライナを筆頭に、ヨーロッパではあちらこちらで国家の分裂や独立に向かう動きが顕著になってきました。これらには多くの場合、混乱がつきものですが、こちらはとても民主的にプロセスが進みそうです。はたしてその結果はどうなるのでしょうか・・・。
今年9月、スコットランドで英国(イギリス[連合王国])からの分離独立の意思を問う「住民投票」が行われます。すでに英国、スコットランドはもちろのこと、欧州諸国の人々の間でもこの住民投票は大きな関心事となっているもようです。
スコットランドの独立論はずいぶん前からありましたが、近代になって本格化したきっかけは、やはり「北海油田」でしょう。1970年代以降、スコットランド沖合の北海で相次いで発見・開発された油田は英国に多くの恩恵をもたらしました。一方、これがスコットランド人の英国からの独立意欲に火をつけました。なにせ、その北海油田は自分たちのエリアの目と鼻の先にあるわけですから。だから彼らが、その石油資源を拠り所にして英国から独立しよう!という気になるのももっともだと思います。
しかし、残念なことに北海油田の寿命は尽きつつあるような感じです。北海の英国エリアにある油田の産出量は2000年前後をピークに年々減り続けており、2020年代にはほぼ枯渇してしまう見込み・・・。これでは、かりにスコットランドが念願の独立を果たしたとしても、北海対岸のノルウェーのように、石油やガスの輸出だけで経済を成り立たせるのは難しいかもしれません。
以前もこちらの記事などに書いたように、いまの資本主義の世界で豊かに発展していける国家は「鉱業国(資源国)」か「製造業国」のいずれかだと考えています。で、スコットランドの独立派が描く国家像は当初は前者、つまり産油国としてやっていく、というものであったはず。しかし、それはどうやらはかない夢に終わりそう。となると、スコットランドは石油に代わる何らかのモノ作りで勝負する必要が出てくるわけですが・・・。
スコッチウイスキー、キルトのスカート、ウールのセーターやマフラーなどなど・・・たしかにスコットランドの名産品はとても魅力的。でも、はっきりいって、これらだけで500万人を超える人口を十分に養っていけるだけの稼ぎを得るなんて無理です。したがってスコットランドが人々のいまの生活レベルを維持したいと望むならば、高い付加価値を生む製造業の振興が不可欠となりますが、気の毒なことに(大半の欧州諸国と同じく)いまのスコットランドにはそれを担うことができる有力な大手企業等が見当たりません。となると、結局は日米独などの外国の企業を誘致するしかないわけですが、どれくらい企業が来てくれるのか、そしてそれらが思惑どおりの利益をスコットランドにもたらしてくれるのか、何とも不透明・・・。
・・・といった実体産業面から考えてみると、いまのスコットランドには独立のメリットがあるようには思えず、引き続き英国の一部として生きていく道を選ぶ以外にないだろう、と予想されるのですが・・・。
(続く)
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(前回からの続き)
このように、アベノミクスの目玉である「第3の矢:成長戦略」には、円安誘導にともなう「コストの増分」によって経済成長を「かさ上げ」してみせている面があると考えています。いや、その「成長」とやらの中身の大半は「コストの増分」に過ぎないのかもしれないな・・・(4月、またもや電気料金が上がって現行の計算体系となった2009年5月以降の最高値に! あの[?]「日経」までとうとう「円安の影響で原燃料の輸入価格が上昇したため」と報道・・・)。真の「経済成長」とは「豊かさの増分」であるべきなのに・・・。
そして本稿で記している勤労者の賃金もまったく同じです。きっと政府・日銀によって春闘の結果が派手に宣伝されることでしょう。「アベノミクスのおかげで賃上げする企業がこんなにたくさん出てきましたー!」といった具合です。でもその実態は・・・先述のとおりです。とほほ・・・。
以上のようなアベノミクスの「イリュージョン」―――(賃金でも経済成長でも)本当は損をしているのに見た目は得をしたかのように感じさせること(実質の「マイナス」を名目の「プラス」で糊塗しようとすること)―――を、「異次元緩和策(≒円安誘導策)」を推進する黒田日銀総裁のお名前にちなみ、畏敬の念を込めて(?)このブログでは以前から勝手に「黒魔術」と呼んでいます(ちなみにその反対―――名目はマイナスでも実質でプラスを確保した白川・前日銀総裁時代の金融政策を「白魔術」と名付けました)。政府・日銀・主要メディアがこぞって仕掛けるこの魔法はとても強力! だけどしょせんは「幻想」に過ぎません。結局「名」は「実」に勝てない、ということです・・・。
2014年の春は文字どおり「名」のみ―――円安インフレ、消費増税、そして実質所得のさらなる減少という冷たい「現実」が多くの日本国民を凍えさせそう・・・。やがてその寒さのなかで人々はこの魔法から本格的に目覚めるのではないか―――そんなふうに予想しています。
(「2014春闘:注目される賃上げ幅」おわり)
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