(前回からの続き)
アメリカの大統領選挙に向けた共和党予備選における最有力候補・不動産王ドナルド・トランプ氏が先月のNYタイムズのインタビューで、日本が在日米軍の経費負担を増やさないのなら日米安保条約を再考し、日本から米軍を撤収させる、とか、日本が弱体化するアメリカを頼れないと判断して独自に核武装をしようというのなら、それを容認する、みたいな非常にキワドイ発言を繰り返している様子を前回、ご紹介しました。その理由ですが同氏は、アメリカにはもはや日本のような外国を武力で守るだけの財政的な余裕がまったくない、とみているため。それはおそらくそのとおりだし、同氏の支持者である多数の米国民も同感なのでしょう。
付け加えるとトランプ氏は、このインタビューで中東の各国についても言及し、もしサウジアラビアや他のアラブ諸国がイスラム国相手の戦争に地上軍を投入しないのなら、アメリカはこれら国々からの原油の購入をやめる!と述べました。これまたスゴイ発言と思います。まあ同氏は、サウジがアメリカには逆らえない(米軍の保護が無ければやっていけない)と見越したうえで言っているのでしょうが、もしサウジに逆切れされ「分かったよ、もうアメリカには頼らないもんね、そのかわり中国に助けてもらって石油は人民元で売るから」なんて開き直られたら、どうするのか・・・
こちらの記事などで書きましたが、アメリカの通貨ドルは現代文明における最大の戦略資源・石油の「引換券」だからこそ基軸通貨であり続け、世界各国が外貨準備として持とうとしてきたわけです。そしてその特権的な地位を支えてきたのは、世界一の産油国サウジアラビア。サウジが自国産の原油を金(ゴールド)でもなく自国通貨リヤルでもない、唯一ドルでしか買えないようにしてくれたからドルには価値があったわけで・・・
まあこれまでの両国関係から、サウジがすぐにアメリカとドルを見限る?ことはない(?)でしょうが、上記トランプ氏のような思想を持つ人が米大統領になったら、同国だって真剣に考えるでしょう―――本当にこの先のアメリカに自国、というよりはサウド王家の守護を託せるのか、と。その結果「?」となれば、サウジはもうアメリカに義理立てしないはず。中国や欧州などとの安保関係構築を模索したり、原油取引のドル限定をやめて人民元やユーロ、円などの、ドル以外の通貨を介した原油輸出を拡大するでしょう。これはドルの「石油引換券」としての性格とドル所有のインセンティブの双方を失わせるアクション。それによってドルの価値が大きく損なわれ、米長期金利の上昇に歯止めがかからなくなるリスクが・・・
・・・果たしてトランプ氏、そしてその周りの方々はこのあたりをどう考えているのか。個人的には、自らドルとサウジ―――石油の結びつきを断とうとするかのような言動はアメリカにとって日本の核武装(!?)などよりもずっと危険なことに思えるのですが・・・
とまあ、そんな連想をさせるほど過激な考え方が有力大統領候補からポンポン出てくるほどに、いまのアメリカは巨大な軍事費の重荷に苦しんでいる、ということなのでしょう。