(前回からの続き)
次に、同期間のイギリスの経常収支の推移を見てみることにします。
以下のグラフは1980年から2011年までの同国の経常収支の推移を示したものです(出典:世界経済のネタ帳)。
これを見て真っ先に気が付くことは、イギリスの経常収支は1980年代初頭以降、30年以上の長きにわたって、ずっと赤字を記録してきたということです(いやはや・・・)。
それでも80年代中盤と90年代中盤には(結局一度も経常黒字にはならなかったけれど)、経常赤字のマイナス幅が縮小しています。これは北海油田の恩寵効果でしょう。この時期は上記でご紹介した北海油田の石油生産量が高まった時期と一致しており、イギリスの石油および石油関連製品の輸出が経常赤字の削減に寄与したものと考えられます。
しかし2000年以降は何ともいけません。北海油田の石油産出量は低下の一途をたどり、2011年は52百万トンとピーク時(1999年)の4割にも届きませんでした。一方、これに反比例するかのようにイギリスの経常赤字は次第に増える方向にあります。このままではイギリスの石油輸出はますます先細りとなり(一方で石油輸入量は多くなり)、それとともに経常赤字は拡大していくでしょう。それによってイギリスは厳しい局面を迎えそうだとみられます。
このあたりを暗示しているのが2007年以降のポンドの値動きと金融政策です。
まずは前者から。アメリカのサブプライム問題顕在化(2007年)、そしてリーマンショック(2008年)を経て昨年の秋くらいにかけて、イギリスの通貨ポンドは主要通貨の中でももっとも価値を落としてきました(下記グラフ)。
以前ここに書いたように、金(ゴールド)価格を指標にとって見てみると、ポンドの下落の度合いが韓国ウォン並みに大きいことが分かります。イギリス本国を含む欧米諸国の資産バブル崩壊や、この間の拡大する一方のイギリスの経常赤字などが懸念され、ポンドが他通貨(ドル、ユーロ、円、など)に対してそれだけ売り込まれてきたということなのでしょう。
次に後者の金融政策です。この間のイングランド銀行(イギリスの中央銀行:BOE)のバランスシートは著しく拡大しました(おそらく世界の主要中銀の中で一番でしょう)。2012年後半には2007年当時のおよそ5倍と、FRB(3倍あまり)やECB(3倍弱)などよりもずっと大規模です。これはBOEの金融政策、つまり累次の量的緩和策によるものでしょう。
中銀の金融緩和が行われるときは、金利を下げて投資等を促すため、などとしばしば説明されますが、上記の資産の膨張ぶりから推察されるように、BOEの同緩和策はFRBやECB以上に切実なものだったと考えられます。
つまりBOEとしては、この期間のバブル崩壊等にともなう借金の支払負担を軽減させるため、何としても金利を低めに誘導しなくてはならなかった。一方、海外マネーの借り入れでは埋めきれないほど経常赤字が拡大するなかで、そのまま何もしなければ金利が上がってしまうので、ポンド安を受け入れつつ、どの中銀よりも派手に国債(英国債)を買い支えなければならなかった、ということなのでしょう。
まさにこれこそ真の意味での「財政ファイナンス」だと思います。
(続く)
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